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【切なき消耗戦】明治安田生命J1 第9節 北海道コンサドーレ札幌-鹿島アントラーズ レビュー

戦前

前節は終盤のゴールで柏レイソルに競り勝ち、連敗を止めた鹿島アントラーズ。今季初の連勝を目指し、中3日でのアウェイゲームに臨む。

鹿島を迎え撃つのは北海道コンサドーレ札幌。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が率いて4季目となる今季は、開幕戦で5ゴールを奪う大勝で良い滑り出しを見せたと思われたが、ヴィッセル神戸に3点リードから逆転負けを喫するなど安定感に欠けており、ここまで13位。前節もお互いに退場者を出す乱戦の中でFC東京に1-2で敗れており、そこから中3日で今節を迎える。

スタメン

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鹿島は前節から2人変更。ボランチに三竿健斗、2列目に土居聖真が入った。

札幌は前節から3人変更。出場停止のキム・ミンテに代わって宮澤裕樹がセンターバックに、前節負傷した小柏剛に代わって駒井善成がシャドーに入り、ボランチは高嶺朋樹と深井一希のコンビに。また、左サイドに菅大輝が起用された。

強みを活かす鹿島

立ち上がり、前線から積極的にプレッシングを仕掛ける札幌に対し、鹿島は2トップへのロングボールで対抗。エヴェラウドと上田綺世のパワーを活かし、相手を押し込む形を取った。

これが結果的にハマった。エヴェラウドと上田が期待に応えて、相手守備陣に競り勝ち続けると、必然的に札幌守備陣は下がらざるを得なくなる。プレッシングを仕掛けようとする前線との間に間延びが生じ始め、そこで生まれた中盤のスペースをファン・アラーノや土居に使われ、彼らにドリブルで運ばれていく。鹿島の前線の選手の質の高さをシンプルに活かす形が、札幌守備陣を大いに苦しめていたのだ。

この優勢を鹿島はスコアに結びつける。9分、高い位置で押し込んでセカンドボールを拾った鹿島は、三竿から土居、アラーノと繋ぎ、アラーノがシュート。これが相手DFに当たったこぼれ球を永戸勝也が右足でゴールに流し込み、鹿島は幸先よく先制に成功した。永戸は嬉しい移籍後初ゴールとなった。

19分にも自陣深くでボールを奪うとロングカウンターが発動。アラーノがボールを運んで一度小泉慶に預けると、中盤のハーフスペースに侵入してパスを引き出し、スルーパス。抜け出したエヴェラウドのシュートは菅野孝憲に防がれるものの、依然として鹿島ペースは変わらない。

すると、20分に鹿島は右コーナーキックを一度ははね返されるものの、こぼれ球を小泉が再びゴール前に供給すると、これに町田浩樹が競り勝って落とし、最後は上田が冷静にゴールへと沈めて追加点。鹿島は20分で2点のリードを手にする最高の出だしを見せた。

札幌の組み立ての変化

しかし、2点ビハインドとなった札幌もここから反撃に出る。反撃のきっかけとなったのは、組み立てのポジショニングを変化させたことにあった。

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立ち上がり、札幌は陣形をあまり崩さずに組み立てを行っていた。これに対して鹿島は、アラーノが1列上がって札幌の3バックに数的同数を確保する形で対応。これによって、前線のプレッシングを機能させて、札幌にロングボールを蹴らせて後ろで回収するか、中盤に縦パスが入った際はレオ・シルバと三竿がボール奪取力を活かして奪い取り、そこからショートカウンターに移行させる形が、ピッチ内で再現性を持って出来ていた。

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組み立てに詰まっていた札幌は3バックの両翼の位置を上げ、ボランチを降ろしてボランチ+宮澤の3枚に変更する。この形になると、鹿島の前線4枚に対して、位置を上げた3バックの両翼含めれば5枚となり、数的優位を確保できる。この優位性を活かして札幌はボールを前進させていくことで、ペースを自分たちのものにしていく。

プレッシングのハマらなくなった鹿島はここからペースを失っていく。さらに、鹿島にとって厄介だったポイントが2つある。1つは札幌の両シャドーの存在だ。前の人数が足りないなら鹿島はボランチもプレッシングに参加させようとするのだが、そこで登場してくるのが札幌のシャドー。特に、左サイドのチャナティップは試合を通じて鹿島の脅威となっており、パスを引き出すサポート役としてだけでなく、そこからドリブルで一気に運んで鹿島ゴール前まで侵入してくるため、鹿島としては前にいきたいが結局チャナティップを止められずに押し込まれてしまうという現象が発生していた。

もう1つは福森晃斗と高嶺の存在だ。左足の高いキック精度を持つ彼らを鹿島は数的不利で捕まえきれなくなったことで、彼らのロングボールの高精度パスで一気に局面を変えられてしまうシーンが増加してしまったのだ。

福森と高嶺が活きるようになったことで、札幌の5トップの脅威が鹿島に襲い掛かる。札幌が使うミシャ式の特徴は攻撃時にウイングバックが高い位置を取り、5トップのような形になること。こうなると、4バックで守る鹿島のような守備陣に対して、数的優位を得ることが出来る。今節、その数的優位の脅威を受けることになったのは左サイドバックの永戸。高嶺と福森からのロングボールが右サイドに通されると、永戸の目の前にはシャドーの駒井とウイングバックの金子拓郎の2人がいる。いわば1対2で数的不利になっている状況だ。さらに、金子は今節調子が良く、ドリブルもキレキレ。こうして、鹿島は札幌の左サイドで組み立てを作られ、そこから右サイドに運ばれて崩されるというシーンを、ここから何度も作られてしまった。

修正を試みるも…

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前半の札幌の反撃をセットプレーからの田中駿汰のゴール1点になんとか抑えて、リードして折り返した鹿島。後半に入ると守備に修正が入る。2列目の位置を下げて、札幌の後ろ5枚の両翼のケアに充てさせる。これは特に左サイドで精度の高いボールを供給し続けていた福森を封じるためであろう。

ただ、依然としてもう一人の高精度パスの供給役である高嶺のところは数的不利を解決できていないため、浮いたままである。ここを修正できなかった鹿島は札幌のボール保持を防ぐことが出来ず、さらに攻撃の局面が少ないのを打開しようとしたアラーノの動きを逆手に取られ、福森にもボールを運ばれてしまう。札幌の5バックに殴られ続けていた鹿島は沖悠哉の好セーブ連発がなければ、とっくのとうに試合をひっくり返されていたはずだ。

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守備の課題を解決できない鹿島は63分にさらに手を打つ。土居とレオ・シルバを下げて、永木亮太と白崎凌兵を投入。三竿を最終ラインに下げて5-4-1に変更。札幌の5トップに苦しむ中で、5バックで数的同数を確保して攻撃をはね返そうと試みた。

だが、その直後だった。札幌にセカンドボールを拾ろわれると、途中出場の岡村大八の縦パスに抜け出しかけた金子を永戸がペナルティエリア内で倒してしまい、PK献上。これをアンデルソン・ロペスに決められ、鹿島は2点リードから同点に追いつかれてしまう。守備の修正を試みた直後にシンプルなロングボールからピンチを与えて、それが失点に繋がってしまうのは中々に切なかった。

このあと、試合はお互いに消耗が見られる中で徐々にオープンな展開に。鹿島も途中出場の遠藤康のパスから同じく途中出場の荒木遼太郎が決定機を迎えるが、ここは菅野に防がれ勝ち越しならず。結局、2-2のドローで試合はタイムアップとなった。

まとめ

自らの強みを活かして2点のリードを奪っておきながら、そのリードをなしにして勝点1に終わってしまうのは痛恨と言わざるを得ないだろう。こうした試合をしていては、中々順位が上がっていかないものだ。

問題なのはやはり2点リードしてから追いつかれるまで守勢に回る展開を解決できなかったことにある。気になるのは63分の選手交代まで明確に撤退守備を打ち出さなかったこと。引いて守るのか、前から奪いにいくのか、この辺のメリハリがとにかく中途半端なまま、鹿島は相手の攻撃を食らい続けてしまった。調子の上がらないチーム状態を考えれば、割り切って撤退守備に切り替え、攻撃は2トップにがんばってもらうといった方策で、勝点を拾っていくのも一つの策ではないだろうか。

攻撃面ではシンプルに個々を活かしたことで開始20分で2ゴールを奪うなど、一定の成果は出た。その割り切りを守備にも求めたいところである。開幕してからここまでリーグ戦で完封試合はゼロ。守備の安定なくして、成績の向上はない。

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