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スピーディーな資金調達を実現するJ-KISSの活用例と注意点

先日当社が実施した「ベンチャーキャピタルとスタートアップ企業のオンライン相談マッチング」に、多くの反響、ご協力をいただき誠にありがとうございました。

新型コロナウイルス感染症拡大に伴う先行き不透明な状況を受け、急ぎ資金調達を検討されているスタートアップのCEOやCFOの方も多くいらっしゃることを、改めて実感致しました。

そこで今回は、スピーディーな資金調達を実現する手法のひとつである「J-KISS」について、スタートアップにおける活用例・注意点をみていきたいと思います。

近年ではVCからの情報提供も多く、Coral Capitalにより契約書や登記書類の雛型も公開されていることから、J-KISSの理解については高まってきている一方で、事業会社による活用例や注意点については、あまり公開されていないのが現状です。

この記事で、事業会社の視点からまとめることで、スタートアップ業界におけるJ-KISS活用に、わずかながらでも貢献できれば幸いです。

1.概要

J-KISSの雛型も公開されている、Coral Capital澤山さんは、下記のように特徴を記載しています。

J-KISSは日本版KISS: Keep It Simple Security、つまり簡単に早くシンプルに資金調達するための投資契約書です。シード段階ではシンプルに素早く資金調達を行い、素早くプロダクトマーケットフィットまでたどり着く。そしてシリーズAの時に初めて、優先株を使って複雑な条件交渉を行えば良い、というシリコンバレーで蓄積された経験を形にしたものです。

引用元:「J-KISS: 誰もが自由に使える、シード資金調達のための投資契約書」

なぜ資金調達が「シンプルに素早く」実現できるのかというと、下記の2点が要因として挙げられます。

・バリュエーションを次回の調達ラウンドで確定する設計
・契約書の雛型が公開されており、記載内容もシンプルであることから、契約書詳細に関する交渉が通常よりも少なく済む

ものすごく簡単にまとめれば、J-KISSとは「バリュエーションを先送りにして、資金調達ができる新株予約権」と言えるでしょう。

2.活用例

J-KISSは、シードやアーリーステージのスタートアップが活用する例が多くありますが、シリーズA以降のスタートアップにとっても、スピーディーに調達できる手法であることを活用し、様々な場面で利用することが可能です。

例えば、「あと〇か月先によいKPI・実績をみせることができる」という状況だが、当座の資金状況から資金調達を進める必要があるというタイミングも、しばしばあるかと思います。

そのようなタイミングでJ-KISSを活用することで、スタートアップにとってはバリュエーションの決定を先送りすることができ、投資家にとっては魅力的な企業にいち早く出資することができるというWin-Winの関係を作ることができるのです。

また、今回の新型コロナウイルスによる資本市場・ビジネス環境への影響が不透明なことから、バリュエーションをつけることがそもそも難しいという場合にも、J-KISSが活用できるのではないかと思います。

他にも、事業会社から出資を受けて資本業務提携をしたいが、事業会社側で説明可能なバリュエーションを正確に算定するのが難しいというケースにも活用することができそうです。

3.注意点

まず、発行要項の転換価格に関する条件について注意が必要です。スピーディーな調達手法の要因となる、バリュエーションの先送りですが、次の点に注意しなければそのメリットを享受できない可能性もあります。

J-KISSでは、転換時に次のいずれか低いバリュエーションで転換すると発行要項において定められています。

(X)次回ラウンドの【90】%
(Y)評価上限額【1億】(いわゆるバリュエーションキャップ)
※【】内は、交渉により決まります。
※わかりやすさを重視しているため、実際の雛型の文言とは異なります

この際に、(Y)を想定バリュエーションよりも低くしてしまうと、実際には3億のバリュエーションで次回ラウンドで調達となった場合でも、バリュエーション1億での転換となってしまい、先送りのメリットが軽減されることとなります。そのため、J-KISS投資契約書の交渉時にはバリュエーションキャップについて注意が必要です。

また、「主要投資家」の定義と権利についても注意が必要です。
「主要投資家」の定義は、雛型第1.1条(5)において下記の記載となっております。

「主要投資家」とは、本シリーズ新株予約権を有する者のうち、当該本シリーズ新株予約権について払い込むべき金額の全額(関係者が本シリーズ新株予約権の付与を受けている場合、当該関係者が本シリーズ新株予約権について払い込むべき金額の全額を加算するものとする。)が【5,000,000】円以上である者をいう。

ここで注意してみていただきたいのは、雛型では元々シードでの活用を想定しているため、500万円以上の出資者を「主要投資家」と定義しています。
そのため、一定規模以上のスタートアップが、雛形どおりの数字で契約を結んでしまうと、多数の投資家が「主要投資家」となってしまいます。

では、主要投資家の権利を見てみましょう。雛型5.2条(3)より

本会社は、本契約締結日以後に発行される本株式等に係る発行要項、本株式等の発行または付与を受けた者が締結する投資関連契約その他の書面において、主要な投資家またはこれに類する者に対して付与される権利(情報請求権、優先引受権を含むがこれらに限られない。)を本投資家に対して付与するものとする。

簡単に言えば、「次回ラウンドのリード投資家と同様の権利を付与する」ことが規定されています。

そのため、先ほど見たように、主要投資家を500万円以上としたまま多数の投資家と契約してしまった場合に、例えば次回ラウンドでリード投資家へ取締役選任権を付与した際には、当然にJ-KISSの主要投資家たちにも取締役選任権を付与しなければならない事態となってしまいます。

これは極端な例ですが、付与する権利に対して、出資額とのバランスが取れない可能性が大いにありえることが分かります。

主要投資家はいくらの出資額である者とするか、また、そもそも主要投資家に関する記載を残すかどうかといった検討が必要かもしれません。

雛型は交渉を少なくするためのものですが、絶対的なものではないので、雛形の内容については、すべてそのまま受け入れるだけでなく、場合によっては変更や削除をすることも一案です。スピードを持ちつつ、過度な負担にならないようにJ-KISS投資契約書の重要な点については、しっかり確認しておきましょう。

その他の注意点として、スピーディーな資金調達が可能であるものの、それは上記で見たような要因からであり、会社法で定められている株主総会、取締役会などの開催・決議や登記手続きは必要になったり、既存の投資家との投資契約や株主間契約によっては、事前の承認等が必要になる場合もあるため、必要に応じて弁護士や司法書士の専門家と相談しながら進めていくと良いでしょう。

4.まとめ

J-KISSの特徴、事業会社視点の活用例と注意点を見てきましたがいかがでしたか?

資本市場の混乱がスタートアップにも大きく影響しています。しかし、今後も継続してスタートアップが世の中を変えていくこと、その歩みを止まらないようにすることは非常に重要であり、この記事がそんな状況を支える一助になりましたら幸いです。

※投稿内容は私個人の意見であり、所属企業・部門の見解を代表するものではありません。
※J-KISSを実際にご利用する際には事前に諸条件をご自身と顧問弁護士等により確認することをお勧めします。本記事の執筆者は、J-KISSの利用によるいかなる結果についても一切の責任を負いかねます。

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マネーフォワードシンカでファイナンシャルアドバイザリーを担当(2019.09~)/甘党で2児のパパ

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