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言葉の覚え書き

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2019年10月の記事一覧

作品名の書き方、こんなときどうする?──雑誌の場合

文献名の書き方、今回は雑誌についてです。 雑誌の場合は、共著書の場合と同様に、記事名を鉤括弧、雑誌名を二重鉤括弧で挟みます。その後に、巻号、出版年(月)、該当ページを続けます。 伊東四朗、半藤一利「僕らが焼け跡で思ったこと」、『文藝春秋』、第97巻第9号、2019年9月、186―195頁。 なお、『文藝春秋』を『文芸春秋』などと書いてはいけません。環境が許す限り、固有名詞は正確に書きましょう。

作品名の書き方、こんなときどうする?──書籍の場合

「note」に限らず、ウェブ上や印刷媒体で文章を書くとき、文献を参考にすることがあると思います。その際、読者に正確な情報を提供するためにも、文献の記述方法を知っておくことは重要です。 今回は書籍名の書き方についてです。 まず、著者名と書名は最低限書きましょう。書名は二重鉤括弧(『』)で挟みます。著者名の後に「著」は不要です。 学術論文などで、より詳細な情報が必要な場合は、出版社名、出版年を続け、読点「、」で区切ります。最後に句点「。」を忘れずに。 共著書中の独立した題

キョウヤクな複素数

数学の複素数で、x+iyとx-iyとの関係を「共役(きょうやく)」といいますよね。これも「同音の漢字による書きかえ」です。 本来は「共軛」です。2つの「軛(くびき)」を牛馬に固定して荷車を引くことから、2つのものがセットになっているという意味になります。複素平面上で示すと、x+iyとx-iyが実軸に対して上下対称となることから、そう呼ばれるようになりました。 「共役」だと、その字面からは何のことか全く見当がつきません。意味を無視してみだりに表記を置き換えると、事物の正常な

改行と段落の話

仕事で受け取るメールの中には、文の途中で改行が入っているものがよくあります。 試しに、スマートフォンでご覧の方は、画面を縦にしてみてください。PCでご覧の方は、ウィンドウの右端を左にスライドさせて、横幅を狭めてみてください。 お世話になっております。○○課の○○です。 お問い合わせの件について、資料を添付いたしました のでご確認いただきますようお願いいたします。 タブレットを除く大抵のデバイスでは、何文字か孤立している行があるのではないでしょうか。例えば、このように。

外国人名の区切り

句読点などの各種記号のことを約物(やくもの)と言います。 漢字以外の人名を表記するときは、原語の空白部分を中点「・」(U+30FB)に置き換えるのが基本です(括弧内はUnicode)。 George Washington ジョージ・ワシントン Leonardo da Vinci レオナルド・ダ・ビンチ 原語にハイフンがある部分では、二重ハイフン「゠」(U+30A0)を使います。等号「=」(全角・U+FF1D)、「=」(半角・U+003D)とは違いますから、注意してくださ

経産相秘書のコウデン問題

経済産業大臣辞任の原因となった、秘書が有権者に配った「香典」。これも、前回取り上げた「同音の漢字による書きかえ」です。 正式には「香奠」と書きます。「奠」は供物のこと。「酋」が酒、「大」が兀(つくえ)を表す会意文字(既にある文字を組み合わせてできた漢字。「休」など)で、お供え物が台の上に置かれているさまを示しています。一方、代用字の「典」にこのような意味はありません。

殿が沈む?

ペットボトル飲料などにある次の文。 沈殿することがありますが、品質には全く問題ありません。 この「沈殿」という文字、変だと思いませんか。飲み物に「殿が沈む」とは、一体どういうことなのでしょうか。 それもそのはず、これはとある理由によって、無理矢理変えさせられた表記だからです。 実は戦後の日本で、漢字を廃止してしまおうという動きが一時期あったのです。そこで暫定的にできたのが当用漢字でした。完全に廃止するまでの当分の間使用する漢字、という意味です。そこでは1,850字が定

「Ave Maria」のカナ表記は?

ラテン語で「健やかなれ、マリアよ」という意味のこの言葉。カタカナではどう書きますか。 「アヴェ・マリア」でしょうか。しかし、実はラテン語のVはワ行の音なのです。例えば、virusは「ウィルス」と書きますよね。 もともとラテン語でVは[ウ]と発音されていたからです。同じく[ウ]と読むUは、実はVが変化して後からできた文字なのです。 というわけで、正解は「アウェ・マリア」。ラテン語の発音に忠実に書くと「アウェー・マリア」となります。 そういえば、森鷗外の小説にもあるvit

「独壇場(どくだんじょう)」?

「一人で占有する」という意味で「独壇場(ドクダンジョウ)」と書いていませんか。 正しくは「独擅場(ドクセンジョウ)」です。「壇」と「擅」との形が似ていますが、手部(てへん)の「擅(セン)」は「擅横(センオウ)」「擅断(センダン)」のように、「ほしいままにする」「ひとりじめにする」という意味がありますから、土部(つちへん)の「独壇場」は誤りです。

「会議で資料をハイフする」

カタカナの部分、漢字でどう書きますか。 日常の仕事でもよく使うこの言い回し。でも実際に正しく書ける人は意外に少ないようです。 正解は「配付」です。 「配布」と書くのをよく見掛けます。しかし「布」には、「布教」「流布」のように、「広範囲に広がる」(『全訳漢辞海』)という意味がありますから、これは不特定多数に配るときに使うものです。例えばこんな風に。 一方、「配付」の「付」は「与える。さずける」(同)という意味です。会議の資料は所構わずあちこちにばらまくものではなく、決ま

「可能性」が「低い」?

揚げ足を取るようですが、どうしても気になるので、指摘させていただきます。 下の記事の2段落目末尾をご覧ください。 世界の国内総生産(GDP)の8割以上を占めるG20の通貨当局が認めない中で、仮にリブラの発行を強行しても、個人や企業で利用が広がる可能性は低い。 この「可能性が高い/低い」という表現は、新聞に限らず、ありとあらゆる文章媒体で本当によく見掛けます。皆さんの中にも、よく使うという人は多いのではないでしょうか。実際に辞書でも「可能性」を引くと、この用例が載っている