見出し画像

【合理性の末】明治安田生命J1 第27節 鹿島アントラーズ-川崎フロンターレ レビュー

戦前

前節は横浜F・マリノス相手に2点のリードを許しながらも、そこから3得点を挙げて逆転勝ちした鹿島アントラーズ。そこから間隔が空き、今節は中10日で迎えるホームゲームだ。

鹿島が迎え撃つのは首位川崎フロンターレ。今季はここまで26試合で70得点という圧倒的な得点力、リーグ最少失点の守備力をベースにトップを独走している。しかし、前節はホームで北海道コンサドーレ札幌に0-2で敗れ、今季2敗目を喫してしまった。今節は鹿島と同じく、中10日で迎える。

なお、両者はリーグ戦再開初戦の第2節とルヴァンカップのグループステージでそれぞれ対戦。鹿島はどちらも相手に先制を許して加点される厳しい展開となり、リーグ戦では1-2、ルヴァンカップでは2-3で敗れている。

今季対戦時のレビュー

スタメン

まず、試合を前に鹿島に緊急事態が発生していた。永戸勝也が新型コロナウイルス感染症の陽性判定を受け、また杉岡大暉、荒木遼太郎、町田浩樹、関川郁万、山田大樹、常本佳吾も濃厚接触者と判断され、今節は欠場。試合開催にはこぎつけたが、ケガで離脱している和泉竜司、白崎凌兵と合わせて鹿島は9選手を欠き、今節戦うことになっていた。

画像1

メンバーの入れ替えを余儀なくされた鹿島は前節から4人変更。離脱者の出たセンターバックには古巣対戦となる奈良竜樹、左サイドバックには山本脩斗が起用された。また、ボランチには三竿健斗、2列目には出場停止明けのファン・アラーノが復帰している。

川崎Fは前節から4人変更。左サイドバックに登里享平、アンカーに田中碧、インサイドに今季限りでの現役引退を表明している中村憲剛を起用。左ウイングにはルーキー三笘薫が入り、ベンチには大島僚太と長谷川竜也がケガから復帰している。

中央を消す鹿島の守備

画像2

鹿島の守備の狙いは立ち上がりからハッキリしていた。それはとにかく中央から攻撃を許さず、サイドに限定させること。そのため、いつもは前線が2トップの関係になることが多いのだが、この日は1トップの上田綺世、トップ下の土居聖真と役割分担がハッキリしていた。

土居の役目はアンカーの田中にボールを渡らせないこと。そのため、鹿島は川崎Fのセンターバックが上田に対して数的優位を形成するのは許容して、土居に田中を見させて彼へのパスコースを消し、サイドバックへのパスに選択肢を限定させようとしていたのだ。

鹿島としては今節は高い位置でボールを奪うことよりも、失点しないことに比重を置いた守り方を選択していたのだと思われる。サイドからならボールを運ばれても直接失点に繋がる可能性は低くなるし、クロスを上げられても中央ではね返せれば問題ない、という考えに至ったのは、直前でメンバーを入れ替えざるを得なかったこと、過去川崎F相手に先制点を許して苦しい試合展開を強いられていたことを考慮すれば、妥当な判断と言えるはずだ。

「降りる」動きで解決する川崎

選択肢を削ってこようとしてくる鹿島に対して、川崎Fが活用したのは降りる動き。アンカーの田中だけでなく、インサイドの中村や脇坂泰斗もポジションを下げて、ボールを引き出すことで川崎Fは自らの攻撃における選択肢を増やそうとしていた。

ポジションを降りるということは、鹿島の選手たちに付いていくのかいかないのかという迷いを生むことになる。行けばそのままパスコースを消すことが出来るが後ろの方は数的同数を受け入れなくてはならなくなる、行かなければ相手の組み立てにおける数的優位を受け入れなくてはならなくなる。そうした迷いを利用することで、川崎Fはより確実にボールをゴールに運ぶ手段を手に入れていた。

もっとも、川崎Fはサイドの崩しにおいても優秀だった。崩しの起点となるのはサイドバック、インサイド、ウイングの3人。この3人はポジションを入れ替えながらも、常に三角形を作るように意識した位置取りを保ち、人に強い鹿島の守備を逆手に取るように、付いてきたところを剥がして前に運ぶするという流れが連続されていた。

鹿島が速攻を選択しなかった理由

川崎Fのペースで試合が進む中、得点が入ったのは18分のことだった。川崎Fはファン・アラーノの横パスをインターセプトすると、そこからショートカウンターが発動。最後は数的優位の状況と三笘のフリーランを活かした脇坂がそのまま運んで、シュートを沈め今季3度目の対戦でも先制したのは川崎Fだった。

この試合、鹿島がボール保持した時はそのまま少ない手数で相手ゴールを狙ってカウンターを仕掛けるというよりも、ポゼッションを優先させることが多かった。そうした姿勢が結果として失点に繋がるパスミスを引き起こしてしまったのは事実だが、鹿島としてもその選択をしたのには理由がある。

一番大きな理由は自らポゼッションする機会を作り出さないと、自分たちのペースに引き込む術を今節の鹿島はそれ以外に持っていなかったということだろう。守備では基本的に撤退守備を選択してゴール前ではね返せればOKという守り方をしていたので、能動的にボールを奪う術はあまりない。かといって前節の横浜F・マリノス戦の前半のようなカウンター合戦に持ち込むことも出来たはずだが(エヴェラウドと上田のパワーを使えば有効的な手段ではあった)、おそらくそれでこちらが優位に立てるという保証がなかったのと、必然的に体力の消耗が激しくなる展開はスクランブルでメンバー構成している鹿島にとって避けたいものだったという理由が大きく今節の選択に影響したように思っている。

繰り返すようだが、今節の鹿島は攻撃のことだけ考えれば早い段階でエヴェラウドと上田を使って彼らのパワーをぶつけた方が得点を奪う可能性は上がったはずだ。だが、そうしなかったのは自分たちのペースを確実なものにして、失点のリスクを減らし点差を広げられて試合を決定付けられないようにしたかった。そうした思惑があったと考えられる。

鹿島のシステム変更の狙い

先制後、川崎Fが重心を下げたこともあって、鹿島はペースを握り出す。前半の半ばごろからはゴール前を固める川崎Fを鹿島がいかにして崩していくか、という構図が明確になっていった。

後半開始時~

画像3

鹿島が攻め込むものの得点が奪えず1点ビハインドで折り返したハーフタイムに、鹿島ベンチは動いてきた。アラーノに代えて名古新太郎を投入。システムも3ボランチのような形に変えてきたのだ。

この選手交代の最大の目的はマンマークの相手をハッキリさせて、川崎Fの中央突破を維持でも阻止することだろう。おそらく、鹿島側としては前半の半ばすぎから受け身になっていた川崎Fが後半立ち上がりからギアを上げて追加点を狙ってくることを予想していたはずだ。事実、ルヴァンカップの時はそれで2失点して3点差をつけられてしまっている。同じ轍は踏まないと期した鹿島は、川崎Fのセンターバックに2トップを、アンカーの田中に土居をぶつけることを明確化して、川崎Fの中央を消しにかかった。

ただ、あまりに中央を明確に消しに行ったため、川崎Fのサイドはかなりフリーになっていた。特に左サイドバックの登里にはケアする選手がおらず、彼は完全にフリーでボールを持つことが出来ていた。ザーゴ監督としてはその代償を払ってでも、川崎Fの中央突破の方が危険だと考えそこを封じたかったのだろう。

実際、58分にはその登里にフリーでボールを運ばれたところから、最後は中村にポスト直撃のシュートを許しているように、この大胆なトレードオフが必ずしも上手くいったとは言えないだろう。それでも、結果として追加点を与えなかったことが、鹿島に反撃の芽を残すことに繋がっていった。

押し込む仕上げ役の広瀬陸斗

64分~

画像4

0-1のまま試合が進むと、鹿島は64分に2枚代えを敢行。遠藤康とケガからの復帰戦となる広瀬陸斗を投入。システムも4-1-3-2に変更した。ザーゴとしてはこのタイミングで川崎Fのギアチェンジで追加点を狙う時間は耐えきった、今度は自分たちが反撃する番だ!と判断したのだろう。

中央でタメを作れる遠藤の登場、パワーのあるエヴェラウドと上田を前線に並べたことで、鹿島は徐々に川崎Fを押し込み、二次攻撃三次攻撃を可能にしていく。この選手交代でペースは完全に鹿島のものになった。

その流れで鹿島が同点に追いついたのは75分のことだった。鹿島は右サイドにボールを運ぶと、広瀬が遠藤とのワンツーからクロス。これをエヴェラウドが高い打点で合わせて一度はチョン・ソンリョンにセーブされるものの、こぼれ球を押し込んで、鹿島は試合を振り出しに戻した。

同点ゴールのシーンに象徴されるように広瀬の存在がこの試合においては大きかった。ピンポイントで合わせられるクロス精度を持つ彼がいることによって、よりエヴェラウドや上田のパワーや高さは活きてくる。押し込みながらももうあと一押しが足りない、広瀬はその一押しを担ったのだった。

鹿島がもったいなかったのは、この追いついた勢いでそのまま一気に畳みかけて逆転までこぎつければ良かったのを、もう一度勝ち越そうと目論んだ川崎Fの攻撃を受ける方に意識が傾いて、そのまま押し切れなかったことだろう。そのため、同点に追いついた後はむしろ川崎Fのペースになり、鹿島のチャンスは終了間際の山本のヘディングくらいに限られてしまった。(おそらくここでもリスクを負って攻め込むより、失点しないことを優先する戦い方を鹿島はチームとして選択したのだろう)

その後、ATには三竿が危険なタックルで一発退場というアクシデントもアリながら、スコアは結局動かないままタイムアップ。試合は1-1の痛み分けとなった。

まとめ

結果としては妥当なものだろう。鹿島にとっては勝てる試合でもあったし、3ポイントが欲しい試合だったのは間違いないが、1ポイントを拾ったという捉え方も出来る試合だった。

この試合のザーゴはかなり慎重だったように思える。鹿島の今節の選択は全てリスクを負って攻めに出るというものより、まずは失点しないということを優先した気色が強かった。それが今節直前の緊急事態を受けてのものだったのか、首位川崎Fをリスペクトしたものゆえだったのかは分からないが、いずれにしてもアグレッシブさを押し出すザーゴらしくないサッカーを選んだのだな、ということは見てて感じられた部分である。

今節、他の上位陣が多く敗れていることを考えれば、この1ポイントは決して悪いものではないだろう。むしろ、ここまで相手に合わせることで得た勝点1を必ず有効活用しなければならない。残り5試合の結果が鹿島の今季の真価を問うことになる。

ハイライト動画

公式記録

リンク


ここから先は

0字

¥ 200

遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください