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【ノリに乗るには】ルヴァンカップ GS 第1節 鹿島アントラーズ-サガン鳥栖 レビュー

戦前

開幕戦では清水エスパルスを相手に3失点を喫し逆転負け、とショッキングなスタートになってしまった鹿島アントラーズ。嫌な流れを変えたい中で迎えるのは大会変わってJリーグYBCルヴァンカップグループステージの初戦。中3日でのホーム連戦となる。

鹿島が迎え撃つのはサガン鳥栖。昨季13位のチームは金明輝監督が引き続き指揮を執る。今オフに森下龍矢や原川力、原輝騎といった主力が引き抜かれたものの、下部組織の若手を中心にしたチーム構成は変わらずだ。開幕戦は後半に林大地がPKで奪ったゴールで逃げ切り、湘南ベルマーレに完封勝利。そこから中3日で今節を迎える。

スタメン

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鹿島は清水戦から7人変更。沖悠哉、犬飼智也、三竿健斗、エヴェラウドが継続起用されている。

鳥栖は湘南戦から総入れ替え。新加入選手5人がスタメンで起用されており、2列目の福井太智は2種登録の現在高校1年生の選手だ。

遠藤康が選んだクロス爆撃

開幕戦の記憶を払拭するんだ!という強い意志の感じられる立ち上がりの鹿島は、前線からのプレッシングを積極的に仕掛けていく。鳥栖が試合の入りで鹿島の勢いに戸惑ったこともあって、開始直後からほぼハーフコートで鹿島は押し込んでいた。

今節の鹿島の攻撃陣の中心を担っていたのは遠藤康。鹿島の攻撃は完全に遠藤のテンポで進んでいた。トップ下に入った遠藤はフリーマンのごとく自由に動き回り、どんどんボールを引き出していく。ボールを引き出した遠藤が選択していたのはクロス爆撃。清水戦ではサイドからの攻撃でも手数を掛けることの多かった鹿島だが、今節は中に人数がいて自身にスキがあれば、どんどんクロスをエヴェラウドなどを目がけて放り込んでいった。

このクロス爆撃はおそらくザーゴが理想としている攻め方とは違っているのかもしれない。上田綺世に代えて遠藤をスタメン起用したザーゴとしては、遠藤にパスを引き出してもらってそこから2列目の連係を活かしたパスワークで崩して、フィニッシュまでたどり着いてほしかったはず。にも関わらず、遠藤に倣うように鹿島の選手たちはどんどんクロスを放り込んでいく。思っていたのと違うやんけ!と思っていたのか、試合中継のリポートからは「クロス多すぎ」と指示が出ていたらしいことが伝えられていた。

ただ、結果的にそのクロス爆撃から鹿島は先制する。10分、三竿、広瀬陸斗、荒木遼太郎のパスワークから荒木が右サイドの裏へ抜け出してクロスを上げると、エヴェラウドが滞空時間の長いヘディングで叩き込んでゲット。いかにもエヴェラウドらしい点の取り方で、鹿島は試合を動かした。エヴェラウドの良さが出たのももちろんだが、このシーンは荒木が抜け出すまでのパスワークも評価されるべきだろう。荒木と広瀬、三竿できっちり三角形が作られており、ボールホルダーには常に身近なパスコースが2つ以上作られている状況という、ポジショナルプレーのお手本のような形が出来ていた。

鳥栖にプレスを無効化される鹿島

鹿島の勢いに巻き込まれ先制を許した鳥栖だったが、時間の経過と共に落ち着きを取り戻していく。それが最も見られたのは組み立てのシーンだ。鹿島のプレスに苦しんでいた鳥栖はボランチの一角やサイドバックの一角を最後尾の組み立てに参加させ、鹿島の2トップに対して数的優位を確保してボールを前進させようと試みていく(一番多かったのはボランチの島川俊郎を左センターバックの脇に降ろす形)。

鳥栖の組み立て

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鹿島はこの形を鳥栖が始めると、途端にプレスが機能しなくなり鳥栖にボールを自陣深くに運ばれてしまう。相手の攻撃の選択肢を限定できていないので、守備面で後手後手に回りフィニッシュまでたどり着かれるようにもなってしまっていた。この選択肢を限定できていない、プレスがハマっていない時の守備の振る舞いは、鹿島が昨季からずっと課題にしている点でもある。

鹿島は守備時において、遠藤がプレスに参加するより中央のボランチ(主に梁勇基)をケアする形を取っていた。遠藤としては自身が中央への一番危険なパスコースを塞ぎ、2列目の選手が相手サイドバックへのパスコースを塞ぎながらエヴェラウドと共に相手最終ラインへのプレッシングに参加して欲しかったのだと思われるが、その画をチーム内で共有出来ていたとは言えず、結果的に2列目の選手がプレッシングが甘くなったところから鳥栖にボールを運ばれてしまっていた。

流れを取り戻した白崎凌兵

鹿島の守備の変化

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主導権を鳥栖に奪われた鹿島が再び自分たちのペースを取り戻したのは、飲水タイムが明けた30分過ぎのことだった。

この時間帯から鹿島は白崎凌兵が高い位置を取るようになり、布陣は4-1-4-1のようになっていた。上がった白崎はそのままプレス部隊の一員となることで、相手の組み立ての選択肢を削っていく。白崎が上がった効果は、他の2列目の選手にも表れた。プレス部隊が増えたことでマークの対象がハッキリしたため、プレスに移る時の迷いを消すことが出来たのだ。

40分過ぎから立て続けに鹿島がチャンスを迎えたのも、その良い流れの延長線上でのプレーだ。どれも決めきることは出来なかったものの、鹿島は流れを自分たちのものとした状態で前半を折り返した。

構造的な問題から迎えた大ピンチと、それを救った沖悠哉

良い流れのまま後半に入ったはずの鹿島だったが、立ち上がりに左サイドから攻め込まれると、抜け出しかけた今掛航貴を和泉竜司が引っ掛けて倒してしまい、PK献上。いきなり大ピンチを作られてしまう。

このシーン、ルーズボールを拾った段階から鹿島はボールホルダーにプレッシャーが掛かっていないままボールをサイドに運ばれ、サイドから斜めに切り込んできた今掛への対応が完全に遅れてしまった結果のファウルとなっている。ファウルを犯した和泉だけの責任ではなく、問題なのはこうしたシーンが開幕戦、さらに昨季以前からずっと起こっている、鹿島の守備で恒常的に抱えている問題ということである。マンツーマン意識の強い守備スタイルのためマークの受け渡しに問題がある、ボールホルダーへのファーストディフェンスが定まっていないとズルズルとボールを運ばれてしまいピンチを作られる。前からどんどんハメにいくスタイルのため、そもそも自陣深くで守るという展開はあまり想定していない(そうならないように守る)のか、そうした課題に手を付けるのはどうやら後回しになっているように思えるが、このままだと今後も今節のPK献上のようなシーンは十分に起こりえるだろう。

だが、この大ピンチを救ったのは若き守護神、沖悠哉。豊田陽平の蹴ったシュートが甘いコースだったのもあるが、ギリギリまで飛ばずに我慢したことで見事にシュートを弾きだし、PKストップ。結果として、このプレーで鹿島が落ち着きを取り戻したことを考えれば、今節のMOMは沖に贈られるのも当然と言える。

己の強みを発揮する鹿島のアタッカーたち

沖がピンチを救ってくれたことで、鳥栖に大きく傾きかけた試合は再び五分の状態に。時間の経過と共に徐々にスペースが生まれてオープンになる中で、力を発揮したのは鹿島のアタッカーたちだった。

64分、自陣で鹿島はボールを奪うとロングカウンターが発動。左サイドに流れた和泉にボールが渡ると、和泉はドリブルでそのまま運んでカットインしてシュート。これが見事にゴールに吸い込まれ、鹿島は大きな追加点を手にした。鳥栖の守備陣のプレッシャーの掛け方が緩かったのを見逃さなかった和泉がクオリティの高さを発揮したゴールだった。ゴールキーパーの手前でワンバウンドされるシュートはそう簡単に止められないだろう。

71分には相手陣内深くでボールロストしたものの、遠藤を皮切りに即時奪回が発動。途中出場の染野唯月と白崎も連動してボールを奪うと、最後は白崎のスルーパスに抜け出した染野が冷静にシュートを沈めて、決定的な3点目を奪った。白崎の直前で染野へのスルーパスに切り替えたプレー判断、染野のゴール前の落ち着きもさることながら、最も評価されるのは遠藤が相手のスキを見逃さずに即時奪回に動き、それに応じるように染野と白崎も動き出したことだろう。鹿島の高い位置でのプレッシングの理想形は3点目のようなゴールを奪うためにある。こうしたプレーをチームとして再現性が持てれば、もっと得点数は伸びてくる。そのお手本になりそうなゴールだった。

その後、お互いにゴールを奪うチャンスはあったが、スコアは動かずタイムアップ。3-0の完封勝利を果たした鹿島は今季公式戦初勝利。9年ぶりのカップ戦グループステージ初戦勝利を果たした。

まとめ

結果として完封で勝ったことで、開幕戦で作ってしまった嫌な流れを払拭できたのは大きいだろう。昨季は流れを掴めずに出遅れてしまったことが最終成績に大きく響いてしまっただけに、ここから上昇気流に乗ってくれることを期待させる勝利だった。

ただ、点差ほどのチームとしての完成度の差は感じなかったのも事実だ。守備面ではプレッシングのハマらない時間帯にいかにして振る舞うのかという昨季から継続している課題に答えを見出すことも出来なかったし、攻撃でも遠藤が中心となることで機能性は上がったが、遠藤頼みの感は拭えず、また監督のオーダーと攻め方が違うように見えたことも気になるところだ。

それでも、白崎が流れを変えてくれたことやボランチ、2列目、インサイドと3つのポジションをソツなくこなしてくれたことで、チームとしての戦い方の幅は広がったし、和泉や染野といったアタッカーが結果を残したことは今後のポジション争いを一層活性化させてくれることだろう。

次節は中2日でガンバ大阪とのリーグ戦になる。今節の勝利で掴みかけた勢いを持続させ、昨季一度も勝てなかった相手からリーグ戦でも初勝利をもぎ取りたい。

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