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HEARシナリオ部 2021年10月のシナリオ『リクルートスーツの魔法使い』

自分は音声投稿サイト『HEAR』内でHEARシナリオ部に所属しています。

これは物語創作が好きなユーザーによる部活。
現在は1か月に1作、テーマに沿ったシナリオを公開するのが主な活動。

2021年10月のテーマは『HEAR公式シナリオの募集企画第二弾があったとしたら』

5~10分程度のショートシナリオです。よろしければご覧ください。

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『リクルートスーツの魔法使い』

 先週、とつぜん魔法が使えるようになっていた。

 でもこれがほんっっと役に立たねえ!
 せいぜい手品か子供だまし、誰も驚かない。説明するのも恥ずかしいわ。

 ……神様はなぜ、世の中に必要とされる魔法をくれなかったんだ。

 こっちが欲しいのは、就職活動連敗中の大学生を救う能力なんだって。
 お願いだからあたしに存在価値を与えてくれ。このままじゃ社会にいらないヤツになるんだよ。役立たずはキツいって。頼むよマジで。

 周りが次々と内定をもらうなかで、あたしにはお祈りメールばかり届く。
 今日で二十八社目……ちくしょう……。

 お菓子をヤケ食いするため、いつもの公園に立ち寄ると、ベンチに先客がいた。

 男の子……幼稚園くらいか。地球からカレーとハンバーグとおもちゃが全部消滅したような顔だな。
 あたしも落ち込んでいるけど、この子もなかなかだ。

 妙な仲間意識に引っ張られて、ついつい隣に座ってしまう。

 お菓子でも分けてやるか。バッグを探っていると、ひらめいた。
 この子なら魔法にびっくりするかもしれない。

 あたしはスティック菓子の箱をミシン目に沿ってぴりぴり開ける。そして男の子のそばで、上蓋をぱかぱかと開閉させた。

『そんなにガッカリして、どうしたパカ?』

 お菓子の箱から声が聞こえて、男の子は目を釘付けにする。
 これこれ、この反応が欲しかったんだよ!

 持っている物から自分の声を出す。
 これがあたしの魔法だ。

 だけど声は変わらないし、口も動かさなきゃダメ。そのうえ触れている物限定。
 友達には「イマイチすごくない」とけなされた魔法だけど、この子はお菓子の箱に向かって、真剣に訳を話してくれる。

 やっぱり子どもは可愛いな。

『……なるほど~、おともだちのだいじなお人形にケガさせちゃったパカね。それでケンカしちゃったパカ~。

 わざとじゃない? だからごめんなさいが出来なかったパカ……。

 その子はどんな子パカ? ……いつもいっしょで……わあ、大人になったらけっこんする約束もしたパカね!

 なのに……キミはこのままでいいパカ?』

 男の子が顔をくしゃっとさせると、手の甲に雨粒が当たる。
 そういや通り雨の予報だった。

 あたしはオレンジの携帯傘をさして、男の子に寄り添う。
 片手じゃ箱の開け閉めがやりにくいので、意識を傘に移す。

『知ってるバサ。キミは本当は、ごめんなさいがしたかったバサ。

 あんしんするバサ。今からでもきちんと言えば、気持ちは伝わるバサ。

 ……だから、泣かないでバサ。』

 あたしはハンカチで男の子の涙を拭いて、二人でお菓子を食べた。

 程なく雨がやむと、公園の入り口に一人の女の子が立っていた。男の子に向かって手を振っている。
 抱えているフェルト人形の腕には、ばんそうこうが貼られていた。

 あたしは男の子の口元を拭いてあげると、その手に意識を集中する。

『だいじょうぶ。きっと仲直りできるよ。』

 チェックのハンカチに向かってうなずくと、男の子は入り口に駆けていく。

 何を話しているか聞こえないけど、お互いにっこりと微笑んで、手をつないだ。
 ほら、言った通りだろ。

 入り口から飛んできた「ありがとう」の声に、あたしはお菓子の箱と、傘とハンカチを掲げて応える。
 もうケンカすんなよ。
 
 ……さて、帰るか。

 立ち上がると、地面の水たまりに写るリクルートスーツ。
 さっきまでやさぐれていたそいつに向かって、不敵に言い放ってやった。

「へへっ、役に立つじゃんか。この魔法も……あたしもさ!」

<終>

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<記載例>
One-shot Lover!
作者:竹乃子椎武
https://note.com/takenokoctake/n/ne4eee32fb3df

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