見出し画像

【手本を見せたルーキー】PSM 水戸ホーリーホック-鹿島アントラーズ レビュー

戦前

鹿島は火曜日のACLから中3日。ACLでは数字上では優勢だったものの0-1で敗戦と、グループステージ進出を逃す結果に。そこから立て直すこともこの試合の狙いの一つだ。ザーゴ監督は「結果以上に、個々の戦術の浸透度を確かめたい」とこの試合の目的について話しており、その言葉通りACLからはスタメン10人含め大幅にメンバーを入れ替えている。

一方の水戸。シーズンオフでは昨季クラブ最高順位の立役者である長谷部茂利前監督含め多くの主力が退団。今季はかつて群馬で監督経験のある秋葉忠宏新監督や多くの若手選手を迎え入れ、悲願のJ1昇格を狙う。この試合前の沖縄キャンプでは鳥栖や仙台といったJ1勢にも善戦している。スタメンは6人が新加入選手。なお、鹿島から期限付き移籍で加入した山口一真はメンバー外だった。

スタメンと布陣遷移図

スタメン

画像1

24分~

画像2

後半開始時

画像3

59分~

画像4

63分~

画像5

77分~

画像6

プレッシングのルール、成果、課題

前半は完全に鹿島の試合と言っても過言のない内容だった。ファウルになってしまったが、キックオフ直後からボールホルダーに積極的にプレスを掛けることで、この試合でも「ボールを握るため、相手からボールを素早く奪い取る」というザーゴが求めるコンセプトを実践していくという姿勢を見せた。

水戸は4-4-2の陣形を崩さず、センターバックがボールを持っている時はボランチが近づくことでサポート。このボランチが繋ぎの根幹を担う、俗に言う「ボランチサッカー」になっていた。対して、鹿島は2トップがスイッチを入れて、センターバックにプレスに行くことで後ろも連動。ボランチやセンターバックも時にスペースを空けてでも、前に出て縦パスを潰しに行くシーンが見られた。

相手のセンターバックがボールを持っていればとにかくプレスか、と言われるとそうではない。鹿島がプレスのスイッチを入れるシーンもこの試合を見る限りだと、どうやら決まっているようだ。相手がフリーで周りにスペースもある場合はそこに強引には行かない。チームが連動して動き出すのは、相手が横パスやバックパスを出した時。そこからすぐさまゴールに近づく可能性のないプレーが起こった時に前に出ていく、というサッカーでは定石の判断がチーム内で徹底されているようだ。

鹿島のプレスの練度は集中してトレーニングしてきたのか、かなり高いものになっている。この試合でもセンターサークル付近のいわゆる「ミドルゾーン」でボールを奪うシーンがかなり多かった。この試合唯一の得点シーンもそのプレスがきっかけになっている。前線からプレスを掛けることでパスコースを限定して、永木亮太がボール奪取。そのボールを和泉竜司が拾って伊藤翔、白崎凌兵と繋ぎ、白崎のスルーパスに抜け出した荒木が左足でゴール。荒木の飛び出しも素晴らしかったが、形そのものがチームとして狙っているものだけに、手ごたえは大きいだろう。

とはいえ、課題も残っている。プレスがハマらなかった時だ。前半も何度か見られ、スタミナが削られた後半になるとその機会が増えたが、プレスのスイッチを入れる機会を失うと、ボールの奪取場所がチームとして絞り切れずに、個々が自力で奪えないと、ズルズルと後退してしまっていた。おそらく、プレスではないいわゆる「ブロックを作って守る」形の守備は、トレーニングでまだ出来ていない部分なのだろうが、このまま放っておくと致命傷になりかねない。それでも、ハーフタイムにしっかり「中央を固めること」「距離感をコンパクトにすること」とシンプルながらも分かりやすい指示で守備の大崩れを免れたザーゴの対応は評価されるべきものである。

ビルドアップを動かした荒木遼太郎

また、この試合でACLより機能していた点がビルドアップである。後半は水戸がボールを握る機会が多かったため、その部分を見せることが少なかったのだが、主導権を握った前半は何度も相手の1列目(2トップのところ)の守備を突破するシーンが見られた。

基本的な仕組みは変わっていない。センターバックに加えて、ボランチの一角(前半は永木)が降りてきて、相手の2トップに対して数的優位を形成。水戸が2トップだったこともあり、この数的優位を解消するには2列目から1人加えるしかない。そういう対応を強いることが出来ていたのだ。水戸は、2トップに加え右サイドハーフに入った村田航一がプレスに参加し、鹿島と同じく前線からのプレスで高い位置でボールを奪うことを狙っていた。

そんな中でも、鹿島がビルドアップを機能させることが出来ていたのは二つの要因がある。一つはセンターバックが高い位置までボールを持ち上がったことにある。町田浩樹と関川郁万のセンターバックコンビ、特に右に入っていた関川は自分にプレッシャーがかかっていないと判断するや否や、ドリブルで高い位置までボールを運び、相手の守備陣形を動かして縦パスを入れることが出来ていた。軽率なタックルでイエローカードを貰うシーンがあったのは反省点だったが、彼の見せたプレーはセンターバックのビルドアップにおけるお手本のプレーになるはずだ。

そして、もう一つは荒木遼太郎の存在である。決勝点も奪ったこのルーキーがこの日の鹿島の攻撃を動かしていた。荒木はビルドアップの際、ピッチ中央とサイドの間であるハーフスペースに位置取り、センターバックや下がったボランチの永木がボールを持っている時に、ボールを貰いに下がるシーンが多かったのである。マークを剥がしてフリーになった荒木は、ボールを持っている選手にとっては縦パスを出しやすい存在。彼はビルドアップの出口になっていたのである。まだビルドアップが発展途上であり、ビルドアップを最優先に選手をチョイスしている訳ではない鹿島にとって、彼のように出口になってくれるのは非常に心強い。パスを受けた後はターンして前を向くことも、近くの味方に預けることも、大外のスペースを駆け上がってくる内田篤人を活かすことも出来ていた荒木は、今季の鹿島の中でキープレイヤーになれる可能性を秘めている。

劣勢の後半で光った沖悠哉と松村優太

後半は先程から触れているように、水戸が主導権を握る展開になった。その理由としては、鹿島がガス欠によってボール奪取の機会がなくなってしまい、目指す「ボールを握ることで、主導権を握る」サッカーが体現できなくなってしまったからだろう。プレッシング以外に狙ってボール回収出来る機会を持たないことはトレーニングで今後改善していくにしても、プレスの根幹となるスタミナ、コンディション維持の面はシーズンを戦う上で、大きなカギになるだろう。スタミナ切れが予想される今では、スタミナのある前半のうちにリードしておかないと、厳しい展開になりそうだ。

そんな劣勢の後半の中で光ったのが沖悠哉松村優太の2人だ。沖は持ち味のビルドアップでアピールに成功。プレッシャーのかかる中でも近くの味方に正確に繋ぎ、またロングキックでも空中戦で競り勝てそうな選手に確実にボールを届けることが出来ていた。

松村は高校選手権でも見せたスピードとドリブル突破が光った。攻撃が低い位置からのスタートになっても、すぐさまスペースに走り出してボールを引き受け、ドリブルで一気に相手ゴールに近づく。中々味方との連係が合わなかったり、判断ミスもあってチャンスを潰してしまうことも少なくなかったが、彼の存在はチームにとって陣地回復の手段の一つであり、強力なカウンターの切り札になっていた。フィジカル面でプロに適応していく必要はありそうだが、松村も今季の鹿島の中で戦力として計算される選手になってくる可能性は高い。

総括

試合は前半主導権を握って、荒木のゴールで先制。後半は劣勢の時間が長くなるも耐え切り、カウンターでチャンスも作り出したが、スコアは動かずタイムアップ。鹿島が1-0で完封勝利を収め、いばらきサッカーフェスティバルでの無敗を継続する結果となった。

この試合何よりの収穫は、メンバーを大きく入れ替えても、ここまでトレーニングで取り組んできたことがピッチで発揮できている、ザーゴの求めるコンセプトが体現できるということだろう。これが俗に言う「ゲームモデル」の長所であり、メンバーの入れ替えをパフォーマンスになるべく影響させないことで安定した成績を出すことに繋げていくということになっていくのである。

ここまでACLとこのPSM、2試合をこなしてきた。チームがここまで何に取り組んできたのか、取り組んできたことがどれくらい出来ているのか、そのトライ&エラーが明確化出来ており、次の試合やトレーニングに繋げやすいというのは、ザーゴ就任のメリットの一つだろう。今後もそのトライ&エラーを繰り返すことで、チームのレベルを上げていきたいところだ。

ここから先は

0字

¥ 200

遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください