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【歴史本の山を崩せ#016】『青きドナウの乱痴気』良知力

《こんな歴史の描き方ができるのか?社会史の傑作!》

歴史好きのなかでも熱烈なファンがいる社会史の傑作です。
かくいう私も大好きな本。

この本のことを知ったのは大学生の頃。
小田中直樹さんの『歴史学って何だ?』で激推しされていて読みたいと思っていたのに長らく出版社では品切重版未定が続いていました。
何年後かに重版情報をキャッチして即買いしました。
数年間、待った甲斐がありました。
もう何度読み返したかわからないくらいです。

1848年のウィーン革命を舞台にした歴史叙述です。
主役は名もなき民衆たち。
世界史の本にゴシック体で記される革命という一大事件の最中であっても、ウィーンのひとびとは毎日を生きており、その情景描写がまるでドキュメンタリー映画のよう。
偉人たちを主役にした歴史叙述では決して見えてこない当時の社会背景を、ときには滑稽に、ときにはシリアスに、そしてフィクションではなく史実として鮮やかに再現。
ウィットに富んだ小気味良いリズムで刻まれる文章は、軽薄なところもあるけれど陽気でひとの良い当時のウィーンのひとびとの姿をリアルに見せてくれます。

全体を流れる陽気でどことなく牧歌的な描写は作り話のようにも見えますが、しっかりとした史実に基づいて描かれています。
そして、この本で描かれる1848年のウィーンの8ヶ月間のドキュメントは人類の業ともいってよい歴史の悲喜劇を見事なまでに活写しています。

こんな歴史の描き方をしてよいのか?
こんな歴史の描き方ができるのか?
本当にズルい!(褒め言葉)
何度読んでも面白いです。

『青きドナウの乱痴気』
著者:良知力
出版:平凡社
初版:1993年(オリジナル版:1985年)
定価:1200円+税

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