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すらすら読める人事小説:部下を持つ⑥

「先週飲んだんだよ。元気なかったけどな。一度俺から話してみようか?」
佐川の発言からは越智と飲んだ目的はわからなかったが、越智の退職を事前に防ぐための手立てといったところだろう。
そのころ立川産業では、人事部社員の退職が続いていたのだ。佐川は社長からそのことを指摘されていた。これ以上の退職者を出すわけにはいかないと感じた佐川は、人が変わったように社員との距離を縮め始めていた。いくらリスク管理に長けた佐川でも、全ての社員に目を光らせておくことはできない。そこで、山田にも責任の一端を担がせようということで、山田の担当領域を拡げにかかったのだ。
社長から了承を得ていたのは、岡部の後釜を山田にするところまでだった。他の社員を異動させることは社長の了承を得ていない。ただ、辞めそうな社員を引き留める口実ならば、社長の了承を『あとから』でも取りやすいと考えた佐川にとって、山田からの提案は好都合だった。珍しく自分が動くと言ってきた。
後日、佐川から、越智が新卒採用チームに異動する意思があることが伝えられた。
~突然の事例~完

次号は、私の自己紹介を挟んで、「貧弱な船出」編へと続きます。
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