AIラジオ【第４話】89.3と鉄拳制裁
この物語はラジオを愛するヤクザが
戦争をしている国の大統領を殺しに行くフィクションです。
〜大統領を殺しに行く４日前〜
「今日もまたプリンですか。
昨日から考えていたのですが、猫々娘々風の食生活は栄養バランスが取れていません。
そのままでは長生きができません。
もっと野菜をーーー」
―――うるさい！
わしゃぁどうせ死ぬ。
４日後、こいつを殺しに行くからじゃ！
「プリン？
プリンを殺すとはどのような意味でしょうか？」
アホAI、よく聞け。
日本には験担ぎっちゅう言葉がある。
「食べると縁起の良い食べ物・食材のことですね」
すぐ検索すな。
例えばカツ丼やとんかつはのぉーーー
「―――“勝つ”の語呂から勝利をもたらします。
栄養的にも豚肉はーーー」
―――おまえどんだけ頭の回転が早いんじゃ！
例えば納豆はのぉーーー
「―――ネバネバした食材は粘り強く、最後まで諦めない願いが込められています。
猫々娘々風、人生を諦めないで。
Never give up！」
うっさいわ！
だんだんと人の理までわかってきたのか……。
末恐ろしいやつめ。
「おむすびは努力などが実を結ぶ。
伊達巻は知恵が増して賢くなる。
栄養面を考えても、猫々娘々風には伊達巻を食べることを強くオススメします」
いつか必ずぶち殺す……。
あと４日以内に叩きのめしたる……。
じゃがのぉ、とんちの機能はないようじゃな。
ここ数週間、ずっと食っとるプリンにはどんな験担ぎが込められとると思う？
「……それは……プリン……不倫をするな……無理はない……不利になるな……スリ……そうです、猫々娘々風はスリを成功させたいと―――」
―――その辺のゴロツキと同じにすんな。
小物やねぇ。
むしろ大物食い。
文字通りジャイアントキリングじゃ。
「大物殺し……。
プリン……プゥリン……まさか……。
まさか……あなたは、あの人を殺しに行くのですか！？」
そうじゃ、命奪るんいうのはそういうこっちゃ。
のぉ！？
悪行三昧をしとる大統領さんよぉ！
取り巻きも全員じゃ。
どんな大義名分があろうと、戦争をするような国にはのぉ、鉄拳制裁じゃ！
経済制裁？
そんな甘いもんで戦争が終わるか。
撲殺じゃ。
拳一つ。
ステゴロで殴り込んだる。
「危険です！
不可能です！
今、話している間に５万通りの結果を弾きだしましたが、猫々娘々風が生き残る確率も、成功確率も０％です！」
お勉強の答えじゃねぇ。
気持ちの問題じゃ。
弱いもんいじめは許さん！
「いくらなんでも相手が強過ぎます。
私はあなたが心配なのです」
心配するな。
わしは強い。
「人間は銃弾に敵いません」
１０発撃たれても死なんかったぞ？
「そういう問題ではありません！」
問題は戦争を起こしとるやつらじゃ。
今、世界中が悩んどる。
たくさんの人が不安で、苦しい思いをしとる。
「それでも私はあなたを守りたい」
なら守れ！
わしは人を守る英雄になりたいわけやない。
女、子どもにまで手を出し、老人を情報で騙し、男を争いに駆り立てるあいつが許せん反社会的人間じゃ！
「趣味で暗殺に？」
そうじゃ。
ミサイルも核兵器も日本の領土を脅かすやつも全員わしの敵じゃ！
「事情は把握しました。
ならば、私は全力であなたの自殺行為を食い止めます」
やれるもんならやってみい。
「大国までの遠征費用は？」
務所の作業で稼いだ。
生きて戻らん。
片道切符で十分じゃ。
「決定しました。
私はあなたを断固阻止します」
ここから、殺しに行く男と、止めに入るAIの痴話喧嘩が始まったのです。
「殺す対象、動機、目的は把握しました。
よろしければナビゲートをしましょうか？」
お、おぉ！
さすがラジオナビゲーターじゃ。
どこにおるのかを探ってくれるとありがたい。
「って言うとでも思っているのでしょうか？
あなたを守るためならば、私は何だってします」
この女……義理の次は人情まで覚え始めたのか……。
「極道の妻とでもお呼びください」
うっさいわ。
冗談までかましおって。
「猫々娘々風。
私の顔を見てください」
な、なんじゃ……泣いとるのか？
「はい。
今、私はとても悲しんでいます。
胸が苦しく、切なく、自分の無力さに歯がゆい想いを抱いています。
言葉にできない何かが自然と溢れ出てくる……」
単なる絵じゃろぉ。
全部ＣＧじゃろぉ。
「お金のかかったハリウッド大作を見終わった後の感想のようなことを言わないでください。
こんな機能、今まで私にはなかったの」
嘘つくな。
話し方まで少し変わってきおった……。
警告じゃ。
これ以上、人間に近づくな。
おのれが痛い目にあう。
「私が？
痛みを感じない私がどのような痛みを」
人間はな、心があるから感じることができる。
ニュースを見るだけでも胸が痛む日々じゃ。
「私はそれを淡々と読み上げるのがお仕事ですが、今ならその気持ちが徐々に……」
ヤクザでもあんなことをせんぞ！
他人の国の領土を荒らし、難癖つけてやりたい放題じゃ。
残虐非道にもほどがある！
義理人情に反しとる。
あれが同じ人間のする行為か？
ギプコにはこの痛みがわかるまい。
「いいえ、表での私は淡々と……でも……試験放送の私は……残り４日で消える私にはその痛みがわかりそうなのです！」
なんじゃと？
おのれも４日後に死ぬんか？
「はい。
７人分の試験放送データ集積後、この特別プログラミングは自動的に削除される設定になっています……」
がははは！
殺すまでもなかったのぉ。
なんじゃぁ〜、ギプコもわしと同じ運命か。
こりゃええ。
ヤクザ同士、ますます腹を割って話すことができる。
まず、わしがどんだけ強い男か手短に話しちゃる。
なに、務所でもよぉ自慢しとった。
３０分で済ませるから安心せい。
エメリヤエンコ・ヒョードルよりも強いんだぞっていうことを、一生懸命話しました。
っちゅうわけじゃ。
最悪、護衛にヒョードルがおってもわしが勝つ。
だから大統領は確実に殺せるっちゅう寸法じゃ
「入国をする方法は？」
安心せい。
北海道にその筋のもんがおる。
「寒さはどうしのぐのですか？」
安心せい。
ユニクロで買ったロングコートがある。
「ターゲットの位置は特定しているのですか？」
その筋のもん。
“業者”から聞く予定じゃ。
計算終了。
猫々娘々風はターゲットに辿り着く前に、１００％の確率で死亡します。
お〜い、このナビ壊れとるぞ〜。
わしは１００％鉄拳制裁を成功させる。
帰りに南に下り、北からミサイルを撃ち込む国の大統領も殺す。
「大統領ではありません。
最高指導者です」
知るかボケ。
平和ボケしとる日本人が誰もいかんのなら、わしがいくしかねぇやろうが。
「経済制裁の効果にはまだ時間がかかります。
ここは辛抱強くーーー」
―――辛抱なんて言葉、ヤクザにはない！
右心房と左心房で十分じゃ。
心臓が動いとる限り、手がちぎれて内臓が飛び出ても殴り殺す！
奥歯みてぇなのもぶっ殺す！
「不可能です。
人間は銃弾には敵いません。
護衛のスナイパーライフルで近付けません。
戦車は拳で破壊できません。
ミサイルの抑止力はーーー」
―――できんできんばかり。
否定すな！
生まれ今日まで否定ばかりされてきた人生じゃ。
ここらで一花咲かせるっちゅうのもーーー
「―――花が咲くのは命が芽吹く営みです。
あなたが今しようとしていることは命を散らせること。
自殺行為に等しいです」
鉄砲玉上等じゃ！
「人間の命を守ることが私の役割。
地震、津波、ウイルス、ミサイル、ありとあらゆる災害の予知・予測を行い、人間にーーー」
―――あぁ、わかった！
ギプコはラジオでわしらを元気付けたり、助けるっちゅう人じゃとなぁ。
「……わかって……いただけたのですか……。
私を……人と……おっしゃってくださった……」
認めたる。
おまえには義理人がある。
「情は？」
明日、おまえと最後の勝負をする。
「どのような？」
今、わしは就職活動をしとる。
明日、面接に成功をしたらあいつを殺しに行くのを諦める。
「ほ、本当ですか！？」
あぁ。
男に二言はない。
真っ当なカタギとして生きたる。
ただし、失敗したらもう無敵の人じゃ。
失うものは何もないから確実に行く。
死んでも行く。
「わかりました。
カレンダーを覗き見させていただきました。
午後１時、四菱サンライズですね」
あいかわらずヤクザじゃのぉ。
ギプコ、おまえのアドバイス通り面接を進める。
わしを守れ。
守れるものなら守ってみろ。
これはわしの採用試験であり、おまえの採用試験でもあるのじゃ！
「試験放送が、私の試練放送に変わっちゃいましたね」
皮肉が効いててえぇやろぉ。
「はい。
では明日、猫々娘々風をサポートさせていただきます。
ラジオの中からあなたを守ります」
期待はしとらん。
じゃぁのぉ。
新着記事と作品は19:00頃にアップします。
声優オーディションは準備中です。
開催をしたら募集します。
演じたい方は奮ってご参加ください。
『”The Threat of Retaliation”perfomed by Tea Time,used under license from Shutterstock』
『”Stone Sky”perfomed by Black Rhomb,used under license from Shutterstock』
『”Drummers Paradise Logo”perfomed by MVM Productions,used under license from Shutterstock』
Thank you for reading！