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【歴史本の山を崩せ#003】『ハーメルンの笛吹き男』阿部謹也

『ハーメルンの笛吹き男』というお話。
ハーメルンというのはドイツの実在の街です。

中世のハーメルンでは鼠が大量発生して困っていました。
そこへ現れた笛吹き男に街の人々は多額の報酬を約束して鼠の駆除を依頼します。
笛吹き男が笛を吹くと街中の鼠たちが彼の後を着いていく。
川にまで誘い出してすべての鼠たちを駆除していまいました。
ところが街の人々は約束の報酬を払うのを拒否。
怒った笛吹き男が笛を吹くと、今度は街中の子どもたちが彼に着いていき、消えてしまった…

グリム童話などで読んだこともある人は多いのではないでしょうか。

そもそも、歴史学は過去に本当に起こったことを研究する学問です。
フィクションや脚色が多分に含まれている物語などをそのまま研究の材料に使うことはできません。
例えば時代劇の「暴れん坊将軍」を根拠にして、「徳川吉宗は悪代官の屋敷に乗り込んで成敗していた」なんていうのは無理があるというのはおわかりいただけると思います。

ところがこの本は童話を材料にしながら、歴史学の手法から逸脱することなく読み解いています。
中世の名もなき人々の社会や心性を見事に再現してみせてくれています。

著者の阿部謹也さんは日本で社会史という分野を根付かせた西洋中世史の泰斗。
学校などで習う歴史は、偉人や大事件を中心に時代が進められる政治史…「大きな歴史」です。
この『ハーメルンの笛吹き男』は「大きな歴史」では描かれない、しかしそこに確かに生きていた名もなき民衆たちの姿を活写した社会史の傑作です。


『ハーメルンの笛吹き男』
著者:阿部謹也
出版:筑摩書房(ちくま文庫)
初版:1988年(オリジナル版1974年)
定価:760円+税

※毎週水曜日更新

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