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【全集中・鹿の呼吸】明治安田生命J1 第28節 ベガルタ仙台-鹿島アントラーズ レビュー

戦前

前節は試合前に7選手を欠くという緊急事態の中、首位川崎フロンターレを相手にエヴェラウドのゴールで追いつき引き分けに持ち込んだ鹿島アントラーズ。依然として離脱者の数は多いが、中6日で今節のアウェイゲームを迎える。

鹿島を迎え撃つのは最下位ベガルタ仙台。今季はピッチ外の経営危機だけでなく、ピッチ内でもホームでリーグ戦勝ちなしと苦戦が続くが、直近2試合は1勝1分と上り調子。前々節は長沢駿のハットトリックもあってガンバ大阪に4-0と大勝、前節もFC東京相手に2度のビハインドを追いついて引き分けに終わっている。今節は中2日のホーム連戦だ。

なお、両者は第15節で対戦。鹿島は前半終了間際に小泉慶のクロスをエヴェラウドが合わせて先制すると、終盤には上田綺世が加点。仙台に1点返されるもののそのまま逃げ切り、2-1で勝利している。

前回対戦時のレビュー

スタメン

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鹿島は前節から2人変更。右サイドバックに広瀬陸斗が久々のスタメン復帰を飾り、三竿健斗が出場停止の中盤には永木亮太が入った。また、曽ヶ端準と伊東幸敏も久々のベンチ入りを果たしている。

仙台は前節から4人変更。右サイドバックには前節契約上の関係で出場できなかった柳貴博が復帰。中盤には兵藤慎剛、左ウイングには石原崇兆が入り、最前線には古巣対戦となる赤﨑秀平が起用された。

ハマった4-3-1-2の守備

鹿島の守備時

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今節の鹿島はスタートから4-3-1-2の布陣を採用。川崎F戦の後半でも一時採用したエヴェラウドと上田の2トップにトップ下は土居聖真を置き、3ボランチ気味にファン・アラーノ、永木、レオ・シルバが構えるというものだ。

今節この布陣を採用した最大の理由は、高い位置から仙台のボール保持にプレッシャーを掛けて、自由にボールを運ばせないためだろう。仙台のボール保持の起点となるのはセンターバックとアンカーの椎橋慧也の3人だが、鹿島はセンターバックに2トップ、椎橋には土居をマンツーマンでぶつけて、彼らの自由を奪おうとしていた。

この時に大事なのが中央の3人に対しては数的同数を維持できるが、インサイドハーフとサイドバックの4枚に対しては鹿島はアラーノ、永木、レオ・シルバの3人で対応しなければならないため、どうしても数的不利の状況に陥ってしまうということ。実際、川崎F戦では左サイドバックの登里享平を数的不利の代償としてフリーにせざるを得ず、彼のところからピンチも作られてしまっていた。

だが、今節の鹿島はそのあたりがハッキリと整理されていた。左サイドバックのパラに渡った時はアラーノがケアに向かい、インサイドハーフは永木とレオ・シルバで監視。逆に右サイドバックの柳に渡った時は、レオ・シルバがケアに向かい、インサイドハーフはアラーノと永木で監視、といったようにスライドを徹底することで、仙台に数的優位を活かすような場面を作らせない流れが出来ていた。

仙台のボール保持から自由を奪ったことで、試合のペースは鹿島に傾いていく。仙台は組み立てでリズムを作れない中で、鹿島の前がかりを逆手に取って前線のアタッカーのスピードを活かした速攻を狙おうとするが、ここも鹿島の4バックに冷静に対応されたことで、攻め手を失っていった。

持ち味全開のエヴェラウドと上田綺世

守備でペースを掴んだ鹿島は仙台を押し込んでいく。この押し込めた要因として大きかったのはもちろん守備もあるが、やはりエヴェラウドと上田の2トップの存在を欠かすことは出来ないだろう。

フィジカル勝負で優位に立て、多少ラフなボールを蹴っても競り勝てる。前を向いた時の突破力が光るエヴェラウドと、相手を背負っても簡単にボールを失わなくなった上田。この2人が前線で各々の持ち味を活かすことで、相手の最終ラインは必然的に下がらざるを得なくなる。そうなれば高い位置でプレッシャーを掛ける→奪ってカウンターでチャンスを作る→再度奪われたらもう一度プレッシャーを掛ける、というサイクルはより回りやすくなることになる訳だ。

また、鹿島の攻撃は選手の個性を活かして左右非対称の形になっていた。左サイドはレオ・シルバと山本脩斗という右利きの選手がいる分のボールの運びづらさを補うために、エヴェラウドがサイドに流れて突破を図って押し込む。逆に、右サイドはアラーノと広瀬という運ぶことも出来るし、フィニッシュのお膳立ても出来る2人が駆け上がって、上田は中央でターゲットとなる。どちらのサイドからでも中央に上田が必ずいることになるため、サイドで押し込んでもフィニッシャー役がいない!という現象を防ぐことが出来る。こうした押し込みから、鹿島は相手陣内でのプレー時間を増やし、より人数を掛けて攻撃することを可能にしていた。

狙い通りの3ゴールとアラーノの脅威のスプリント

良い流れを継続する中で、前半こそ中々迎えたチャンスを仕留めることが出来ず嫌な空気が漂いかけたが、後半ファーストチャンスを決めきったことで鹿島は完全に試合を自分たちのものにした。1点目のゴールは押し込んだ流れから、右サイドの裏を取りアラーノのクロスにエヴェラウドが合わせた形であり、エヴェラウドのゴール前での強さが活きたゴールだったが、このシーンでもエヴェラウド以外にも中央に上田、さらに大外には山本がターゲットして侵入してきており、鹿島としては理想的な崩しでの得点だったはずだ。

先制点で完全に流れを掴んだ鹿島は57分に追加点。沖悠哉のロングフィードに上田が競り勝ち、こぼれ球をエヴェラウドが競りに行ってこぼれたところをアラーノが拾って、冷静に仕留めた。2トップの強さを前面に活かしただけでなく、ボールがこぼれてくることを信じてスプリントを止めなかったアラーノの良さが活きたゴールでもあった。

62分の試合を決定づける3点目も、上田、エヴェラウド、アラーノの3人の連係で崩し切ったゴールだった。自陣でボールを回収したところからカウンターがスタート。レオ・シルバからパスを受けたアラーノがダイレクトでサイドのエヴェラウドに展開したところで、速攻のスイッチは完全に入っていた。ボールを受けたエヴェラウドは絶妙なインサイドパスで折り返し、上田はそれを流し込むだけでよかった。エヴェラウドに渡った時点で状況は2対2の大チャンスだったが、スイッチを入れたアラーノがカバーに戻った仙台守備陣を置き去りにするかの如くスプリントしたことで、上田がシュートする段階では3対2の状況にして可能性を高めていたことも見逃せない。

その後、前線からのプレッシングが弱まったことで、仙台がボールを持てる時間が増えたこともあり、鹿島は徐々に守勢に回る時間が増えていく。76分には左サイドで途中出場の蜂須賀孝治が切り返しで広瀬を外すと、ピンポイントクロスを同じく途中出場の長沢が合わせて、鹿島は1点を返されてしまう。

だが、その後は確実に試合を終わらせてタイムアップ。3-1で勝利した鹿島はこれで3試合負けなし。上位戦線生き残りに必須な勝ち点3を手にした。

まとめ

鹿島にとっては、ゲームプラン通りの快勝と言える試合だろう。システム変更の効果も十二分に発揮されたし、久々に高い位置でボールを奪って攻撃、という流れを続けることで相手を押し込み続ける、鹿島の狙いとするサッカーの出来た試合だった。

正直、前節からのシステム変更はエヴェラウドと上田のフィジカルありきで成り立っている部分もあるので、手放しで絶賛するわけにもいかないのだが(2人が欠けた場合はどうするのかという問題が発生するので)、これだけの離脱者が出た中でそれでも一つでも上の順位を目指すというチーム方針から考えれば、最も合理的なやり方で勝点を積み重ねているとも言えるだろう。

今節が終わり、次節は中3日で柏レイソル戦、その次も中3日で浦和レッズ戦と今季最後の連戦に突入する。これ以上離脱者を出すことは出来ないため、コンディションやカードのマネジメントには細心の注意が求められることはもちろん、柏も浦和も仙台や川崎Fのように4-3-3のシステムは採用していないため、相手に合わせた微調整は必須になってくる。そうした部分の対応力が求められる2試合となりそうだ。

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