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雲のとりかた #こんな学校あったらいいな

※ちょっとだけ未来のはなし。義務教育はオンラインで基本を習うようになって、そこから自分の希望や性格に合わせた授業を受ける。

失敗した。

「アズマ。42歳。塾で理科を教えている」

「…ユウです。12歳。来年中学生」

「キャウキャウッハッハッハッ( オルだよオルだよ!トイプードルのキラキラ女子っよろしくね!)」

ああ。本当に失敗した。

「今日は私アズマが教える役で、内容はユウ…が授業マッチングに投稿した

『雲のとりかた』


違うんだ、僕は「かぐや姫」を思い出して、てきとうに無理そうなお題を出しただけなんだ。理科なんてこれっぽっちも興味ない。

「キャンッヘッヘッ(よくわかんないだけど面白いそう!)」

っていうか何でここに犬!文ちょっと変だし この翻訳アプリてきとうに表示されてるんじゃないだろうな!?

「授業マッチングは三人一組で生徒と先生、アシスタントを交換しあう授業で、オル…は特別枠だから私とユウ…の授業のアシスタントだ、よろしく」

「鼻をならす(はーいヽ( ・∀・)ノ)」

…最近はペットにも教育をって言い出すヒトが増えて、訓練をパスしたペットなら受けられる授業がでてきた。専用のアプリでお互いに翻訳しあうんだ。まさか自分がその授業にあたるなんて。

「あの、アズマ…さん」
「アズマ、でいい。お互い呼び捨て、敬語なし。そういう取り決めだから」

「なんで大人なのに授業マッチングなんか受けたの?」
「…」
「それでは授業を始める」

無視かよ!これだから大人は!

「ペットボトルと線香とぬるま湯。この3つがあれば雲はつくれる」

…うん?つくる?

「ちょっと待ってよ。僕は【雲のとりかた】ってマッチングで出したんだよ?【つくる】じゃ話ちがうじゃん」

チャンスだ!マッチングがちがうから、で断る理由ができる!

アズマは僕のほうを見て、何を考えてるのかわからない顔と、自己紹介と変わらないテンションで言った。

「…君は雲をなんだとおもってる?」

「え?」

「雲というのは 空に登った水蒸気が気圧が下がるために冷えた上空でチリを中心にあつまり水のつぶになるという現象だ。
「現象」だから「とる」ことは出来ない。しかし「再現」することはできる。」

「…夢がないなあ」

「キャーンキャンッ(わたしの昨日の夢は空をお散歩したんだよっ)」

「その夢の話じゃないよ!オル」

「…夢がない、か」
アズマの顔がさっきより暗くなった気がした。何となくだけど。

「宇宙にいく、のは夢があるだろう?」

「う。うん、まあ、ある」

「そこの、オルは音楽に合わせてダンスをしたいんだそうだ。犬がダンスをするのは夢があるか?」

「そうだね、どっちかというとファンタジーだ」

雲をとる、もそうか。

「両方いまや現実のものだが、そのためにはユウのいう「夢のない」科学の積み重ねがあるんだ」

「原理をつきつめて、仕組みを解きあかし、人間のわざにする。私はそこに君のいう「夢」を感じるんだ」


「…」

「それはともかく、授業マッチングが終われば授業単位がとれるんだから、やってみてはどうだ?難しい実験ではない」

「…ニガテなんだ」

「ん?」

「僕は理科、というか実験がニガテなんだ。オンラインじゃない実験授業で、僕 先生の話がよく分からなくて、でも何人もいるから「分かりません」って話の途中で言えなくて。実験もうまくいかなかったけど、それでも先生は単位くれて。なんかうまくいえないけど」

「僕はそこに居ればいいだけで、僕のことは無視された気がしたんだ」

「キューン((T-T))」

「…そうか、しかし今日は3人しか居ない。分からないところは聞けばいい。仕組みを理解することは面白いと思う」

「うん。…やってみる」

「わふっわふっ(よく分かんないけどやってみよー♪でもおなかすいたー)」

まず、ペットボトルのなかにぬるま湯を100cc入れる。

「熱湯はペットボトルが溶ける。暖かい空気の再現なのだからぬるま湯で充分だ」

あっこぼした!

「多少なら問題ない」

次は線香に火をつける。
火は危ないからアズマやってよ。

「一人で全部やってみるんだ。」

ケチ。ググッと強く握ってみて…うぅチャッカマンのグリップかたいよー!
「…たぶんロックがかかっている」
あ、そっか!わ!思ったより火がいっぱい出た!あちっ

「あわてないで大丈夫だ。火の量を調整できるでっぱりがあるからそれを-に動かして、手を少し離していれば熱くない。火の先に線香を当てるようにする」

線香も端っこで持つようにして…あっ端っこすぎて落としちゃった!もう一回…できた!

「ペットボトルのなかに10秒くらい煙を入れてくれ」

水滴で線香の火が消えた!僕は不器用で こういうの全然うまく出来ないんだ。失敗しちゃう、やってよ、アズマ!

「始めにうまくいかないのは当たり前だ。実験というものに失敗はない。データを集めることのみだ。まず一人でやってみて出来れば次も出来る。君は今のデータを集め だいぶ出来るようになったはずだ。今日は3人しかいないんだ、何回でもやればいい」

うん…さっきよりすぐに線香に火をつけられた!次は水滴に線香の先がつかないように気をつけて奥まで入れる…10秒…いち、にい、…

「キャンキャンキャンキャンッ」

「きっかり10秒じゃなくてもいい」

煙を入れたらフタをして…

「キャンキャンキャンキャンキャンキャンキャンキャンッ」

さっきっからうっるさいなあ!オル!集中できないよ!これだから犬なんか!

「キャンッッキャンッ」

「ん?なに、火?」

アズマが翻訳アプリをのぞき込んで 顔色を変えた。僕の足元を慌てて踏みつける。

線香の匂いでわからなかったけれど さっき線香を落とした時ちょうど紙が落ちていて火が燃え移っていた。アズマが踏みつけたので火は消えコゲた紙が転がっている。床が すこし 黒い。僕のせいだ。

「すまない、大人の私が気をつけるべきだった。私の不注意だ」

アズマが僕に謝る。コガしたのは僕なのに。

「…ちがうよ、すぐ足元で燃えていたのに気づかなかった僕が悪いんだ。きょうはみんな対等なんだから、大人だから責任持つは、おかしいよ」

「そう、か、そうだな。ここにいるみんなで責任を持つべきだな。ありがとう、オル。助かったよ」

「うん、ありがとうオル。犬なんか って言ってゴメン」

「わうっわうっわうー(そうだよオルはすごいんだよー!ほめてほめて!)」

もう一回やり直しをして、何回かやるとさっきよりもスムーズに出来た。アズマは口は出すけど手は出さないで全部僕にやらせてくれた。時間がないからって代わりにやったりしない。

自分でやらないと分からないことって ある。

やらなくても分かったつもりにはなれるけど分かったほうが楽しい。また分からないことが出来てやりたいことが増えていく。

「再現」した雲は…雲?って感じだった。

ペットボトルに煙を入れてから、何回かペットボトルをへこませると気圧が下がったのとおんなじ状態になって中の気温が下がって雲と同じ現象が起こるらしい。へこませたのを戻すと気温が上がって透明に戻るんだ。

押すとペットボトルが白くなったり へこませたのを戻すと透明に戻ったりというのは不思議だったけど「雲」って感じじゃなかった。 

「えーコレ雲なの?白くなるだけなんだけど」

「さっきも言ったように 雲は水蒸気が空に登って冷えチリを中心に水のつぶになる現象なんだ。空に現れると形になることは確かに面白く 雲らしいといえるが、原理としてはじゅうぶん再現となっている。形については対流が関係してくる。興味があれば また調べてみるといい。原理を知るとさまざまな所に雲があることを発見できるよ」

「空以外にも雲っているの?」

「例えばみそ汁。みそ汁の中に白いモワモワしたものがただよっていることがある。ベナール対流という。秋ごろよく現れる うろこ雲もベナール対流だ」

そうか。場所とか大きさが違っても原理は一緒なんだ。

「『雲のとりかた』は教えてあげられなかったが、これで授業になっただろうか?」

「うん!アズマ先生ありがとう!次は僕が先生だね」

「ああ、よろしく頼むよ」

「きゃうきゃうきゃう(オルはー?オルは?オルは?)」

僕の受けた授業はこれでおしまい。アズマとオルの授業は またそれぞれのレポートで。オルはどうやってレポートを書くんだろう?


【参考】





つけヒゲに憧れているのでつけヒゲ資金に充てたいです。購入の暁には最高のつけヒゲ写真を撮る所存です。