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2018シーズンの鹿島アントラーズをフレームワークで分析する


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皆さんは今年出版されたこの書籍をご存じだろうか?セリエAのクラブで分析担当を務めた実績を持つレナード・バルディ氏の書籍であり、個人的には今年出版されたサッカー本の中でも一番のおすすめだ。
この本の中にバルディ氏が対戦相手を分析する時に使った方法として「フレームワーク」というものがある。一つのチームを「攻撃」「守備」「ポジティブトランジション」「ネガティブトランジション」「セットプレー」の5つの観点からそれぞれどのようなスタイルなのか、どこに武器があってどこに課題があるのか、分析していくというものである。

私の今年最後のnoteはこのフレームワークを使って2018シーズンの鹿島アントラーズを分析するものとしたい。対象試合は特に絞らず、今季全体を通したものとしている。
また、すでに他チームのブロガーさんですでにこれを行っている記事があるので、こちらで紹介させていただきたい。

チームの基本布陣

基本布陣は4-4-2で固定。2試合だけ4-2-3-1で戦った試合や、試合途中にシステムを変更した試合もあったが、ほぼこの布陣で固定されていた。
メンバーは主にスタメンで使われていた選手を抜き出したが、今季は試合ごとにスタメンを入れ替えることが多かったため、上記のメンバーそのままで戦った試合の方が少ないくらいである。参考程度としてほしい。

守備

プレッシング

本来、鹿島が目指す守備の志向は「超攻撃的プレッシング」である。これは、石井前監督就任以来、大岩監督も述べていた「前線からのアグレッシブな守備」に当てはまる。
プレスを相手のセンターバックやゴールキーパーにまでかけて、相手ゴールに近いファイナルサード、悪くてもミドルサードでボールを回収して、すぐさま攻撃に転じるのが目的だ。チームとしてのモデルケースとなった試合は2015年のナビスコカップ決勝である。

だが、この試合のような試合が再現できたことは今季一度もなかった。理由はいくつかある。まず、試合数の多さである。今季の鹿島はJクラブ最多の60試合を戦い、その半分以上が中2~4日で迎える過密日程の試合だった。運動量の低下や選手の入れ替えにより、プレッシングの質が保てないことは仕方のないこととも言えるだろう。

それでも、超攻撃的プレッシングが失敗に終わったのは次の2つの理由の方が大きいだろう。1つ目は「相手に合わせて形を変えられないこと」である。
鹿島の守備は基本的に4-4-2で固定されている。1列目の守備を務めるのはFWの2枚だ。これに対して、相手がDFラインのでのビルドアップを3枚にしたり、そこにGKを組み込んできたとする。必然的に数的不利になってしまう。この場合、鹿島が採った解決方法は「FW2枚の頑張りで数的不利をどうにかする」「中盤の選手はサポートにいくかいかないか、その時々の自分の判断で決めていい」というものだった。
こうすると、どうなるか。数的不利に陥ったFWの選手たちはそれを解決すべく、運動量を上げざるを得なくなる。それでも人間よりボールの方が速い、というのは世の原理だ。こうして、FW2枚は勝ち目のない戦いに放り込まれていったのである。ただ、中盤の選手のサポートが望める場合もある。しかし、今度は別の問題が生じてくる。先程も触れたが中盤の選手たちは「自分の判断で」サポートにいくのだ。サポートにいった選手が空けたスペースを誰が埋めるのか。そこは後ろに残った選手たちの「自分の判断」に任されるのである。つまり、個々の判断が遅れたり、誤ると中盤にはぽっかりと広大なスペースが生まれてしまう訳である。
これが2つめの理由に繋がってくる。2つ目の理由は「1列目と2列目の守備の連係が悪い」である。サポートがあるか分からないのに後ろのスペースを空けてまで、プレスに参加するのは中々勇気のいることだ。必然的にプレスには参加しにくくなる。こうなると、「プレスにいく」1列目と「プレスにいかない」2列目の間にはスペースが生まれてしまう。相手にとっては追ってくる1列目さえ剥がしてしまえば、その後は自由にボールを扱う空間と時間を得ることが出来るのだ。こうして、鹿島の超攻撃的プレッシングは確実に破綻していったのである。

組織的守備

こうしたこともあって、チームは中断期間中のキャンプを境に、超攻撃的プレッシングを諦め、守備的プレッシング、組織的守備にシフトしていく。相手がボールを持ったら、基本的には4-4-2でブロックを作って対応する。ボール奪取位置が下がり、守備の時間が長くなってもだ。実際、それはデータとして表れている。ボール支配率、敵陣PA内プレー数、敵陣でのボール奪取数、オフサイド奪取数といった数値が後期の方が減少していることが見てお分かりいただけるだろう。

鹿島の組織的守備は「ゾーンの中でのマンツーマン」だ。基本的に1人1人マーカーを決めてその選手に対応していく。個々の選手たちが代表クラスのレベルの高さのため、基本的に1対1で負けることはあまりないということを考えれば、対応策としては悪くないだろう。
ただ、弱点も存在した。人にいく意識が強いため、相手がポジションを動かしてきた時、ゾーンの隙間にあるスペースに相手が飛び込んでボールを受けた時、マーカーが動かされるだけでなく、マーカー以外の選手の対応が遅れてしまう場面が目立ったのだ。ポジショナルプレーを導入した横浜FMにはルヴァンカップでこの弱点を突かれ、好き放題やられている。特に、センターバックを動かされた時はピンチになることが多かった。対人能力が高く、プレー範囲も広い、空中戦も強い選手がセンターバックを務める鹿島は、このポジションへの守備の依存度が高い。相手チームにとっては、CBをマーカーが引っ張り出し、その空けたスペースを別の選手がスルーパスやクロスで狙うのが鹿島攻略の一つのポイントとなっていた。

ポジティブトランジション

ショートトランジション

続いては、ポジティブトランジションを見ていく。ポジティブトランジションは相手からボールを奪った時の切り替え、守備から攻撃に切り替わる場面だ。
中でもショートトランジションは相手陣内でボールを奪った時のことだ。先述の通り、撤退守備を導入してからの鹿島はそもそもこの機会自体が減ってしまっていた。それでも、ボールを奪った際は鈴木の裏への抜け出しや、サイドの安部や土居、安西らの突破を軸とした前線の2、3人のコンビネーションでチャンスを作り出していた。以下にショートトランジションで生まれたゴールを一つ載せておく。正確には自陣でのボール奪取からのゴールなのだが、高い位置ということもあって選ばせてもらった。

ロング(ミドル)トランジション

続いては、自陣でボールを奪った際の守備から攻撃への切り替えだ。この場合、チームのスタイルによって大きく2つの選択肢がある。手数を掛けずに相手ゴールへと迫るか、一旦ボールを落ち着かせ、ポゼッションで主導権を握るか、である。鹿島の場合は基本的に前者だ。後者の選択肢を選ぶのはリードしている試合終盤がほとんどで、長らくボールを奪ったら相手の守備が整う前にカウンターを完結させてしまうのが鹿島のスタイルであり、この切り替えのスピードが鹿島の一番の武器と言える部分だ。以下に、今季ロングトランジションから生まれたゴールを一つ置いておく。

攻撃

ビルドアップ

さて、攻撃だ。まずはビルドアップの観点から見ていく。この場合の「ビルドアップ」とは、「相手の1列目の守備をいかにして突破するか」ということであり、パスを繋いで突破する「ポゼッションによるビルドアップ」とロングボールを中心とした「ダイレクトなビルドアップ」の2つに大きく分けられる。
結論から言うと。鹿島はこの2つを使い分けている。基本的には「ポゼッションによるビルドアップ」を軸としながらも、相手のプレスなどにより攻撃が詰まったら鈴木やセルジーニョ、遠藤をビルドアップの出口として彼らにロングボールを送る「ダイレクトなビルドアップ」を無理せず使うことがチームの方針となっているのだ。


元々、このチームは「ポゼッションによるビルドアップ」の仕組みが出来ておらず、繋ぎに長けたDFやGKが少ないこともあり、ここが試合の主導権を握れない一つの要因となっていた。そのため、今季はこの部分の改善に開幕前から着手していた。仕組みとしては、ボランチのどちらかもしくは右サイドバック(西または内田)が降りて数的優位を形成してボールを前進させるセンターバックだけで数的優位が作れる場合はセンターバックがボールを運ぶ(これが一番出来ていたのは犬飼)、サイドバックは大外に張り、中央とサイドの間のハーフスペースにはサイドハーフの選手が使う、といったようにシーズンを経ることに徐々に固まっていった。また、近年はGKをビルドアップに組み込むチームも増えてきたが、鹿島のGKはあくまで「逃げ道の一つ」であり、無理せずに前線に蹴っ飛ばしてもOKというスタンスである。

ポジショナルな攻撃

ビルドアップで相手の1列目を突破すると、次はいかにしてファイナルサードに迫るかという部分になってくる。これがポジショナルな攻撃である。
中断までの鹿島はこの部分を個人に依存していることが多かった。基本的な軸となっていたのは、サイドに流れてきた金崎や鈴木といった前線の選手にボールを蹴り込んで、彼らのキープ力を活かして起点を作り、相手のDFラインを押し下げることで、ファイナルサードに近づくというものだった。しかし、これは金崎や鈴木がいる前提で設計されたものであり、彼らのパフォーマンスやいるいないで攻撃の完成度が大きく左右されてしまった。また、彼らに対するサポートもチームとして設計されておらず、前述の守備の負担もあったため、彼らだけ仕事量が異様に多くなっていた。

この部分を改善したのが中断期間中に就任した黒崎コーチである。彼は中断期間中の静岡キャンプでチームにポジショナルプレーを浸透させ、これを攻撃の軸とした。詳細は以下の記事に書いたのでそちらを見て欲しいし、実際にはチームとしてのボール支配率やボール奪取位置が下がったこともあり、中々ポジショナルな攻撃を発揮する場面が訪れず、ロングトランジションによる攻撃が中心となってしまったが、チームに一つのベースが出来たのは進歩と言っていいだろう。

ネガティブトランジション

ネガティブトランジションはボールを奪われた際、攻撃から守備に切り替わる場面だ。今季の鹿島で一番問題があったのはこの部分だ。
ネガティブトランジションの際に与えられる選択肢は大きく分けて2つだ。1つはプレスですぐさまボールを奪い返しに行く、もう1つは撤退して守備陣形を作るだ。

鹿島最大の武器がポジティブトランジションの切り替えの速さであること、ポジショナルプレーが攻撃だけでなく守備にも活かされるプレーであること(上記のポジショナルプレーのnoteの記事、またそこの記事で貼ったリンク先に書かれている)、レオ・シルバや永木といったボール奪取力に定評のある選手が揃っていることを考えれば、今の鹿島にはプレスでのボールの即時奪回が適していると思うのだが、それが見られるシーンはあまりにも少なかった。では、撤退守備になっていたのか。それも否だ。今季の鹿島はボールを奪われた際に止まっている時間、何もせずに切り替えが遅れるシーンがあまりにも多かったのである。

この原因の一つとして監督をはじめとして、コーチ陣がこの部分を徹底できなかったのが大きいように私には思える。それを思わせるような練習が静岡キャンプの練習であったため、紹介する。あくまで練習の一部分であり、本当のところは神のみぞ知るということはあらかじめ断っておきたい。

ハーフコートをさらに小さくしたピッチに、攻撃陣の選手(鈴木や土居ら)が3人、守備陣の選手が2人(犬飼や西ら)入り、それぞれにGKがつく。攻撃側がボールを持ってスタートするが、ピッチが狭い=ゴールまで近いのに加え、数的優位なこともあり、速攻でゴールを狙うことが意識付けされる。

攻撃陣がシュートやゴールという形で攻撃が終わると、守備陣が1人増え3対3の形で、今度は守備陣が攻撃に移る。ここの守備陣への攻撃への切り替えを重要視する声がピッチ内では多く聞かれ、形としては完全にカウンターとなっていた。

一見、有意義な練習に思えるし、私も大部分ではそう思っている。ただ、守備側に回った際の攻撃陣の振る舞い方に、2つの疑問が生じたのである。
1つに、サッカーの試合中に攻撃陣の選手のみで相手のカウンターを受けるシーンは存在するのだろうかということである。セットプレーの後なら可能性はあるかもしれないが、普通のチームは守備力に長けた選手を必ずカウンター対策として残しておくだろう。
さらに、2つ目の疑問が発生する。この時の攻撃陣の選手たちは相手の攻撃を遅らせるべく、撤退守備となっていたし、コーチ陣からもそれを注意されることはなかったのである。たしかに自陣ゴールから近く、安易に奪いにいけば、リスキーなプレーとなるだろう。ただ、先程も述べたように、そもそも攻撃陣の選手だけで相手のカウンターを受ける機会は実際の試合ではほとんどないのである。むしろ、守備陣の選手たちにカウンターが意識付けられ、GKへのバックパスという選択肢が消えているこのシーン、数的同数の攻撃陣はボールを奪い返す絶好のチャンスではないだろうか。これこそ、ネガティブトランジションにおける即時奪回のシーンを再現できるのではないだろうか。実際の意図は分からないと重ねて言っておきたいが、私には大きな疑問が残る練習シーンであった。

セットプレー

ゴールキック

最後にセットプレーだ。まずは、ゴールキック。鹿島の場合、すぐ近くにいる味方につけることもあるが、基本的にはFWの鈴木やセルジーニョ目がけてのロングボールが主体となる。そこで競り勝てればベストだが、ここでの目的はあくまでボールを前進させ、自陣でのリスクを軽減することに重きが置かれているようだ。

スローイン

クイックの場合を除いて、基本的にサイドバックが投げる。同サイドにいるボランチ、サイドハーフ、そしてFWが受け役だ。自陣ではリスク軽減の意味合いもあって、FWをポスト役としたロングスローが使われる。一方、相手陣内では受け役にワンタッチで落とさせて、そこからダイレクトな繋ぎで局面を打開しようとするシーンが多い。手詰まりになった際は、キープ力もあるFWに受け役を任せる場面が多くなる。ロングスローはあまり使わない。

コーナーキック

守備時はマンツーマンで守り、ニアにFWの選手がストーン役として入る。マンツーマンは空中戦の強い順にそれぞれマーカーが指名され、選手交代に対応してマーカーが入れ替わる場面も多い。

攻撃時は左サイドからはレオ・シルバや永木といった右利き、右サイドからは遠藤やセルジーニョといった左利きの選手がゴールに直接向かうボールを蹴ることが多い。ショートコーナーはあまり使わず、ニア、中央、ファーに飛び込む選手のどこかにシンプルに合わせる形が主体だ。合わせ役となるのは、鈴木やセルジーニョに加え、昌子やチョン・スンヒョン、犬飼といったセンターバック、また空中戦に強い山本や西のサイドバック陣だ。サイドバックに合わせ役になれる選手がいることもあって、セットプレーからのゴールも多く、チームにとっては大きな武器となっている。

フリーキック

守備時は自陣に近い場合はマンツーマンだが、遠い場合はゾーンを導入することもある。一番ニアにFWの選手が入り、中央をセンターバックが軸となって固めている。

攻撃時は直接狙う際は遠藤やレオ・シルバ、永木といったプレースキッカーがシンプルに直接狙う場面が多いが、成功率は低いと言わざるを得ない。今季も、壁を越して突き刺さるようなゴールはなかった。合わせる場合はコーナーキックと同じような形になるが、合わせ役の選手が多いことを活かして相手陣内に入ったあたりからDFを上げることも多い。また、クイックリスタートで相手を揺さぶることはチーム全体で共有されており、スキがあればすぐさまプレーを始めて、ゴールに迫っていく。

いかがだっただろうか。今季の鹿島アントラーズを振り返る際に、一つでも参考になれば幸いである。全選手レビューも書いているので、そちらも是非。

では、よいお年を。来年、来季もよろしくお願いいたします。

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