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【考察】グエルとラウダ-後編

前編では、二人は弟に甘い兄と兄に甘える弟であり、仲も良く、人生を共にする相棒でありライバルでもある。しかし父親によってその絆は引き裂かれ、それでも関係を修復しようとして、結果としてできなかった。

中編では、グエルから見たスレッタとラウダの共通点、故に揺れ動くことになってしまったグエル、気づいたら加害者と被害者の関係性になってしまったことを述べました。

後編では二人がどれほどお互いを補い合い発展させていく存在なのか、二人でいなければどちらもダメになってしまう、そういう関係性なのではないかということを考察していきます。

※なお、この考察はあくまで私の考えであり、確定情報ではありませんので、この先設定が明らかにされて否定されても、私自身に責任は発生しないものとします。
当ページに載せているスクリーンショットは考察による説明の補足として引用しているものであり、三次利用はいかなる理由があろうとも禁止とします。

ラウダがいないと人生がうまくいかないグエル、グエルがいないと人生が豊かにならないラウダ


兵士の兄、指揮官の弟

グエルは「荒々しい気性で、熱くなりやすい。」(©創通・サンライズ・MBS 機動戦士ガンダム水星の魔女公式ホームページ https://g-witch.net/character/3/ より引用)
ラウダは「兄とは違い冷静で理性的。」(©創通・サンライズ・MBS 機動戦士ガンダム水星の魔女公式ホームページ https://g-witch.net/character/16/ より引用)

この兄弟は公式ホームページでも正反対の性格をしていると称されています。

それは描写においても端々で表現されています。

グエルのディランザは、盾にもスパイクを備え付けた攻撃的なデザインをしており、ラウダのディランザはこちらで考察したように、攻撃的というよりは斧も活用した3枚の盾を備えた守備的なデザイン。

二人のガンビット初見時の反応にも違いが表れています。

ラウダは「シールド!?」と身を乗りだして驚き、グエルは「防いだか!だったら!」とすぐに攻撃に転じます。

ガンビットが当たり前でないあの世界では、あの小ささのドローンも、それが集まってシールドになるというのも、世界の常識ではないはずです。そういったイレギュラーを見た時に、ラウダは「相手の武装、技術」に着目し「何が起きているのか」を把握しようとし、グエルは「相手が何をしたか」に着目し「自分が相手を倒すために何をすべきか」を素早く判断します。

これはそのまま、ラウダが指揮官向きの思考をしていて、グエルが兵士向きの思考をしている、ということなのではないかと、私は感じました。あくまで私が感じただけで、こちらの考察でも言っている通り、私は戦闘に関して素人なので間違っているかもしれませんが。

指揮官は相手の出方を見定めなければなりません。相手が摩訶不思議な武装を展開してきたら、それが何か、こちらに被害をどの程度与えるものなのか、何を狙っているのか、冷静に見極めて、その上で指示を出さなければならない。

兵士は逆にそんなことを考えて立ち止まってしまってはいけません。考えるのは指揮官がやることであり、自分は「止まれ」の命令が出ていないのなら足を止めてはならない。どんな想定外が起きようと、命令を完遂することのみを考えて、目の前の敵が邪魔だったらそれを踏み潰していくのが役割です。

ラウダが司令塔でグエルがエースアタッカー。そういう視点で5話のエラン戦を見てみると、グエルが罠にハメられたのはエランが巧みだったのもありますが、この特性の違いによるところもありそうに感じます。

特にレゴリスを使った戦略は、ロウジもシャディクも気づいていたし、マルタンですら戦略はともかく砂を巻き上げることによって生まれる静電気に気づいていたので、あの試験場でも戦っていたであろうグエルだって知っていておかしくないし、授業で習っていたかもしれない。

しかしグエルは全く気付かず、その後も荒い戦い方を続け、それどころかレゴリスで機体を隠そうと煙幕代わりに利用して全身に浴びてしまいます。

あの時実はラウダのリアクションは不思議なほど映されていなかったのですが、もしラウダが指揮官寄りの思考をしていたのなら、もしかしたらエランよりも早くレゴリスの危険性に気づいていたのかもしれません。やはりこれもシュレディンガーなのではっきりとした正解は言えませんが、そうなると勝敗が決した時に顔を背けていたのは、手足を吹き飛ばされるのが凄惨すぎて見ていられなかっただけではなく。グエルが罠にかけられるのに気づいていながら何もできず、それでも早期決着で何とかならないか見守っていても、やっぱり罠にハメられてしまって、助けに出たら自分も射殺されるから敵のスナイパーに仲間がゆっくりとなぶり殺しにされるのを見ているしかできない心情に近い、二重の凄惨さがあったから、というのもある可能性があります。

なぜグエルが気づかなかったかというのは、そこまで時間がかかった決闘がなかった、というのもあるでしょうし、兵士寄りの思考をしているのなら、その場で臨機応変に対応するのには長けていても、長期的な戦略を立てるのは苦手で、そこはラウダが補っていたのかもしれません。

ラウダはいつもブリッジにいますが、あの席はテーブルも端末もないので、確かに何をしているのかが謎なんですよね。アニメでは注意していたり、助言らしいものは「今は戦いに集中して!」ぐらいで、なんの役割を担っているのかがわからない。

しかし、ブリッジにいる人間が指示を出すのはルール違反ではないので、相手の策略や環境の注意点に気づいてグエルが自力で気づいたり対応するのが難しそうだと思ったら、ラウダが相手の思惑や危険性を伝えたり助言した可能性は全くもってあり得るでしょう。ルールの内の行為ですし、グエルの腕を軽んじているから伝えているわけでもありませんし、ラウダとグエルの性格上どう対処するかは本人に任せたでしょうから。

「兄さんはどんな不利な条件でも決闘を拒まなかった」とあり、エランは圧倒的に不利なはずの3対1の決闘を受けています。グエルもまた、これに近い決闘を受けたことがあり、またこれよりも不利な条件の決闘もあったのではないでしょうか?そうであるとすると、エランのようなからめ手が苦手なグエルが全戦全勝するには、それを補う優秀なブレーン役がいたとしても、不思議ではなくむしろ自然ではないでしょうか。そしてそれができる者といえば、同じく優秀なパイロットで、決闘を見守る場所にいて、グエルに意見することをためらわず、またそれを許されているラウダだけです。

それから。これはメタ考察に近いですが、ジェタークのロゴマークはライオンです。ライオンの狩りは集団戦で、相手を追い込んで全員で獲物を押さえ込み、力の強いオスが喉笛に食らいついて止めを刺すスタイルです。そんなモチーフをわざわざされているのに、ジェタークよりもグラスレーが強いのでしょうか?彼らのロゴマークは蛇で、これは単独で狩りを行う動物です。
もしジェタークの真の戦い方は、ラウダが指揮をして、獲物を追い込み、グエルが止めを刺すスタイルなのだとしたら…

ヴィムが死んだ原因がシャディクなので、いつかその清算がきそうな場面がきたら、この問いにも決着がつくのでしょうか…来て欲しいような来てほしくないような…。

それはともかくとして。他にもラウダがグエルができないところを補っているんじゃないかと推測できる描写はまだまだあります。

まず何と言っても、父親との関係です。ラウダはグエルに比べれば父親と良好な関係を築いている節が見受けられます。

父親のパートナー

こちらの考察でも述べている通り、ヴィムはラウダに対しては比較的気を遣った対応をしています。

「父さん。学生以外が決闘に関わるのは…」「これは社用だ。それより、手は打ったか?」
と、苦言を呈すラウダに、「社用である」と理由を告げて、「手は打ったか?」と打ったのかや打ったのだろうな、という高圧的な言葉で確認を取りません。

さらに「はい。…ですが。」「なんだ。」「あんなことしなくても、兄さんは勝ちます。」と、ラウダからの「ですが」という反論に「なんだ」と返し、一応は聞くつもり自体はあります。しかもこの「なんだ」はまだ言いたいことがあるのかと低い声色をしていますが、それにラウダは臆することなく、兄さんはあなたが思うよりもずっと強いのだと訴えます。

この後の描写はありませんが、ラウダは特に表情に変わりなく、ヴィムもこの後も元気にはしゃいでいるので、グエルと違って子供っぽい反論をしてもビンタも強い叱責も飛んでいないような気がします。まぁ後のラウダを見るに、そんな風に上から押さえつけられたところでグエルよりは委縮しないんじゃないかという気もしますが、これは後述で。

このはしゃいでいるヴィムも、「見ィろ~!俺の言ったとおりにして正解だろ~!」と、なんかどうもラウダに褒めて欲しいの?というような言い方ですし、ラウダをぎゃふんと言わせたいにしてもあまりにも言い方もはしゃぎ方も子供っぽいというか、何となくラウダのことは自分と対等以下ぐらいに思っているのでは?と感じられるんですよね。あの性格なので誰のことも上には置いてなさそうなところを見るに、対等に思うのでもそうとう評価が高い。
インキュベーションパーティーでも、「そろそろだ。指示通りにな。」とわざわざ手ずからアラームみたいなことまでしているし。確かにラウダから連絡するのはヴィムが商談中だったら邪魔になるからタイミングが難しいですが、護衛がやって来て耳打ちするのでもいいし、言い方もヴィムにしてはやっぱり優しめなので、プレッシャーをかけている訳でもない。

どうもグエルに対しての態度とラウダに対しての態度が明確に違うんですよね。そういうのは教育上あんまり良くないんですが、それはともかくとして、どうもラウダのことは上の態度といい、裏工作を任せるところといい、プロスペラの相手を任せているところといい、ある程度の信頼を寄せています。

パーティーで別行動を取っていたところにも、それが見てとれます。

ラウダの役割はプロスペラを連れ出して釘付けにすることなので、パーティーで自由にさせる理由はありません。電話する手間もなくなりますし。しかし、これよりももっと前から、幼いころからパーティーだの仕事だのに従事させていたら話は別です。

ラウダはベネリットグループを牛耳る御三家の中でもNo.1の業績を誇るジェターク・ヘビー・マシーナリー社CEOの息子です。

周りから見れば、ジェターク社はヴィムとその父親がそろってCEOと、家族が代々継承する企業形態です(ヴィムはPROLOGUEの人物紹介を見ると叩き上げなので、厳密には違うかもしれませんが、傍から見る分には父親から息子への代替わりです)となれば、腹違いであるラウダもまたその可能性がある。

実際、ラウダはパーティーという公の場でも学園の中でも「父さん」とヴィムを呼ぶことを許されているので、母親が違うし正妻の子供でなくとも「息子」として扱われている。兄であるグエルとも仲が良くないどころか仲が非常にいいので、どちらが跡を継ぐにせよCEOとその補佐というポジションになるでしょうし、もしかしたら共同経営をするという可能性もある。

そんな可能性のある今まさに光り輝いている宝石を見逃すほど、ビジネスの世界は節穴ではないはずです。

そうだとすればラウダは、集まってくる人々の相手をして、あるいは自分から会いに行って、以前からの知り合いであれば情報交換を、初めてならばどの程度ジェターク社に貢献をしてくれるのかを品定めし、父親への口ききを高確率で頼まれるでしょうからそれが必要かどうかの取捨選択を。それらをプロスペラの仕事の前に行わなければなりません。元々企業のパーティーとは、人脈づくりと情報交換こそが本来の役割なのですから、いくらラウダが忙しくても相手には知ったことではありません。一度でも相手をしてやらない限り、見かけるたびにアプローチしてくるか、ラウダの悪評が立つかもしれません。

そうしてだからこそ、ラウダは一人で会場を歩いていたんだと思います。

事前にあのペイル社の大仕掛けはイベント開催側とスケジュールを調整して、リハーサルもしていたでしょうから、時間は決まっていたはずです。

遅くともその時間までには体が空くようにしていなければならないし、プロスペラがどこにいるか探さなければならない。護衛が見張っていたかもしれませんが、それでも「なんでしょう?会場の外でないとできないお話って?」とプロスペラが尋ねていたので、ラウダがプロスペラを連れ出しています(ラウダは御三家の身内とは言えまだCEOより格下ですので、護衛に声をかけさせるのは分不相応ですし怪しすぎるので)。なので、どのみちラウダが指定の時間までにプロスペラのところまで行くのに加えて、説得の時間、廊下まで連れて行くための時間が必要です。

ヴィムから連絡がきていた時点で一人で会場内を回っているので、ラウダはかなり余裕を持って自分のやるべきことを終わらせて、後は父親からの仕事に専念するだけ、という状況を作り出していた可能性は高いです。なにせこれからラウダはプロスペラを連れ出して廊下に隔離しなければならないので、その途中で話しかけられて、あまつさえちょっとお話をなどされたら台無しです。ジェターク社の御曹司がシン・セー開発公社の未亡人CEOと連れ立って密会…!?などと噂されたらいろいろな意味で大変ですから、人目につく可能性はできる限り潰したでしょう。

ラウダの人間関係は学園ではなく大人の世界

同時に、ラウダの人間関係は学園内ではなく、この大人の社交場こそが本番である可能性も浮上してきます。

グエルがドミニコス隊へ行く以上、ラウダは最終的にジェターク・ヘビー・マシーナリー社のCEOになることを目標としていました。であれば、現在第一線で働いてる人間と繋がっている方が実入りがいいのです。
経験も、情報も、横のつながりも、まだまだ子供の学生たちよりも、大人の社会人の方が得られるものは多いし、今役に立ちます。

ラウダはプロスペラへの対応や、ヴィムが気軽に仕事を振るので、現時点でも仕事と学生の二足の草鞋を履いて生活しているような描写があります。同じ学生であり御三家の子供であるシャディクも、サリウスの手足となって働いているので、ラウダも働こうと思えば働ける。

そしてここでも、ラウダの肩書は役に立ちます。

ラウダは上記で示したように、外部から見れば若きホープで、代々家族が引き継ぐ形態の会社のCEOの息子で、出世競争で負けたらその道が閉ざされる自分たちと違い、これから大失態を犯さなければほぼ間違いなくジェターク社の重要なポジションにつくであろう人物です。さらには彼に気に入られればCEOへのホットラインも築けます。さらにさらに、そのCEOは御三家で、御三家同士はもちろんのこと、総帥へのラインまで芋づる式に手に入れられるかもしれない。

このように、ラウダはあの世界のビジネス界において非常に魅力的な人物なのです。

彼の周りには有象無象も集まってきたでしょうが、自然と同じく次世代を担う優秀な人材も集まってきた可能性があるどころか、ほぼ確定なのではないでしょうか?
もちろんグエルとも接触しているでしょうが、ビジネスにおける「友人」は多ければ多いほど有利になるものなので、グエルと仲良くしたいからラウダはいらない、と切り捨てられるようなものではないからです。特にこの兄弟は、どちらも重要ポジションにつくことがほぼ確定なのですから、どちらとも繋がりを持っていて得はあっても損はない。

そしてこういう繋がりを持っているから、ラウダはシャディクとあまり近づかなくても平気だったのではないかと思います。

シャディクはあくまで「幹部候補」であって、「次期CEO」どころか「CEO候補」ですらありません。

幹部と一足飛びにコネを持っていれば、「私の跡を継ぐのはこの者です。」と紹介を受けた時に距離を縮めても遅くはありません。相手と確執があっても、次期幹部に選ばれる人間なのですから、ジェターク社の重要ポストに間違いなく座る人間と関係が悪化したら自分の首の方が飛びかねないと、賢く理解するでしょう。

それどころか既にラウダは、「グラスレー社の次期CEO」と関係を持っているかもしれない。

サリウスは高齢であり、鼻に人工呼吸器を装着していて、お世辞にも余命はそう長くはないでしょう。「老いてなお賢しい経営者」と紹介されているので、老い先短い自分の後継は、もう指名済みだとしてもおかしくありません。少なくとも、候補は絞っているでしょう。(©創通・サンライズ・MBS 機動戦士ガンダム水星の魔女公式ホームページ https://g-witch.net/character/9/ より引用)

だとしたら余計、ラウダにはシャディクと関係を持つ理由がないのです。シャディクは飄々とした性格で、やれることは何でもやると幼馴染のミオリネに評されているので、こちらの考察で述べたとおり、不正を嫌うラウダとは馬が合いませんし、そもそもフェルシーとペトラを見てもカミルを見ても、こういう裏で何を考えているかわからない人間はいないので、そういう意味でもラウダの好みから外れているんじゃないかと思います。

であれば、無理して付き合う必要はなく、積極的に嫌われにはいかないけれど、好かれることもしない、相互不干渉で十分と、バッサリ切り捨てたとしてもラウダらしい判断です。まぁ「悪いね、ラウダ。」と決闘委員会に正式に加入する前はシャディクからは気安かったので、シャディクからのアプローチはしていそうな気がしますが。上記の考察の通りラウダはビジネス的に魅力的な人物であり、警戒心の強いグエルに近づくにも使える「馬」なので、人並み以上に努力しなければならなかったシャディクにとって、ぜひともお近づきになりたい人間でしょうから。

他にも、どうにもラウダはさらに上とも繋がりを持っていた可能性があります。

それがデリングがなぜかグエルが未だに行方不明なのを知っていたことです。
これは大スキャンダルですし、見つかったと大々的に発表はしていないようですが、いなくなったとも公式には発表していないでしょう。学園内で姿が見えなくなったし、噂好きなので親たちにも連絡はいったでしょうが、対外的なアナウンスも何もなく、ラウダもジェターク寮生が勘違いするほど落ち着いた様子なので、家に連れ戻されたのだろうと勝手に噂が収束していてもおかしくありません。

ところが、デリングは確信を持ってヴィムに言います。「長男のグエル・ジェタークはまだ見つかってないそうだな。」と。

行方をこっそり調べていたとしても、他人の家庭で今となっては娘の婿でもない子供です。ただでさえ忙しいだろうデリングがわざわざ人を使って調べさせるほどの価値があるとは、到底思えないのです。今回は誘拐でもなく、自分の意思で出て行っていることですし、実力主義者で、ヴィムとは長い付き合いですがそこまでするほど仲良しこよしにも見えない。ヴィムが助力を乞うていた訳もないのなら、我が子の嘆願も切って捨てたデリングが、救ってやる義理もない。

ですが、ラウダがデリングを頼ってきたのなら話は別です。

ヴィムは上でも述べましたが、デリングには死んでも知らせたくなかったでしょう。自分が子どもすらコントロールできない人間だと言いふらすようなものだからです。

しかし早期であれば、一番確実なのは防犯カメラや船の履歴などの、学園フロント全体の記録媒体を参照することです。そしてそれを最も簡単に、フリーアクセスで確認できる人間は、デリング以外にはいないでしょう。警備の人間にお願いしても、恐らく最終的にはデリングに判断を仰がれることになる。
ならば直接デリングに訴え出た方が早いし確実だし情報漏洩の可能性も低い。ラウダはベネリットグループ御三家の一人、ヴィム・ジェタークの息子なのですから、他の人間よりもいくぶん気軽にデリングにコンタクトを取れる立場にある。

ラウダは今回のインキュベーションパーティーにも出席しているので、当然デリングにも挨拶したでしょうし、毎回参加していたなら顔見知りにもなったでしょう。ヴィムが子ども相手なら油断するかもとラウダをけしかけたことだってあったかもしれませんし、グエルがドミニコス隊を夢見ているから、情報収集がてら結構気軽に話しかけていたかもしれない。デリングは仕事関係ならまともに話を聞いてくれるので、モビルスーツ製造会社として花形のドミニコス隊の現状を尋ねるのは、そこまでおかしくはないでしょう。
グエルが会社内でどういう地位だったのか、ヴィムがどういう扱いをしていたのか謎なので、インキュベーションパーティーにも行ってたのかどうなのかわからないのですが、仮に出席していたとしても、こういう時にも次男というポジションは比較的自由に動けるはずなので、こっそりデリングに近づいていたとしても、逆にグエルがヴィムの注意を引いてくれればバレる心配は格段に低くなる。

それに、デリングはこう言っています。「長男のグエル・ジェタークは」と。
「長男」とわざわざ付けているということは、「次男」のラウダ・ニールのことも認識しているからこういう言い方になっているはずです。それにラウダは異腹であり、ジェターク姓を継いでいるということはグエルが「嫡子」でラウダは「庶子」です。当然息子として扱われているのは嫡子であるグエルで、庶子であるラウダはスペア品か便利だから引き取っている、と見てもいい。

しかしデリングはわざわざ「息子のグエル・ジェターク」でも「嫡子のグエル・ジェターク」でもなく、「長男のグエル・ジェターク」とグエルを称しています。つまりデリングは、ラウダはヴィムにとってグエルと同じく大切な息子であり、長男と次男と同列で扱っているのを知っているし、ラウダのことも個人として認識しているし把握している。そうでなければ、「息子の」と、まるで一人しか息子がいないように言ったはずです。

さらに言い方も「見つかってないそうだな」というのは、明らかに誰かから聞いた人づてというニュアンスです。自分で調べたなら「見つからないようだな」と言うのではないかと思います。ということは、部下ではないし調査に雇ったプロの人間でもない、個人的な情報源です。
わざわざデリングに個人的にコンタクトを取ってきて、進捗報告をしてくれて、ヴィムも気にかけていて探していることまで知っている人間となると、もう候補はかなり絞られるというか、実質一人にこの時点でなりますが、さらに。グエルのためならすぐにデリングという実質最強カードを頼ってくるほど必死になり、グエルの安否を二か月たっても気にしていて、定期的かどうかはわかりませんが多分最近も連絡してきただろうマメな人物となると、ラウダじゃなかったら逆に驚きなぐらいです。

このように、デリングはラウダのことを知っているし、交流があったかもしれない可能性があるのです。

まぁもしデリングが絡んでいたとしたら、それでもグエルが見つからなかったということになるので、アスティカシア学園のセキュリティの根幹が揺らぎかねないということになり、ラウダと仲良しだからと言うよりこちらの方が深刻な問題なので、気にかけているのかもしれませんが。

そうなると、ここでヴィムに眉をひそめていたのは、「だったら奪ってやる!その時になって文句を言うなよ~!」という捨て台詞に違和感を覚えたのもあるでしょうが、ラウダから手を尽くして探しているのに手がかりすら見つからないと聞いているのに、息子のことには一切食いつかない?おかしいな。と、ここでも違和感を覚えたのかもな~とも思えて面白いですね。ヴィム、最初っから何もうまくいかん男…。

ただ、学園での人間関係をおろそかにしていたか、というのも学生で年頃の子供である以上、全く切り捨てられたとも思えませんし、こちらの考察で上げたとおり、ジェターク寮生との仲は良好でしょうし、ロウジとも関係を持っていたのではないかなと思います。

ロウジが人に対して何かを言うのは珍しいと言いましたが、唯一名前を出したのが5話でレゴリスの罠に気づかなかったグエルに対する「この事態を招いたのは、グエルさん自身です。」というセリフ。ここ以外とラウダへの指摘以外は、本当に全く個人名を出さない。セセリアすら呼んだことがないのです。セセリアはロウジのことを呼んだのに。

しかもこれも、エランの戦術を説明するときに出てきたもので、純粋に話題に出したのとはまたちょっと違う。

ところがラウダの時には、決闘の宣誓の場面で、しかも「私情入ってますね、ラウダさん。」とラウダ個人への批評です。それに考察でも指摘しましたが、まるでラウダがこういう私情を入れるのが珍しいと言わんばかりの言葉なので、普段のラウダを知っているような言い方です。

ラウダとは決闘委員会で一緒になりましたが、それまでは決闘でたまーに見かける人、あってグエルさんの弟という印象でしょうし、この前の決闘で怒っているのを知っているのでその時の私情を入れてあんなことを、と思っての言葉かもしれませんが、別にラウダはルール違反をしているわけではないですし、いつもは黙っているのにセセリアよりも前に指摘をしているのは、だいぶ特別な反応です。
そもそもロウジは1年生なので、生徒の全データをハロに入れ込んでいそうですが、同学年でも名前と顔が一致しない人もいそうな中で、ラウダは決闘委員会でこれから一緒に働くとはいえ、こんな容赦ないツッコミを入れられるほど即気安くなるか?とも思えます。

となると、ラウダとはもしかしたらプライベートでお話しするぐらいには仲がいいのではないか?という可能性が浮上するんですよね。この考察の通り、ダリルバルデを製造したのがラウダで、その仕様に細かく注文を入れて調整していったのならモビルスーツの技術に明るいし、ダリルバルデの肝は最新のAI技術にあるので、「ハロ」と呼びかけるだけで何をロウジが望んでいるのか察すほどの高度なAIを搭載したハロを自作したロウジなら、最先端の技術に触っているラウダは魅力的な人物でしょう。

またそう考えるとセセリアが、5話で決闘を止めてくれるよう嘆願したラウダに、「グエル先輩はとっくに了承済みっすよ~」とけんもほろろに突っ返して、その後もちょっかいをかけてくるのも、「ロウジと仲がいいから」という理由が生まれて面白い。

セセリアはロウジの姿が見えないと探すほど、なんでかは知りませんがロウジのことが好きなのか頼りにしているのか、気に入っている感じがあり、そのロウジと技術談義という(多分)セセリアが入れない話題で盛り上がれるラウダは、面白くない存在だったでしょう。またロウジも機械オタクで、実際にガンドの義足技術に夢中になってセセリアを置いて行っているので、話に夢中になってついセセリアがいることを忘れたとか、セセリアとの用事よりも技術談義を優先したとか、そういうことは普通にありそうです。

…ロウジと仲が良かった場合、9話でドン引きされた後大丈夫だったのかな、ラウダ…。

逆にグエルはロウジとは仲はそんなに良くなかったのではないかなと思います。ロウジはインドア派でグエルはアウトドア派、ロウジは理系でグエルは多分文系なので、仕事の話ぐらいしかしたことないんじゃないですかね。

このように、ラウダはラウダで人脈を築いている可能性が高く、それはグエルとはまた違うものです。

思春期の息子VS強権的な父親

価値基準も、グエルとラウダは正反対と言っていい。
グエルはルールだからもありますが、決闘を積極的に取り入れるスタイルで、ラウダは必要のない決闘はしなくていいでしょというスタンス。嫌いな相手と距離を取るラウダに対し、グエルは真っ向から向かって行って対立していく。

父親からぴしゃっと言われたら押し黙るグエルに対し、ラウダは一応は「はい」と飲み込むものの、伝えたいことは最後まで伝える。

グエルは他者に対して強気で積極的。しかし父親に対しては納得できなくても押し黙ってしまう消極的で最後まで強気に出れない面がある。
ラウダは他者に対して独自の基準を持っていて、それを満たさない相手とは関わらないと線を引いている。そして父親に対しては強気で年頃の反抗期らしい反発心を持っている。

グエルとラウダは特に父親に対しての反応が真逆です。

「勝ちさえすれば父さんだって文句はないはずだ!」と言ったグエルに対し、「そんなわけないだろ!」と言わんばかりに、到着した段階で決闘がまだ始まっていなかったので全速力で決闘委員会のラウンジに直接赴き、中止を直談判しているので、ラウダはどうも父親の命令に背いたら例え勝利したところで罰が下されるに決まっていると確信しているようなのです。

ラウダ自身、3話での裏工作も「こんなの必要ないだろ、なんで兄さんを軽んじるようなことするんだ」と思っていても手配自体はしますし、インキュベーションパーティーでも「父からの伝言です」とヴィムの指示に従って、その後は特にオリジナリティを発揮してなかったんじゃないか?と思われるので(何かしていたらプロスペラがそれでゆすりに来そうですが今のところ特にないので。あくまで暫定です)父親からの命令には、下手に触らずにとりあえず従っておかないと叱責されるのを経験済みな感じを受けます。

恐らくですが、「汚い手はお得意」のヴィムと、アーシアン相手にも不利な条件を突きつけるだけで彼らを見れなくなるほど後ろめたさを感じるラウダでは、まぁやり方が嚙み合うはずがないので、何度か衝突した経験があって、それで徐々に父親に対するやり方を学んでいったのではないかと個人的には考えています。

「勝てばいい」と、終わり良ければ総て良しが通じないと知っていたと言うことは、「こっちの方がいい結果になるな」と自分の判断で動いて、後からキツめのペナルティを受けたんじゃないかなと。

どうにも不思議なのですがこの兄弟、敬語も使うし最終的に従うしかなくなるので「父親には絶対服従」の恐怖政治を敷かれているのかなと思いますが、何度も見かえすと普段はちゃんと反抗していて、結構一筋縄ではいかないんじゃないか?と思えてくるんですよね。で、ヴィムもヴィムで、これ言っとけば息子たちは黙るというノウハウを持っているような気がします。

先にも触れましたが、グエルは2話で叱責を受けて、殴られた時には捨てられた子犬みたいな反応をするんですが、頭を下げた後には「今回の決闘は俺の方で無効にしてやる」という言葉に、屈辱の表情を浮かべます。なので、殴られることには慣れていないけれど、叱責されたり父親の判断で勝手に何かが決まったり覆されたりという状況には慣れているような印象を受けます。

3話では殴られても(また…)みたいな顔でヴィムを見て、すぐに「父さん…。」と声を掛けます。それから色々言われて、結局は「…はい。」と言わされますが、その前はふてくされた表情をしていて、小説版を見ると「すべてはジェターク社のために」という言葉で締められています。つまり会社のためという理由じゃなかったら、グエルはふてくされた表情でぶちぶち文句を言っていた可能性もまたあります。(kindleスマートホン版 小説機動戦士ガンダム水星の魔女(1)P162より引用)

3話でのコクピットでの大喧嘩も、「父さん」と、まずは「あのさあ」というような声色で言い、泣きそうな顔で続きを訴えますが、ヴィムにいろいろ言われると今度は顔を険しくさせます。この後はラウダが入ってくるので引き続き父親と口論する気だったのかは謎になってしまいましたが、最終的に癇癪大爆発の「黙れよ!」で締めているので、あのままずっと黙ってはいられなかったのではないかなと思います。

9話では口論ではありませんが、父親の決定に一度は反論して説得しようとしています。

このように見てみると、「あれ?言うほど従順か?」という感じがあるんですよね。

ラウダはもっと露骨で、一応従っとかないと納得しないだろうから裏工作の手配はするけれど、ルール違反であることをまず注意しますし、「社用」とジェターク社のためだと言われたら黙りますが、その後もグエルを裏工作を施してやらねばならぬほど「弱い」と思っている父親に、「そんなことはない」と強く反論します。

決闘中にはしゃぐ父親に対して怒りを隠さない表情をしますし、それどころか何の言葉も返していないし視線すら向けないので露骨に無視をしています。

あとずっと気になっていたのですが、ヴィム決闘中ずっと立ちっぱなしなんですよね。

目の前に立派な椅子があるし周りにも空いている椅子はたくさんあるのに、座っていない状況ってかなり特異なんじゃないかと思うんですが(椅子結構高くて視界の邪魔ですし)、これラウダが座らせなかったとすると綺麗につじつまが合うんですよね。それでそうなると、ラウダは父親が椅子に座るのを妨害して立ったまま観戦させるという、プチ嫌がらせをしているということになり、裏工作命じてきたのめっちゃ怒ってんじゃん…という感想に最終的になってしまうんですよね。グエルが大変なことになっているのに…親子漫才をするんじゃない。

このように、グエルの暴力に対する反応から、常に暴力は振るっていなかったとしても、叱責に対しては素早く反応しているので、割と親子間で怒鳴りあいの喧嘩はしてたんじゃないか?とも思えてくるんですよね。ラウダは冷静に返しているので自分は冷静に対処して、相手も冷静にさせるという対応を取って怒鳴りあいの喧嘩はしてなかったかもしれませんが、それでも気後れすることなく意見を言って簡単には引き下がらないので、納得させる理屈を用意しなければならず、ヴィムにとってはグエルよりタチが悪そうです。

そして息子たちとよく対立していたのを表すように、ヴィムも二人を黙らせるマジックワードを持っています。

それが「会社のため」です。

二人が黙るのは決まって「会社のためにこれをやるんだ」と言われるからで、それ以外の理由だと二人は黙らなかったんじゃないかと。最初に殴られた時も、「お前は会社の信用を潰す気か!」で頭を下げましたし、その前の「ジェターク家の人間がジェターク社のモビルスーツを使って負けただと!?」の時は瞳を震わせていて、これを言われたら冷静に謝罪したので、ジェターク社というのは二人にとってもとても大切な存在で、それを出されたら自分の意見も感情も引っ込めるという条件反射のようなものができていたのかもしれません。

…その割には3話の口論の時にはヴィムは会社のことを出してグエルを黙らせようとしてなかったのですが…
「グエル!何をやっている!さっさと片を付けろ!」「信じてほしければ、ガンダムを潰せ!」「それが子どもだと言うんだ。大事なのは結果だ!」「お前だけの決闘じゃないということがなぜわからん!?子供は親の言うことを聞いていればいいんだ!」

「お前だけの決闘」というのが一応「会社のためだと言っただろうが!」のところですかね。でも初手で出していないし、明確にもしていない。

ただ、ヴィムはラウダにダリルバルデに施したAIの小細工を知られるわけにはいかなかったので、下手に会社のことを出すと「だからって、AIに操縦権を握らせるなんて…!これがジェターク社の新しいモビルスーツだとでも言うんですか!?」とか、この辺に焦点が当たりそうだったのでそれを避けたのかもしれないな、とは感じます。

ヴィムはデリングに怒った芝居をしていたので、必要であれば怒りをコントロールして制御ができるとすると、この時も叱責しつつ冷静に頭を回していた可能性は高いです。

ちなみにヴィムがラウダに対してAI工作を絶対に知られるわけにはいかないというのは、こちらの考察で詳しく述べていますので、併せて見ていただければ幸いです。

さて、このように本編描写以外ではバチバチにやりあっていたかもしれない可能性が浮上しましたが、それでも父親との関係や付き合い方は、ラウダの方が上手くてグエルの方がつまずいているでしょう。

ラウダは正面切ってヴィムと対決するのではなく、とりあえず命令でも何でも一度は要望通りに動いて、その上で交渉しようとしています。いわば「ご機嫌取り」というガードをあらかじめ打っておくと言ったところでしょうか。
グエルはここでもやはり準備不足で、おまけに怒りで対応しようとするので、ヴィムも落としどころがないし怒声で押しきれてしまうので普通に上から潰されてしまいます。

それから、ラウダは「自分が動くのは会社のため」と、明確に自分が言うことを聞く条件を提示しています。グエルは会社のことでももちろん言うことを聞きますが、一番は「認めて欲しい」なので、「ジェタークの人間であればこれぐらいできて当然」といくらでもヴィムがハードルを上げられる、ちょっとあいまいな条件です。ヴィムのグエルへの言葉を聞いていると、「信じてほしければ」とか「それが子どもだというんだ」とか、このグエルの奥底の願いもわかっていて使っている印象も受けます。最悪だな、ヴィム…。
しかしラウダの条件は「この命令はジェターク社の繁栄のために必要ですか?」一本なので、同じくジェターク社を盛り立てていくことに全力を尽くすヴィムにとって、とてもわかりやすく、そして自分と焦点もあっているのでやりやすい。

なので、ヴィムはラウダをよく使っているし、ある種自分と対等に扱っているのだと思います。ラウダも恐らくそのことを理解し、兄に対する態度はどうかと思っているけれど、ドミニコスに行く兄の代わりに残って面倒を見ることになっても受け入れるぐらいには、愛情があるのでしょう。

さらに、ラウダが二人の仲を取り持っていたのではないかなとも思えるところがあります。

インキュベーションパーティーですが、ラウダは新寮長になったばかりで決闘委員会の仕事も入って、父親の仕事を手伝う暇がないぐらい忙しそうですし、兄を退寮処分にした父親にめちゃくちゃ言いたいこともあるでしょう。しかしプロスペラ相手に髪を触って緊張しながらも表情を作る程度には乗り気で、失敗したと悟ると今までに見たことがないぐらい悔しそうにします。

ですが先ほども言ったとおり、インキュベーションパーティーはグエルが退寮処分になってすぐぐらいの時で、その前に計画を話されているとすると、ラウダの心中はもっと穏やかではなかった頃でしょう。

3話の時のように結局逆らえず…ということも、会社のためというのもあるでしょうが、ラウダはこの時「グエルを助ける」というのも頭にあったのではないかなと考えられます。

どういうことかと言えば、ヴィムは自分の思い通りに事が運んでいたり、狙いが的中するとすごく嬉しがる癖があり、わかりやすく上機嫌になります。そしてあの性格なので、上機嫌の時は大抵のことを安請け合いするのではないでしょうか?例えば、「グエルの退寮を解いて欲しい」とか。

ラウダは対処法を思いつくぐらいには父親の性格を知っていますし、グエルのためなら己の信念だって曲げてみせます。

グエルの処遇のことで言いたいことが山ほどある父親にも、その程度の皮算用をしたならば、思春期の反発心も押し殺して大人しくして、何をしてくるかわからない魔女にも立ち向かうことができる。

ところが頓挫してしまったので、恐らくヴィムの機嫌は最悪になったでしょうからそういうお願いをすることもできなくなるどころか、その怒りがグエルに向かないようにさらなるご機嫌伺いをしなければならなくなり、何もかもご破算になった、と考えると、ラウダがあれだけ悔しそうにしていたのもわかります。スレッタのピンチに喜びが隠しきれなくなるのもやむなし。

それから最初の方で述べたとおり、グエルはラウダになら頼ることができるなら、ヴィムとの関係で行き詰った時にも、ラウダを頼りにした可能性もあります。

ラウダも3話でグエルとヴィムが大喧嘩している時にも口を挟まなかったのは、結構この二人が喧嘩するのは珍しくないと仮定すると、慣れているので放置して、自分はその分敵の動きに注視しようとしていたというのもあるでしょうが、自分も兄の味方になると父親の怒りの矛先が自分にも向いてしまって、父親の機嫌のいいタイミングを伺うとか、クールダウンした父親に兄を許してくれるよう説得するとか、そういうこともできなくなってしまうので、あえて黙っていたという側面もあるのではないかなと思います。
ラウダは徹頭徹尾兄想いの弟で、父親に対しても兄を守るためなら反発するので、それこそ幼いころは兄側について逆にヴィムとラウダの喧嘩になって、二人とも罰を受けるということもあったんじゃないかなと思います。

すべて想像の域を出ませんが、後ろにいるとはいえ、はしゃぐヴィム相手にこんな顔をして、さらには無視している男が、今さら怒鳴られることを気にして父親に歯向かわないとも思えないんですよね。特に今回はグエルのことですから、「あんなことしなくても、兄さんは勝ちます。」と言ったように、理不尽な叱責を繰り返す父親に反発してもいいのではと。

しかしこういう理由であるなら、自分もヒートアップするとかえって情報も探れなくなって危ない。普段兄の後ろにいるのも、控えるとかそういうのではなく、グエルと同じところに立つと自分も怒ってしまって収集がつかなくなってしまうので、あえて下がって客観的にグエルを見守っているのかな、という気がします。現にグエルがいなくなって前に立つようになると、ラウダは怒りっぽい本性全開になっていたので、三人全員血の気が多いけど誰か一人は冷静でなきゃダメだろ!ということで、その役を感情よりも理性による判断を優先する自分が引き受けているのかなと。

さすがにスレッタのお尻ぺんぺんは看過できませんでしたが、それも兄がきちんと怒るだろうし怒っているので、自分は口を挟まないようにしています。ミオリネの温室破壊も、彼女の一番大切にしているもの(トマト)や彼女自身は傷つけないだろうと判断して見守っていると考察したので、兄の判断や決断は、例え後で後悔することになるとしても尊重しているのだろうと思います。それはそれとして「な~んでやっちゃうかな~」とは思うのでちゃんと言いますが。

話を戻して、ラウダはグエルと父親の間を何とか取り持とうとして、そのためなら自分が父親に腹を立てていてもそれをぐっと我慢して、指示に従って仕事を完遂する。グエルのためならそういう我慢ができるタイプの弟である可能性が高いです。

ただグエルのためなら何でもやるかというと、恐らくラウダにはグエルのためでも越えられない一線があります。

ラウダは人の尊厳や命を大切にしている

それは、誰かを必要以上に貶めることです。

こちらの考察により詳しく述べましたが、ラウダはインキュベーションパーティーでスレッタが生贄にされることを恐らく知らされていません。
ラウダたちがいる廊下へは防音設備でスレッタの声が聞こえていないこと、ミオリネの声が聞こえたのはデリングが扉を開いて外に出たであろうタイミングであること、ラウダはその前にスレッタを見かけているのに魔女裁判にかけられて苦しむことに関しては何にもコメントしていないこと。

これらから、ラウダはヴィムにあらかじめ言われなければスレッタが魔女裁判で苦しんでいることを知るタイミングがなく、スレッタにぶつぶつ文句を言っているところから恐らく知らなかった可能性の方が高いし、責任追及が行われるのはメカニックだろうと真面目に考えていたようなのです。そして知らせていないということは、技術的知識に乏しい子供であるスレッタを本編のように苦しめるのは、ラウダは反対するだろうとヴィムが判断したということです。

9話で集団戦を取りつけた時にも、明らかに不利だとざわめく地球寮の面々を、まるで見ないようにするかのように背を向けて、右手で目の位置の髪をつかんでいるので(普段は毛先に近い)、ミオリネはともかく、巻き込まれた被害者たる地球寮の子たちには、その顔を見れないほど後ろめたさを感じています。

普段は4枚目の位置ぐらい

このように、必要以上の罰や冷遇を与えるのは、9話では明確に兄のためという理由があっても、ラウダには正当化できないぐらい負荷のかかるものなのです。

それは有名な「堕ちろ!水星女!」の時でさえそうです。

ずっと不思議だと思っていたんですが、ガンダムでの「おちろ」とはすなわち「撃墜されて死ね」という意味なのに、なぜ「堕ちろ」なのか。水星の魔女世界では「堕ちろ」と称するのかなと思っていましたが、12話で戦う兵士たちは「墜ちろ」と言っているのでこちらの表現も確かにある。ということは、この「堕ちろ」とはガンダムらしいと言われていますが実はガンダムらしくない、命まで奪いたいというわけではない、むしろソフトな表現なのだと思います。

TV直撮りのため画質と反射失礼…

「堕ちろ」とは堕落、つまりホルダーの地位から「堕ちてもらいたい」だけで、撃墜して「死んでほしい」とまでは思っていない。

この「命を奪う」ということを、ラウダは真剣に考えていたのではないかなと見ています。

ラウダのディランザですが、巨大な斧に重量級の機体、溶断武器という恐ろしげな名称から、ラウダは好戦的で相手を殺害することにもためらいがなさそうですが、逆に「絶対に殺さないで済む」から殺傷能力の高い武器を使っていた可能性があるのです。

水星の魔女の小説において、繰り返し「決闘ではコクピットおよび主要機関への攻撃はできないように設定されており」と述べられ、相手の命を損なう危険性が最小限であると担保されています。つまり、例えばわざとコクピットを狙っても、恐らくその手前で攻撃が止まる。(kindleスマートホン版 小説機動戦士ガンダム水星の魔女(1)P157より引用)

それがどれだけ高性能だったのかというのは、グエルがヴィムを殺めたシーンで見てとれます。

グエルはコクピットを武器が貫いてしまったのに、「やった…!」とだけ言っています。でもグエルは多分コクピットを狙ったつもりも、貫いてしまった自覚もなかった。
なぜなら決闘ならば、こちらが指示しなくてもコクピットに攻撃が当たらないようにモビルスーツが調整してくれるから。相手の生命を奪わないようにしてくれるから。

だからどう見ても深々とコクピットに突き刺さっているのに「やった…!」と笑顔で言いなおしている。その後「敵じゃない!」と訴えているので、相手が死んだとも重傷を負ったとも考えていません。

このぐらいこのシステムは相手の命を奪わないのであれば、ラウダの一見殺意の高い武装も、ただのデカイ武器に変わります。そして溶断武器というのも、かすっただけで相手の装甲を溶かし、断ち切り、ダメージを与えるものであり、またデスルターという旧型機も恐らく溶断武器なので、コストがかからず、今の時代では簡単な技術でありメンテナンスも容易、エネルギーも恐らくそこまで消費しない、大変コスパのいい武器だから好き、という見方もできます。

実態の刃を黄色い熱?で覆う作りも同じ

それから、これはあくまで私のダリルバルデ開発はラウダ考察が当たっていればですが、ダリルバルデの足装備も、電撃を放って相手モビルスーツとパイロットを無効化する武装なので、この時点で電撃を放てば勝ちが確定する、ベギルベウのように止めを刺さなくても済む、相手の命を奪う選択ではなく生かして捕らえることを選択できる武装です。

ラウダはヴィムと共に他にも仕事をしていたのなら、地球の紛争地帯でジェターク社のモビルスーツが何をしているのかを知っていたでしょう。何せ撃墜記録、そのモビルスーツが何をしてどう動いたか、その結果どのくらい損耗を受けたか、被撃墜記録、というのはそのままセールスポイントや改善点に繋がります。CEOになればいちいち数字を見なくても良くなるかもしれませんが、ラウダはまだその域には達していません。メカニックとのミーティングや、営業部との会議において、必ずこの数字は出たでしょう。

そしてグエルは死の危険性があるドミニコス隊へ行きたいと願っていた。ケナンジが太るほど平和ボケしていますが、それでもヴァナディース事変では少なくない人数が戦死しています。そのヴァナディース事変はたった21年前です。いつか何かが起こって兄が死ぬ可能性は決してゼロではありません。

だからラウダは、人が死ぬということに対して非常にナイーブで、人が損なわれるということにも嫌悪感がある、まっとうな感性を持っているのだと、そう感じます。

そしてそれは、今のグエルにとって非常に大切なことです。
グエルは父親を殺害こそしましたが、人を殺すことに対してのためらいがなくなったかと言われればなくなっていないはずです。むしろ、父親を殺すことでそれは強化されたかもしれません。

この点だけは、スレッタは今の段階ではラウダに勝てないはずです。スレッタは家族や仲間を害するならば人を殺してもいいと免罪符を手に入れてしまった。まさに家族である父親殺しの罪悪感に苦しむグエルにとっては劇薬です。

ですが、ラウダは他者と暴力で解決する道を安易に選ばないし、人を害すことにも嫌悪感があり、何よりグエルのことをずっと支えてきた人間で、それを苦にしないどころか糧として一緒に楽しむことができる、そういう稀有な弟です。

グエルとラウダは互いに互いを高めあい、ジェタークを新たなステージへ連れて行く兄弟

ここまでラウダがいかにグエルにとって必要な人間かを述べてきましたが、じゃあグエルはラウダに何をもたらしたのか。

それは、ラウダが決してできない自由で新しい発想です。

スレッタにプロポーズして、御三家相手にカッとなって禁止されているのに決闘をしてしまって、学園から離れてジェタークから逃れることも突拍子もない考えですが、ラウダにとっての一番は、ジェターク社から離れてドミニコス隊のエースパイロットになる、というのもので、ラウダの頭の片隅にもない、斬新な考えだったのではないかなと思います。

ラウダは、ホルダーの地位を危うくするような安易な決闘はやめた方がいいと考えていたり、割と保守的なところがあります。

ジェタークとグエルが天秤にかけられたら、ジェタークの方を優先するところもあります。

ジェターク寮生を大切に思っていて、彼らに心配をかけたグエルに腹を立てているというのもありますし、エランに敗北したグエルよりも先にラウダは寮に戻っているのです。

ヴィムの部下の周りにはジェターク寮生たちがいて、不安そうに立っています。フェルシーが「グエル先輩、本当に追い出されちゃうの?」と、確かめるニュアンスでペトラに尋ねているので、グエルが退寮となることをジェターク寮生たちはグエルよりも先に知っています。

それを問いただせたのはこの中ではCEOの息子であるラウダだけでしょうし、ジェターク寮生の輪に紛れるのではなく、恐らく部下に近い位置にいるようなので、直前まで会話をしていたと思われます。

恐らくですが、決闘が終わって兄のところに行こうとしたけれど、寮にヴィムの部下が現れたと寮生たちから連絡があり、ラウダは先に寮に帰ったのではないでしょうか?ということは、決闘で負けて傷心した兄よりも、CEOの部下の突然の登場に困惑するジェターク寮生たちを優先した、部下からもたらされるヴィムの意思を確認するのを優先したということになります。

そんなラウダなので、当然のように自分はジェターク社の歯車として働き、その繁栄のために尽くすのが役割であると考えていたでしょう。

しかしグエルは違います。

長男という立場にありながら、彼はジェターク社を飛びだしてドミニコス隊で活躍することを夢見ています。何度も述べていますが、ドミニコス隊へ行くということは、ジェターク社のCEOとの兼任は恐らくできないはずです。身分はいち兵士になりますし、CEOという職業も多忙なら兵士という職業も、実戦がなくとも訓練や今回のようにプラント警備などで多忙なはず。何より命の危険のある人間をCEOとして据えるのは企業にとって多大なリスクです。だからどうしたってできないはず。

ある意味責任を放棄しているとも取れますが、しかしそんなグエルを、ラウダは拒絶するのではなく受け入れて、その願いを叶えたいと応援して手を尽くしています。
そうしてグエルも、だからこそ夢を見れているはずです。自分しかいなかったのなら、放棄した責任はだれも背負ってくれない。しかしラウダが引き受けてくれるのなら、グエルは何の心残りもなくドミニコス隊へ行くことができる。

それは兄だから、自分が弟だからサポートする、というのもあるでしょうが、「これは兄さんだけの決闘じゃない。」と、自分とあなた、二人の夢だと共有しているので、ラウダにとっても楽しくてやりがいのあることのはずです。

ラウダはスレッタとの決闘を取りつける時も、「あんな田舎者の決闘を受けるなんて」と呆れはしますが怒りはしません。最初の決闘だって、苦言を呈したのは授業中なのにその授業中の場所に行って妨害したからで、彼がミオリネに声をかけるのも止めていません。一貫してラウダは、グエルの行動を邪魔するのではなく、見守る姿勢を崩さないのです。

恐らくですがラウダは、グエルの自分にはない発想力でもってどのように行動するのか、それを見守るのが楽しくて仕方がないのだと思います。そしてジェターク社の後継者という歩きやすい道路を飛びだして、ドミニコス隊のエースになるという自分で開拓しなければならない道を選んだグエルを、呆れたり驚いたりしながら、ちゃんと目的地まで行けるよう舗装の仕方を一緒に考えたり、一緒になってあーだこーだと悩むのが本当に楽しかったのだろうと思います。

ホルダーになってからバンバン決闘を受けるようになって、今月5回目の決闘と言われていたので、ホルダー前はわずかに3回前後しか決闘をしていません。

自分のパイロットとしての腕を誇りにしていた割に決闘回数が少ないようにも感じられますが、これは恐らくラウダからの助言か、ラウダがさりげなく決闘回数をそんなに増やさないように調整していたのではないかなと推察しています。

決闘は「勝った相手の言うことを聞かせる」と言えば聞こえはいいですが、「相手と話し合いで折り合いを付けられず武力行使に出るしかない」という、コミュニケーション能力の低さも露呈させる行為です。

ドミニコス隊に限らず、戦う組織というのはトップダウンのはずです。上からの命令には絶対服従、横のつながりは強くチーム内で輪を乱さずにいることこそが重要です。そこで上記のような決闘をやりまくる人間というのは、せっかく築いたチームワークを根本から瓦解させかねない危険人物で、いくら強くともそれで十人のパフォーマンスが落ちるのなら不必要な人間です。

ラウダは性格考察でも述べたように、人の目を意識して立ち振る舞い、兄が本気で行きたいのなら情報収集もしたでしょうから、あまり決闘をしないようグエルに助言をしていたとしてもおかしくありません。

現にグエルは先生にも「すみません」と敬語を使えるし謝れるので、決闘さえしなければ年上からは好印象のはずです。多分決闘をバカスカやって、学園内をギスギスさせたり、1話のように騒動を起こすようになって先生からの心証が悪くなったのだと思うので、その前まではそんなに悪い評価ではなかったのではないか、と思います。

決闘をしないようにと言ったところでグエルが言うことをきくのかという点は、そんなものよりいい成績を収めた方がよっぽど内申点がいいという現実と、理由が腕試しであれば大丈夫であろうから自分が絶対にやりたい決闘を絞ればいいという妥協点、何よりラウダがいくらでも戦ってあげるという条件をつければ、グエルも納得したと思います。シャディクに何回か決闘を申し込んでいたらしいのも、自分が絶対にやりたい腕試しだったからであれば、わざわざグエルが声をかけたのも説明がつきます。

結果的にホルダーの価値に「ベネリットグループ総裁の娘」というトロフィーが加わってしまったので、この仮説が正しいかどうかは永遠に謎になってしまいましたが、ホルダーから転落する可能性を上げる安易な決闘をするのにラウダが渋い顔をしていた理由も生まれます。

決闘をバンバンするようになったということは、上記で危惧した通り「コミュニケーション能力の低さ」がどんどん問題になっていくので、ベネリットグループ総裁の娘婿という圧倒的な権力がないと、ドミニコス隊に入るための書類段階で落とされるかもしれない。そうなると前提条件から崩れてしまうので、グエルはもちろんラウダも必死になってグエルをホルダーに返り咲かせようとしていたのは、恐らくこのためです。二人ともホルダーの価値はベネリットグループ総裁の娘婿ではなく「ドミニコスのエースパイロット、諦めてはいないんでしょう?」に収束されるからです。

そうして尽くしていただけでなく、ラウダはグエルの発想から着想を得て、ジェターク社のさらなる発展へと繋げていっていたと考えられます。

ダリルバルデの競合はガンダムではなくグラスレー社のガンダム特化型です。敵を捕まえる足の武装、無線ドローンを優先課題としている点、ガンダムを呪いとして何度も否定するアンチガンダム発言。これらから、ダリルバルデはガンダムではなく、特にベギルベウとその後継機であるベギルペンデを想定競合として開発されたモビルスーツです。考察はこちらで詳しく。

ドミニコス隊で使われているのは主にグラスレー社のモビルスーツです。ここに切り込んでいければ、販路の拡大、利益の増大と継続購入の期待、そしてグラスレー社のシェアを奪い取れる。
ガンダム特化型だけだと他の既存顧客が…ともなりますが、ダリルバルデは明確にガンダム特化型をうたっているわけではなく無線ドローンもそれを運用するAIも最先端の技術ですからそれだけでも欲しがる顧客は大量にいるでしょう。
地球に多数配備されているし、無遠慮に車を踏みつけて爆発させてもノーダメージなので、今までのジェターク社はディランザを中心に頑強さを最大のセールスポイントにしていたはずです。なのでそれよりも頑強さは落ちるけれども、AIを含めて他に類を見ない最先端技術を搭載したダリルバルデは、ジェターク社に新しい強みを提供してくれる期待の新製品です。

そしてそれを生み出したのは、私の考察が正しければ、グエルがドミニコスへ行くことを知って彼を守る機体を作りたいと願ったラウダです。であるならば、ダリルバルデが生まれたきっかけはグエルがドミニコスへ行くという新しい考えを持ったからということになり、ラウダはグエルの発想を受けてジェターク社に新しい利益をもたらす新製品のアイディアが閃いたということになります。

そしてそれは、ヴィムが虎の子のモビルスーツとして使用していることから、実際にジェターク社の益となるであろうレベルにまで達しているのです。

グエルはラウダの先に立って思いもよらない場所に連れて行き、ラウダはグエルが目的地まで行けるために一緒になって行き方を考える。

彼らはそうやって人生を共に送っていく兄弟であったはずです。

だからラウダを失ったグエルは、自分で何とか生きようとするものの上手くいかず、結局スレッタに依存するように何もかもを捨ててしまいます。ボブ時代彼は穏やかではありましたが、有事の際にはテロリストにも食って掛かり、危機には船員たちを見捨てて出て行ってしまうので、遅かれ早かれボブの皮が剥がれ、「グエル・ジェターク」としての本性が見えるようになり、その時にトラブルが起きていたのではないかなと思います。

ラウダはたった二か月で兄のいなくなった喪失感を上手に埋められていますし、「どこに行ったんだ…!」と言ってはいますが、「なぜ」とも「何を考えているんだ」とも言っていないので、出て行った理由はわかっていて、居場所が知りたいし元気にしているのかは知りたいでしょうが、見つけたら絶対に連れ戻す、とまでは思っていないのではないかなと見受けられます。それでも兄の存在はいつも心の中にありますし、彼のことを案じていますし、「関係ない」と言ったグエルと違い何も言わずに勝手にいなくなっても、ラウダは彼を見放さずに兄弟であり続けることを選んでいます。
ドミニコス隊へ行くという夢自体、グエルがジェターク社から離れていくということであり、それを受け入れて自分が代わりにジェターク社のCEOになると決めているということは、ラウダはグエルがそう望むのなら手放す覚悟はもうできています。(グエルは「お前も会社も手に入れてみせるぞ」と言っていますが、これはミオリネに言っているのでベネリットグループのことでしょう。グループって会社なのかよくわからないんですが、どうも三菱の金曜会、三井の二木会と月曜会、住友の白水会のようなものなんじゃないかと思います。私も初めて見たのですが、この各会がそれぞれのグループ企業を統括する組織のようです。詳しくはこちらを)

グエルはラウダがいなければ上手く生きることができないし、ラウダはグエルがいなくても生きられるけれど枠から飛び出た自由で画期的な発想を持つことができない。

お互いがお互いを補い、力を合わせた時にこそ最大の幸福を得られる。グエルとラウダはそういう兄弟であるはずです。

とはいえ欠点はありますが。
何と言ってもこの二人、言葉が足りない。

グエルはラウダと仲がいい時には「当然自分に従ってくれるもの」と慢心してラウダの言葉を聞き流し、関係がいざ悪化すれば避け始め、ラウダが話したがっているのにまともに話し合わない。そのせいでラウダの心を勝手に決めつけて、ラウダの本当の心が置いてきぼりになっている。
ラウダはラウダで、グエルに「伝わるだろう」と言葉尻をしっかり言い終わらない癖が治らず、グエルが自分を嫌いになっちゃったのかな~と思ったら、自分の価値は低くなったのかと冷静に受け入れて他の価値の高いであろうもので説得し始める。これはグエルもいけませんが、もっとラウダは自分がグエルの中で価値が高いことを自覚して、自分の言葉を省略せずに伝えなければならない。

今後の二人は、これができるかできないかが分水嶺になるのだと思います。そして父親もいなくなった今こそが、最大のチャンスでありラストチャンスです。チャンスが殺伐としすぎてて頭が痛いですが、もしヴィムの死に意味があるのなら、兄弟でサシで話し合うそのためです。

ジェターク社も、親も、しがらみも何もかも意味をなさない、グエル・ジェタークとラウダ・ニール二人での話し合い。それが二人のテーマであり、最大の試練であると、私は捉えています。

まとめ


ラウダはグエルにとって、兄弟であり、人生を共にするパートナーであり、最大のライバルでもあった。グエルはラウダにとって大切な家族であり、夢を一緒に追いかけることが楽しかった、自分にはない発想を持ったかけがえのない人である。

グエルとラウダの今後は、お互いがどれだけ相手を大切にしているのか、その話し合いをできるかできないかにかかっている。

二期でこの二人の関係がどうなるのか、考察が一回目からひっくり返るかもしれませんし、楽天的がすぎる考察ですが、私は二人のことをこう考えました。

次回では、スレッタとラウダの共通点、そしてどうもその共通点を深掘りしていくと彼らがいわゆるニュータイプで、御三家たちが強化人間の枠なのでは?と思いついたので、そちらをまとめていきます。ええ、その通り。与太考察です!!当たるも八卦当たらぬも八卦なもはや妄想にお付き合いくださる方はぜひ…。(今回は最後おまけがあります)

※なお、この考察はあくまで私の考えであり、確定情報ではありませんので、この先設定が明らかにされて否定されても、私自身に責任は発生しないものとします。
当ページに載せているスクリーンショットは考察による説明の補足として引用しているものであり、三次利用はいかなる理由があろうとも禁止とします。

おまけ


あんまり水星の魔女世界でモチーフとか名前とか、そういうのに捉われると考察の幅が狭くなるように調整されている、表層ではなくその奥に隠されたテーマをつかまなければ真相に辿り着けない、それこそレイヤー(階層構造)になっているのだと思いますが、兄弟好きとしてとても好きなモチーフを発見したので共有まで。

日本放送協会、略称NHKの地球ドラマチックという番組、その中でも2023/1/21放送の「ライオンブラザーズ 王者への道」の中で、レオとマックスという兄弟が出ました。(実際には再放送なので初回はもっと前に放送されています。いつだったのかは最初が撮れてなくて…)

私はグエルがオスライオンでラウダがメスライオンのモチーフをされているのかなと思っていましたが、このレオとマックスこそが、グエルとラウダではないかとそう思いなおしました。

レオは勇敢ではありますが、無鉄砲で考えなしなところがあり、何度も群れをピンチに陥れてしまいます。
マックスは大人しいですが堅実で賢く、群れを持てばメスと協力して獲物を押さえ込む役目を負う、協調性のあるオスです。

この二頭は子供の頃から深い信頼を向けあい、互いが大好きですが、特にマックスはレオを深く愛していて、レオの蛮勇で何度もピンチになりますが、決してレオを見捨てません。

子供時代には大人の指示を聞かずにレオが水牛の群れを刺激し、母親を含めた周りが撤退する中、マックスだけがレオと一緒に戦おうとして、しかし水牛にレオが取り囲まれてしまい、絶体絶命のピンチになります。水牛を蹴散らす力のないマックスは見守るしかありませんでしたが、それでも近づけるギリギリで離れることなく心配そうにレオを見守り、何とか助かった際にはいの一番に駆け寄って怖い思いをしたレオをいたわります。

2歳半で群れから独り立ちして放浪ライオンになった際には、二頭で連れ立ち、一頭の水牛に狙いを定めてレオが仕留め、マックスは他の水牛を遠ざける役目を担います。無事に初めての獲物を仕留めますが、ハイエナがやって来て二頭を邪魔します。先に食べ進めて周りが見えていないレオに代わりマックスがハイエナを威嚇しますが、ハイエナが二頭を獲物から引きはがして盗もうと挑発してきて、レオがその挑発に乗ってあっという間に十頭ほどのハイエナに取り囲まれます。マックスは獲物を奪われまいと残りますが、こちらも九頭で囲まれて二頭とも命が危ぶまれる状況になり、二頭は縄張りの主であるオスライオン二頭がやって来たこともあって撤退します。

5歳になってやっと自分のプライド(群れ)を獲得した二頭は、マックスがメスに随伴して獲物を押さえ込む役割、レオが獲物に止めを刺す役割になります。ところがある日の狩りで、レオは大けがを負って序列最下位となってしまいます。そんなレオのために、マックスはたった一頭で水牛を狩り、自身も顔に怪我を負いながらも傷ついたレオに獲物を与えて、一刻も早く体力を回復して怪我を治させようとします。

この他にもちょこちょこトラブルがありますが、それでもマックスはレオを支えて献身的に尽くします。番組の中だけで、その後の2頭のことはわかりませんが、少なくとも5年間マックスはレオを一度も見捨てず、離れることもせず、リーダーの座から転がり落ちてもその愛情は変わりませんでした。

オスライオンはメスを何頭も従えて、彼女たちが苦労して仕留めた獲物を最初に食べる権利を持ち、後は自由に過ごしても構わないという生活スタイルにも見えますが、その一生はとても過酷です。

彼らの役目は広大な縄張りを維持し、命を懸けて群れのトップを奪おうとする他のオスと戦って、敗北すれば命を失うか、深手を負った状態で群れを離れロクに狩りもできずに遠からず野垂れ死に、血を分けた我が子は新しい支配者によって残らず殺されます。あるいは、もはや群れを支配するにふさわしくないと判断されれば、メスによって群れから追い払われます。決してオスの支配は絶対的なものではないのです。むしろ、メスこそが自分たちを支配するオスを選ぶのです。

他のオスから戦いを挑まれ、メスによっても値踏みされる毎日の中で、最も心を許し頼りになる存在は、一緒に独り立ちをした兄弟オスです。彼らがどれだけ深い絆で結ばれ、仲の良い兄弟でいられるかが、過酷な野生の世界で生き残るための鍵になります。

レオとマックスは、放浪オス時代もプライドを得てからも、お互いがお互いを支え、信頼し、一方が群れを支配するオスとして転落しても、回復させようと懸命に尽くします。恐らく傷ついたレオはメスから攻撃されたら抵抗できないほどの重傷だったので、一番に食べる権利を失ってしまっていたから、マックスは危険でも自分一頭だけで水牛を倒し、レオに優先的に与えていたのだと思います。そこのところは解説されていませんでしたが、楽で確実なメスを率いる狩りではなく単独の狩りを行っていたということは、そういうことのはずです。

このように、ライオンの兄弟オスは時にメスよりも深い愛情を注ぎます。

そしてこれは、今のグエルにも当てはまります。

今のグエルはジェタークに背を向けた、プライドに背を向けたオスライオンです。彼ではなくヴィムが支配者でしたが、スライドしてラウダが支配者となるなら、裏切り者であり、強い絶対的な支配者ではなくなったグエルが戻る余地はありません。
しかし、兄弟オスであるラウダならば、傷ついて支配者から転がり落ちたグエルを最後まで見捨てることはありません。彼を助けるために、あらゆる手を尽くすはずです。ドミニコス隊を目指すグエルを支えたように。

これはあくまでモチーフの話であって、彼らは人間です。

しかしこの法則に則るのであれば、彼らは必ず二人で揃わなければなりません。兄弟オスのどちらかが欠けてしまえば、途端に彼らのプライドは他のオスによって乗っ取られたり、狩りが上手くいかなくなったり、他の捕食者の侵入を許したり、遠からず瓦解してしまうからです。

そういう意味でも、彼らが元の兄弟に戻れるか否かが、とても重要なファクターになっているのではないかと、私は考察しています。

※なお、この考察はあくまで私の考えであり、確定情報ではありませんので、この先設定が明らかにされて否定されても、私自身に責任は発生しないものとします。
当ページに載せているスクリーンショットは考察による説明の補足として引用しているものであり、三次利用はいかなる理由があろうとも禁止とします。