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【考察】グエルとラウダ-前編

前回はグエルとの絡み以外でラウダの性格を見てきましたが、ラウダと言えばグエルとセット。
今回はグエルとラウダの関係性、互いが互いをどう思っていたのか、考察していきたいと思います。

先に申しますと、グエル…ラウダのこと大好きだったからバグっちゃったんだなぁ…という感じの考察になります。まーた新しい学説ですね、はい。
ちなみに今回は6万文字超、前編中編後編という編成になりますので、休み休みご覧ください。ではレッツ。

※なお、この考察はあくまで私の考えであり、確定情報ではありませんので、この先設定が明らかにされて否定されても、私自身に責任は発生しないものとします。
当ページに載せているスクリーンショットは考察による説明の補足として引用しているものであり、三次利用はいかなる理由があろうとも禁止とします。

弟に甘い兄、兄に甘える弟


ラウダがグエルのことが大好きなのは、水星の魔女本編を見ていると疑いようのない事実として伝わってくるのですが、最初はグエルをたしなめたり呆れる発言が目立ちます。その後グエルが大敗を決したり退寮騒ぎになったり果ては行方不明になるという異常事態になり、ラウダはグエルに献身的でいつも戸惑っているような様子になるのでこっちが素かと思いますが、これはあくまで異常事態なので、最初のグエルに遠慮なく意見するラウダが素であり、二人の本当の関係性でしょう。

と考えてみると、結構ラウダはグエルに対してずけずけ言うし、グエルもラウダにならそんなことを言われても許すしそんな態度をされても気にしないし、「あんな田舎者の決闘を受けるなんて」何考えてるの?と続きそうなラウダの言葉に、「瞬殺してやるさ」と笑いながら受け答える、割と兄は自分を邪険にしないと甘えている弟であり、そんな弟に甘い兄であることが見て取れます。

最初の決闘は「花嫁に逃げられた男だ」と笑ったから受けたもので、それ以前の決闘も些細なことで受けていると言われているので、グエルは普通に自分への嘲りや舐めた態度を許せない、プライドの高い人間であると思います。そしてラウダは弟なので、兄であるグエルにとっては格下の相手です。例え同い年でも、兄弟である以上、そういう差が全くないというのはありえる人もいるでしょうが、少ないでしょう。現にラウダはグエルよりもパイロット技術も下でしょうから、そういう意味でもグエルはラウダの小言を「うるさいぞ」と黙らせてしまってもいいし、そうできるはず。

しかし実際はグエルはラウダの小言や忠告を強い言葉で黙らせようとは決してしません。関係性が良好な3話の途中まではちゃんと受け答えしているし、4話で「これ以上、父さんを怒らせるようなことは」と言うラウダに、「わかっている…!」と返し、エラン戦で「決闘はダメだ!こんなこと、父さんに知られたら…!」と言って止めようとするラウダに「勝ちさえすれば、父さんだって文句はないはずだ!」と返している。どちらでも「うるさい!」とか「黙れ!」というような言葉は枕詞でも使っていません。

ただ近しい人間に「黙れ!」と言えないのかというと、今度は「黙れよ!」と父親であるヴィムに言っているので、いつもなら委縮してしまう相手にも言える時には言えることがわかります。

つまりそうしないということは、グエルが意識的にしろ無意識的にしろ、そういう物言いをラウダにはしないようにしているということになります。

もちろん、ラウダがグエルが本気でキレるようなことは言っていないからということもあるでしょうが、関係性が悪くなってからでもそういう言動が出ないということは、グエルはポーズでも演技でも無理をしているわけでもなく、本当にラウダに甘い兄であるということなのだと思います。
そしてラウダも、グエルが本気で嫌ったりしないことを知っているから言いたいことを我慢しないし、呆れているなら呆れていると感情を隠しもしていないのでしょう。

こうして見ると、グエルは横暴でラウダの言うことを聞いて行動を改めたりもほとんどしていませんが、それは絶対の自信や傲慢さからで、ラウダをないがしろにしているからというわけではないということがわかります。「瞬殺してやるさ」というのも、まさか常勝無敗の自分が、水星の田舎者に負けるわけがないという考えから出た言葉で、ラウダの「あんな田舎者の決闘を受けるなんて」という言葉が嫌だったから、反論を許さない、黙れ、という意味で出た言葉というわけではありません。

むしろ「あんな田舎者ごときなんの負担にもならない。瞬殺してやるから、お前は安心して見ていろ」という意味が込められていたのかもしれません。その後には「俺はドミニコスのエースになる男なんだからなあ。」と続くので、ドミニコスのエースになるというのはグエルとラウダで共に目指す夢だという前提で、先ほどのを合わせれば「あんな田舎者ごときなんの負担にもならない。瞬殺してやるから安心して見ていろよ。なんてったって、俺はドミニコスのエースになる男なんだから、こんなところで負けるわけがない。そうだろ?」という意味でしょう。

この兄弟、伝えたい言葉を省略して言うことが結構あるんですよね。だから読み取りづらいんですが。

最初の「授業中だよ、兄さん。早く撤収しよう。」というラウダの言葉に「こいつは俺を笑ったんだ。花嫁から逃げられた男だとなあ。」と返しています。カメラワークがミオリネに行くのでミオリネに言っている言葉のようにも見えて、そういう意図もあるでしょうが、これだとラウダが盛大に独り言を言ったことになってしまうので、ラウダの言葉への返答でもあるはずです。

ただそうなると、「早く撤収しよう」に「こいつは俺を笑った」と返したということで、「だからどうした、早く帰るか帰らないか言え!」という感想になります。ラウダが投げた野球ボールを蹴り返したみたいなちぐはぐな対応になります。

が、ここでこういう補足を入れてみるとなるほど返事になっている、となります。
「こいつは俺を笑ったんだ。花嫁から逃げられた男だとなあ。(だからこいつにこの場で謝罪させるまでは帰らん)」

これなら「撤収しよう」というラウダの言葉に対する返答になります。

他にも先ほどの「あんな田舎者の決闘を受けるなんて。(何考えてるの)」「(あんな田舎者ごとき)瞬殺してやるさ(だからお前はそこで安心して見てろ)。(お前だって知ってるだろ?)俺はドミニコスのエースになる男なんだからなあ(だから負けるわけがない)。」

決闘相手を再変更したときの「兄さん…!(落ち着いてよ)」「田舎者の無知を修正してやる!(から絶対決闘はやめない)」

3話の「これは兄さんだけの決闘じゃない(自分と兄さんの夢のためにも負けられない決闘だ)。ドミニコスのエースパイロット(になるの)、(当然)諦めてはいないんでしょう?」「ああ(もちろん)。俺は、必ず勝つ!(お前のためにも)」

関係が悪くなったであろう4話からも、
「これ以上、父さんを怒らせるようなことは(しちゃダメだよ)」「わかっている…!」

5話で「決闘はダメだ!こんなこと、父さんに知られたら…!(どんな罰を与えられるかわからない)」「勝ちさえすれば、父さんだって文句はないはずだ!」

などなど、言葉を省略して会話する癖があるとしか思えないほど略しています。(関係が悪化してからは省略するのはラウダばかりなので、グエルはラウダに壁を作っているのもわかります)

これはまぁ、家族と会話するとそういう傾向が誰しも出てくる、という感じだと思います。例えば「~やっといて」に「え~」と返してやりたくないという言葉を省略するとか、そういう感じですね。
なので、この二人は「仲は悪くない」と声優の方にお話があったそうですが、本当に仲は悪くないし立派に家族をしているのだと思います。相互に仲が良く、また付き合いも長くないとなかなかこういうツーカーな会話もできないでしょうから。(ガンダムチャンネル ジェターク寮ラジオから引用https://www.youtube.com/watch?v=RxkrBlwTB-Y&t=2649s)

このように、グエルとラウダは二人とも距離も近く理解もある、仲のいい兄弟であるということがわかります。ではなぜ、「仲は悪くない」と含みのある言い方で、実際に関係が断絶するまでに至ってしまったのか。

父親によって引き裂かれる兄弟


それはひとえに、父親であるヴィム・ジェタークのせいです。

グエルがラウダに不信感を持ったのは、ヴィムが決闘に干渉してきて、ヴィムの通信なのにラウダの声が聞こえた、イコール同じ場所にいる、すなわち父親が決闘に干渉していることをラウダは黙認していることに気づいてしまったからです。
口論しているのに父親を止めてくれなかった、自分の味方になってくれなかった、挙句父親のように「戦いに集中しろ」などと父親側の発言をしてきたからです。
もっと言えば、グエルはラウダが父親側に行ってしまった、エースパイロットになりたいという自分の夢を二人の夢だと言ったのに、あのメカニックたちのように父のように自分からモビルスーツの制御権を奪って、自分が戦って勝つことを信じてくれなかった。プライドを踏みにじった。自分を見限ったのだと悟ってしまったからです。

それからは坂から転がり落ちるようにグエルとラウダはすれ違います。それもすべてヴィムが干渉したせいです。

エラン戦の後にヴィムがグエルを退寮させなければ、兄弟で話し合うチャンスはまだありました。その後はヴィムからの電話を受けて、グエルは学園から出奔して行方不明になります。

その前、退寮になってキャンプ生活をしている時に交流を持とうと思えば持てると思うかもしれませんが、二人の仲が良ければ良いほどそれもできないのです。

ラウダは寮のことは任されたけれど、謝罪もいたわる言葉もなく去っていったグエルが、言葉こそ「頼んだ」という信頼を向けたものではありましたが、自分が父親側についたことはまだ許してはいないのだろうと伝わっていたでしょうし、父親の言動に傷つきながらも一人でなんとかしようとしている兄のプライドを傷つけるわけにもいかなかったでしょう。グエルはプライドが高く、御曹司という立場すら失ったグエルにはもう、プライドしか残されていないからです。

グエルはグエルで、自分の立場が悪くなればなるほどラウダを父親は選んだのだと突きつけられて(自分が蔑ろにされるということはラウダを重用する事にしたという意味にもなるので)、ラウダも何も言わないからそれを訂正することもできず、残されたなけなしのプライドと信じていた弟の裏切りがショックで、自分から歩み寄ることもできなくて、ただこれ以上父親を怒らせないように大人しくしているしかなかった。

これらはすべて、ヴィムが裏工作をしたのに端を発していますし、もっと前から父親の自分への態度とラウダへの態度の違いに、思うところはあったのかもしれません。こちらで考察しているように、ヴィムのグエルへの態度とラウダへの態度は、明らかに違うのです。

ただ普段はグエルは全く気にしていなかったと思います。ラウダからヴィムへの好意というのは、一般的な父親への好意以上のものはなく、むしろ兄を虐げる分ラウダは父親に不満を持っていたでしょうから。ラウダは性格考察でも言いましたが、そういうことを隠せないので、ラウダがどっちをより大切に思っていたのかは、グエルにはしっかりと伝わっていたでしょう。

むしろ、グエルは自分には向けられない父親の優しさがラウダの方へ向けられているんじゃと思っても、ラウダは父親ではなく自分を選んでくれている確信があったから、妬まずひがまず、自分もラウダを愛し、信じることができたのだと思います。

だからこそ、余計にショックを受けたのだとも思います。ラウダが父親を選んだことを、そして自分を見捨てて離れていってしまったことを。

兄弟で、相棒で、一番の好敵手


グエルとラウダは兄弟というのは純然たる事実ですが、人生を共にする相棒で、一番のライバルでもあったのではないかと私は考えています。

人生を共にする相棒というのは、こちらこちらの考察で触れたように、ラウダはグエルの「ドミニコスのエースパイロットになる」という夢を知っていて、その夢を応援しています。私の考察が正しければ、グエルのためにダリルバルデを開発し、正しくなくともドミニコスへ行くグエルの代わりにジェターク社にCEOの息子として残ることを決めています。

グエルも繰り返し「俺はドミニコスのエースになる男だ」とラウダに語り、ラウダからの「ドミニコスのエースパイロット、諦めてはいないんでしょう?」という言葉に、自信を持ってうなずいているので、ラウダと夢を共有し背中を押してもらえるのを当然と思い、そして頼りにもしていることがうかがえます。

このように、グエルとラウダは人生を共にする大切な相棒、パートナーであることも本編から読み取れるのです。

そしてライバルというのも。

オッズ表順位は、この時点ではグエルが下がっていますが、スレッタが来る前はグエルが1位、繰り上げてラウダは6位。
エラン戦後、ラウダは自分のディランザがバラバラになってしまったのでそれを修理し、戻ってきたとしても寮長業務に決闘委員会、前々からの予定やスケジュールの変更や修正、以前からやっている副寮長業務は後任に任せるとしても、引き継ぎや教育もしなければならず、目が回るほど忙しいはずなので、決闘まで受けている時間的余裕はないと仮定すると、強さの順位はオッズ表通りとなります。

加えて、ジェターク寮はピンク文字で表されているので、1位のグエルから6位のラウダまでジェターク寮はおらず、繰り上げ8位でラグナルと呼ぶと思われる1年の子がやっと出てきて、それ以降はジェターク寮の子たちは出てきません。

このことから、グエルにジェターク寮の中で実力が一番拮抗した戦いをすることができるのはラウダだけということになります。

さらにラウダは恐らく3年間グエルと同じパイロット科に属し、そして実力が近いので模擬戦闘や訓練の相手としてグエルとよく戦っていただろうと考えられます。何せラウダは弟なので、友達や仲間に頼むよりもさらに気安く遠慮もいらない。グエルがモビルスーツの腕を自分の誇りとしていて、ヴィムが「ジェターク家の人間がジェターク社のモビルスーツに乗って負けただと!?」と怒ったり、自らモビルスーツに乗るヴィムの息子であり、モビルスーツに乗れることは前提条件のようなアスティカシア学園のカリキュラムを見るに、二人は幼いころから訓練を受けている可能性も高く、そうなると学園の3年間どころかもっと長い間グエルとラウダはしのぎを削って互いを高めあった、長年の戦友にして親友の可能性もまた高いでしょう。

そうは言っても1位と6位では実力に差があるのでは?
確かにそうですが、ラウダは「あんな田舎者の決闘を受けるなんて」「(決闘相手を再変更するグエルに)兄さん…!」と、無視すればいいのにと言ったり一度落ち着くように声をかけているので、そんなに決闘で何でもかんでも解決しようとするタイプではないことがわかります。ということは、ラウダが受けている決闘は最小限であり、実際の実力はもっと高かったであろうという推測もできるのです。それに、先ほどの「ジェターク家の人間が~」というヴィムの叱責を見るに、ラウダもまた決闘で無敗なのかもしれません。ラウダもまた敗北した経験があるなら、「まったくお前たちは!」とか、「お前もラウダと同じか!」というような言葉が続くでしょうから。

アスティカシア学園の決闘というシステムで、グエルは他寮の人間と戦う機会も多くあったでしょうが、一番のライバルになるだろうエランもシャディクも、グエルとは決闘していません。エランはスレッタと戦うまで負けも引き分けもなく、シャディクはグエルから自分との決闘を避けていることをなじられています。

それに、バンバン決闘を受けているグエルは「27勝」、無敗引き分けなしなので3年間で27回決闘をしている。それでも3年間で27回しか戦っておらず、ホルダーとなり「どうでもいい決闘も」受けていると言われた時には8回。ホルダーにいつからなっていたのか明確にわかりませんが、仮にミオリネが入学した当時2年生にしても、この時点で5回ひと月で決闘をしていると言われているので、ホルダー前は2年生時時点でも3回しか決闘を行っていないことになります。(1年ごとに決闘回数がリセットされるならまた話は別ですが)

戦闘演習が授業であったとしてもモビルスーツが壊れてしまうのは痛手でしょうからそんなに数もなく、また機体性能をイーブンにして純粋な実力を見るためにデミトレーナーでやることになるとなれば、自分たちのポテンシャルの全てを出し切ることは不可能です。他寮の生徒と気軽に戦うのは企業の利害が絡むので、それこそ決闘のような理由がなければ認められないでしょうから、やはり一番戦闘訓練を組めるのは自寮の人間でしょう。

グエルは自分の腕に絶対的な自信を持ち、ガンビットを見ても好戦的に笑っているので、戦闘欲求は激しいタイプなのではないかなと思います。

何もないエアリアル→体の装飾品=ビットが展開→防ぐ→粉塵から現れる盾
それを見た兄弟の反応

「俺との決闘を避けてたヘタレに」と言っているので、シャディクには何回か決闘を申し込んでいそうなので、純粋に強い相手と戦いたいという欲求も持っている。しかし、決闘のオッズ表を見ても、御三家から下はサビーナですら利率が6.9なので、グエルにとっては物足りない相手でしょうし、そんな何回も負けたくないでしょうから、上位陣はグエルとはあまり戦いたがらなかったのではないかと思います。

だからグエルは、最初の決闘のように格下ばかりを相手にしていたとすると、戦い方を見るに相手をいたぶるのは好きでしょうが(というかよく見ると本気を出さずに弄んでるしわざわざ授業エリアに乱入したのは多分公衆の面前で虫の声で謝罪させるためだと思うので絶対戦いたくない)、同時にフラストレーションも溜まっていたのではないかと思います。F1レーサーが一般ドライバーと戦うみたいな、そんな感じでしょうか。

まずはディランザのパワーに任せて押し出す
まだ距離を取っていないので軽く盾で弾き、
距離をあけたらディランザの機動力を見せつけるように
ビーム攻撃をひょいひょい避ける
接近戦に転じ、槍を受けさせまた膂力に任せて槍を流してアンテナを横部分で切る、
または目の前に槍をちらつかせて脅す。
…パーカーが自力で流したにせよ構造上目の前に槍が迫るのは計算づくとすると…

この後はミオリネを見つけたからか、遊びは終わりとばかりに軽く相手をいなして、反撃を許さず武器を払い頭部を突き刺し、ミオリネを脅すための道具にするので、やはり最初の戦いはかなり力をセーブした、相手を弄ぶ戦い方だったのでしょう。(花嫁うんぬんそうとう腹が立ったんだな…)

となると、やはりグエルを満足させられるのはラウダだけになります。ラウダは実力だけでなく、幼少期からは考察なので置いておくとしても、最初の格下相手の決闘も観戦しているので、ほぼ全てのグエルの決闘を見ているでしょう。ということは、グエルの戦い方を一番熟知しているのはラウダです。通信が開いているので、その時何を考えていたのかすら、ラウダはすべてを把握できる立場にある。

こうなると例え実力が開いていたとしても手ごわい相手です。何せラウダはグエルがどういう時にどういう動きをするか、こういう行動を起こせばこう考えるということを、手に取るようにわかっているのですから。

逆もしかりで、ラウダがグエルのスケジュールに合わせるように常に行動を共にしているのを見ると、二人して同じスケジュールを組んでいる可能性があるので、珍しい弟の決闘を見逃さなかったでしょうし、その戦いを熟知しているでしょう。(この学園は選択授業制とすると、3年生になってからは、大学のように単位を取り終わって空きコマだったのかもしれませんが。シャディクものんびりしてますし)

こちらの考察でも触れたように、ラウダのディランザを使ったときに、グエルはラウダの戦い方をトレースしているような動きを見せているので、激しい戦いの中でも動きや戦い方をなぞれるぐらいラウダの動きを見ているはずです。

それにラウダのディランザは専用機なので、ラウダの操縦特性に合わせた調整をされている。車が一番わかりやすいですが、乗ったことがない方もいらっしゃるでしょうから、スマホやパソコンで例えると、他人の使っているスマホやパソコンは、肉親のものでもどこにどういうアプリがあるのかわからず、どのボタンで操作するのか、文字入力にも違和感があるのではないかなと思います。モビルスーツもそれと根本的には同じです。他者が扱いやすいようにチューニングされたものは、ぽんと渡されても自在には使いこなせない。

特にエランとの戦いは、スレッタを傷つけたことに対する報復で、御三家との戦いで、決闘を禁じられている身での決闘です。当然負けられない、負けるわけにはいかない大勝負。
その大切な勝負にグエルはラウダの機体を選んだのです。ザウォートが出てくるはずと考えていたので、ザウォート程度と捉えていた可能性もありますが、ペイル社のモビルスーツは高機動が売りで、現にエランの戦い方は基本的に空中を主戦場にして距離を取る戦略です。さらに高性能なファラクトでも四肢を吹き飛ばして完全に無力化してから初めて近づいたので、ザウォートでも同じように距離を取る戦い方をしたでしょう。

となると、ラウダの機体は完全に不利なはずです。ラウダは近接に寄った武装をしており、低重力とはいえ鈍重な機体なので、追いつけてもかわされたら追撃を入れる、というところまではいっていません。それは当然、グエルには戦う前からわかっていたはずです。
それでもグエルはラウダの機体を迷うことなく選び、そして十全に使いこなしています。

メカニックたちの目を盗み、止める策を講じる間もなく奪っているので、初めからグエルはラウダの機体を使うつもりで動いていたのでしょう。
そしてグエルはダリルバルデに対して、「このモビルスーツに何を仕込んだ!」や、「こいつ…!」と言っているので、機体に不満があれば言う人間です。しかしラウダのディランザの時は、「低重力ならディランザだって!」と言いましたが、それには「この」という枕詞がないのでディランザ全体の話、もしくはラウダのディランザにかかっていても、「低重力なら高機動のペイル社にも負けない!」という意味で、機体の性能についての文句ではありません。そしてその後も、「ラウダのディランザじゃ…」という泣き言はなく、グエルは最後まで機体に対してマイナスなワードを言うことはありませんでした。

それはつまり、グエルはラウダのディランザならば本当に勝てると思っていたし、ラウダ専用のチューニングが施されたディランザは、あらゆる戦闘を学習させた最新鋭の第5世代AIを積んでいたダリルバルデよりも違和感なく動かせていたということであり、グエルはラウダの機体を遜色なく動かすことができるほどその機体の癖を理解し尽くしていたという答えです。

それだけラウダのディランザによく乗っていたのかと言えば、グエルは中近距離戦が得意、ラウダは近距離戦が得意という、戦闘スタイルが違うままそれぞれのモビルスーツを調整しているので、乗る理由はあまりありません。遊びとしてお互いの機体を交換することはあったでしょうが。

ということはやはり、ラウダの特性を理解できるほど、操縦の癖すら把握できるほど、二人は戦っていたということなのだと思います。

勝率はグエルの方が高かったでしょう。しかし、互いが互いの戦い方を熟知している同士の、いわば戦友同士の戦いは血沸き肉躍るものがあるでしょうし、グエルもラウダも一流なので、相手を勝たせまいと新しい動きや戦術を繰り出していたでしょう。それはやっぱり、グエルを満足させてくれていたはずです。手を抜いたり、ちょっとでも諦めるようなら、グエルはラウダに上記のような甘い態度を取れたか、人生の相棒として認めたか、後述しますが失いたくないと臆病になったかというと、恐らくならなかったでしょう。弱い相手ならばいくらでもグエルには代わりがいるのです。

それに、ラウダは私の考察通りなら、感情を隠せない、特にグエルには甘えも含めて無遠慮になっていたはずです。そうなると、ラウダはグエルに負けたら悔しそうにしたでしょうし、兄の実力を認めているので称賛の言葉は惜しまなかったでしょうし、勝てば「兄さんに勝てた!」と嬉しそうにしたでしょう。いやこれは妄想に近いですが、それでも考察を鑑みると、ラウダはムッとしたらムッとする、結構負けず嫌いな一面も見えるので、「あんな田舎者の決闘を受けるなんて」とジト目で言えるのなら、グエルにもムッとするのではないかと私は考えています。

いずれにせよ、ジェターク寮のツートップであることといい、肉親であることといい、二人がよく手合わせをしていたのは確定であり、勝ったり負けたりを繰り返す一番の好敵手であった可能性は非常に高いはずです。

互いの人生を共有しあう相棒、互いの癖を知り尽くしてそれでもなお戦い続けたいと思えるほどの好敵手。

そんな相手が誰でもなく兄弟としていることは、二人にとってとても幸運なことだったでしょう。何せ人生の相棒は結婚相手でさえ離別を選択する人もいれば、互いに高めあういい意味でのライバル関係を築けるような相手がいることなど、人生でそうそうありません。良き友人はいても、良きライバルというのは、なかなか持てないものです。
それが兄弟という一番近しい肉親として側にいる。それはとんでもない奇跡です。

特にグエルとラウダは、父親が強権的で時には暴力まで使って子どもを支配しようとする親なのだからなおさらです。

おまけに御三家という立場上、身内以外はすべて敵であり、身内ですら家族以外に本当に心を許したら裏切られるかもしれない。そんな環境に子供の頃からずっと身を置いてきたなら、グエルとラウダのお互いだけが信頼できる唯一であった時間は、恐らく長かったでしょう。

学園よりも前の環境については「たられば」の話でしかできませんが、それでもこの二人の描写を見て、考えていくごとに、グエルにとってラウダにとって、本当に信頼して大切だったのはお互いだったのだろうなと、そう思えるのです。

誰よりも兄を理解しているラウダ、誰よりも弟を信頼しているグエル


3話以降すれ違ってしまい、グエルはどんどんスレッタへ心が惹かれていっているので、ラウダはグエルに無理解だから理解しているスレッタへ心が動いているという見方もありますが、実際にはむしろラウダはグエルを作中の誰よりも理解しています。

9話の「兄さんはどんな不利な条件でも決闘を拒まなかった。」のセリフ。これだけでもグエルは裏交渉のような自分を有利に相手を不利にする工作は行わず、どんな不利な条件だって不平も不満も言わずに堂々と受けてみせて、正面からねじ伏せた、強くて高潔な人間なんだ。というメッセージですが、そのあとの「ガンダムなら、どうにかできるだろ?」というのも合わせると、さらに強いメッセージになっています。

どういう意味かと言うと、ガンダムはシャディクがゲームチェンジャーだと見ているほどに技術的革新に満ちあふれた機体です。と同時に、製造を禁止された禁忌の機体です。「卑しいな。協定の裏でのうのうと」とヴィムが言っているので、ジェターク社も他の企業も、ガンダムの技術に頼ることなくパーメットの効率化を追求しています。要は周りが真面目にルール内でタイムを縮めようとしている中で、違法薬物を使ってマラソンを走っている、みたいな状態の代物です。

つまり、あの世界では存在しているだけで不正行為。対戦相手にとって立派な「不利な条件」です。そうなると、この「不利な条件」には「ガンダムと開発中の機体で戦わなければならなかったグエル」というのも含まれていそうで、ラウダがこの時言っていたのは「兄さんはどんな不利な条件でも(ガンダムなんてズルを持ってなくたって、お前たちがズルをしたって)決闘を拒まなかった。」「(そんな)ガンダム(を持ってる)なら、(不利な集団戦ぐらい)どうにかできるだろ?」ということで、そうとうな意趣返しですね。

ただこうなると、ミオリネの「御三家を全部潰したパイロットとモビルスーツのいる会社なんて、最高の宣伝になるでしょ?」が、「それでもあんたのお兄さんは負けたし、ガンダムがズルにならない宣伝のために、あんたのお兄さんが負けたのを利用させてもらうわね」という意味になるので、見事に煽り返されてることにもなりますが。

…とまぁ、ミオリネとラウダの煽り合戦は置いておくとして、ラウダはグエルが不正などもちろんのこと、決闘委員会に便宜を図ることもせず、ジェターク社の機体と自分の腕に絶対の自信を持っているから、相手が不利な条件を突き付けてきても正面から受けてみせる、そういう威風堂々とした人間なのだと理解しているが故に、こうした言葉がすぐに出てきているのだとわかります。特に「兄さんはどんな不利条件でも決闘を拒まなかった。」の時には、こちらでも申しましたが背を向けず髪にも触ることなく、地球寮の子たちも含めて見ることができているので、兄についての言葉には何の後ろめたさもなく、正々堂々と述べられるほどに、心の底からそう思っているし、誇りにも思っていることがわかります。

それからグエルの行動をいさめるために何回も父親のことを引き合いに出すことすら、彼のことを理解していたからです。

「親が決めたら絶対?あんたはパパの言いなりだもんね!」「お父さんは大事、ですよね。わかります。お父さん、好きなんですよね。」

いずれもミオリネ、スレッタと、他者からの指摘ですが、それが的を射ていたのは、その後グエルが、前者で怒りを爆発させ、後者で辛そうに誘いを断った理由が上記であると推測されても凪いだ表情をしていることからわかります。

このことから、グエルは父親の言うことに常に付き従い、父親のことを深く愛しているのがわかります。

その他にも、ダリルバルデ戦で排熱処理の工作を行ったのは父親だと気づくと、「どうして俺を信じてくれないんだ!?」「汚い手を使わなければ俺は勝てないって言うのか!?」と嘆いているので、彼は父親に認められたい、信頼されたいと願っていたこともわかります。

そんな彼の行動を本当に止めたいと願ったなら、父親のことを持ち出すのがもっとも効果的なはずです。特にラウダがヴィムのことを引き合いに出すようになったのは、グエルから「お前も父さん側のくせに…!」と拒絶されてからです。その後「気にするな。父さんの命令なら仕方ない。」とグエルからフォローの言葉があり、グエルも落ち着いた様子だったので和解しているようにも見えますが、グエルは一回もラウダと目を合わせようとせず、わざわざラウダのいる方向に背を向けて足早に立ち去ろうとしているので、まだラウダに対してしこりが残っている状態です。おまけに背を向けて歩き始めたのは「兄さん。」とラウダが声をかける前なので、ラウダには余計にそれを感じられたでしょう。

自分はグエルにとって「側にいる人」ではなくなってしまった。むしろ敵意すら見えるようになった。ならば自分の言葉は兄さんには届かない。でも、本当に動いたら駄目だから、ちゃんとそこは伝えたい。なら、父さんのことを持ち出せばきっと止まってくれるはずだ。自分ではなく、父さんのことならば。

恐らくラウダはそう考えたのではないかと思います。ラウダはこちらこちらの考察で指摘した通り父親がダリルバルデのAIを改ざんしたことはもちろん、ひょっとしたらグエルが殴られていたことも知らないのです。
初めてグエルが殴られた時、グエルは何が起きたのかわからない呆然とした表情で瞳を震わせ、それから頬を押さえて、すがりつくような目で父親を見ています。すぐに手が出て、常日頃暴力にさらされていたにしては、リアクションがあまりにも拙すぎないか?とも感じられるのです。

もう一度殴られた時には、やはりショックを受けた顔をしてはいますが、初めの頃のように呆然とした様子はなく、すぐに「父さん…。」と父親を呼ぶことができています。比較するとやはり、ヴィムは滅多に手をあげなかったか、もしくはあれが初めてだったように見えるのです。その割にはどちらもラウダのいないところでやっているので、どうも手慣れたものを感じてしまうのですが、初めは最初からグエルを殴るつもりだった、二回目は考察通りラウダがダリルバルデの製造に携わっていたら、調整チームを見られるわけにいかなかったので呼んでいなかったのだとしたら、まぁ手慣れてはいなかったのだとしても辻褄は合います。

叱責については、殴られたことにはすぐに反応できていませんが、叱責自体に対してはすぐに「申し訳ありません、父さん」と謝罪し、「決闘は俺の方で無効にしてやる!」という屈辱的なことにも「くっ…!」と悔しそうにはしましたが反論することはないので、それについては慣れている気がします。なので、その後の口論についてはラウダも(またか…)と思っていたかもしれません。二人の口論にエアリアルが目の前に来て応戦の必要性ができるまで口をはさみませんでしたし、二人が「もういい!」となるまで放っとくのが彼らの日常なのかも。

…まぁ、さっきの排熱処理がこちらで工作したものだと明かしていないので、このままグエルが何も知らないで終わるならそれでいいとラウダは考えていたと思うので、わざわざ通信を繋げて明かしたどころか自分という部外者が手を貸しているとグエルにバラしたヴィムに、何やってるんだこの…!と思っていた可能性はありますが…

そうすると、ラウダが考えているグエルのヴィムへの確執は、排熱処理の工作の一点のみになるので、許せないにしてもそこまで根に持つものでもないだろう、と捉えていても不思議ではありません。特に今回はジェターク社のためでもあったので、後編の方で詳しく触れますが、二人は会社のためならば不平不満を飲み込めるので、その意味でも今は許せなくとも心の中では納得しているはずだと思ったでしょう。

しかし実際にグエルが父親に抱いている不信感は、「ダリルバルデのAIを工作して、自分の意思をはく奪して自分のパイロットとしての腕も誇りも何もかもを踏みにじったということ」「自分に暴力を振るったということ」「ラウダを自分側に引き込んだということ」と、もう大分負債が溜まった状態で、父親の命令に逆らえなかったラウダよりもむしろ父親へのわだかまりの方が大きかったと思うので、ラウダの目論見は外れ、父親のことを繰り返すラウダへの苛立ちと不信感もまた高まっていってしまった結果となりましたが…。

この他にも、フェルシーとペトラがエランとスレッタがデートをするという噂に、グエルに真っ先に報告に来たのも、恐らくラウダがジェターク寮の子たちにグエルがスレッタに惚れていることを担保したのではないかなと思われるのです。あの時のグエルは、スレッタに惚れたことを頑なに認めようとしませんでしたし、フェルシーとペトラもスレッタを敵視していて、あまつさえグエルがスレッタに敗北してしまったので、スレッタへの敵意はますます高まったでしょう。

しかし実際には、グエルがスレッタに惚れていることはジェターク寮に公然の事実として認められており、受け入れられています。普通なら、エランにスレッタが取られようがどうでもいいはずなのに、「大変だ」と二人は走ってきます。

グエルが認めたのか?とも思いますが、グエルは対外的には一度もスレッタに対しての気持ちを口に出すことはなく、ジェターク家の御曹司としても、軽々しく誰かを好きだと言うのは憚られるはずですし、この後のヴィムからの電話に「ミオリネは諦めるんですか!?」と言っているので、まだホルダーになってミオリネと結婚する気があります。
二人の女性を愛して子供を作った前科者が父親なので、自分もミオリネを正妻にスレッタを2号さんにと思っていた可能性もありますが、グエルもルールに従うタイプの人間なのでそういう考えは持っていなかったのではないかなと思います。

ということは、誰かがグエルの気持ちを「本気だ」と担保し、ジェターク寮生たちに周知したということになります。それも彼ら全員が信じるほどの信頼性のある人物が、です。

とくれば…ラウダ以外にありえません。
ラウダは、常にグエルと行動を共にし、副寮長としてもグエルの仕事を手伝い、公私にわたって支えてきた人間であり、何より弟です。グエルと誰よりも長く親密に接し、誰よりも理解しているのはラウダです。

そのラウダが言うのならば、それは信頼できる情報です。それにラウダはグエルのことが大好きなので、グエルに好きな人ができるということは、単純に兄が「取られる」ことになるので、そういう意味でもラウダが認めたのなら他も認めなければならない。

現にラウダは「なんだって兄さんはあんな愚鈍な女を…」とぶつぶつ言いながら歩いていますが、グエルがスレッタを好きになってしまったことに関しては認めてはいるんですよね。
続く言葉は「選んだんだ」とか「好きなんだ」とかそういう言葉で、スレッタからグエルを誘惑したとかそういうマイナスイメージすら抱いていない。まあ脳直プロポーズを目撃しており、スレッタからグエルへのアプローチは「あなたは強かったです」という、どちらかと言えば色恋ではなく戦友とかライバルとか、そういう文脈なので、傍から見たらそれに恋愛的アプローチで返答するグエルが場違いだし、スレッタは即お断りをしているので、スレッタではなくグエルからぐいぐい行っているのは明らかであり、ラウダはこちらの考察の通り冷静で理性的な判断を下すので、グエルのことがいくら大好きでも事実は事実としてしっかりと受け止める、ということなのだと思います。

このように、ラウダはグエルがスレッタに惚れているということを事実として認めているのです。応援は死んでもしたくないとは思いますが。それ以降はスレッタに極力関わらないようにしているし、後輩たちもグエルの恋を積極的には応援しようとはしていませんし、知らせにきたのもエランがスレッタを横取りにしようとしているからで、そうでなければスレッタの近況も特に知らせに来なかったでしょうから、そこのところもラウダの「事実は認めるが応援は絶対にしない」というスタンスに沿っています。

いずれにせよ、グエルがスレッタに本気なのだと最初に確信したのはラウダで、それをジェターク寮生たちに周知したのもラウダで、多分、積極的に手伝わなくていいけど気にかけてあげて、とは言ってたんじゃないかなと、私は推察しています。

…こうして見ると、温室でグエルが暴れているのを止めなかったのも、グエルがミオリネを傷つけることはしないだろうとわかっていたからだと思われるんですよね。

グエルは最初に植木鉢にあたり、ミオリネには暴力を振るっていません。止めに来たミオリネを突き飛ばしていますが、パンチどころか拳を打ちつけた程度で、固定された植木鉢を吹っ飛ばし、片手でそれをむしり取っているので、グエルが本気で力を込めたら、良くて壁まで吹っ飛び、悪ければ骨が数本折れているはずです。

しかし実際にはミオリネは床に倒れこむものの、グエルを睨みつける程度の余裕はあるので、どこも怪我していません。
それに、これは知っていたかいなかったかわかりませんが、グエルが無遠慮に温室に毎回入っていたとすると、トマトにだけは絶対に触らないように忠告していたかもしれないので、彼女が一番大切にしていたトマトには矛先を向けなかった。

ということは、あくまでわからせるための示威行為であって、グエルが本当に我を忘れていたわけではないということになるので、それをわかっていたラウダは、グエルをすぐに止められるように近づくこともせず、ただ兄が満足するまで眺めていた。そうなると、この考察の通り、退屈して髪をいじっていたのも、表情がリラックスしていたのもうなずけます。…なんか反応が慣れている気がするので、むしゃくしゃしてグエルが物にあたるのを結構見てたのかもしれませんね、ラウダ。

このように、アニメ本編で描かれている描写だけでも、ラウダはグエルのことをよく理解し、彼の心情に配慮して行動している節が見られるのです。

それから、これはアニメでは描写されてはいませんが、グエルが負けてからスレッタに決闘を挑んでいないのも、これもグエルのことを考えるとそんなことはまかり間違ってもできないのです。

スレッタに勝つということは、ホルダーになるということ。ホルダーになるということは、学園No.1パイロットの称号を手にするということ。それはつまり、兄から永遠に最強のパイロットという称号を奪うということで、グエルのプライドを粉々に砕くことに他ならないのです。

妨害工作こそありましたが、グエルは一応は最後には完全に主導権を取り戻しており、その上で敗北しています。

これは紛れもない敗北で、言い訳のできないものだと、「三度も負けたお前に」と、自分のディランザ、ダリルバルデ、ラウダのディランザの三回負けたことをなじられた時に、ハッとして何も言い返せなくなっているので、グエル自身が思っています。

なので、ダリルバルデで敗北した時点で、グエルは明確にスレッタに敗北したと認めており、グエルは負けたのに弟であるラウダは勝った、となれば、グエルはラウダよりも弱いことになってしまう。
ラウダはグエルに技量は及ばなくて、いつも自分の後ろにいて、自分のことを強いと尊敬してくれて、何より弟で、自分は兄なのに、その弟よりも実は下だったのだ。ということになってしまう。

加えてこのホルダーという称号は、ベネリットグループの長の娘のパートナーとなるので、ドミニコス隊でエースパイロットになる近道です。グエルにとってはその方が輝かしい景品だったでしょう。

だけれどそれすらもラウダに奪われる。自分の夢を応援してくれていたはずの弟のその手で、背中を押してくれたその手で、グエルの夢はもぎ取られ、引きちぎられる。なぜならラウダは父親側だから、彼はドミニコスではなくジェターク社を継ぐ後継者への道があるのですから。何より、自分と違ってしっかりと結果を勝ち取ったら、父はラウダの方に目をかけるようになるでしょう。

元々グエルからすればあるかどうかわからない父親の愛情でしょうが、それでも長子としての誇りもジェタークの姓をもらっているのだという事実も、完璧に失われてしまうのです。

グエルの誇りである
「ベネリットグループの御曹司」も、
「決闘委員会の筆頭」も、
「学園No.1のパイロット」も、
全部全部、ラウダが奪ってしまう。

そんな残酷なこと、ラウダにできるはずがありません。それにラウダがホルダーになったら、ヴィムは何としてもその座を死守しろと言うでしょうから、グエルと決闘をして順当に負けることもできない。譲渡することができるのかわかりませんが、もしできるとしたって、そんなものは施しであり、グエルのプライドをさらに傷つけてしまう。

ラウダは踏みとどまるしかなかったのです。進んでも逃げても、兄が失われるのなら、踏みとどまるしか道はない。
進んで得るホルダーの地位も名誉も花嫁というトロフィーもそれに続く何もかもも、兄がいないならラウダにとってどうでもいいものでしかない。
逃げるというのも、父親から離れられるというプラス点はありますが、そんなことより険悪なままの父親の元に兄を一人残すなど、いったい何をされるかわからない。こんなものは選択肢にすら上がらない。

そしてグエルも、ラウダが自分のことをよく理解してくれているのをわかっていて、だからこそ信頼していたという節が見られるのです。

一番二人が信頼しあっていた様子を見せたのは3話のダリルバルデ戦の前のラウダが発破をかけて、グエルが答えるシーンです。

実はグエルはその前に、ダリルバルデに対して不信感を抱き、メカニックにも父親にも「俺の腕じゃ勝てないってのか!」という問いに対する答えを得られていない、本調子ではない状態です。

それはグエルの様子にも表れていて、フェルシーに「あんな田舎者、ボッコボコにしてくださいよ!」と声をかけられるのですが、グエルは笑顔でうなずくものの、「ああ」とも「任せろ」とも言わない。ラウダの小言にも「瞬殺してやるさ」と不敵に笑って答えていた人間と同一人物とは思えないほどしおらしい。

一方で、ラウダが「これは兄さんだけの決闘じゃない。ドミニコスのエースパイロット、諦めてはいないんでしょう?」と言うと、「ああ」と不敵な笑みを浮かべ、「俺は、必ず勝つ!」と改めて言葉にして勝利を宣言します。

恐らくですが、このラウダの言葉でようやくグエルは「俺の腕じゃ勝てないってのか!」という問いへの答えを得て、そして自分の腕を信じてくれる、信じて勝利を託してくれている存在がいるのだと改めて認識して、自分の腕に絶対の自信を持つ傲岸不遜ないつものグエル・ジェタークへと戻れたのだと思います。

フェルシーもラウダも、どちらも相手の力を信じている、勝利を信じているという意味がこもった激励です。むしろラウダの方が、この戦いはグエルだけのものではない、とか、あんな敗北如きで将来の夢をまさか諦めてないよね?というニュアンスで、プレッシャーが強い感じを受けます。こちらの考察で、ドミニコスのエースパイロットになるというのはラウダも応援していて、一緒に追いかけている夢でもあると考えてもいますが、父親に「このスタッフもダリルバルデもお前を勝たせるために俺が集めたのだ!子供のプライドが入る余地はない!大人扱いしてほしければ、勝ってホルダーを取り戻せ!」と死ぬほどプレッシャーをかけられた後なので、ラウダのプレッシャー混じりの応援よりも、フェルシーの単純な応援の方で持ち直しそうな気もします。

しかし実際には、ラウダの言葉によってグエルも言葉を返し、勝利を言葉で誓えるほどに持ち直している。

ということはつまり、ラウダのプレッシャーは父親からかけられたプレッシャーを上書きできるほどグエルにとって心地よく、また正しい原動力となるもので、ラウダの瞳をまっすぐ見かえして勝利を誓うほど、グエルはラウダの信頼に全力で応えようとしているのです。

それからグエルは、自分が壊してしまった温室の修理をラウダにお願いしています。ラウダからグエルに自分が行くと言った可能性もありますが、ラウダが「兄さんに直すよう言われたから」と言っていますし、「反省したってわけ」とミオリネが言っているので、多分最初のディランザでの敗北で賭けられた「ミオリネさんに謝ってください」も果たそうとしているのかなと感じます。何より自分の尻拭いを人から指摘されて行う、しかも自分ではなく指摘した人に頼んで、というのは、ベネリットグループの御曹司として、いずれはエースパイロットとして人の上に立つ人間としてかなり恥ずかしいと思うので、ラウダが促した可能性はありますが温室を直すと決めてラウダに頼んだのはグエルであるはずです。

しかしそうなると、やはり自分の尻拭いを人に依頼したということで、心中はどうであれ自分ひとりでわざわざ謝罪に出向いたグエルにしては、父親に呼ばれて仕方なかったとはいえちょっと違和感のある対応です。
おまけに自分の尻拭いをさせるのですから、自分の弱みを見せるし借りを作るということだし、謝罪や感謝の応酬も発生したでしょうから、プライドの高いグエルにとっては本来絶対にやりたくない屈辱のはずです。

しかしグエルはラウダに温室を直しに行ってくれるよう頼んだ。それはつまり、ラウダになら自分の弱みを見せてもいいし、謝罪してもいいと思っていた、そんなものを見せてもラウダは幻滅しないし周りに言いふらしたりしないし必ず助けてくれる。そう思っていたということです。それはつまり、心からの信頼と言えるはずです。
…グエルがラウダに謝罪できるのか、というのは、謝るラウダに内心どうあれ「気にするな」といういたわりの言葉をかけているし、ラウダが「ごめん」と謝れるので、弟の規範となるべき兄であるグエルも、悪いなと思ったらちゃんと謝れる人間であると思います。
弟だから気兼ねなく頼めたというのも、どちらにせよラウダが底意地の悪いことはしないという信頼が根底にありますし、そもそも弟だからできる、というのはイコールで、ラウダだからできる、ということにもなるはずです。グエルの弟はラウダだけなのですから。

フェルシーとペトラも温室に来ていたので、ラウダだけでなく後輩にも頼んでいるのではないか、とも思ったのですが、さすがに自分が悪いなと思った謝罪に後輩を使うというのは、嫌な先輩ムーブだろうと思うので、またもラウダが見つかって一緒について来たのだろうと思います。ラウダもフェルシーとペトラならいいだろうと思ったでしょうし。

というのも、ラウダは意外と他人も信頼することができる人間のようなのです。

3話の裏工作ですが、グエルは排熱処理の件を「自分の腕を信じてくれなかった故の行為」だと認識していますが、その後もフェルシーとペトラへの態度は特に変わっていません。ですがフェルシーとペトラは裏工作に手を貸した側の人間なので、ラウダに「お前も父さん側の癖に」と憤ったのなら、この二人にも憤ったはずです。

ということはつまり、二人は自分が裏工作に関与していることをグエルに言っていない。ラウダから言わないように口止めをされていた可能性が高いのです。

ラウダは先述の通りグエルを理解し、汚い手を使うことを嫌っていることを知っています。もし勝利したら、まだグエルの理解が浅く若い二人は、高揚感のままに口を滑らせてしまう可能性がありますし、負けたら負けたで「自分たちが逃げたから」と、これまた口を滑らせてしまった可能性は十分にあります。
なのでそうなっていないということは、ラウダから事前に「言っちゃダメだよ」と口止めされていたという結論になるのです。

そしてラウダは、口止めをすれば二人が言うことはないと、信じていたということにもなるのです。

他にもラウダが信頼を寄せていると推測できる人々がいます。

それはオペレーターの二人です。主に茶髪の子が映るし喋るのですが、左側の子も青か黒い髪をしており頭のシルエットが変わっていないので同一人物だと思われます。

ラウダがグエルをたしなめるのは、主にブリッジでです。スレッタの決闘を受けた時は特に、本当はその場で言いたかったのでしょうが、兄の世間体を考えて何も言わず、ブリッジに入って無事に搬出作業も終わったタイミングで注意しています。

しかしこの時も彼女たちは普通にいます。どのくらい声が届いているのかはわかりませんが、ラウダも特に声をひそめないで普通の声量で言っているので、聞こえているはずです。田舎者と、嫌われている婚約者でも、あるいは後輩たちの前だからと、兄のパブリックイメージを損なわないように注意しないほど、兄が他者からどう思われるかを気にしているのに、この子たちはいいのか?と。

さらにもっと直接的にブリッジでのことが漏れたらヤバイ事態が起きます。

それは3話のヴィムの襲来です。ヴィムは完全に部外者だし、なぜCEOがここに!?という状況で、さらにブリッジに入ったのは、搬出作業の途中でまだ廊下を歩いているので、決闘が始まるギリギリであったと思われます。
となると、ラウダが説明をする間もなく決闘が始まったか、あるいは事前にヴィムが来ることを教えていたことになります。

説明をする間もなく決闘が始まったのなら、どうしてCEOがと戸惑っている彼女たちに、ラウダが目配せ程度の合図を送ったか「後で話す」という言葉に、とりあえず納得して仕事に戻ったことになります。
事前にヴィムが来ることを教えてもらっていたのなら、学生の身分ではそうそう会ったことも見たこともないだろうCEOという絶対権力者が来ると知りながらも、通常のオペレーションを行ったということで、いずれにせよラウダに対する深い信頼が見てとれます。

さらにヴィムは排熱処理の狙いが的中すると、「見ィろ~!俺の言ったとおりにして正解だろ~!」と、「この裏工作を行ったのは~、俺で~す!」という、決闘に部外者が関わったという不正行為を声高に宣言しました。あのメールは小説版を見ると直前に来たようなので、そうなると、この裏工作については彼女たちに事前に通告されていない、まったく寝耳に水のはずです。

ところがここでも、彼女たちは特にリアクションすることなく(画面には映りませんでしたが驚きの声は聞こえません)仕事を継続していますし、このことは外部に漏れることはなかったので、このヴィムの醜態を彼女たちは外部に漏らすことなく留めています。ラウダが、彼女たちに迷惑をかけたし、グエルとの喧嘩も含めて、念のため言わないようにお願いした可能性はやはり十分あるので、彼女たちはそれにうなずき、ラウダも彼女たちなら口止めだけで絶対に言わないと信じたことになるのです。
ヴィムとグエルの口喧嘩ですが、グエルの声がマイクを通したような加工がされておらず、決闘委員会も無反応ですし、スレッタがダリルバルデのアイサイトが消灯したのを見て、「エラー?」とだけつぶやいているので、外へは漏れていないはずです。なので、本当に彼女たちが口をつぐんでくれれば、外に漏れる心配はなくなるのです。

茶髪の子が「意思拡張AI、停止…。」と重苦しく告げているので、ヴィムの息がかかっているのかとも思いましたが、ヴィムはグエルのモビルスーツの技量すら知らなかったので、他の学生がどういう役目を負っているのかまでは把握していないでしょうし、ガサツと称されているのでラウダに任せとけばまぁいいだろうとラウダ任せにしていたのではないかなと思います。
なので、意思拡張AIを注視していろとヴィムに言われたラウダが彼女に頼んだか、この考察通りならダリルバルデの開発者はラウダなので、まだβ版のAIがおかしな挙動をしないように注視してくれるよう頼んでいた可能性の方が高い。だから声に悲痛が混じったし、むしろ、茶髪の子も青髪の子も、ラウダ側の人間なのだと思います。

ラウダはフェルシーとペトラ、オペレーターの彼女たちと、他人であっても他言無用と言えば絶対に言わないと、深く揺るぎない信頼を向けることができる、他者を信じることのできる人間です。

一方でグエルの方はというと、恐らくできていません。

出奔した際にも、その後も、誰にもコンタクトを一向に取ろうとしていないのであろうことは、「グエル先輩、まだ行方不明なんですか?」とペトラが尋ねていることからも、ジェターク社の御曹司をかくまうというのに職場の誰も事情を知らなそうなところといい、「スレッタ・マーキュリーに進めていない」と死に瀕してスレッタのことしか頭にないことからもわかります。

まずラウダへは、彼が父親側に行ってしまったのだと思っているのですから、当然父親に筒抜けになってしまうので、連絡できません。

しかしラウダが信頼できないのであれば、フェルシーでも、ペトラでも、カミルでも、外部の人間だって、誰かに告げたっていいはずです。「絶対に言わないでくれ」と頼んだら言わないでいてくれる誰かに。
それができなかったということは、「絶対に言わないでくれ」と頼んでも最終的にジェターク社に情報が流れるだろうと考えている、それどころかいなくなってもそんなに心配されないだろうと考えているほど、誰のことも本当は心の底から信頼することができていなかったのだということになるのです。

あるいは、そういった信頼を向けられていたのはラウダにだけだったのかもしれません。

ラウダになら上記のように、自分の弱みになるようなことでも頼めている以外にも、どうにも「失いたくない」と強く思っていたのではないかと見られる言動が見受けられるのです。

ラウダに一歩進めなかったグエル


グエルですが、4話以降あからさまにラウダを避けます。「気にするな。父さんの命令なら仕方ない。」とラウダをいたわるようなことを言う時も、窓の外のダリルバルデを見ていますし、その後はわざわざラウダのいる側に背を向けるように踵を返して歩き去ろうとし、話しかけるラウダにも振り返らないどころか目さえ向けません。

6話でも、「兄さん…」と心配そうに呼びかけるラウダに目を向けず、振り返ることもなく「ジェターク寮を頼む」とだけ告げて立ち去ります。

対応だけを見ていると、ラウダが嫌いになったから避けたようにも見えますが、しかしグエルはラウダに対して荒い言葉を、4話でディランザを奪う時にすら使わないのです。

溝ができてからのラウダへの言葉をまとめると、
ラ「ごめん、兄さん。エースパイロットのはく奪だけで済ませたかったんだけど、ダリルバルデまで引き上げだなんて…。」グ「気にするな。父さんの命令なら仕方ない。」ラ「兄さん。これ以上父さんを怒らせるようなことは…。」グ「わかっている…!」

ラ「兄さん!?決闘はダメだ!こんなこと、父さんに知られたら…!」グ「勝ちさえすれば、父さんだって文句はないはずだ!」

ラ「兄さん…。」グ「ラウダ。ジェターク寮を頼む。」

このように、シャディクに言った「俺との決闘を避けてたヘタレに」だとか、セセリアへの「俺と決闘したいならそう言え!」だとか、ミオリネへの「お前は大人しく俺のものになればいいんだよ。」だとか。それに比べるとどれもこれもかなりソフトな内容です。声を唯一荒げた5話でも父親ならこうするだろうという推測で、ラウダを貶める内容ではありません。

ダリルバルデ戦の時には言葉にトゲがありますが、それも「お前も父さん側の癖に…!」で、自分にラウダが与えた仕打ちに対する文句を言える場面なのに、これだけで終わらせているので、父親へ向けていた「どうして俺を信じてくれないんだ!」「汚い手を使わなければ俺は勝てないって言うのか!?」という追及の言葉に比べればソフトであり、ラウダへの言葉の後、グエルは肘置きを叩いています。グエルは怒りっぽく、ミオリネの時には半分示威行為も含めて破壊行為をしていましたが、ラウダの時は一回強く肘置きを叩いてやめています。なので怒りが暴力性に出てしまうほどの強いものではあるのですが、それでも言葉が強すぎにはならないし、何度も何度も叩いて音や態度でラウダを威圧するようなことはしません。

他にも、グエルはヴィムがこの後もごちゃごちゃ言うのに耐えかねて「黙れよ!」と叫びますが、ラウダには「うるさい」「黙れ」とは一度も口にしません。エラン戦の時などは、それこそ「うるさい」と言っても良さそうなのに、グエルは自分なりの理屈を述べるに留まっています。

このように、グエルはラウダと喧嘩になることを避けているかのように、あまり強い言葉を使ったり怒りを長引かせたり威圧したりしないように無意識下でも気を付けているのです。

じゃあなんで避けているんだ、ということですが、気まずいとか、ラウダは俺のことを見限ったんだという怒りもあると思いますが、ラウダからの謝罪を待っていたのかなとも個人的には感じます。

4話以降、グエルはラウダの言葉に一拍置いてから返事をするようになります。

「ダリルバルデまで引き上げだなんて…。」のところでも、「父さんに知られたら…!」のところでも、続きの言葉を待つかのようにすぐに言葉を発していないのです。ラウダは意外とグエルに対して明確に言葉を終わらせるような言葉遣いをしておらず、1話での「早く撤収しよう。」や「諦めてはいないんでしょう?」「今は戦いに集中して!」ぐらいです。そしてラウダが続けるような言葉尻をはっきりさせない言い方をするのでいつも待つようにしているのかと思いきや、同じく1話では「あんな田舎者の決闘を受けるなんて」にすぐに「瞬殺してやるさ」と、被ってはいませんが続く言葉がないことを知っているかのように素早く返します。

このように、グエルはラウダがはっきりと終わらせるような言葉遣いをしない癖があることをわかっているのだとすれば、一呼吸置いている4話以降は、わざわざグエルがそうしている、ということになります。
それはなぜかと言えば、兄さんの力を疑うようなことをしてごめん、とAIに細工したことを謝る言葉が続くのではないかと期待して待っていた、という見方もできます。

そういう見方をすると、ラウダを避けているのもラウダから一歩を踏み出して謝ってほしかったからで、「父さんの命令なら仕方ない」と水を向けるようなことを言ったのも、「自分の意思じゃない。本当は兄さんのこと信じてるけど、父さんの命令で仕方なかったんだ」と言ってほしかったから、という可能性も浮上してくるのです。

ところがラウダは、待てど暮らせどAIへの工作や、自分がグエルを見限って父さん側についたことについての釈明をしてこない。グエルからすればひどく辛くて悲しくて、やりきれない時間だったかもしれません。それでもグエルは恐らく、出て行くと決めたその時までラウダと仲直りしたいと思っていたのではないかなと思います。

グエルが出奔を決めたのは、父親から「3度も負けたお前に何を期待できる」と言われたからです。その前の「子会社へ行かせる」云々の時は、まだ反論できるだけの余裕がかろうじてありました。

1回目は誰もエアリアルの性能を知らなかった、2回目は父親にモビルスーツに小細工をされたせい、3回目は誰もファラクトを知らなかったとは言えラウダのディランザを強奪したうえでの敗北なので言い訳ができませんが、2回は少なくともグエルだけが悪いわけではない。
それでも負けは負けだと言い訳をしないのはグエルらしいですが、この時グエルを本当に打ちのめしたのは、「ラウダは失敗していない」「父親は自分ではなくラウダに期待している」ということだったのだろうと思います。

ラウダは父親の工作も万事こなし、仕事も手伝い、決闘の順位だって悪くない。自分と違って欠点がない。おまけにラウダは父親を選んで、自分を見限った。じゃあ、そうだ。自分ではなくラウダに期待するのはしごく当然のことだ。きっとラウダなら上手くできる。自分は、いらない。
グエルはこう感じたのではないでしょうか。

その後のグエルの進路を見ると、家を出た理由は怒りではなく逃避であったことがわかります。
本当にヴィムに当てつけるなら、貶められたモビルスーツパイロットとしての腕を十全に振るえる職場を選んだはずです。バレる可能性も高まりますが、会社単位で自衛のためか部隊を持つのが当たり前のようなので、零細企業やベネリットグループではない会社の部隊に行くかテストパイロットにでもなるか、警備会社にでも就職してしまえばいい。あるいはいっそ、地球の紛争地帯に配備されるような場所に行けば、もっと身柄は秘匿してもらえるでしょう。

モビルスーツを扱う以上、やはりジェターク社に補足されると思うなら、モビルクラフトに乗ってもいい。「クラフト乗り舐めんなよ」とチュチュの通話相手が言っているので、恐らくチュチュはモビルクラフトの経験からパイロット科に入ったし、モビルクラフトを解説している授業があったので、パイロット科でもモビルクラフトの操縦方法を学んでいたか、流用ができるはずです。

しかしグエルはどの選択肢も選ばず、自分の手で船を整備し、恐らく生活物資などを輸送する輸送船の職につきます。これだとせいぜい運転するのは搬出のための車などでしょう。おまけにグエルが目指していたのはモビルスーツのパイロットで、船の操縦士ではありません。グエルが学んだ技術も誇りも、まるで役に立たない職場です。

このように徹底して自分が学んできたものから遠ざかったのはジェターク社の捜査網に引っかからないためもあったでしょうし、あるいは異母弟であるラウダがジェターク社を継ぐなら直系である自分がいたら邪魔になるという思いもあったかもしれませんが、ラウダとの思い出を思い出すのが辛かったから、というのもあるのではないかと私は考えています。

グエルがパイロットとして頑張ってきたのは、ドミニコスのエースパイロットになるためです。そしてその夢は、ラウダと一緒に目指していたものです。必然的に、モビルスーツを操縦するということは、ラウダとの思い出をなぞる行為にもなってしまったはずです。

それがどれだけ辛かったかというのは、12話を見るとおぼろげながら察せます。

グエルは「ガンダムがいるらしい」と聞いて飛びだします。スレッタがいるとか、赤毛の少女がとかではなく、ガンダムがいる=それはエアリアル=スレッタがいるという不確か極まりない情報で。そのままテロリストの目をかいくぐり、モビルスーツに乗る。しかもアスティカシア学園でガンダムと発覚したのはエアリアルだけでなく、ファラクトもそうです。この段階ではまだどちらかはわからない。

グエルは名門アスティカシア学園で訓練を積み、将来はドミニコスのエースパイロットになると豪語した優秀なパイロット候補生です。アスティカシアでは地面に埋まった地雷を避ける訓練など、兵士を育成するための、それも地球での対ゲリラ組織戦を想定していると思われるカリキュラムも存在します。何よりグエルは、ああ見えて責任感が強く、仲間を大切にする性格です。抜け出すチャンスがあるのなら、味方であり民間人である輸送船の船員たちを助けるためにモビルスーツを動かす、という選択肢も頭に浮かんでしかるべきです。

ですが、グエルは彼らを助けることはちらとも浮かばず、今まさに戦場になっているとはいえ、スレッタがいるかもしれないという不確定な情報で初めて、モビルスーツを奪うことを決意します。
普通に考えて、これは魔女狩りとはいえ民間人を一応は守る立場にもあるであろうドミニコス隊を目指していた者としてはありえない判断ミスです。正規の部隊であれば民間人は保護の対象になりますが、彼らを捕らえているのはテロ組織です。組織の中で一応のルールはあっても、彼らに逆らうものは紙くず以下にまで命の値打ちは下がります。

むしろ、スペーシアンにうっぷんを持つアーシアンが憂さを晴らすための絶好の動機になってしまう。お前たちの仲間がモビルスーツを奪ったと、反射的に皆殺しにされていてもおかしくない。ナジは政治的メッセージがある人間ではありますが、組織の構成員の士気と彼らの命を天秤にかければ、仲間に軍配が上がるでしょう。なにせ彼らは場末の輸送船の船員。彼らがいなくなったところで、「航行中に不慮の事故」で行方不明、という処理をされてしまう立場の人間です。戦闘が勃発した宙域に行く予定だったのなら、戦闘に巻き込まれて死亡したとして処理されるでしょう。

なのでこのグエルの判断は、まったくもって言い訳のしようもない愚行です。

アーシアンによるテロ組織が跋扈し、連日アーシアンのデモとその鎮圧が繰り広げられているであろうアド・ステラの世界において、そういったテロ組織に捕まった際の顛末を子供に教えていないというのはありえないはずで、実際にテロ組織に逆に詰問するグエルを船員たちは何度も止めています。特にグエルはジェターク社の御曹司なので、危険性については教え込まれたはずです。

だけれどもグエルは、そういった冷静な判断が全くもってできなかった。それだけスレッタへの感情の矢印が大きかった、ということではありますが、お世話になって暖かい言葉までかけてくれた船長を即切り捨てるというのは、あまりにもグエルらしくない、冷たい判断です。

ですが、モビルスーツを操縦すること自体を無意識でも避けていたとすれば、二か月を共にした船員ではなく、彼に影響を与えてくれた女神たるスレッタを助けるためでなければ動けなかったとすれば、グエルの行動には一貫性が生まれるし、彼らしい行動にもなります。
そしてグエルの誇りであるモビルスーツでの戦闘を行えなくなっていたのはなぜなのか。突き詰めていくとラウダの存在に行きつくのです。

グエルは働き始めてから、明確に感情が揺らいだ場面があります。

それが、ベネリットグループの名前を聞かされた時。テロ組織がジェターク社のデスルターを使っていることに。スレッタがプラント・クエタにいるかもしれないと知ってモビルスーツを強奪することを決意した時。です。

ジェターク関連は父親と喧嘩別れしたので、父親に反応しているとも取れますが、もう一人グエルにとってジェターク社を思い出すとワンセットで思い出すはずの存在がいます。

そう、弟のラウダです。そして先述したように、モビルスーツを操縦するということは、グエルにとってはラウダとの思い出が否が応でも想起された行動だと仮定すると、グエルの感情が揺らいだすべての場面において関係しているのは、ラウダということになります。

もちろん、ヴィムにもモビルスーツの腕が否定されているから、それで乗るのが嫌になった、ということもあるでしょうが、グエルはテロ組織相手にも一歩も引かない胆力があり、父親にも「黙れよ!」と啖呵を切ったことがあり、怒りっぽい性分です。何より否定されたからというネガティブな理由で乗れないにしては、スレッタを助けるためにモビルスーツに乗ることはほぼノータイムで決断しており、強奪したら連れ戻そうとする、あるいは撃墜しようとするメンバーがいるだろうぐらいの予測はできたでしょうから、彼らと戦う覚悟ぐらいはできていたでしょう。現にグエルがあれほど取り乱したのは、テロ組織と敵対する、自分から見れば味方のはずのモビルスーツから攻撃を受けたからです。となると、「俺にできるのか…?」という逡巡もしていないので、グエルは自分の腕にまだ自信を持っているはずです。

ヴィムが理由ではない。そうなるとやはり、優勢になるのはラウダです。ベネリットグループと聞いて想起したのは、実質的な跡取り、というのは、ドミニコスのエースパイロットを自分が目指しているので予定調和のはずですが、父親の信頼も期待もラウダが勝ち得て、自分という不出来な息子、兄をなかったものとして、きっと良好な関係を築いているのだろうという想像。デスルターをテロリストが使うことにあれだけ噛みついたのは、ジェターク社製モビルスーツがテロ組織に使われてしまえば、デスルターに「テロリストに使われたモビルスーツ」というレッテルが貼られ、父親とラウダの今後に影を落とすことになってしまうという未来。
そして、船員たちではなくスレッタの危機にようやく、父親ではなくラウダが原因で離れていたモビルスーツに乗ることができた。ただスレッタを助けるためだけならば、ラウダを忘れることができた。逆に、そうでもなければ、ラウダのことを忘れることはできなかった。それぐらい、ラウダはグエルにとって大きくて、大切な存在だった。

もちろん、これはあくまで私の考えであって、もっと単純で、父親のことを思い出して苦々しくなっていたのかもしれないし、パイロットとしての道を選ばなかったのは父親からひたすら逃げたかったから、という可能性もあります。(それにしてはプラント・クエタに行く可能性のある職業を選んだのかという詰めの甘さも見えますが、まぁそれもグエルらしい)

ただ、グエルは自分でも自分の気持ちをよくわかっておらず、コントロールもできない人間です。ラウダが大切な存在だとして、意識的に理解していたとは言えないと思います。それはつまり、シュレディンガーの猫みたいなもので、私たちも観測ができない箱に入って見えないものです。それを何とか見ようとするのが考察のだいご味でもあり、下劣なものでもありますが。

しかし、最後に出たようにスレッタを通してみると、兄弟の絆の深さを推し量ることもできるのですが、それは中編で…

まとめ


兄弟として、人生の相棒として、最大の好敵手として、グエルはラウダを信頼し、ラウダはグエルを理解している。それが二人の関係にも表れていたが、父親であるヴィム・ジェタークによってその絆は引き裂かれた。そしてグエルはスレッタに惹かれていきますが、どうもスレッタを通して見てみると、グエルとラウダの絆の深さも推し量ることができるような…?
ということで中編へ続きます。

※なお、この考察はあくまで私の考えであり、確定情報ではありませんので、この先設定が明らかにされて否定されても、私自身に責任は発生しないものとします。
当ページに載せているスクリーンショットは考察による説明の補足として引用しているものであり、三次利用はいかなる理由があろうとも禁止とします。