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Books, Life, Diversity #4

ちょうど、次の研究テーマを、あるいはこれからの生き方をどうしようか模索しているときだったので、あちこちの書店からだいぶ本を購入しています。そこから何が生まれてくるのかはまだまったく分かりませんが、それでも、紙に書かれた無数の声に耳を傾けそれに応答するということを通して、ゆっくりと、自分の書くべき言葉が脳のいちばん深いところで芽吹いてきます。その予兆を感じ取れるまでは、自分が研究者かどうか、まったく確信を持てませんが……。というわけで第四回。

「新刊本」#4

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東浩紀『新対話篇』ゲンロン、2020年

ゲンロンカフェを続けたい! 期間限定:コロナ危機突破の応援カンパ」商品として届くものです(私はきょう届きました)。対話篇ということで、東氏と、表紙にも記載されている様ざまな方との対談が掲載されています。対談相手のなかには私の立場とはまったく異なる人、あるいは倫理的/美的な感覚上許容できない人も含まれています。けれどもそれはそれとして、ゲンロンは極めて貴重な独立系の出版拠点ですので、ほんとうに残ってほしい。今回私は書籍を送っていただくタイプのカンパを選択しましたが、その他にも様ざまな種類が用意されていますので、興味がある方はぜひ上記リンク先を確認してみたください。

「表紙の美しい本」#4

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ジグムント・バウマン、デイヴィッド・ライアン『私たちが、すすんで監視し、監視される、この世界について―リキッド・サーベイランスをめぐる7章』伊藤茂訳、青土社、2013年

シンプルに必要な情報のみが記されている表紙ですが、このタイプではもっとも気に入っています。恥ずかしながらタイポグラフィという言葉をごく最近知ったのですが、その重要性が理解できます。先に紹介したランシエールやリンギスのように写真や絵画を配置したデザインも好きですが、こういった文字だけのものも美しいですよね。配色も配置もフォントもすべて含め、この本が何を訴えたいのかが、この表紙を一瞥しただけでストレートに伝わります。
あと、デザインとは直接関係ありませんが、リンギスの『汝の敵を愛せ』同様、邦題のセンスも素晴らしい。ちなみに『汝の敵を愛せ』の原著タイトルは"Dangerous Emotions"、本書の原著タイトルは"Liquid Surveillance ; A Conversation"です。

「読んでほしい本」#4

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ジャン=リュック・ナンシー『フクシマの後で―破局・技術・民主主義』渡名喜庸哲訳、以文社、2012年

あくまで私にとってはですが、福島第一原子力発電所事故以降に書かれた、あの事故を巡る、あるいはそれを通して語られる思想の書として、もっとも優れた一冊だと思っています。当時の私は、周囲にいる人文学の研究者がわれわらとあの事故に群がり、いまこそ人文学の復権のときだなどと――あたかもあの事故を消費するかのように――騒いでいたのを、とても苦々しく眺めていました(無論、優れた研究もたくさんありましたが)。それでもナンシーのこの書を読んで、確かに人文学には、というよりも思想には、言葉には、力があるのだということを再確認できました。そういった意味では、私にとってはある種の救いであったと思います。これはほんとうに、もっと読まれてほしい本です。表紙もまた美しいですね。

いたるところから知恵ある叫びが発せられる。「だが止まらなければならないのではないか! どこまで行こうというのだ?」 というのも、実際、いたるところで芽生えてきているのは、遺伝子操作の無際限化であれ金融市場のそれであれ、接合の無際限化であれ貧困のそれであれ、社会的あるいは技術的な病理の無際限化であれ、無際限化だからだ。そもそもそれ自体として限界を知らないものに対して限界を設定するというのは問題となりえない。あるいは、この無際限化は自己破壊的なものなのか――構築がその果てまで行きつき、そこで瓦解するのか――、あるいは、われわれが、集積を通じて、「意味」をどのように認めるべきかを見いだすことになるのか。目的/終わりも手段もなく、集め合わせも解体もなく、上も下もなく、東も西もないところで、しかしすべてがともにあるところで」(p.112)

真に優れた思想は、どこかの時点で預言的なものになっていきます。人間は、技術はこの先どこまで突き進んでいくのでしょうか。単純な合理や理知を超え、それでも言葉だけを頼りにその混沌の先に目を向けること。困難ですが、そこにこそ思想本来の役割があるのだと思います。

そんなこんなで、また次回。

この一連の記事では、出版支援として以下のプロジェクト/情報へのリンクを毎回貼らせていただきます(「ゲンロンカフェを続けたい」を追記しました。また、「ブックストア・エイド(Bookstore AID)基金」についてはクラウドファウンディングのサイトに切り替えました。)。


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