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企業人事小説:部下を持つ③

「いや~、参ったよ、岡部には。あれだけ時間をかけて育ててきたしフォローもしたのになぁ。最後は俺のせいで体調が悪くなった、その責任を取ってほしいなんて言うんだから」
「山田さんも知っていると思うけど、岡部にはほとほと手を焼いたんだよ。家族ぐるみで世話をしたことだってあったんだから。」
佐川の口調は次第にヒートアップしていく。やがて岡部のことも呼び捨てだ。
「それがついには俺を刺してきやがったんだから、本当に参るよなぁ。というわけで大変なことは重々承知しているんだけど、新卒採用、やってもらえないかな」
時期は既に3月に突入していた。3月といえば、既に世間では採用活動真っ只中だ。早い企業であればとっくに内定を出しているか、採用活動自体を終わらせている企業があってもおかしくない。新卒採用を取り巻く市場はそれだけ活況なのだ。
しかも立川産業では、1月に開始した採用活動を、学生や大学に詳しく説明もしないまま休止していた。岡部の休職騒ぎで、佐川も社員もそれどころではなかったというのがその理由だ。そのため、エントリーした学生や採用説明会に参加した学生の一部は、急に連絡が取れなくなったことへの不安から、WEBの掲示板へ辛辣な書き込みをした。一部の大学からは、学生の不安を取りまとめて抗議の連絡が入っていた。
山田は、人事部内のミーティングや若手社員からの進言により、そのよろしくない状況を把握していたものの、自分の身に降りかかってきたことで、初めてWEBの掲示板を確認し、事の重大さを認識していた。

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