見出し画像

HEARシナリオ部 2021年9月のシナリオ『カッコいい美人にひとつだけ言えること』

自分は音声投稿サイト『HEAR』内でHEARシナリオ部に所属しています。

これは物語創作が好きなユーザーによる部活。
現在は1か月に1作、テーマに沿ったシナリオを公開するのが主な活動。

2021年9月のテーマは『オトナの遊び』

5~10分程度のショートシナリオです。よろしければご覧ください。

===============

『カッコいい美人にひとつだけ言えること』

 ここ数ヶ月、「ある美人」のせいで私はモヤモヤしっぱなし。

 その人は、私がバイトするドラッグストアにやってくる。テレビや映画でよく見る女優さんにそっくりの美人で、いつも違う男性と一緒だ。

 レジに出すのは決まって、一万円以上の高額化粧品。
 男性が現金で払うと、美人は当然のように化粧品とレシートをバッグにしまう。そして二人は身体を寄せ合いながら店を出て行く。

 問題はこのあと。

 数十分後に美人だけが来店し、先程買った化粧品を返品したいと申し出るのだ。商品は未開封だし、レシートもあるから返品はできる。

 お金を返すと、美人はなんとそれを、レジの募金箱に全額突っ込む。毎回必ず。
 初めて見たときはびっくりしすぎて「一万円入りましたー!」ってその場で叫んじゃった。

 この人の目的がまったく分からない。

 なんの意味があるんだろう……と思いながら、私はいま、六回目の返品対応を行っている。
 今回は一万二千円の美白美容液だ。

 千円以下のコスメで頑張っている私にとって、五桁の化粧品なんてまったく論外。一般学生には手の届かない、富裕層のための商品だ。

 レジを操作しながら、スマホをいじっている美人をちらり。
 身に着けているのはどれも高級ブランド。ダイヤみたいに光るネイルが、アイ・アム・ザ・ベストを主張する。

 ……あれ? 左手の親指に赤い筋が……怪我したのかな?

 そういえば試供品の絆創膏があったはず。安いやつだけど、何も貼らないよりマシだよね。

「気が利くじゃない。ありがと」

 美人に渡すと、すんなり指に巻いてくれた。
 今朝、料理の途中で指を切ってしまったそうだ。絆創膏がなくてそのままにしていたとか。

 朝ごはんもちゃんと作るなんて完璧すぎる。
 私はパックご飯とふりかけばっかり。

 つくづく住む世界が違う。
 もしかして、高い化粧品を返品するのは、私への当てつけなんだろうか?

「ねえあなた。『なんで私のいるレジばっかり来るの』とか『なんでいつも返品するんだろう』とか思ってたでしょ?」

 どっ、どどどっ、どうしてそれを!?
 口から発射しかけた心臓を飲み込む。

 美人は外見に似合わず、屈託のない笑いを浮かべた。

「肌に合わないものを使って、気分が悪くなったら困るでしょう。化粧品も、男も、店員さんも、自分に合ったものを選ばないとね」

 それって「自分は高級品しか似合いませーん」みたいな? 私みたいに金欠で可愛くない大学生は引き立て役ってこと? あーやだやだ。

「あははっ、やっぱりあなた面白い。でもサービス員はそういうの、顔に出しちゃダメじゃないのかな?」

 お叱りを受けて、反射的に頭を四十五度に下げる。「心の声が態度に出やすいから気をつけて」って、店長にちょくちょく注意されているのに。

 ダメだ。
 見た目も中身も、私なんかじゃこの人に敵わない。

 代金を返すと、美人はやっぱり募金箱に全額寄付した。

「私は化粧品もお金もいらないし、男は買ってあげる行為に満足する。お互いに楽しければいい。だって『遊び』なんだから」

 いたずらに笑う美人が、ぜんっぜん理解できない。
 それのどこが楽しいんだろう?

「息抜きが必要ってこと。あなたも大人になったらわかる」

 わかる……かなあ? 少なくてもそんな遊びはやらない。
 そもそも私みたいな顔じゃ相手にされないし……いいもん、別に。

「あなたは真面目だし素直で可愛いから、遊ばれないように気をつけなさい。男とは『遊んであげる』の。じゃあね」

 美人は颯爽(さっそう)と店を出ていった。

 理解はできないけど、どこかカッコよくて憧れる。
 でも私はあの人みたいにはなれない。
 大人になっても、きっと追い越せない。

 だけど、ひとつだけ自信を持って言えることがある。

 買ったものを返品しても売上にならないので、他の店でやってほしい。

【終】

===============

【利用規約】

以下のクレジット表記(3項目)をお願いしています

①台本のタイトル
②作者名と所属する部活(作者名:竹乃子椎武、所属:HEARシナリオ部)
③台本が投稿されている投稿URL(個人サイトや外部サイトに関わらず、ご覧いただいたページのURLおひとつだけで構いません)

<記載例>
One-shot Lover!
作者:竹乃子椎武
https://note.com/takenokoctake/n/ne4eee32fb3df

部員の作品はこちらにまとめています。よろしければご覧ください。

HEARシナリオ部では毎月ラジオも配信しています。朗読していただいた投稿の紹介や、部員同士で創作活動のウラバナシをしていますので、よろしければお聴きください。


頂戴したサポートは今後の創作活動の資金として使用させていただきます。 より楽しんでいただける文章や作品作りを目指しますので、どうぞこれからもよろしくお願い致します。