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竹美映画評52 ロードムービーが見せる社会の断面 『Happy Journey』(2019年、インド、テルグ語)

遂にインドに来てしまった。インドに行く途中のエアインディアの飛行機では、豊富なんだかやっつけなんだか分からないラインナップの映画を見ることができた。その中でテルグ語映画も観なきゃねと思って選んだのが『Happy  journey』。あらすじではホラー映画風だったので選んだのだが、さすがインド!全く別の作品の解説が入っていた。

作品は、太っちょの引きこもりゲーマーが、ド派手なワゴンでハイダラーバードからベンガルールまでの道のりを旅する話。ついでに乗合タクシーもしちゃえ!という気楽さ!四人の訳ありな若い男女の客を乗せてひた走るロードムービー。

かなり適当な作りだったけど、皆それぞれ若造なりに人生の岐路に立っている。

ゲーマーのサムライは、ガチオタで引きこもりで、両親に心配されている。タクシーをやりつつ、本当はベンガルールに行ってゲーム大会に出る予定だったはず←最後なんか違うんだよなー

OCDを持つヴィヴィクタは、恋愛結婚したのに夫とうまくいかず離婚するかどうか迷い、家を飛び出して実家?に向かっている。

キルティは、現役政治家の娘で自由が無いことに不満を抱き家を脱走して男と一緒にゴアに行こうとしている。

ハッピーは、ストレス障害に陥っており何とか治療しようとしているが、名前とは反対に孤独な人生。

名前を忘れたが、今回のヒーロー役…にしては頼りない男は、強めの彼女から、私の父親を説得できないなら結婚できないよ!と脅されてベンガルールにいる彼女の父に会いに行く。

彼ら、都会のミドルクラスの人々にとり、乾いたデカン高原南部の田舎は、馴染みもありつつ異世界である。私は、彼らにとっては別世界の田舎の描写の方に気を取られた。

前にハイダラーバードに旅行で行ったとき、ほぼ同じ地域をバイクで走ってきたという日本人の若者に話を聞いた。あの辺は、若い男が酒飲んでドラッグやってて、女の人は一人で歩くなんて危なすぎて誰もいないと聞いていたのだけど、本作でそれが正確な感想だったということが確かめられた。若い男たちが、覚醒剤キメて、女を誘拐して薬物を打ってレイプしようとするシーンがある。かなり恐ろしく、重いシーンだ。彼女はそこから逃げ出して、サムライのワゴンにぶつかり、救助される。そして、男たちが犯罪の発覚を恐れたのか何なのか、執拗に追いかけてくるのである。ゆるゆるコメディの割にものすごく怖い。

それだけにとどまらず、サムライのワゴンが田舎のレストランで止まったときに起こることもかなり怖い。地元の有力者の息子がヤクザ化してて、レストランの一家からみかじめ料を取ったり娘さんを連れていこうとするのだ。『ランガスタラム』そのまんま!

警察もヤバいのかと思わせておいて、最後、全て解決されるところがゆるいと言えばそうだが、そうでないとあまりに救いが無い。

キルティは、ベンガルールの男と連絡をとってゴアに行こうとしているが、電話の相手の男はドラッグをやっている。ハイソな家の何も知らない彼女がそのまんまゴアに行けば破滅が待っている。

映画におけるドラッグ描写はその国の事情を結構よく反映しているので指標として重宝しているけど、こういう形でまとまってインドの田舎におけるドラッグの問題が出てくるとは思わず、研究にとっては役立った。

でももちろん、いい人もいる。ある村人の家に行き、互いの善意を分かち合う。しかしそんな時でも油断ならんのがインドの田舎!村の男どもが、ワゴンの一行を外敵と勘違いし、エイリアンが来た!討伐だ!!部屋を見せろ!!と松明持って押し寄せてくる。何つー社会!!めっちゃ怖かったよ。コメディだけど。でも、村人はとんちをきかせて、五人を都会から来たダンサーたちだとごまかし、なおかつ彼らに強いヤシの酒を飲ませて舞台に立たせ、村人がやりたくても中止になっていた祭りを開催!『カルメン故郷に帰る』的なシーンだけどめっちゃくちゃ!!でも田舎のおっさんたちは大盛り上がりで危機を脱する。

ジェンダーについての考え方も、なかなか興味深かった。ヴィヴィクタは夫と別れようとしているのだが、カウンセラーの前で二人は揉め始め、夫は彼女をビンタする。すると、彼女は、あんた、それ違法だから逮捕されるぞ!と怒り狂う。やっぱり手が出ちゃうのよね。彼女の方も負けてないけど。八十年代の日本映画の感じかな。

ゆるくてテキトーな映画だったけど、若者たちそれぞれが旅から何かを学び、少し成長して最後さよならをしていく様子にキュンとなった。何か九十年代辺りの香港映画とか韓国映画のドタバタコメディ映画を思い出した。やたらアグレッシブで前向きで人生を決して捨てたりはしない限り、まぁ何とかなるでしょ、という映画。と同時に、社会の中で、タクシーの移動にアクセスできる階層とそうでない層、決して移動できないまま搾取される階層とのギャップが見えた映画でもあったね。そして、そこら中に命の危険があるというインド社会の恐ろしさも見せてくれた、なかなかの映画でしたね。これからインドに出稼ぎ移住するってのに不安でいっぱいになったわよゴゴゴゴゴゴゴゴゴ










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