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鹿島アントラーズの監督とFDの人事について


岩政さん退任決定のタイミングから察すると

まあ、タイトルと上記のポストについての話をこれからしていくんですが、その前にポポヴィッチを招聘した時の経緯について、考えてみたいと思います。

まず、そもそもとして、昨季の終盤戦の時点では今季も岩政さんが監督というのが当初は既定路線だったのではないか、と個人的には思っています。なぜかと言うと、岩政さんが退任後にあちこちのインタビューで喋っているのですが、鹿島の監督退任が決まったのが12月初旬だった、という時期にその理由があると思っているからです。

――そもそも、ハノイFCの監督に就任した経緯はどういうものだったのでしょうか?

「選手でも、監督でもそうですけど、オファーというのはいろいろな段階があります。『ちょっと関心があるから、状況を聞いてみよう』という打診も世間では、オファーというふうに捉えることもありますよね。そういう意味では、12月初旬に鹿島退団が決まったころに打診がありました。でも、実際に動き出したのは、1月に入ってからです」

――鹿島退団が発表されたのが、12月5日でした。すでに国内の他クラブは、翌シーズンの準備が始まっている状況だったと思います。
「そうですね。それでも『鹿島で5位という成績を残したんだから、待っていれば、半年後くらいには、遅くても1年後にはオファーがあるから、待っていればいい』と言ってくれる方もいました」

鹿島退団後、岩政大樹はなぜ、ベトナムリーグの監督に就任したのか

振り返ってみれば、昨季は10月21日の時点で無冠が確定しており、あとはACLの出場権を獲得できるかどうかというところが微かに可能性として残っている状態でした。つまり、シーズンとしての大体の結果はその時点で出ているわけです。そう考えれば、その結果とそこまでのチーム作りをその時点で評価した上で来季の監督人事について、決めていくというのが妥当な方向性でしょう。逆に言えば、その状況で来季の監督どうしようかなー、と迷っていたら、その時点でもうおかしいです。

考えられる可能性としては、もう一個あります。それはクラブとしては岩政さんの退任を早いうちに決めていたけど、本人にはリリースがされる12月初旬ギリギリまで伝えなかったパターンです。ただ、これは岩政さんのことを考えるとめちゃくちゃ性格が悪い所業ですし、それは組織としてもっと問題があるので、まあないと信じたいです。なぜなら、岩政さんにとってみれば来季どうなるかわからない状況のまま引っ張られていきなり無職になってしまいますし、そんな時には多くのJクラブは来季の人事を固めているので、職場を求めようにも見つかる可能性はかなり低いからです。流石にそんな後足で砂かけるような真似はしていないということに、ここではします。

というわけで、岩政さんにギリギリまで退任を伝えていなかった=元々は今季も岩政さんでいくつもりだった、というロジックで考えてみます。このロジックがあるにも関わらず、結果岩政さんは退任となりました。ということはつまり、元々は岩政さん続投で動いていたのに、そこにNOを唱える意見がクラブであって、結果としてその意見が採用された、という可能性が見えてきます。それを言い出したのが誰なのかをここでは突き詰めることはしませんが、少なくともこの時点で今季に向かう一旦の前提は全て白紙に戻ってしまったことは否定できないでしょう。

なぜポポヴィッチだったのか

この状況で一番困ったのは間違いなく吉岡さんでしょう。元々は岩政さんでいく予定だったのに、どういう経緯かはわかりませんが、ギリギリでその方針を転換して、新しい監督を探す必要が出てきてしまったのですから。その上で、監督を代える決断をするということは、当然それまでの監督が作り上げた今のチームには納得いってないということになります。つまり、新しい監督には今まで以上の結果はもちろん、今まで以上のスタイルの完成度をピッチの上で見せること、を求めなくてはならない状況です。もっとシンプルに言えば、ちゃんとスタイルを確立して、その上でタイトルを獲得できる能力がある人を連れてこなくてはなりません。

そんな中で、しかも、時期は12月の初旬。多くのチームは来季の監督人事の方針を固め終わっている時期であって、フリーになった監督がいたとしても有力な人はもう次の職場が決まってしまっているような時期です。良い監督を探そうにも選択肢は狭まっている状況になっています。正直、この時点で鹿島は今季に向けてのスタートで遅れを取った、と言わざるを得ないでしょう。

さらに、この監督選びはこれまでの監督選考とちょっと事情が違います。これまでは、例えばヴァイラーを呼んだ時は吉岡さんがFDになって初めて呼んだ監督というのもありますし、ヴァイラーが鹿島にとって初めての欧州出身の監督かつJリーグ初挑戦で未知の部分が多い、というのがあります。最初だし失敗してもしょうがないよね、どっちに転ぶか分からないよね、っていうのはあったと思います。また、岩政さんもヴァイラーで上手くいかなくなって、コーチにいた岩政さんを急遽監督に据えた、という岩政さんに対する負い目もありますし、据えざるを得なかったという事情も考慮する必要があります。岩政さん自身がプロでの監督初挑戦、というエクスキューズもありましたし。

それを踏まえた上で、昨季終了時点での岩政さん続投にはNOという結論が出た中で、結果を出すための監督を連れてくるということは、この監督選びが吉岡さんの強化責任者としての素質そのものも問われることに繋がってきます。もうFDとして初めての監督選びでもないですし、シーズン途中でもありません。いくら時期が遅れたとはいえ、ここで監督選びをミスれば、確実に吉岡さんに対する責任問題になるのは避けられませんし、そこで吉岡さん自身の進退問題に繋がってしまうことも避けられないでしょう。

時期が遅れたので選択肢が限られている、確実に結果を出さなければいけない、このプレッシャーが掛かる中で吉岡さんが選んだのがポポヴィッチだったのでしょう。吉岡さんはかつて自分が共に仕事をした経験があって、その上でJリーグでの経験も豊富なセルビア人が、この状況の中では一番ベストだと考えたことになります。言ってしまえば安牌を選んでいることにはなりますが、ここでポポヴィッチを選ぶ吉岡さんの決断は理解できるものですし、客観的に見て決しておかしな決断ではありませんでした。

ポポヴィッチで勝つには

吉岡さん自身がよく知っていること、Jリーグでの経験が豊富なことは間違いないポポヴィッチが監督になることで、少なくとも今季大コケする可能性はこの時点でかなり下げられたと思います。もちろん、それがゼロではありませんし、結果論で言えば開幕戦を快勝できたことでノった部分はあるでしょうが、それでも思ったんと違う!みたいな頓珍漢なことにはおそらくならなかったはずです。

ただ、ポポヴィッチを呼ぶということは同時に大きな問題を抱えることにもなります。それはポポヴィッチはこれまでJリーグで指揮を執った経験こそ豊富であるものの、いずれのチームでもタイトルや昇格といった明確な結果を残しているわけではない、ということです。言うなれば、Jリーグのことはよく知っていても、めちゃくちゃ優秀な監督ではない、ということになります。

これに加えて、昨季終了時点での鹿島の編成はJ1の中で上位クラスにこそ位置していますが、優勝を確実に狙っていけるというほどの優位性を持っているわけでもありません。それは掛けている人件費的にもそうですし、選手の能力値的にもです。つまり、普通にやれば優勝できるよね、ってチームではないのが今の鹿島である、という状況です。

監督が決して優秀ではない、編成も決して抜けているわけではない。この状況の中でタイトルという目標を勝ち取るには、ただじっとしているだけでは不可能である可能性が高いです。逆に言えば、目標達成には何らかの現象を起こす必要があります。

個人的にはその現象には、3つの選択肢があると思っていました。1つはポポヴィッチ自身が大化けすること。前と比べてめちゃくちゃ優秀さが増していることに期待する、ってことです。ただ、可能性的になくはないですが、それに期待するのは現実的ではないでしょう。なぜなら、ポポヴィッチが日本を離れていたのがわずか1年間と短かったこと、またポポヴィッチが日本の複数チームで指揮を執っているという事実が、余計にポポヴィッチ自身のポテンシャルを示してしまっているというのがあるからです。

2つ目は、編成を強化して、優勝を狙う優位性を持つこと。要は、大型補強で一気に戦力アップや!、ってことです。言うのは一番簡単なのがこれなのですが、それを達成するには当然莫大な資金が必要となります。そして、吉岡さんがこれをすることはしなかったのかできなかったのかは分かりませんが、結果としてしませんでした。開幕前に加入した即戦力はチャヴリッチだけで、結果的に大当たりだった濃野は大卒ルーキーということもあって、当たったら儲けもん、という感じでしたし。夏場も佐野海舟が抜けた穴を三竿で埋めて、さらにターレス・ブレーネルや田川も加えましたが、松村や土居などチームを離れた面々もいることから、チーム力が劇的に上がりました!、という印象を抱くまでには至りませんでした。

そして、3つ目は「ポポヴィッチ×鹿島」という化学反応でチームが一気に大化けする、という現象です。吉岡さんが一番期待していた現象はこれだったのではないか、と思っています。ポポヴィッチの人柄、志向するスタイル、アプローチの方法が、鹿島というクラブの文化や選手たちの個性、これまで築いてきたものにドンピシャでハマって、単純な掛け算以上の効果を発揮して一気に強くなる。これを確実にかつ予想以上の効果で発生させた上で、他チームの動向も上手いこと鹿島に味方してくれる(本命チームがコケるとかね)、これが今季のチーム編成を鑑みた上で鹿島がタイトル獲得という目標を果たす上では必須の条件だと、私は考えていました。

ある種予想通りの結末

結論から言うと、タイトル獲得に必要なほどの化学反応は起きなかったね、っていうのが今季ここまで戦った上での私の印象です。もちろん、選手は完璧ではないにせよよく戦ってくれていると思いますし、私はポポヴィッチもここまで自身の力を十分に発揮してくれたと思っています。それでも、カップ戦ではすでに敗退が決定していて、リーグ戦でも可能性は残しつつも、優勝争いで首位チームに遅れを取っている、というのが避けては通れない現実として、鹿島の前に横たわっています。

ポポヴィッチの監督就任報道が出た時と今季の開幕前に上記の記事をアップしたんですが、その時に書きながら思っていた印象と現時点での私の考えにはそこまで乖離性がないのが現状です。スタイルは昨季のものを踏襲しながら、よりアップデートしていくことはないにしても、より攻守においてアグレッシブな志向になるだろうなということも、メンバー固定しがちで、主力の選手たちのプレータイムが嵩んでいくんだろうなということも、良くも悪くも予想できたことでした。その上で、現状の成績は良い悪いは置いておいても、すごく納得いきますし、なんというかポポヴィッチっぽいチームの成績だな、と思います。

だからこそではあるのですが、吉岡さんのここまでの取り組みは結果として不十分であった、と言わざるを得ません。「ポポヴィッチっぽいチームの成績」が予想の範疇であったとするならば、それを良い意味で裏切るような働きかけを行うことが吉岡さんの役目でした。それは補強はもちろんですし、ポポヴィッチに戦い方を進言したり、若手をもっと鍛えてラージグループを増やせるようにしたりと、できることは様々ありました。もちろん、それをやってなかったわけではなかったと思いますが、そこが足りていないから現状の結果に終わってしまっているんだ、というロジックは否定できないものでしょう。

優勝したことのないポポヴィッチに優勝から遠ざかっているチームを託したら、そりゃ掛け合わせ的に優勝できないよね、っていう当たり前の結論に現状終わってしまっていることが、個人的にはものすごく残念だなと思っています。期待できないのにガチャを回して、当然のようにハズレを引いてきてしまっている以上、それを主導した吉岡さんが責任を取って辞める、という形になるのは、個人的には避けられない結末だったな、と思います。

個人的な思い

ここからは個人的な思いを書きます。いや、今までも個人的な思いを書いているのですが、よりダイレクトに思っていることを書こうと思います。

まず、今回の解任劇があってもなくても、ポポヴィッチが長期政権を築くことはないなと思っていました。今季終わり次第で基本的にはタイトル獲れなかったら退任してもらうことが基本線であり、それはどんなに妥協してもACL出場権獲得がボーダーだろうな、と思っていました。

理由としては、ポポヴィッチの取り組みには先がないなと思っていたからです。ラージグループを早い段階で絞り、彼らを中心にスタイルを組んでそれを熟成させていったことで、今の順位があると言えますが、逆に言うとそこから先にもっと戦い方の幅が広がったりすることはないなと思いましたし、それをするには補強をもっともっとする必要があるのですが、今のクラブにそういう体力はないなと思っていたので。

ポポヴィッチは加速力は高いですが、最高速は決して速くないエンジンだと思っています。今の最高速からさらに速いスピードを求めたいですが、ポポヴィッチには出せないでしょう。まして、今の主力である優磨や植田、関川、安西は今季に限らずここ2〜3年主力としてフル稼働を続けています。勤続疲労を考えれば、来季も健康体でフル稼働してくれる保証はないですし、仮にACLなどで試合数が増えれば、その可能性はさらに狭まってきます。その状態でポポヴィッチにチームを預け続けても、ポジティブな結果を生む可能性は低いと思っていました。

一方で、ポポヴィッチを呼ぶまでの経緯から今日の解任に至るまでの一連の流れは、今の鹿島の実情をリトマス紙のごとくよく表しているな、と思います。一貫性のない方針転換によって、そもそもの時点で他チームに遅れを取り、その結果として「弱い」選択肢を選ばざるを得ず、そこからクラブとしての地力で良いところにいきかけるものの、自分たちの目標に辿り着くだけの力も方法論も持ち合わせておらず、結果として中途半端に終わってしまう、というのは今季に限らずここ数年の鹿島が何度も繰り返していることであり、それがポポヴィッチと彼を呼んだ吉岡さんによって、より一層目立つことになったのが今、というのは否定できないでしょう。

その結果として、ポポヴィッチと吉岡さんはクラブを去ることになりましたが、彼らはあくまで問題を表面化させるリトマス紙であっただけで、彼らが辞めれば問題が解決するわけではありませんし、問題の根源はもっと深いところにあると思っています。

吉岡さんに関して言うなら、彼はここ数年の結果の責任を全て背負わされる形になっていますが、彼が来てから鹿島が弱くなったわけではなく、チームは元々勝ててなかったですし、吉岡さんは満さんの後継者としてクラブとして手塩にかけて育てて、満を辞して世代交代してからの今、なのです。そう考えると、結果の出ない吉岡さんを生み出したのは間違いなく鹿島アントラーズというクラブそのものであるのです。これを踏まえれば、吉岡さんが辞めれば全てが上手くいくわけではないことがお分かりいただけるかと思いますし、今一番の問題はここまで鹿島が自信を持っていたはずの方法論で結果が出ていないということが如実に突きつけられてしまっている、ということです。

ということで、鹿島は今、誰を次の強化部の責任者にするか、誰を次の監督にするか、ということよりも今の方法論で上手くいってない原因は何なのか、上手くいくためにはどうすればいいのか、自分たちの目指すべきことは何で、それを達成するためにすべきことや大事にしなければいけないことは何か、ということを突き詰めることの方が遥かに大事なフェーズに来ています。それが決まらない限り、よっぽどガチャで激レアを引きでもしない限り、同じ問題の繰り返しになるはずです。

なので、まずはそこを一つ一つ決めていくことから話をスタートさせていくべきです。誰がどんな風に決めていくかはもちろん重要です。クラブとして改めてそこをしっかりと定義して、それに見合う人を連れてくるというのもあるでしょうし、クラブとしては概要を定義しつつ、詳細な部分はそこの設計に長けた人を連れてきて託す、というのも一つの手でしょう。いずれにせよ、話を始めるならまずそこからです。原因を人に見つけようとする限りは、必ず失敗しますし、長続きしません。良い人材を継続的に生み出せる仕組み作りを考えるべきですし、その仕組みをいかにして作るべきか、その仕組みの上で必要なことは何なのかを突き詰めていくべきです。

個人的には、今の鹿島だって全てが悪いわけじゃないのだから、今の良いところをもっと伸ばしていくにはどうすべきか、というところで考えていくべきだと思っています。何ももっとボールを持てるようになりなさいとか、配置をシステマチックにしなさいとか、(できた方がいいとは思うけど)言うつもりはないです。ユースなどの育成年代を見ても、走って球際で戦える選手は揃っていますし、今後もそうした人材は大事にしていくべきでしょう。では、彼らを活かしてどうやって勝っていくべきか。もっと個々の能力に頼らないボールの奪い方を身につけていくとか、ボールを奪いやすくするようなボールの運び方だったり配置を整備するとか、そうした部分をもうちょっと言語化して定義していくだけでも、現状からの変化は少なからず生まれると思っています。

まだ試合の残っているシーズン終盤にすべきことではないかもしれませんが、今回の流れによってクラブとしての課題は表面化させることができました。間違えてはいけないのは、人で解決したという解釈では決してないことです。課題を表面化させた以上、次のステップはそれをどうやって解決していくかを考えていくことです。ここでの振る舞いがクラブの行く末を大きく左右していくのは言うまでもありません。まずは、注視していきたいと思います。

人が宣う地獄の先にこそ わたしは春を見る

米津玄師 『さよーならまたいつか!』



遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください