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【我慢比べの始まり】明治安田生命J1 第1節 サンフレッチェ広島-鹿島アントラーズ レビュー

戦前

鹿島アントラーズの開幕戦の相手はサンフレッチェ広島。昨季6位であり、5バックでの手堅い守りと、前線の3人に加え、両ウィングバックの個の力を活かした攻撃が武器のチームである。ルヴァンカップの横浜FC戦でも、サイドからの攻撃で前線のストライカーを活かして2得点、守備では強固なブロックを築き上げて無失点で勝利している。正直、今の鹿島にとってはこういった手堅いチームは、かなり分の悪い相手である。

一方、鹿島はルヴァンカップの名古屋グランパス戦からメンバー変更はなし。センターバックは関川郁万と町田浩樹の若いコンビで臨むことになった。また、ベンチにはケガから復帰した名古新太郎が入っている。

スタメン

スタメン

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後半開始時

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最終

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両チームの攻守の方針

まずはお互いの攻守の形を見ていく。広島は3バックを崩さずにビルドアップ、2ボランチに預けて展開力のある彼らの力を活かすというのが理想形のようだ。守備時は5-2-3で、前線の1トップ2シャドーが個々の判断でプレスを仕掛けるという形になっていた。ただ、この個々の判断というのが中々に曖昧で、彼らが下がって5-4-1になることもあれば、突然単独でプレスに来ることもあり、この辺はチームとして統一されてないのだろうなと感じた。

一方の鹿島は今季ずっとやってきたセンターバックとボランチの1枚を加えた形でのビルドアップをこの試合でも見せていた。ただ、先程も述べたように広島の前線の守備がかなり曖昧なためにセンターバックが自由にボールを持てる機会も多かったため、ボランチが最終ラインまで下りることはそこまで多くはなかった。また、立ち上がりはリスク回避の意味合いもあったのか、裏のスペースにロングボールを放り込む機会が多かった。プレスにかける体力をコントロールしたい、自分たちがボールを握ることで主導権を握りたいという意味でポゼッションを重視していたはずだが、広島の守備ブロックが整う前に攻撃してしまいたい、ロングボールで押し込んでこちらがプレスを掛ける機会を増やしたいという狙いがあったのか、縦への意識はかなり強かった。

また、守備では引き続きプレッシングへの意識が強かった。特に意識が高くなっていたのは、後ろからの連動性。最前線の選手がスイッチを入れれば、後ろの2列目3列目の選手も前に出ていってパスコースを封じてインターセプトを狙おうとする姿勢はかなり強くなっていた。ただ、正直精度はまだまだと言わざるを得ないだろう。まず、FWの選手のところでかなりパワーを使っているために、必要以上の負荷がかかっている点。そして、プレッシャーの掛け方が良くないがために、2トップの間を通されて、一番警戒すべき相手ボランチや司令塔の森島司にあっさり縦パスが渡っていた点である。守備の原則はまず直接ゴールに迫れる可能性の高い中央から、可能性の低いサイドに追い出し、そして相手の視野を限定することにある。中央ならば360度見渡すことが出来るが、サイドはタッチラインがあるために見渡せるのは180度になる。

鹿島の攻勢

ただ、そんな鹿島のプレッシングに、序盤の広島はかなりバタついていた。鹿島のプレスの強度が予想以上でそこに慣れるのに時間を要したというのもあるだろうが、先述したように鹿島の拙さから中央に縦パスを入れられるシーンもあれば、あっさりとサイドに追い込まれてボールを失うシーンも少なくなかった。広島が即時奪回やプレスの判断を個々に任せていたのも手伝って、試合を通じてボールを保持していたのは鹿島の方だった

先程、鹿島は縦への意識が強かったと触れたが、そんな中でもボールの動かし方はかなり改善が見られていた。ボールを持って落ち着ける機会があれば、ボールホルダーの近くに三角形や菱形を作るように選手が寄って複数のパスコースを作り出し、そこでのパス回しで相手が寄ってきたところで、フリーのスペースに大きく展開。サイドチェンジでの横への揺さぶり、ロングボールでの縦への揺さぶり、縦横両方でトレーニングで意識していたことが表現できているケースはかなり増えていたように見えた。

立ち上がりに迎えた決定機はその揺さぶりから生まれたものである。三竿健斗からの展開でエヴェラウドが落としたところから、フリーのファン・アラーノが持ち込んでシュート。こぼれ球に和泉竜司も詰めたがどちらもポストに阻まれ得点ならず。この決定機が決まっていれば、試合展開はかなり変わっていたと思うのだが…。

失点シーン

だが、そうした中でスコアを動かしたのは広島の方だった。20分、鹿島が自陣深くで得たスローインから三竿にボールが渡ったところで奪われて、ショートカウンターからドウグラス・ヴィエイラに決められて失点。良い流れで試合を進めながら、ワンプレーで失点する。鹿島はここ数試合で起こっていた現象を今日も繰り返すことになってしまった。

このシーン、広島の選手が個々の判断でインターセプトに来たところへの対応が遅れた三竿のミスという部分もあるだろう。ただ、三竿に対してプレッシャーが来ていたことを伝えるべく、周りの選手がコーチングしていなかったのかは疑問に残る部分である。特に、パスコースを作り出していた町田はその部分が必要不可欠なところ。ただパスコースを作り出すだけでは、サポートとしては不十分だ。

さらに、鹿島は25分にも失点してしまう。ハイプレスで前がかりになっていたところ、広島はゴールキーパーの大迫敬介まで下げてロングボールで打開。そのロングボールをやや低めの位置で森島が受けたところを、鹿島の守備は潰しきれなかった。森島から右サイドに展開された時には広島の攻撃陣3人に対して、鹿島の守備陣は2人と完全に数的不利の状況。結局、クロスにニアの川辺駿が潰れて、ファーサイドのレアンドロ・ペレイラに押し込まれて失点。大迫のキック精度を褒めるべき部分でもあるが、鹿島にとっては森島をあそこで止められずにサイドに展開された時点で詰みだった。ハイプレスを採用している以上こういった場面は起こりうるだけに、後ろの選手たちはこうした場面で潰し切るという、個の力は必要不可欠である。

光明実らず

2点を追いかける立場になった鹿島。もう無理して攻める必要のない広島は5バックで撤退守備の色合いを強めていく。失点してからの残り65分は、ボールを持ってあの手この手でどうにかしてこじ開けようとする鹿島と、それを跳ね返し続ける広島という構図が続くことになった。

鹿島は先述したようにボールの動かし方に改善が見られたため、ゴール前までボールを運ぶ回数はかなり増えていたが、それでも広島の守備網を破るまでには至らなかった。そうした時にハンマーとして叩き割ってくれることを期待されたエヴェラウドも結局は不発。彼に限らず、ファン・アラーノや和泉にしても動き自体は決して悪いものではない。むしろ、試合を経るごとに良くなっていっている感すらある。しかし、どうしても最後のゴールが奪えておらず、それがプレー全体の焦りに繋がり、余裕を消してしまっている印象だ。これについてはケチャップの蓋が開くまで待つしかないだろう。

そうした中で今日も荒木遼太郎のプレーは光っていた。途中出場でピッチに立つと、局面に応じた的確な立ち位置でボールを受けて捌き、攻撃を活性化させていた。特に光ったのは仕掛けの部分。大外に位置取ることが多かったのもあって、そこからドリブルで仕掛けてクロスという流れになることが多かったのだが、ドリブルのスピードがあり、またタッチが細かいことで、相手に寄せるスキを与えず、フィジカル勝負に持ち込ませないようにすることが出来ていた。

しかし、ゴールを奪うことは出来ず。84分にはボールを運ぼうとした名古が東俊希に奪われるとそこからカウンターを食らい、最後は森島に決められて勝負あり。1失点目と同じような形でトドメを刺された鹿島は、結局最後まで反撃できずにタイムアップ。開幕戦は0-3という惨敗に終わった。

総括

試合展開自体は、ACLプレーオフやルヴァンカップとあまり変わりない。立ち上がりからチャンスを作りながらも決められず、逆に自らのミスから失点してしまい流れを悪くしてしまう。引いた相手を崩し切る術もまだ持たないチームは、攻めあぐねたままタイムアップの笛を聞く。サッカーではよくある「内容では負けてなかった」という台詞が聞こえてきそうな試合展開だ。

鹿島にとってはまずこの流れから脱することが当面の目標になる。この流れを脱するにはとにかく一つのゴール、一つの勝利という成功体験が何よりの特効薬だ。それまでいかにミスなく耐えられるか、いかにこの生みの苦しみと言うべき痛みを受けていられるか、この我慢比べに鹿島は勝たなくてはならない。我慢比べの船出は始まったばかりだ。


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