手探りから手応えへ。事務局から組織を加速させる
医療デザイン Key Person Interview :古郡 清隆
日本医療デザインセンターでは、月に一度の理事会をはじめ、ほぼ全ての会議やイベントはオンラインで行われる。最も遠い場所、カンボジアから組織に参加しているのが事務局を務める古郡清隆だ。
コロナ禍を経て、多くの組織でオンライン会議が促進されただろう。キーパーソンたちが物理的に離れていても、組織運営次第で事業を加速させられる。
何か新しいことを為す組織には、必ずと言っていいほど名参謀や裏方の存在がある。「手探り」から確かな「手応え」をつかんだ古郡が考える、組織活性化のカギとは?
事務局業務のスペシャリスト
日本医療デザインセンターは2018年に設立され5期目を迎えた。古郡が事務局として加わったのは2020年だ。コロナ禍で、一時的に日本に拠点を移さざるを得なかったが古郡はカンボジアに居を構える。日本医療デザインセンターの他のメンバー同様に、彼もまた他の仕事と掛け持ちで業務を担う。
ーー現在の主な仕事を聞かせてください。
「事務局業務としては、理事会のアジェンダ整理やさまざまな連絡業務などです。そしてここ数カ月は桑畑代表の業務整理というか、相談相手も加わり幅が広がってきました。実は日本医療デザインセンターだけでなく、いろいろな団体の総務や管理業務の委託を受けています。経理やコンサルに近いこともやっているので「リモート秘書」みたいな感じでしょうか。
リモートでできる仕事ならなんでもやると決めて2年間。自分自身のサイクルも軌道に乗ってきた感じです。世の中も、オンラインで働くのが当たり前にシフトしてきたのは自分にとって大きかったと思いますね。」
ーーどんなきっかけで、現在の事務局業務を担うことになったんですか。
「2020年の4月から完全にフリーランスとして、ずっとこっち(カンボジア)にいながら仕事をしようと決めていたのですが、誤算がありましてね。ちょうどコロナ禍が始まって日本にいなきゃいけない、では日本で新たに仕事を探さなければという中で、地元の横須賀であるNPOの求人に出会ったんです。
その代表が吉田雄人さん(日本医療デザインセンター顧問、前 横須賀市長)で、結果的に日本医療デザインセンターでも事務局をできる人を探しているタイミングだったというご縁ですね。」
1年間の日本での生活は終わって再びカンボジアに向かった古郡だが、そのまま日本医療デザインセンターの仕事を続けることとなった。
突然のキャリアチェンジで海外へ
ところで古郡はなぜ日本を飛び出し、タイやカンボジアなど東南アジアでの暮らしに目覚めたのだろうか。学生時代から海外旅行が好きだったというが、30代で休職、40歳を過ぎてついに安定した会社員生活を捨てているのだ。
ーー再び日本から海外に渡った経緯というのは?
「大学時代にいわゆるバックパッカーをしていて、社会人になってからも長期休みには海外旅行に行っていました。その中で東南アジアがやっぱり好きで、東南アジアの活気がある人たちに惹かれて、長くいられる方法はないかなって考えていたんです。
JICAの青年海外協力隊という制度がありますが、就職が決まり会社員になってからは忘れていました。ところが30歳を過ぎて何かのきっかけで思い出して、協力隊の年齢制限が引き上げられたのを知ったんです。当時33歳、これは最後のチャンスだと思って応募したら予想外に1回で受かったので、そのまま休職して2年間フィリピンへ行きました。」
結果的に、新卒から19年間勤めた損保会社を辞めて、海外での暮らしを選ぶ。一体どのように仕事を見つけ、どんな体験を得たのだろうか。
「協力隊は年数制限があって、また日本に戻らなくてはなりません。でも海外での生活が諦められなくて損保会社を退職しました。それでジャパンハートという日本から生まれた医療ボランティア団体に入って、カンボジアへ渡ったんです。カンボジアではスタッフの管理から備品管理、カンボジア保健省との協議など、病院長のような役割を務めました。
責任者とはいっても、監督官庁との折衝から、事務所のトイレットペーパーの補充まで『なんでも屋』な役割なんですよ。現地の人の教育やモチベーション管理も、なんでもやるからNGOの現場はやりがいがありましたね。
私の3年ほどの任期中に、NGO病院が建設・開業され、2棟目の拡張がされました。病院運営の責任者である病院長は、日本の法律では医師しかできないので、今思うと海外ならではの貴重な経験ですね。」
特定非営利活動法人ジャパンハートは、発展途上国を中心に活動する医療ボランティア団体で、国内の企業から経済的な支援を受け活動している。
日本に拠点を置いて仕事をするつもりはなかった古郡と、日本医療デザインセンターとの接点が生まれたのはコロナのタイミングが重なった数奇な縁だという他はないだろう。
組織の変化と進化を見つめて
古郡が事務局業務を開始した2020年9月、すでに3期目に入っていた日本医療デザインセンターだが、「まだ黎明期だった」という。自身がどう関わればよいのか、手探りでの状態が続いていたという。
ーー当時の雰囲気はどうだったのですか。
「率直に言えば、代表の桑畑さんを中心に想いが先行していて、実行力が伴っていない状態だったと思います。こんなことをやりたい、あんなことを実現したい、でもリソースが足りないという感じだったでしょうか。代表の掲げるビジョンに対して、賛同する、応援する、人脈を持ってきてくれる、理事もできる限りのコミットはしていたと思います。それぞれの会社や仕事がありますから、関わりが悪かったわけでは決してありません。ただ、今にして思えば代表は一緒に動いてくれる人を望んでいたんだなと感じます。」
ーー何か現在の変化を感じるのですね。
「今、確実に動きが出てきた実感があります。常時、さまざまなプロジェクトが動いていて、その責任者が決まってきたのもあって、自走が始まったんだと思います。理事だけではなく、急速に医療デザインを取り巻く輪が加速してきました。たった1年半前と比べて、明らかに。」
ーー当時は古郡さんもどこまで関わるべきか測りかねていた…?
「自分なりの葛藤もありました。自分の仕事範囲がどこまでかは常に気をつけていました。代表に“こうすればいい”などと意見するのは違うと思っていて、『分からないから無言』の時期もありましたが、受け身でいるのも違うなと。せっかくやるなら、自分も病院に携わった経験もありますし、次の会議の準備を先回りしたり、自分の役割を整理できてきた感覚はあります。」
古郡の目にも、組織の加速は感じられてきた。古郡も動きに呼応したのかもしれないし、彼の縁の下での働きが加速を生み出したのかもしれない。ともかく古郡は、自分なりの手応えを掴んだ。
自身の手探りは、やがて手応えへと変わってきた
海外からの事務局業務は今日も続く。
黎明期から手探りで自分の仕事の最適解を求めてきた古郡は今、また自分の役割も進化させようとしている。
ーーここ最近のご自分の変化とは?
「最近になって欲が出てきたんですよ。意図して取り組んでいるのは、代表の壁打ち相手です。週に1回のミーティングの際に課題を一緒に整理して、仕事の優先順位をつけるのを手伝う役割です。伴走役のようなものですが手応えを感じています。
桑畑代表はいろいろとやりたいことがいっぱいある人だから、少なからず孤独感もあるでしょう。だから、せめて壁打ち相手になって、事業を前に進める手助けができればなと思っているんです。それだけ価値のある事業をやっている組織だという思いもありますね。」
ーーやりがいがある業務ですね。すごくやる気がみなぎっている感じがしますが。
「ありますね。事業の推進・発展を陰で支える、とても意義のある仕事だと思っています。裏方だからって存在感をなくす必要はないんです。これからもっと存在感を発揮していきたいですね。
私は今カンボジアにいますが、世界中どこにいながらでも事務局業務に携わっていきたいですね。再び世界各国へ行けるようになったら、行きたいと思ったところへ、どこにでも行きたいです。その世界の行く先々から理事会をコーディネートしたいですね。」
自分の関心があること、面白いと思ったことなら、世界中どこでもやっていきたい。その彼の身軽さが、他者に伴走できる柔軟性を引き出しているのかもしれない。
事務局業務に真摯に向き合い続けてきたからこそ、自身の立ち位置や目指すものが見えてきた。彼は、海の向こうから強い追い風を送り続ける。
取材後記
マジメで素朴な人柄の表面からは分からない、内に秘めた燃える情熱が印象的でした。さまざまな組織で自身がリーダーシップを発揮したことも、サポート役に徹したこともあるという古郡さん。潤滑油という言葉がぴったりで、組織がうまく回ることを考え続けています。「念願だった海外でのセミリタイアを叶えた」という言葉がうらやましいですね。
(聞き手:医療デザインライター・藤原友亮)
古郡清隆さん プロフィール
神奈川県横須賀市出身。カンボジア在住。早稲田大学政治経済学部を卒業後、損保会社にて約20年勤務(在籍中にJICA海外協力隊としてフィリピンで2年間活動)。2014年NPOジャパンハートへ転職、東京事務局勤務後にカンボジア事業DirectorとしてNGO病院の建設と開業の任にあたり、その後、病棟拡張とカンボジアで初の小児がんを診療する小児病院への転換を行った。2019年に同NPOの理事就任(2020年退任)。現在はフリーランスとして各種団体の事務局業務を請け負う傍ら、カンボジアで若者の就業支援を目的とするローカルNGOの立ち上げやジャパンハートカンボジアのアドバイザーとして活動中。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?