ブラシレスモータのこと(2)

地方の製造部門から戻り、開発部門に配属され、出力数十ワットくらいの小型ブラシレスモータを担います。ちょうど製品化に向けて開発途中の製品があり、その評価が最初の1年の主な仕事でした。

様々な製品、多くがそうだと思うのですが世の中に製品として出すまでに本当に様々な試験をします。私が担当したブラシレスモータの場合、基本的な特性としてはT-N-I特性というものが要求をクリアしているかがまず大事です。モータの特性の多くをこれで把握することができます。回転数、負荷トルク、電流(電圧FIX)がわかれば入力、出力がわかり、効率もわかります。

その他、使用される環境の温度上限、下限での特性、寿命試験(耐久試験)、落下させる試験、環境温度を高い温度、低い温度を交互に変える熱衝撃試験なんてのもありました。回路基板からチップ抵抗などの素子が欠落したことを想定して、そんなときの動作を一つひとつ確認したなんてこともありました。

様々な評価を実践しながら、並行してブラシレスモータについて勉強をはじめました。会社の蔵書は熟読とは言わないまでもほぼ目を通し、更にわからないことを上司や先輩にかなり質問して回っていました。

モータの本って本当に沢山ありましたが、正直開発、設計に役立つ本ってびっくりするほどなかったです。もうふざけんなってくらいに実際の設計に繋げて考えられる情報が載っていないのです。

私は工学部機械系の学科を卒業しました。4年の研究室ではプレス機械で板金の絞り加工をしていて、丸く切り抜いた冷間圧延鋼板を金型にセットして、ざっくり言うと灰皿みたいな形状を作る訳です。そのときの条件と灰皿の形状との相関を様々に調査する、そんなことをやっていました。

学科の中ではモータに触れるなんてことはほとんどなかったです。モータについては会社に入った時点で全くのゼロだったと言ってもよいかもしれません。大学時代に関連があるかと感じられる科目として、せいぜい自動制御とか、力学くらいなものだと思います。

モータを知りたいと思うと、本当にびっくりするほど、頼りになる文献がなかったのですよ…

じゃあ当時の先輩達はどうしていたかというと、人によってそれぞれ違うのですが、それなりにバイブル的に利用してる本があって、私の先輩はよく「制御用モータ技術活用マニュアル (モータエレクトロニクスシリーズ) 単行本 – 1994/7 東芝・小形モータ研究会 (著)」を読んでいました。今気づいたのですが私が入社する少し前に出版されていて、決してすごく古い情報という訳ではなかったですが、磁気回路部分の設計はパーミアンス法を使っていて、私には納得感の薄いものでした。(ただ、後日、日本総研がどこだったかと共同でモータ特性をざっくりシュミレーションするツールをJMAGとセット販売し、そこに使われたのはパーミアンス法でした。あながち頼りにならない方法ではなかったのかもしれません。)

そんなこんなで最初の数年はモータ技術に関しては結構悩み深い時間を過ごしました。特性を自分で納得できるような形でシュミレーションすることは一旦保留し、ブラシレスモータのひとつの特徴とも言える、磁極を検出するホール素子をどこに配置するか?というのをちゃんと理解することに費やしていました。

ブラシレスモータの特性について、納得感のある書籍をはじめて目にしたのは、日本電産の永守重信会長と見城尚志博士による共著「新・ブラシレスモータ」が初めてで、私がモータの仕事をやめるまでそれを超える書籍は出ませんでした。2000年6月1日初版です。

私もそれまで独学である程度は進めていたものの、どうにも苦戦していたのが、この本にどれだけ助けられたかと今でも感謝しかありません。

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