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竹美映画評㉒ アメリカ映画における「外国」 「ミッドサマー」("Midsommer”、2019年、アメリカ)

アメリカの人の書いた本を読むと、どこかしらに「世界はアメリカのようになるはずである」と思ってる人が結構いる。リッツァの『マクドナルド化する社会』はアメリカ批判かと思わせといて何気に礼賛してたし、トマスフリードマン『レクサスとオリーブの木』、ルース・ベネディクト『菊と刀』は言うに及ばず。ではそれを標準とする国から外に出ると何が起こるか?

ホラーよ!


海外に遊びに出た呑気なアメリカ人がひでー目を見る米映画、アメリカン自虐映画をホラーの中で探すのは容易い。「ホステル」(東欧)、「呪怨」(日本)、「グリーンインフェルノ」(アマゾン)、「エルサレム」(イスラエル)、「アフターショック」(チリ)、「クーデター」(東南アジアのどっか)など世界中で何かがある。あと名前知らないけど、群馬か栃木のお寺がヤバいっていうホラーと、モルドヴァに行ったらやばかったという映画もある。戦争映画ではあんなに強気なのにねえ。

このアメリカ的な海外への興味と恐怖と偏見が混ざったロマン映画と言えば「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」ね!あまりの内容に、インドで撮影できず、スリランカで撮影したそうな。

ホラーとロマンスは案外近いみたい。「ロスト・イン・トランスレーション」や「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離」は、上記の自虐志向がいい方に出ているわね。何とも言いようがないのは「セックス・アンド・ザ・シティ2」。NYのパワー女性が海外に出て行ってもどこ行っても「アメリカ」を振りまき、地元でしっぺ返しを食らった後、地元の女性たちによって慰められ、「アラブの女性たちも私たちと同じなんだわ」と誤読してNYに逃げ帰る。そして「やっぱりNYが一番」と言って「True colors」が流れてしまう。映画としては駄作だと言われたが、私にとってはNY人の世界のどこにも居場所の無い孤独が見えて面白かった。

さて前置き長いけど、「ミッドサマー」。アリ・アスター監督という伊藤潤二の漫画がそのまま映画監督になったみたいな人がこのテーマに取り組むとどうなるか?いわゆる「じわじわ来る」コメディなのね。つまり、えげつない。

やや情緒不安定の女性ダニーが、彼氏クリスチャンと一緒に友人たち(彼氏の方の)と一緒にスウェーデンに旅するのだが、そこでひでえ目に遭うというお話。

情緒不安定の人と言えばアリ子の大好物。ダニーは冒頭でかなり悲惨な目に遭っており、そこまでの追い詰めは不要だったのではないかと思われるが、アリ子的には「元々精神不安定気味のメンタル崩れ気味(ヒヒヒヒヒ)の彼女(ひひひひ)が、彼氏に疎まれているってだけでもやばいのにィ(あひゃひゃひゃ)、こんなことまで起きちゃったらぁ(けけけけけけ)」という感じで設定したと思う。

違うの?!?!?!!

もうアリ子に同情の余地は無い。「ヘレディタリー」で「ご家族のこと…大変だったんですね…」と私の同情を引いたことを忘れてないのよ…私を弄んで…!!!!!?

まあ大体みんなの予想通りに展開していく本作は、アメリカ人自虐ホラーの系譜でもあるんだけど、もう一つ、アメリカホラーが好む題材「カルト教団」が使われている。実際のところアメリカ合衆国自体が旧世界のスピンオフというカルト教団として始まっているのであり、やっぱり自国の出自が気になっているのではあるまいか。「ザ・ウィッチ」もそこを突いていると思う。ヒッピー全盛の時代に「コミューン」という形のミニ集団が出現し、実際カルト教団による事件もあったわけですし。

お花、ゆるふわっとした服装、有機栽培っぽいドラッグ、セックス、やけに親切、今ある認識からの解脱というヒッピーカルチャーは、新しい価値を色んな伝統文化の中に模索した。段々ヒッピー運動が失墜していく中で、北欧という異教を意識させる場所にある伝説を耳にし、そこに新天地を求めた者たちがいたのかもしれない。スウェーデンの文化を基に、偽の伝統行事をでっち上げてしまったように思われる。「ぼくのかんがえたスウェーデンのぎしきのふっかつ」だわよ。後の方のシーンでじいさんが英語で儀式の意味を説明する辺り、不自然だ。どうしてそんな大事なことをスウェーデン語で言わないんだろう。ぶすくれた菊人形ダニーへの配慮かもしれないが、本当に映画を怖くするならそこは彼女が聞き取れない言語の方がよいはず。

そのくらいアリ子への人としての信用は崩れ去ったの。だけど、ホラージャンルを揺さぶって違う認識を見せようというアリ子のセンスへの信用は更に高まった。ポンポン、ジョーダン・ピール、アリ子は、ホラー・サスペンスという領域において、何もかも分かりきってるはずなのによく見えない現代を徹底的に笑いのめして今日を生き切りなさい。そう言って奈落に突き落とすのね!ラストシーンの菊人形ダニーと、「アス」のルピニョンのスッキリした顔を見て。まあ、ポンポンの映画はあんまりスッキリしないけど更に落としてくるのよゴゴゴゴゴ

最後に、スウェーデンのメタルバンドが歌い上げる、スウェーデンの異教徒という歌を貼った!北欧はキリスト教文化ではあるが、あっきらかに異教的なルーツを楽しんでいる気がする。

本作、スウェーデンに失礼じゃない?という声もあるのだが、「あいつらこーんな変なことしてやがったっ!」というのも私達の眺めあいなのだと思うわ!

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