【メインは何にいたしましょう?】明治安田生命J1 第18節 鹿島アントラーズ-ベガルタ仙台 レビュー
戦前
鹿島アントラーズ
・現在8位
・前節は終了間際の失点で川崎フロンターレに1-2で敗戦
・リーグ戦中断期間中はルヴァンカップのプレーオフステージで清水エスパルスに連勝、天皇杯ではY.S.C.C.横浜に8-1で大勝
・天皇杯から中3日で迎える
ベガルタ仙台
・現在18位
・前節はマルティノスのゴールで追いつき、セレッソ大阪と1-1のドロー
・リーグ戦中断期間中は天皇杯でグルージャ盛岡に0-1で初戦敗退を喫する
・天皇杯から中10日で迎える
スタメン
・鹿島は前節から1人変更
・エヴェラウドが久々の先発復帰
・仙台は前節から3人変更
・キーパーにリーグ戦デビューとなるストイシッチ、センターバックに吉野恭平、ボランチに松下佳貴を起用
仙台のゲームプラン
・布陣は4-4-2⇔4-5-1
・守備時は赤﨑秀平が中盤まで下がって、スペースを埋める
・西村拓真は前線に残ってカウンター要員、それほど前からプレスはいかない
・基本的に中央のスペースを埋めて、サイドに追い出して侵入してきたところをはね返す
・多少押し込まれても失点しなければOK
・攻撃時の狙いは相手最終ラインの裏
・左サイドは氣田亮真、右サイドは西村が裏抜け要員
・右サイドハーフの関口訓充と赤﨑は降りつつ、相手を引き付ける役割
・ボール保持は数的優位を作ることはあれど、無理してボールは持たない
・右サイドバックの真瀬拓海は対面するエヴェラウドがそこまで守備に参加してこないので、積極的に高い位置を取って攻撃参加
ノッキングした荒木システム
エヴェラウドと上田綺世というストライカー2枚に、司令塔の荒木遼太郎とディエゴ・ピトゥカも同時にスタートから起用した今節の鹿島。基本的に鹿島が攻めて仙台が守る、という構図が明確になるであろう展開の中でどのような攻め筋を選ぶのか、というのが今節の注目点だったが、序盤は荒木を中心としたパスワークで崩すという選択になっていた。
中央のスペースを見つけてパスを引き出すのが上手く、狭いスペースでも苦もなくプレーする荒木を起点として、彼の周りにプレイヤーを増やして、パス交換やスルーパスで崩しにかかる攻撃の形は、相馬直樹監督就任以降で荒木がトップ下で起用されるようになってから、鹿島の攻撃の柱の一つとなっている。
荒木システムの理想形
今節もこの形の再現を狙う鹿島。荒木は中央を自由に動きながら、時に低い位置まで下がってボールを引き出していく。ピトゥカは崩しに参加するため高い位置を取り、レオ・シルバが低い位置でバランスを取りながら組み立てに加わっていく。ここまでは相馬体制になってから頻繁に見られていた形だった。
だが、この形は結果的に今節機能しなかった。仙台が中盤の人数を増やしてスペースを消そうとしてきたのもあるが、理由として大きいのが左サイドハーフに入ったエヴェラウドの存在だろう。エヴェラウド自身、ゴール前での競り合いなどで力を発揮するタイプのプレーヤーであり、崩しのフェーズでパスワークに参加することなどはあまり得意としていない。だが、そのエヴェラウドが中央に留まってパスワークに参加する位置取りをしていたため、結果としてパスワークでノッキングを起こしてしまっていた。
エヴェラウドが左サイドに入る中で、この形を選択した弊害は他にもある。この形において鹿島の攻撃パターンでは左サイドから中央においてパス交換をしながら相手を引き付けつつ、右サイドのスペースに展開。そのスペースを右サイドバックの常本佳吾が駆け上がってきて使うことで、そこからのクロスなどでチャンスを作り出すというのが形の一つだった。パスやクロスの質も悪くなく、アップダウンを厭わない常本が継続して起用されているのもこうした部分での意味合いも少なくない。
だが、エヴェラウドがパスワークに参加できないまま中央に留まり続けることで、左サイドにはサポートする選手が必要になり、サイドバックの永戸勝也が高い位置を取ることで対応していた。そうなると、バランスを取る兼ね合いから右サイドバックの常本は高い位置を取れなくなってしまう。ノッキングした左サイドの影響で、右サイドの攻撃にもマイナスが出てしまい、結果的にチーム全体の攻撃の機能性を下げてしまっていた。
鹿島の攻め筋の変化
中々機能しない攻撃を見て、鹿島は15分過ぎから攻め筋を変え始める。サイドに簡単に展開して、そこからのクロスでシンプルに2トップを活かすようになったのだ。エヴェラウドが左サイドにいるため、ファーサイドで彼を活かすために攻撃はここから右サイドが主流になっていった。
ただ、こうなると今度は荒木が消えてしまう。中央を使わずにシンプルにサイドを使うようになったことで、荒木の良さが活きるシーンがそもそもなくなってしまったのだ。30分過ぎに相馬監督の指示で荒木と土居聖真のポジションが入れ替わり荒木が右サイドに移ったが、これは中央のプレーヤーがバランスを取る役割の方が大きくなり、その役割は土居の方が適していること、また良さが消えてしまっていた荒木を少しでも活かすために右サイドに回してクロッサーの役割を与えたのだろうが、荒木をクロスの砲台としているのは正直もったいない感が否めなかった。
鹿島にしてみればこうして試行錯誤している中でもチャンスは作れていたので、そのどこかで仕留めることさえできていれば試合は自分たちのものとなっていただろう。だが、ストイシッチの好セーブなど仙台の守備の粘りもあってゴールをこじ開けることが出来なかったことで、徐々に旗色が悪くなっていく。逆に、仙台にしてみればこの展開は狙い通り。守備で粘ってスコアレスの時間を続けつつ、どこかで一発決めることが出来れば満点という意図だったはずだ。
痛恨の失点
スコアレスの時間が続いた中で、仙台は61分に3枚代えを敢行。手倉森誠監督にしてみれば、ここが勝負どころと思ったはずだ。最終ラインにアピアタウィア久を入れて3バックにシフトして鹿島の2トップのパワーに対抗しながらも、個の力で打開できるマルティノスを投入して得点を欲しがって前に出てきた鹿島の裏をカウンターで突く。この交代策含め、全て仙台の想定通りで試合は進んでいた。
61分~
試合が動いたのはこの仙台の交代直後だった。アピアタウィア久の蹴ったロングボールに反応した西村が犬飼智也とのルーズボールの競り合いに勝って、裏へ抜け出すと飛び出してきた沖悠哉もかわして、無人のゴールに流し込む。ゴール自体は狙い通りではなかったかもしれないが、仙台にとっては欲しかった先制点を手にすることとなった。
鹿島としてはこの失点で余計に試合を難しくしてしまった。ルーズボールをバウンドさせてしまったことで西村にボールへチャレンジできる時間を与えてしまった犬飼の対応が一番問題だが(サッカーのセオリーでは、ボールをバウンドさせると約2秒相手に時間を与えることになるので、極力バウンドさせずに対応しろ!と指導される)、最終ラインの上げ下げもせず、前からいくことをチームコンセプトとしているチームなのに土居のチェイスも緩かった。こうした部分は前半からずっと仙台に狙われており、今回はそこでエラーが起きてしまったという形になった。
カオスな猛攻
追いかける展開になった鹿島。5バックで守備を固める仙台をいかにして崩していくかというフェーズに入っていく。ここからも鹿島は基本的に2トップのパワーを最大限に活かすべく攻撃を仕掛けていく。
63分~
63分にまずは松村優太と小泉慶を投入。松村を右サイドに投入してサイド攻撃を強化しつつ、小泉の攻撃参加で厚みを加えるのが狙い。小泉はかなり高い位置でプレーを続け、ピトゥカが低い位置でパスを散らす、と役割も明確になっていった。
だが、これは鹿島がザーゴ体制下から抱える課題なのだが、鹿島はこうしたシンプルにパワーを使った攻撃が上手くない。相手のブロックに侵入する前に手数を掛けすぎたり、中央にいてほしいエヴェラウドや上田がサイドに流れてしまったり、松村に裏に走らせるようなボールを出さずに、空中戦を強いるようなロングボールを送ったり、と。仙台がああも守備を固めていくと、崩すのに難儀するのは仕方のない部分ではあるのだが、なまじ何でも出来てしまうだけに、こうした割り切りの思い切りに欠ける部分は今後も課題となる。
スコアは動かないまま時間だけが過ぎていく展開の中、鹿島はさらに白崎凌兵とファン・アラーノも攻撃陣に投入して、なんとか追いつこうと猛攻を仕掛けていく。最後の方は完全にカオスだったが、それが実ったのはアディショナルタイムも6分台に突入してのこと。鹿島はほぼラストプレーのコーナーキックから、一度ははね返されたボールをアラーノが拾うと右サイドから切り返して左足でボールを供給。おそらくクロスであったボールだが、これを誰も触ることが出来ずにネットに吸い込まれ、鹿島は土壇場で同点に追いついた。試合はこのゴールの直後に終了。1-1の引き分けとなった。
まとめ
なんとか勝点1を手にした鹿島。だが、この試合の収穫はこれだけと言っていい。同点に追いついたのはあそこまで試合時間を引き延ばしてくれたのもあるし、ラッキーな部分も大きい。完全に仙台の狙い通りの展開にハメられ、負け試合だった。
守備でやってはいけないエラーを起こして試合を苦しくしてしまったのは確かだが、問題なのは攻撃陣だ。決定機を仕留めきれなかったのもそうだが、押し込んだ割には作ったチャンスの数も少ないし、質も低かった。拙攻と呼ぶにふさわしい出来だろう。
今節はピトゥカ、エヴェラウド、上田、荒木とそれぞれ持ち味を持つプレイヤーを同時起用した訳だが、お世辞にも噛み合っていたとは言えなかっただけに、組み合わせの再考は必須だろう。良いものを全部使っておけば、勝手に美味しい料理が出来上がる訳ではない。どんなものを作りたいのかを考え、そこから逆算して使う食材を決めていく。それはシェフである監督の仕事だ。今節はそのバランスがあまりにも稚拙だった。
ケガ人が戻ってきて、チームの戦力自体は充実しつつある。その中でどういった起用で、どういったサッカーを目指していくのか。そこの再定義は必須になってくる。今節のようにせっかく使われているのに良さが活きてこずにブレーキとなってしまうと、使っている側も使われている側もハッピーにはならない。道を誤るとチームがバラバラになるリスクも抱えているだけに、ここからの相馬監督のマネジメントには注目したい。
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