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企業人事小説:部下を持つ④

「やります。ただ、チームメンバーは誰をお考えでしょうか?」
メンバーの東口が異動希望を出していることを知ってはいたが、あえて個人名は出さずに佐川の出方をうかがうような聞き方をした。
「誰か加えたいメンバーはいる?」
チームを再構築する場合、リーダー自らメンバーを選定するのがセオリーだ。そのことを知ってか知らずか、佐川はメンバー選定を山田に任せるような質問を投げかけてきた。
「そうですね、現在のメンバーは東口さんと派遣の扇谷さんだけですよね。」
「いや、扇谷さんは辞めることになった。」
初耳だ。新卒採用といえば、応募者管理などの様々な事務が発生するため事務担当者は欠かせない。しかも扇谷は人事部を超えて評判が良く、他部門社員がわざわざ用事を作って彼女に会いに来るほどの逸材だ。そんな扇谷である、学生からの受けも良く、立川産業の問題山積な新卒採用チームにあって、影の立役者と言われてきた。しかし残念なことに3月末をもって派遣契約を更新しないという。
「なぜですか?岡部さんが原因ですよね?岡部さんが休職に入っているのは、扇谷さんも知っていますよね?」
「もちろん。でも岡部がいつまた帰ってくるかわからないから、もう更新するのは勘弁してほしいと、派遣会社経由で言われたよ」
「派遣会社経由で、ですか?」
「そう」
佐川は、目の前で働いているのに派遣会社経由で気持ちを伝えてきた扇谷の常識のなさをあきれているようだった。しかし山田は、派遣会社経由でしか気持ちを確認できない佐川や、ここまで酷い状況自体にあきれた。

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