見出し画像

【状況変われば】ルヴァンカップ GS 第5節 鹿島アントラーズ-アビスパ福岡 レビュー

戦前

ルヴァンカップでは前節サガン鳥栖に引き分けたものの、依然としてプレーオフステージ進出に王手がかかっている状態の鹿島アントラーズ。今節、引き分け以上ならその時点でグループステージ突破が確定する。リーグ戦では横浜FCに3-0で完勝、そこから中3日で迎えるホームゲームだ。

鹿島が迎え撃つのはアビスパ福岡。ルヴァンカップでは現在グループ3位。前節は北海道コンサドーレ札幌に終了間際に追いつきドローに終わっており、逆転での突破には今節の勝利が求められる。リーグ戦では3連勝中と好調だ。

両者はすでにリーグ戦とルヴァンカップで合わせて2度対戦している。1度目のリーグ戦では金森健志のゴールで福岡が1-0で勝利。2度目のルヴァンカップでは鹿島がアウェイの地でゴールラッシュ。5-1で大勝した。

今季対戦時のマッチレビュー

スタメン

画像1

鹿島は前節の鳥栖戦から3人変更。右サイドに遠藤康、左サイドに連戦となる白崎凌兵が入り、ボランチには来日初先発となるディエゴ・ピトゥカが起用された。

福岡は前節の札幌戦から2人変更。ボランチに重廣卓也、前線にはこれまた来日初先発となるジョン・マリが起用されている。

白崎凌兵と遠藤康から生まれる連動した崩し

ブロックを敷いて構える形となったアウェイチームに対し、鹿島は立ち上がりから積極的に仕掛けていく。起点となったのは両サイドの白崎と遠藤。彼らがハーフスペースに位置取ってボールを引き出し、そこから中央の染野唯月や小泉慶に当て、さらにサイドに展開してフィニッシュを狙う形でチャンスを作り出していった。ピトゥカもここに加わり、左足からのパスでチャンスを広げることが出来ていただけに、連動した攻撃を繰り出せていた立ち上がりの鹿島はかなり良い入りだったと言えるはずだ。

鹿島としてみれば、横浜FC戦のようにこの展開の中で先制点が奪えれば最高だった。しかし、3分に関川郁万、6分に遠藤、16分には永木亮太が決定機を迎えたが、決めきれず。次第にペースは福岡へと移っていく。

圧縮した福岡の守備ブロック

押し込まれる形となった福岡は2トップへのロングボールで陣地回復を図っていく。城後寿とジョン・マリの2トップはフィジカルに優れており、彼らの個の力は相手を押し込むにはうってつけだった。

持ち直した福岡は4-4-2のブロックを圧縮させ、鹿島の攻撃を左サイドからに限定させていく。左サイドに限定させた理由は鹿島の左センターバックに入っているのが右利きの関川で、右サイドよりも組み立てが窮屈になるからという想定の元であろう。

左サイドからはボールを前進させられるので、鹿島はそこから攻略の糸口を見つけようとする。関川は城後の脇のスペースに持ち出して縦パスを入れていくし、白崎はハーフスペースで縦パスを引き出そうとするが、福岡の守備ブロックに引っ掛かるシーンが多く、持っていきたい崩しのフェーズに移ることが中々出来なかった。原因の一つとして、関川が相手の守備が整っている状態で縦パスを入れてしまっていたことがあるため、彼にはもう少しドリブルで運ぶなりで相手の守備を揺さぶった状態を作り出す工夫が必要だったように思える。

今節の鹿島は引き続きエヴェラウドや上田綺世といったパワーに長けたストライカーを欠いているため、どうしても崩しの部分は人数を掛けた連動性で勝負しなければならない。そうなると前線には必然的に人数を集める必要がある。その状態で縦パスを引っかけるとどうなるか。後ろには守備陣の選手しかいない、前にいる選手たちも距離感が遠すぎて即時奪回も出来ない。相手がカウンターを仕掛けるにはおあつらえ向きの状況が整っている訳である。実際、鹿島は攻→守の切り替えが全く機能しておらず、中盤でボールを失うと福岡にかなりの確率で自陣深くまでボールを持ち込まれてしまっていた。

24分の失点シーンはその典型だ。縦パスを入れたところをカルロス・グティエレスにカットされたところから福岡のカウンターが発動。吉岡雅和のスルーパスから城後に抜け出され、最後は城後のプレゼントパスをジョン・マリに沈められて、失点。クォン・スンテの中途半端な飛び出しも、ジョン・マリにニアサイドに入られた林尚輝の対応もマズかったが、そもそも吉岡がスルーパスを繰り出すまで鹿島の選手は相手に全く制限をかけられず、DFラインは相手に晒されている状態だったので、失点もさもありなんということである。

流れを変える永木亮太、相手を壊す広瀬陸斗

先制された鹿島だったが、ここからペースを取り戻していく。きっかけとなったのは、永木が組み立ての際に右サイドに降りるようになったこと。これで鹿島は左サイドに限定されていた攻撃を、右サイドからも機能させることに成功。崩しのフェーズに持っていきやすくすることで、前線の選手たちの特性や狙いを発揮しやすくすることに成功した。

今節、福岡があまりプレッシングを仕掛けなかったこともあって、鹿島は福岡の2トップに対してセンターバックの2枚だけの数的同数での組み立てでも、あまり苦労はしていなかった。しかし、前述のように福岡がサイドを限定させてきたことで、どうしても攻撃に手詰まり感が生まれてしまっていた。それを感じたのかピトゥカは降りてボールを引き出していたが、その動きはあまり効果的とは言えない状況だった。

今節、相方のピトゥカが自由に振る舞う分、バランスを取る格好になっていた永木だが、この状況でもピトゥカを前に押し出して自分が組み立てに参加することで、攻撃のバランスを整えていく。鹿島は左サイドの関川と右サイドの永木という二つのパスの出しどころを得たことで、攻撃の機能性を改善することが出来ていた。

ボールをアタッカーたちに預けられるようになっていった鹿島は再び連動した崩しでゴールを目指す。同点ゴールはその流れから生まれたものだったが、大きかったのは広瀬陸斗の縦パスだ。ゴールに至る最初のきっかけは広瀬が右サイドのスペースに出したパス。そこに染野が走り込んで起点を作ったところから、相手を押し込むことが出来ていく。その流れで再びボールを受けた広瀬はアーリークロスを上げ、それを遠藤が受ける。遠藤が相手を引けつけヒールパスを出すと、最後は走り込んだ白崎のシュートがネットを揺らし、鹿島は同点に追いついた。

遠藤の斜めの動きで起点を作ってからの冷静なパスも、白崎のフリーランも見事だが、やはりボールを受けると正確にスペースにボールを出してチャンスを作り出してくる広瀬のパスセンスは流石というほかない。一本のパスで相手の守備を崩し切る力は、常本佳吾や小泉慶といった他の右サイドバックを務める選手にはない特長だ。

変わらなかった攻め筋

追いついた後も鹿島のペースは変わらず、後半に入っても引き続き相手を押し込むことが出来ていた。状況が変わったのは56分の選手交代。染野に代わって松村優太が1トップに入ってからだ。

この選手交代自体は予定されていたであろうもので、問題な訳ではない。連戦と前線の駒不足を考えれば染野のプレー時間はある程度コントロールしておく必要がある。1トップに入った松村も最前線で起用されることはここ何戦かで見られていただけに、自然な流れではあった。

問題なのは、染野と松村というタイプが違う選手にも関わらず、彼らに送り出されるボールの質が変わらなかったことだ。松村は爆発的なスピードはあるが、サイズはないし染野のようにポストプレーを得意とする選手ではない。前を向いて力を発揮する選手に、今節の鹿島は相手を背負った状態でのプレーを求めるようなパスを何度も出し、そのたびに相手に潰されてしまっていた。

染野と小泉がポストプレーをこなしてボールを捌くからこそ生まれていた流れであったのに前でボールが収められなくなったことで、鹿島は勢いを失っていく。そんな鹿島に対し、勝つしかない福岡が前への圧力を強めていくことで、試合は徐々に福岡へと主導権が移っていった。

その後、鹿島は小泉と遠藤のポジションを入れ替えて形を整え、途中出場のファン・アラーノが推進力をもたらしたことで持ち直すが、相手を押し切るまでには至らず。終盤は福岡と一進一退の展開になり、最後は5バックにしてグループステージ突破のために引き分けで試合を終わらせることを選択した。

結局、試合はこのままタイムアップ。1-1の引き分けに終わった鹿島は勝点1を積み上げ、今節の目標であったプレーオフステージ進出を決めることに成功した。

まとめ

最低限の結果を手にしたことが、今節一番の収穫だろう。タイトルに向けても、今後の連戦を考えても、今節で突破を決める必要があっただけにそれを達成できたことは評価されるべきだ。

ただ、状況に合わせたプレー選択の変化については課題が残った。特に松村の活かし方については再考する必要があるだろう。彼の活躍した札幌戦も彼個人のスピード単体で結果を残したわけで、そこに再現性がある訳ではない。Jリーグでもトップレベルのスピードを持ち、単独でも仕掛けられる存在なだけに、有効的な使い方を見出したいところだ。

また、ピトゥカのチームへの組み込みもまだまだ進めていく必要がある。ボール保持時のスキルは確かだが、かなり自由にボール主体に動き回るピトゥカは、ともするとチームのバランスを崩しかねない存在だ。今節は永木がバランスを取っていたため致命傷にはならなかったが、彼が持ち場を離れたところ突いてくるチームも今後出てくるはず。彼にどこまで自由を与えて、何を期待してピッチに送り出すのか、その辺りはチームにおいて決めておかなければならない事柄だ。

今の鹿島は個々がそれぞれに己の力を発揮して、それがチームの武器となるような形のチームとなっている。それならば、もっとそれぞれが力を発揮しやすい環境づくりは必須である。

ハイライト動画

公式記録

リンク


ここから先は

0字

¥ 200

遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください