見出し画像

1日に2回、病院に行ったら人生最大のピンチが訪れた話

~今回の記事の教訓~
失うものがいろいろあるとしても、絶対に無理はしないこと

みなさんはこれから登場する愚か者と同じことをしないように、気をつけてくださいね(そんな人はいないと思いますが)


先日、健康診断を受けてきました。今回はそのあとのお話です。

念願の昼食を取ったあと皮膚科の病院に行きました。

前々から行かなきゃと考えていたのですが、このご時世で病院には足が伸びず……でも午後に予定はないし、空いた時間は有効に活用すべき。

本当は来週行く予定を立てていたのですが、憂うつだった健康診断が終わったことで気が大きくなってたのでしょう。前倒しで向かいました。


みなさんは粉瘤(ふんりゅう)という病気をご存じでしょうか? カタカナだとステロームとかアテロームと呼ぶらしいです。皮膚腫瘍のひとつ。

ぽっこり盛り上がった皮膚の中心部に小さな穴があり、自分の場合はちょっと黒ずんでいます。大きさは症状によって異なるのですが明確な発症理由は不明とされ、予兆も予防法も自然治癒も特にない、ちょっと怖い病気。

しかしこの病気、痛くもかゆくもありません。

激しく運動しても支障を感じず、放置しても生活上は一切不便がないのです。お医者様も「別段施術する必要のない症状」と消極的な姿勢。

でも絶対に治したいその理由は――信じられないほどの異臭を放つから。

めちゃめちゃ嫌なニオイを発するんです。とにかく臭い。嗅いだ人が100人中100人「嫌な臭い」と言うであろう悪臭。

初めてニオイを感じたとき、まさか自分から放たれているとは気づきませんでした。

とうとう自分にも加齢臭と向き合うときが来たのか……そう覚悟を決めるくらいの異臭。でもこんなにキツいものなのか? それに耳の後ろや首の裏といった加齢臭を放ちやすい箇所じゃない。肩甲骨のちょっと下あたり。

鏡で見ると、ぼこっと盛り上がった黒ずむ皮膚が確認できました。

まさかここから? そう思ってシャツに鼻を近づけてみると……うわっ何コレすごく変なニオイがする!? ネットで調べたところ粉瘤だったというわけです。

日によってニオイの強かったり、落ち着いていたりする。今はみんなマスクをつけているので気づかれないけれど、これはマズいと感じたときは防水パッドなどを貼ってニオイを閉じ込めよう。

痛くもかゆくもないけれど、面倒な症状を放っておくわけにはいかない。

どれだけ清潔にしていても「あの人すごく変なニオイがする……ちゃんとお風呂入っているのかしら? ドラッグストアで働いているくせに不潔」と迷惑をかけるのだけは嫌だ。ただでさえ体臭には気を配っているのに!

というわけで皮膚科に足を運んだのです。


「ああ、粉瘤ですね」

90分の待ち時間の末、診察室に入るとお医者様はこともなく言いました。

「前回も処置していますね。手順は基本的に一緒です」

そう。自分は数年前に一度、粉瘤の摘出手術を受けている。今回は別の個所を治療しに来たのだ。二度目ともなれば緊張はない。

数か月後に手術の予約を入れ、今日のところは終了。人生初の病院はしごをしたせいか、体がだるい。いや、これは午前中の健康診断で採血したせいだ。今日はレバーでも買って帰ろうか。

「じゃあ手術ができるかどうかの血液検査をします。隣の部屋に移動してください」

………………忘れていた。

前回も手術の日取りを決めたあと、採血したのを思い出す。当然そのときは他に予定がない日に受診した。

人生で初めての、一日に二回採血。

やばい、ヤバい、やばばばばばば。

不安と心拍数を上げつつ部屋を移り、看護師さんに両腕を見せる。

「どっちにしましょうかね。うん、左腕にしましょう」

健康診断で針を打ったのは右腕。バランスが取れてる――とかそんなことを考えている場合じゃない。

言うべきか? 午前中に健康診断に行って血を抜いてるんです、と。

おそらく採血は後日になるだろう。そのためにまた受診するのか? せっかく時間を有効に使おうと今日来たのに? 診察まで90分待ったのに? また待つの? このご時世で受診したい日に来られるの?

ここで採血しなければ、かけた時間や労力が失われてしまう。

脳内で天秤が揺れる。片方には損失が乗っている。もう片方に浮いた時間でできることをボンボンと重ねていく。傾きを逆転させたところで覚悟が決まった。

気合で乗り切ろう!

午前中に血管性迷走神経反射に打ち勝ったんだ。採血後も気絶はしない!

ここが人生の勝負所、大丈夫だ上手くいく、自分を信じるんだ!!


「はい、終わりましたよー」

意識はしっかりしている。気絶をする気配はない。

勝った。一日に二回採血して無事なんだ、完全に血管性迷走神経反射を克服したといっても過言ではない……ふふ、ふはははは!

とイキった数秒後、視界が突然せまくなる。

全力疾走したあとみたいに頭が重くなり、看護師さんの声が遠くなる。息が乱れて苦しい。背筋の芯がところてんに変わったかのようにぐにゃりと曲がって、伸ばしていられない。気を抜いたら――落ちる。

朦朧とした意識で導く答え……単純に貧血だ……!

でも気絶はしたくない……できない……耐えろ。ここで意地を張らなきゃどこで張る、人生には勝たなきゃいけない時がある……それが今なんだ……!

すみません。ちょっと気分が。

早々に勝利を放棄して伝えると、看護師さんは瞬時に貧血と判断。さらに隣の部屋のベッドで軽く横にさせてもらう。

目を閉じてもぐるぐると回る暗闇の中で、横になることがこんなにも楽だったのかとしみじみ感じる。

もう絶対に一日に二回病院を巡らない。
一日に二度採血をしない。ちゃんと言おう。
たとえ時間や労力がなくなっても伝えよう。

今日は本当に、バカなことをしてしまったな……。


めまいと頭重が落ち着いたところで何度も頭を下げ、ご迷惑をおかけした病院の方々に謝罪。支払いを済ませて帰宅しましたとさ。

頂戴したサポートは今後の創作活動の資金として使用させていただきます。 より楽しんでいただける文章や作品作りを目指しますので、どうぞこれからもよろしくお願い致します。