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【ダム決壊は人災です】ルヴァン杯 準決勝 第1戦 川崎F-鹿島 レビュー

スタメン

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<鹿島>
・C大阪戦から中2日。スタメン8人入れ替え。
・白崎、永木、犬飼は連戦
・上田はU-21枠

<川崎F>
・湘南戦から中2日。スタメン4人入れ替え。
・新井、谷口、車屋、登里、下田、守田、家長が連戦
・大島が復帰してベンチ入り

フロンターレの狙い

川崎Fが攻撃で狙っているのは、菱形のポジショニングで数的優位と位置的優位を作ることで局面を突破することだ。この攻撃の何が有効かというのは、ここで説明すると長くなるので以下のリンク先を見てほしい。

ここの状況に持っていくためには、ビルドアップで鹿島の守備の1列目である2トップを突破しなければならない。ただ、この日の鹿島は撤退して守るよりも、積極的にプレスを掛けに行く方法を採っていた。この場合回避策は、無理やりセンターバックがドリブルで剥がすか、ビルドアップにGKを加えて数的優位を作るか、ロングボールを蹴っ飛ばすか、ボランチかSBを下ろしてこれまた数的優位を作るか、である。この日の川崎Fは一番最後の手段を採用。しかも、ボランチの守田を2人のCBの左側に下ろした。これはC大阪も採用していたやり方で、おそらく鹿島にビルドアップを簡単に許すか、2列目をサポートさせることでその空いたスペースを突くか、という2択を突きつけたかったのだろう。

だが、この日の川崎Fの前線にはレアンドロ・ダミアンが入っている。彼は前線での強さを特長とするプレーヤーだが、あまり繋ぎに加わることは得意とはしていない。普段は小林がここに加わっている分のサポートが足りなくなっている分、川崎Fは家長が右サイドから左サイドへと縦横無尽に移動することで、足りない分をカバーしようとしていた。

リスクを逆手に取る鹿島

対して鹿島である。鹿島は前からプレスに行きつつも、突破された場合は人に付きつつも中央を締めて圧縮&撤退することで対応していた。

そんな中でビルドアップで形を変え、家長は自由にポジションを動く。するとどうだろうか。形を変えた分だけ、川崎Fのボランチから後ろのエリアにはスペースが生まれ、自由に動く家長には彼がプレーするゾーンをケアする選手が対応する。右サイドから一気に左サイドまで動く選手にベッタリ付くことは、守備のバランスを崩すリスクが大きいからだ。

この状況で活きる選手がいる。当初家長のケアを担当していた白崎だ。白崎は左サイドにボールがある時は、絞って右サイド側のハーフスペースをケアしていた。ただ、目の前に相対する選手はいない。鹿島はボールを奪うと、すぐに白崎にボールを渡した。すると、どうなるか。白崎は目の前に相手がいない状況でカウンターの起点となれる。中央突破することも、逆サイドに走り込んだ選手を使うことも、左サイドの大外から駆け上がる小池を使うことも出来るのだ。

さらに、川崎Fのカウンター対応の形が鹿島に味方する。川崎Fは攻撃に人数を掛けたい分、カウンターの守備は幅広いゾーンをCBの2人で対応しなければならない場面が多い。ボールを奪われた後、すぐに奪い返せずに裏にボールを送られると尚更だ。

こうした状況を活かしたのが鹿島の先制点だ。川崎Fが攻撃のためにポジションを動かした状況で永木がボールを奪い、小泉に預けて、素早く右サイドのレアンドロに展開する。川崎Fの左サイドバックは前がかりになっていて、レアンドロはボールをスルスルと運んで車屋を引き付ける。そこでクロスを送ると、大外から飛び込んだのは白崎。白崎をケアするはずの馬渡もまた前がかりになっていてケアが遅れてしまっていた。ヘディングシュートがネットを揺らし、鹿島がアウェイゴールを手に入れる。欲を言えば、この流れでもう1、2点取れていれば、試合は完全に鹿島のモノになっていただろう。

フロンターレの修正

ただ、川崎Fのここからの修正が流石だった。まず、ビルドアップでボランチを下ろすのをやめ、2ボランチ+2CBの形を動かさないようにする。ここを動かしてしまうと、中央を突破されるリスクが高まるからだ。アウェイゴールを追加されるのは何としても避けたい川崎Fの判断である。

次に家長を右サイドに固定した。驚異的なキープ力を持つ家長が縦横無尽に動くことで起点をあちこちに作り出せるメリットこそあったものの、自分たちのバランスも崩しかねないというデメリットを考慮したのだろう。

こうして自分たちのバランスを取り戻した川崎F。さて今度は攻める番だ、ということで再びビルドアップに手を加える。守田がCBの間に降りることで数的優位を形成する形に変えたのだ。CB+守田の3枚ならカウンターもある程度対応出来るというリスクを考慮した形だろう。ただ、これだと、楔の縦パスを入れられるボランチやSBが楔を入れやすいハーフスペースにいるのではなく、CBがハーフスペースにいることになってしまう。

ただ、川崎Fの左CBを務めていたのは本職が左SBの車屋だ。左利きかつ元々ドリブルで運ぶ力を持つ彼がいることによって、川崎Fは左サイドから車屋が数的優位を活かして鹿島の2トップの脇のスペースまで運び、そこから左足で楔のパスを入れることで、ポジショナルプレーを成立させていた。彼へのケアが曖昧になった鹿島は途端に川崎Fの左サイド(鹿島にとっては右サイド)で劣勢に立たされる。

一方で、右サイドにはポジションを固定しだした家長がいる。川崎Fは右サイドの方が攻撃の形が歪だったが、それを成り立たせていたのが家長のキープ力だった。家長のキープ力という質的優位を止める術を、鹿島は最後まで見つけることが出来なかった。

さらに、前線のレアンドロ・ダミアンの存在感は抜群だった。繋ぎには加わることは出来ないが、クロスに対して圧倒的な強さを発揮する彼がいるおかげで、鹿島は普段の川崎Fでは警戒度の低い大外からのセンタリングに対しても注意しなければならなくなっていた。それが結びついたのが守田の同点ゴールである。このシーンも、レアンドロ・ダミアンへのクロスのこぼれ球からゴールが生まれている。

ただ、そんな川崎Fにも誤算があった。馬渡が負傷交代して山村に交代。最終ラインのポジションを入れ替えたことで、左サイドの司令塔となっていた車屋を動かさなくてはならなくなってしまった。この影響もあって、若干トーンダウンした形で川崎Fの攻勢は前半を折り返すことになる。

37分~

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鹿島に打つ手はあったのか

後半になっても、結局川崎Fが攻め込む流れは変わらなかった。鹿島はHTで修正が出来ず、攻撃も単発に終わってしまった(それでも決められればよかったのだが)。ただ、それ以上に鹿島は修正出来たポイントを最後まで修正しなかった。右サイドハーフに入っていたレアンドロのことである。

久々の出番となっていたレアンドロは先制点のアシストも記録していたし、カウンターの場面で脅威になっていたのは間違いない。ただ、前半のうちにイエローカードを貰っていた上に、自陣でも判断ミスで繋ごうとしたところを奪われて、相手の二次攻撃を許してしまっていた。さらに、途中から左SBに入っていた車屋へのケアが明らかに遅れていたのだ。ここを代えることで流れを変えることは可能だったのではないだろうか。

もっとも、レアンドロを代えづらかったのも分かる。攻撃がカウンター一択だった鹿島にとって、カウンターで脅威になれる選手は残しておきたい。さらに、早めに代えてしまっては彼のモチベーションにも関わる。

ただ、彼の扱い方は難しいが良いところも見せたし、内田との関係性ならある程度は機能することも把握できた。この部分を評価して、手を打つことも可能だったのではないだろうか。

ただ、レアンドロだけが悪かった訳ではない。この日の鹿島は後半奪ったボールをあまりにも簡単に失いすぎていた。川崎Fがボールを奪われた後すぐにプレスを掛けに来ていたのなら、それを逆手にとってロングボールで裏を取る、悪くても陣地を回復する方法もあったのではないだろうか。川崎Fは後半20分過ぎあたりから焦りからか、かなりポジションバランスを崩して攻めに出ていた。スキは確かにあったのだ。この修正を最後まで出来なかったのがスコアに大きく響いてしまった。

途切れさせなかった脇坂、トドメを刺した大島

一方、後半になっても攻勢を続ける川崎Fである。馬渡の負傷交代によって、上手く行っていた形を代えざるを得なくなってしまっていたが、それを見事にカバーした選手がいる。トップ下の脇坂である。

脇坂は中村憲剛のように一発で局面を打開できるスルーパスは持っていないものの、豊富な運動量でチームの力になろうとしていた。ポジショナルプレーを成り立たせるため、縦横無尽に顔を出してはパスの受け手になっていた。後半になっても攻勢が途切れなかったのは、彼の気の利いたポジショニングが大きかった。

ただ、それでも最後のゴールは破れない。そこで登場したのが真打・大島僚太である。サイドから崩すことが出来ていたが、中央に縦パスを入れて崩すことが出来ない。そういった状況に現れた大島は82分に二次攻撃でボールを受けると、ツータッチで中央から阿部へと縦パスを入れる。この縦パスで阿部へのケアに永木、大島を止めるために犬飼と名古という、センターライン3人が動かされてしまった。阿部の落としたボールに飛び込んだのは動き続けていた脇坂。シュートはゴールネットを揺らして、川崎Fは逆転に成功。鹿島は耐え続けていたが、カウンターを打つことも出来ずに決壊。直前に内田をガス欠で代えざるを得なくなり、ボランチとSBを動かしていたのも響いたかもしれない。

鹿島にとってはこの2失点で食い止められれば最低限だったが、押せ押せムードを跳ね返すことが出来ない。2失点目の3分後にはCKで山村が白崎に競り勝ち、こぼれ球を阿部に押し込まれ3失点目。痛すぎる追加点を許してタイムアップとなった。

まとめ

鹿島にとっては数少ない押せ押せの時間でのチャンスを活かせなかったこともそうだが、耐えているうちに修正の一手を打てなかったことが、逆転負けを引き起こしてしまっただけに、自滅に近い負けだろう。この一戦で川崎Fを、家長のキープ力を、止める術を最後まで見つけられなかったのも痛い。

この状況でホームでの第2戦は最低でも2点差以上で勝たなくてはならなくなった。点を取ること以上に、この押し込まれまくった守備を安定させなければ、点を取るためのチャンスすら増やすことは出来ないだろう。鹿島が、そして大岩監督が、大きな壁にぶち当たったている。

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遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください