今週の映画

今週金曜日はお休み…ということで、先週土曜日から今日までに見た映画3本を紹介。メキシコホラーの時間はもし明日朝観られたら別途ということで。

①『Water』2005年、カナダ・インド・アメリカ合作

②『怪猫 謎の三味線』1938年、日本

③『Love from a Stranger』1937年、イギリス

①7歳で寡婦となった少女を描く映画

まずは、2005年の『Water』。インド映画…と見せかけた、外に出た者の目で祖国の社会を批判的に見つめる作品。

ヒンドゥーの考え方では、寡婦は忌まわしい存在とされ、普通の人の生活を送ることができなかった(一応過去のこととしておく)時代、独立直前のインドを舞台にしている。児童婚により7歳で結婚させられ、直ちに寡婦となってしまったチュイアという女の子が、寡婦たちが寄り添って暮らす家に連れて来られるところから始まる。

静かな作品だが、とにかく悲痛。物語は概ね三部になっており、最後のパートの主役であるシャクンタラーが、遠ざかる列車を見送った後、半身でこちらを振り返ったところで終わっている。人物が笑わずにこちらを見て終わる映画は暗い未来や不安定さを暗示させる。

同作で知識階層青年を演じたジョン・エイブラハム。彼は今やすっかりマッチョ俳優となっているが、本作で初めていいなと思った。線が細く、インド独立に大きな夢を託し、社会の不公平に心を痛める優しい青年ナラヤンを演じた。自らの無力と無知を悟り、町を離れることになる結末がハマっている。最後に彼に託されたものの行方も知れない。

厳しいヒンドゥー批判になっており、インドだけでは作れなかったものと思われる。監督・原作は、インド出身でカナダ在住の女性ディーパ・メタ。寡婦たちの家のボスはかなり悪辣なやり方で金を稼いで家を維持している上、最後にとんでもないことをしてしまうのだが、カメラは祭りの日の彼女の笑顔を捉えている。監督の批判は人々をそのように動かしてしまう考え方の方に向かっているが、それが主に誰を利するのかということにも触れている。文化は、いいものや美しいもの、喜びをたくさん与えてくれるが、同じものが返す刀で苦痛や犠牲ももたらす。少なからず、どの文化でも実践されていることなのだということは頭に置いておこうと思う。

②化け猫映画が面白い!

続いては、日本の戦前の作品、『怪猫 謎の三味線』。非常に面白かった。

三味線の修行中の男と、人気役者の女は所帯を持つかに思われたが、男の飼っていた黒猫がとある武家の娘との出会いをもたらす。嫉妬深い女は猫を殺害。しかし男はその猫の皮を大事にしていた三味線に貼る。娘は男に惚れるが男は断る。娘を不憫に思った男はその大事にしている三味線を娘に与える。それを知った女は…。

悪役の女役者、阪東三津枝を演じる鈴木澄子さんの素晴らしい演技によって恐ろしい映画になっている。ちなみに化けて出るぬこはかわいらしいのでそこだけは和んでしまう。一見自由で全てを手にしたかのような、勝ち気で、欲しいものは必ず手に入れるタイプの女性、三津枝は、武士階級の命令に対しては何も為す術がない。が、彼女はその状況にも極めて素早く順応する。哀しくもあるが、その中で精いっぱい、自分が自分の主人公であろうとしている。そんな彼女はやはり、この種の物語では処罰の対象になるのだろう。ロビン・ウッドの論で言うなら、貞淑な母タイプは生き残り、ビッチ娼婦タイプは死ぬ。ところが日本の江戸の物語には、英米の作品にはない要素が出て来る。それはかたき討ちである。貞淑な母タイプ(っていうか、もはや修道女?)→ビッチ娼婦タイプへのかたき討ち物語になっている。

日本人は本当にかたき討ちが好きである。今でも死亡事故や殺人事件が起きると、「犯人を死刑にしなければならない」というかたき討ちメンタルがネットに湧いてくる。我々は法による裁きよりも、私怨による仇討ちを届け出制にして合法化していた江戸の日本が懐かしいのかもしれない。マルクス主義の敗北(まだ残党がかなりいるが)によって噴出したのは、各文化の本当の顔だった。日本もまた、『君の名は。』のようなオカルト回帰的な作品が愛されている。やがて仇討ち物も復活するかもしれない。

③サイコパス・スリラーの意外な佳作

最近、アガサ・クリスティーの中短編の韓国語読み上げ動画を視聴している。その中でも何回も聞いているのが、『うぐいす荘』である。概要は以下の『リスタデール卿の謎』という短編集の中に収録されている。

実家に帰る度にアガサ・クリスティーの短編集を読んでいるのだが、このお話は、ミス・マープルの『スリーピング・マーダー』と並んで好きなのである。クリスティーは、謎解きという一見理知的に見える行為を描くという点でも人気があるのだと思うが、この年になって読み直してみると、恐ろしいほど、人間の欲望の奇妙さや倒錯性が露わになっている。NHKアニメのポワロとミス・マープルを観ると、子供向けなのに内容がえぐいのでぎょっとさせられる。ホラー映画にはいい顔しない人がクリスティーやヒッチコックは許してくれる、という捻じれた価値観はどうだろう。

韓国語の読み上げ動画は上記のとおり。この人の声は聴きやすいしうまい。韓国語で読み上げ動画を探すと、ある男性のやっている動画が出て来て、数が多いし読みたいような本も沢山あるのだが、彼は読み上げるときに、唾を飲み込む音がするのだ。あれが、寝しなにイヤホンで聞くと、誠に気持ち悪い。聴くの止めてしまった。

本作はネタバレするとつまらないので、まずは原作を読むか観て欲しい。原作を知っている人は、演出の違いを楽しめると思う。原作よりもジェラルドのキャラクターがより露骨に出ている。また、主人公キャロルには親友のルームメイトの女性がいることになっており、主人公の状況を案じることになる。

同作は『Love from a Stranger』の名前で戦前から何度か映画化されている。1938年のこの映画は、「Women's weakness is men's opportunity」というセリフが象徴するように、サイコパス男の異様さを女性蔑視と結びつけて描いていて、3年後の作品『ガス燈』(のちにイングリッド・バーグマン主演でリメイク)も併せ、今も昔も何も変わってないんだなと思わせる。舞台や時代を変えて今でも尚リメイクして語られれば面白いだろう。ゲイカップルの設定に変えて作ってみても面白いのではないだろうか。

さて…明日朝はまたメキシコホラーの世界に入れるかな…

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?