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5G線上のアリサ【第3章#9話】勝利へのワンチャンス

#9話:勝利へのワンチャンス



【視聴時間=08:00】↑表記ミス。#9話です。


「派遣切りをしたこの町も、ドロップアウトしたあたしを救ってくれなかったこの町の人も、トロイインフルの時にちんたらしていたこの国も本当は大嫌い! でもね、本当はね、こんな場所から抜け出したいのに抜け出せない自分が一番嫌い! 本当は、本当に大好きな人にこんなことを言うのも大嫌い!」

生徒の4人は教師を知るから瞳を閉じて受け入れだした。

今まで言うべき言葉をようやくこの場で出せたその現実を、心の内で拍手していたが教室内で叩きだした。

叱られたくせにまるで誰かが卒業するかのような気持ちで―――

「―――よく言いました……」
「―――こんな町ですまん! 本当にすまんかった!」
「―――先生、言うようになったな……そうや、他人を傷付けたら自分も傷付く。やけどな、言わなあかんことは言わな伝わらないんや。今度、一緒に飲みに行こうな」
「―――愛利沙ちゃん! 愛利沙ちゃん!」

VR空間内では掴めぬ空気が教室を包み込んでいる。

変わる現実を恐れることなく指を差して選んだ愛利沙。

これから彼女がどうなるのかは誰にも分からぬままでいるが、壊れたアリサは新たな自分を作るきっかけを生み出した。

「ごめんなさい! みんな、ごめん! あたし、こんなこと言うつもりじゃ……もう自分でも何をしているのか……」

「清水先生、ツリッターVRをオフにしてください」

「あ、は、はいっ」
清水/加護

機能をオフラインに変えて配信視点の遮断を終えて、愛利沙は加護の言葉を聞いてようやく正気を取り戻すがーーー

「―――これから大変なことになりますよ。私たちはともかく、あなたはネット上からも、町からも、国からも反感を買ってしまったのですから」

「そうね……だけど後悔はしていないわ……」

「えぇ、ここにいるみんなは分かっています」

昨日の今日まで町民だった愛利沙は今や国民的に。

村八分になる方向へ走り厳しい対処を多く受ける。

思えば愛利沙の人生すべてはHNハンドルネームアリサによって、人と繋がり虚構の世界や匿名で生きた自分自身が、地に足着かないままの大人になった残骸のようなもの。

SNSでどれだけ多くフォロワーが増えたとしても、ゲームで多くの課金をしてもイイネやリツリートをされても、結局のところ人生は何も変わるどころか悪化の一途。

自分の居場所は5G線上ネットの世界にないというのは愛利沙にとって、人生を捨て社会の中からはぐれることを意味しているからーーー

「―――ねぇ、加護さん。あたしの人生って何だったの……現実にも居場所がなくて、ネット上にも居場所をなくしたら、どこへ行って何をすればいいの……ねぇ、誰か教えて……」

ドロップアウトをした自分を助けてくれたネット社会が、今では大きな敵へと変わり攻撃してくることへとなった。

愛利沙は自分が一体今までどんな世界で生きてきたのか、この場で改め考えることの必要な時が差し迫る。

膝から崩れ泣き出しそうな教師を生徒が支え始める。

「自暴自棄にだけはならないで。おばちゃんにできることがあれば何でもするから」

「この店を閉めたら俺らも行くところがなくなって寂しいわ。雲隠れだけせんよう約束してくれ!」

「……池田町が追い詰めた清水ちゃんの人生やから、わしにも責任がある。一人でよう頑張った。今度こそ、わしらが清水ちゃんを助ける番や」

「ネットは戦場と化しました。この戦いにワンチャンスがあるとしたら、100万人のフォロワーを納得させ、1000万人のフォロワーを持つアイムソーリーを落とし所にする他ありません。謝罪神に謝らせることが勝利への鍵です。いいですね?」

「……うん、あたし、逃げない。ここで逃げたらもう居場所はなくなるから……」
平野/井口/池田/加護/清水

恋愛、友情、付き合いすべてがネット上の出来事だった。

愛利沙は自分の人生の中に転機が来たのを感じながらーーー

「ーーーもう逃げない! ドロップアウトもログアウトもしない!」

逃げずに戦う準備ができた。

痛みを伴い向き合いだした。

現実社会と付き合う覚悟を自らの意思で選び抜いた、清水愛利沙は100万人のフォロワーに誓いこうつぶやくーーー

「―――あたしが今、追い詰められているVRとリアル。恐れずに選んでいくわ。変わっていくこの現実を」

地に足着かないままの人生は徐々にその根を生やしてきたが、大事な生徒を失うか否か試されるような状況の中ーーー

「―――5Gネットを戦場にして戦うことを、今、ここで誓います」

と、

ロートルズは円陣を組み愛利沙を強く抱き締めあった。

華はないけれど枯れる寸前の最後の命をこの場で燃やし、慣れないネット環境の中でジジイはGGグッドゲームにすると、この場で共に約束しながら「参戦するぞ!」と覚悟を決めた。

「ガラスの靴は壊れたら直らないし、魔法は解けたら戻りませんが、人はやがて癒えることを証明しましょうか」

「はい」
加護/清水

次回の記事と作品です。ぜひご覧ください

『”Hope of Love”perfomed by SoundDesign,used under license from Shutterstock』

『”Emotionality”perfomed by Simon Stevens,used under license from Shutterstock』

『”End of Time”perfomed by Soulish,used under license from Shutterstock』

Thank you for reading!