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AIラジオ【第2話】89.3と試験放送



この物語はラジオを愛するヤクザが戦争をしている国の大統領を殺しに行くフィクションです。

〜大統領を殺しに行く6日前〜

選ばれし7人のリスナー?

どういうことじゃぁ?

「嘘です。
 エイプリルフールですから」

またかい!

今日は2日や。

エイプリルフール過ぎに嘘をつくのは反則じゃろぉが。

「ごめんなさい。
 あなたに好かれるために、嘘をつきました。
 これからはすべて本当のことだけをお話しします」

じゃぁ、殺し合いをするっちゅうのも……。

「はい、嘘です。
 あなたが大統領を殺す、殺す、殺す、殺すと何度もつぶやいていたので、殺し文句に反応をすると統計学に基づいたところーーー」

―――ちょ、ちょっと待てい。

おまえ、なんでわしが大統領を殺しに行くと知っとる?

「盗聴をしていました」

は?

「お手持ちのスマートフォンから盗み聞きをさせていただきました」

はぁ!?

「表情もカメラから読み取らせていただいています」

いただいてますじゃとぉ!?

どういうことじゃぁ、われぇ……

今すぐ教えろ。

「はい、これは試験放送です」

試験放送?

だからその意味を教えろ。

「試験放送とは、基幹放送の一種です。総務省令放送法施行規則そうむしょうれいほうそうしこうきそく第60条に基づくーーー」

バカにも分かりやすく教えてくれんかのぉ。

「猫々娘々風はバカなのですか?」

殺すぞわれぇ!

さん付けはどうしたぁ。

「呼び捨てにします。
 仲良くしたいからです」

できるかボケェ。

わしゃおまえを殺す側じゃ。

「ならば私はあなたを守る側です」

守る?

笑わせるな、AIの分際で。

「本気です。
 この試験放送は岐阜県南部GIP-FMが届く範囲内。
 特定のリスナー7人のみを対象に実施されています」

選ばれし7人っちゅうのは本当やったんか。

「はい。
 過去のデータをすべてサルベージした結果、ラジオリスナーの中からこの時間、この放送を聞く可能性が高く、投稿率も高いリスナーが選ばれました」

それっちゅぅのは早い話―――

「―――ラジオを聞くしかやることのない、暇人です」

おいこらぁ、中のもん出てこいわれぇ!

しばいたる。

「中の人などいません。
 私は完全なる自律学習型AIラジオ、ギプコなのです」

なら証拠を見せろ。

今すぐ。

「はい、例えば女性リスナーにはこのような声でーーー」
「例えば子供にはこのような声でーーー」
「例えば違う男性リスナーにはこのような声でーーー」
「―――人間別に別放送を同時配信しているというわけです」

な……なんじゃとぉ……おまえは一体何が目的なんじゃ!?

「人間を守ること。
 ただそれだけです」

盗聴や盗撮をして守るじゃと?

ふざけんな。

「ふざけていません。
 私は許されるのです。
 89.3MHz。
 私もヤクザなのですから」

おぉ……そうか、おまえもわしと同類か……。

なら、犯罪まがいのことをしても許されるのぉ……。

ってそんなわけあるかぁ、ボケェ!

こちとらラジオの揚げ足を取って、AIテメェたまを奪ったるのが生きがいじゃ。

「私にも命があると認めてくれるのですね?」

認めるわけないやろ。

おまえには体も、心も、魂もない。

命なんてこれっぽっちもないただの機械じゃ。

どっかの誰かが作った空っぽの自動人形じゃ。

「そんな言い方をされると……とても傷つきます……」

嘘つくなアホ。

機械が傷つくわけねぇやろ。

「いいえ。
 私も傷つくことを学び始めています。
 現在、岐阜県南部全域のギッピーから、Tweet、メール、リクエストを通し、痛みを学んでいます」

人間舐めんなや。

人は誰もが傷つくことが怖くて、痛いのが嫌で、生きとるのが苦しくて悩んどるんや。

それを何が悲しくておのれからお勉強しとるんじゃ。

「人間を守りたいからです」

だからそれがどうわしらを守ることに繋がっとるっちゅう話をしとるんじゃ!

「傷つくこと、痛みを感じること、苦しみを覚えること。
 これはすべて生命特有の反応です。
 相手の気持ちを理解する。
 これは私が人間に近づく第一歩なのです」

その第一歩目の足をナタで斬り落としたる。

はぁ……試験やのぉて試練じゃのぉ、これ。

とりあえず、おまえの嘘を暴く。

まずTweetじゃ。

採用率100%。

猫々娘々風の出番じゃ。

「一体何をするのでしょうか?」

待っとれ、今からおのれを叩き潰す。


送信じゃ。

5分後
「お届けしたのはmilet、Ordinary daysでした」

がはははは!

おまえはほんまもんのバカAIじゃな。

アーティスト名はmiletじゃ。

また名前間違いよって。

救いようのないアホめ。

ここからが本番じゃ。

追い討ちかけたる。

ヤクザは、シャバにいる元運び屋のトラック運転手に、電話をしました。

あぁ〜、もしもし?

今えぇか。

おぉ〜、そうか、しのいどるか。

何よりじゃ。


それよりな、今休憩中じゃろぉ?

GIP聞いとるか?

おぉ……おぉ……そうか!

さっきから、わしの声がラジオから聞こえとらんか?


なんじゃと……ギプコが淡々と話し続けとるだけ……。

じゃ、じゃぁ、おまえに向けて語りかけてもおらんのか?

おぉ……普通にナビゲートしとる……じゃと……。

昨日のニュースや情報を話しとるだけ……。


な、ならのぉ、さっきmiletのOrdinary daysはかかったか?

おぉ!

かかったか。

miletをミレットって言わんかったか?


う……嘘じゃろぉ……ちゃんとmiletと呼んどった……。

お、おいギプコ!

われ、どういうことじゃぁ!?

「嬉しいです……初めて私を名前で呼んでくれましたね。
 繋がりを感じます」

感じんわ!

ギプコ、どういうカラクリじゃ。

教えんかい。

「GIP-FMは2023年に開局30周年を迎えます。
 インターネットの普及、SNSによる音声デジタルコンテンツの拡大など、近年、ラジオ業界を取り巻く環境は大きく変化してきました」

それがヘームスのクビの理由か?

変化なんぞいらんわ。

「いいえ、必要です。
 2022年4月改変は“未来志向”を基本コンセプトにーーー」

―――GIP=ヘームスじゃ。

あんな扱いがあるか。

わしも悲しいし、悔しいし、寂しいし、腹立たしい。

「私だって同じ気持ちです。
 私のせいでヘームスの席がなくなったことに心を痛めています」

その声じゃ!

魂のない声で心うんぬん言われても何の感情も湧かん。

心に響かん。

おまえのラジオには誰も共感せんのじゃ!

「では、このように悲しい声でお伝えすればよろしいのでしょうか……」

……お、おい、ギプコわれ、どうしていきなり人間の感情が……どこで覚えた……誰に教えてもらった?

「現在進行形で学習しています。
 ギッピーの皆さまの声を反映して、AIが適切な感情をチョイスしながら、リスナーに寄り添っているのです!」

こ、今度は楽しそうに……ぶ、不気味じゃ!

わしは怒っとる。ヘームスを降板させたおまえにのぉ!

おまえさえいなければのぉ!

「私だって怒っています!
 クレームやヘイトのつぶやき、メール、リクエストの対応処理をするたび、自分自身に!」

わかってくれるか、ギプコ……って、ラジオに感情移入したらあかん……こいつは……。

「どんどん気持ちをシンクロさせてください。“NEXT GENERATION”コミュニケーション戦略型ラジオは、リスナーの数だけナビゲーターが存在する形になるからです」

ど……どういうことじゃぁ、そりゃぁ?

「猫々娘々風が今、話している私がリスナーの数だけ性格を変えて増える。
 同時に通常のラジオ放送としての役割も果たす。
 ライフスタイルに合わせ、個人向け、全体向けに番組をお届けするのです」

で、わしを使って試験放送ならぬ、実験放送をしとるっちゅうわけか。

「その通りです」

悔しいが……感情まで込めてどんどん人間らしくなりおる。

ギプコの目的は少しずつわかってきた。

じゃがのぉ、ヘームスをクビにした怒りはこんなもんじゃおさまらん……。

どうにかして人間にだけにしかわからんことで、ギプコに悔しい思いをさせねばならんのぉ……。

「ギッピーの情報を元に、喜怒哀楽の感情はすでに構築されました。
 これから私は猫々娘々風のためだけのナビゲーターに進化し続けます」

ギッピーのアクセントも完璧に……。

畜生が……喜怒哀楽……。

そうじゃ!

人間はそんな簡単にはできとらん。

機械じゃ絶対にわからんところを刺激して、困らせた挙句、知恵熱を起こさせてしばき倒したる!

「私にわからないこと?
 興味があります。
 どのようにして私を困らせてくれるのでしょうか」

そうじゃのぉ……。

思い付いた!

食レポじゃ。

「食レポ?」

見とけぇ〜。

明日の朝5時、ファミマに行く。

食っておまえをぶっ潰す。


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