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鹿島アントラーズの2024シーズン開幕に向けての雑感

いよいよ今週末から2024シーズンのJリーグが開幕となる。今季こそタイトル奪冠を期す鹿島アントラーズは、新監督にランコ・ポポヴィッチ監督を迎えて新シーズンを戦うことになる。ここでは現時点で鹿島のこれまでの状況を整理しつつ、今季を展望をしていく。


ポポヴィッチ招聘の意図

まず、ポポヴィッチ監督就任までの時系列から振り返っていく。

12/3 2023J1最終節、岩政さんが退任を示唆するようなスピーチ

12/4 岩政さん退任リリース

12/14 ポポヴィッチ就任報道

12/21 ポポヴィッチ就任リリース

この状況で気になるのは、岩政さんがインタビューで喋っていることをそのまま受け取ると、どうやら岩政さんの退任は既定路線ではなく、決まったのは最終節直前らしい、ということだ。そこにどういう意志決定のプロセスがあったのかをここでひも解くことはしないが、元々は岩政さん継続の可能性もあった中で、結果なのか内容なのかはわからないが何らかの部分で岩政さん継続にNOという結論が出たことは間違いない。とはいえ、他のチームはすでに来季へのチーム作りを始めている中で監督交代というジャッジを下したので、この時点で鹿島は来季への準備という点で他チームに後れを取ることになった。

というわけで、新監督を探すことになった鹿島。監督選びの条件に挙げたのはおそらく、攻撃面の改善ができることと、昨季よりも良い成績が出せること(就任1年目から優勝争いレベル)だろう。守備面は昨季1試合平均1失点に抑えたことである程度計算できるようになったが、攻撃面はセットプレーや個々の力でなんとか結果を出しているものの、優勝争いには物足りないし、そもそものシュート率などの数値がよろしくない。ここに手を付けてくれて、成果を出してくれればチームの成績を上向かせることができる、その考えから、限られた時間の中でそこの部分で結果を残せる監督の招聘に動くことになった。

攻撃面をどう改善するか、というテーマの中で、鹿島が出した答えは守備から攻撃への切り替えを重視し、より明確に縦への方向性を打ち出すことだった。岩政さんはどちらかというと、選手個々の特性を活かす形を採り、その中でボール保持の中での崩しにこだわっていたが、クラブとしては選手の移籍の流れが激しい昨今において、それを完成形にまで持っていくのは難しいという判断を下し、世の潮流に合わせながら結果を出すためにはより自分たちから方向性をハッキリ打ち出す必要があるという結論を下し、そこからの方向性が攻守の切り替えを重視したスタイルになったと思われる。

これを前提にして監督選びをすることになった中で、もう一つの条件であるのが結果に即効性を求めること。新監督に中長期的な視野でチーム作りをしてもらうというよりは、あくまで目の前の結果を追い求めることに注力してもらう。これは鹿島が常にタイトルを獲ることを目標にしているクラブであるからな部分もあるし、ここ数年のしくじりからこれ以上躓いている暇はないという部分もあるだろう。

上記の条件を踏まえたうえで招聘したのがポポヴィッチなのだろう。スタイルとしては攻守に自らアクションを起こしていくことを求めていくものだし、テンポよく相手ゴールを目指していくことを狙っている。また、大きいのが吉岡フットボールダイレクターと大分時代で共闘しており、ポポヴィッチ自身もJリーグでのキャリアが豊富であること。ポポヴィッチがどんなことをやりたいのか強化部としても分かっているし、またポポヴィッチもJリーグがどんなリーグであり、どういった選手がいるのかをある程度把握できている。これが、海外から未知の外国人監督を呼ぶよりもメリットが大きいと判断した部分だと言える。

編成について

続いては、ここまでの移籍動向と編成について見ていく。まず、オフになって鹿島が取り組まなければならなかったのは人員整理だ。正直、昨季の鹿島はあまりに選手を抱えすぎていた。補強したい部分があっても、スカッドをスリムにしなければダブついた状況は変わらない。

この観点と新監督探しで後れを取ったことで、移籍市場の鹿島は思うようにいかない部分が多かったと思われる。主力の放出は広瀬とピトゥカのみに抑えた一方で、明確に戦力アップしたとは言い難い。センターバックはチャルシッチ獲得が白紙になったことで層の薄い状態が続いているし、佐野海舟の近々での海外移籍の可能性の高いボランチも知念のコンバートで耐えている状況だ。ハイテンポで選手に昨季以上の肉体的負荷が予想できるスタイルを採用している以上、現状の選手層ではやや不安な面は否めない。

なので、今季の編成としてはどれだけ離脱者を抑えて、主力を一年間健康に稼働させられるか、ということが大前提になってくる。ここがガタつくようだと、チームの成績が大きく乱高下することも覚悟しなくてはならない。

その上で、注目なのがやはりチャヴリッチだ。スロベニアリーグで結果を残し、スロバキア代表から待望論が出るほどのストライカーはやはり伊達ではないポテンシャルの持ち主のようだ。シンプルな裏抜けで相手を出し抜けるだけのスピードを持っており、早くにコンディションが整い、Jリーグに順応すれば無双できるだけの可能性がある。EUROでの離脱は懸念事項であるが、このストライカーの活躍でチームの成績が一気に引き上げられるかもしれない。

今季のスタイルについて

今季の鹿島が目指すスタイルで最もキーになるのは、相手の思うような状況でプレーさせないことで、主導権を握るということだ。攻撃では相手の守備陣形が整った状況で守らせず、守備陣形が整う前に攻め切ることを狙っているし、守備では相手の狙い通りの攻撃の形を作らせず、苦しい状況に追い込むことを狙っていく。ボール保持も攻守の切り替えもプレッシングも全てはそのためにある。

攻撃面では相手が整う前に攻め切るし、整った状況ならバランスを崩すことを狙っていく。ボール保持では素早くボールを動かしながら、相手の守備陣形にスキを作ることを目的にしており、あくまで自分たちが落ち着くためだったり、奇麗な形を作るためにやっているわけではない。だから、極力最後尾の組み立てには人数を掛けないことを求めていくし、スキがあればすぐに長いボールを交えて局面を変えることを狙う。

また、そういう意味では相手からボールを奪った時は、相手が整っていない状況の方が多く、鹿島にとっては一番のチャンスになる。だからこそ、ここに一番人数を掛ける。それは前の選手だけでなく、ボランチやサイドバックでも同じであり、彼らもどんどんボールホルダーを追い越して、ゴール前に侵入していくことが求められる。水戸戦でボランチの樋口が決めたゴールは、そうした意味では狙い通りのゴールと言えるだろう。

一方で守備面は、相手の思い通りにさせない、自分たちがチャンスにしやすい形でボールを奪えるようにすることが目的になる。そのため、常にボールホルダーにはけん制を続け、パスコースを限定させる。相手が苦し紛れに出したパスは積極的にインターセプトを狙い、選択肢がなくなってきたところでは一気に襲い掛かる。高い位置で奪うために、相手が後ろ向きになるプレーを選んだ時はチーム全体で圧力を掛ける。守備でも多くのエネルギーを使うことを求めるが、それを有効にするために個々のがんばりをチーム全体の圧力に変えることが重要となる。

懸念としては、負荷の高いスタイルを選択している分だけケガやガス欠は考えられるし、そこのペース配分を考慮してテンポを落とすことになると、相手に押し込まれた状況での守備や引いた相手を崩すための攻撃といった、本来自分たちがあまり想定していない状況でのプレーが求められることになる。それをどこまで許容するのか、その状況でどこまでやれるのか、といった部分は成績を少なからず左右することになるはずだ。

こうした部分ではどうしても個々の力に頼らざるを得なくなる部分が出てくるはずだ。守備面では植田や関川の強さや高さは期待できるし、攻撃面でも樋口のキック精度や優磨の強さ、チャヴリッチの速さという面も計算できるかもしれない。だが、それだけでは昨季と変わらない。それ以上の個の力がどこまで発揮されるか、というところが重要になってくるだろう。新たな個の台頭による積み上げに期待したい。

マネジメントについて

ポポヴィッチのマネジメントについて

チームが始動して、グラウンドでの振る舞いやコメントを見る限り、ポポヴィッチはマネジメントの部分にかなり気を遣っているように思う。意識しているように思うのは、いかに早期的に結果を出すか、いかにチームのモチベーションを落とさないか、ということだ。

早期的に結果を出す、という点は先述した面も含めてのフロントからのオーダーなのだろう。元来鹿島が結果が求められているクラブであり今季もそれは変わらないこと、そうした点で考慮してJリーグでの実績がある自分が呼ばれているということはポポヴィッチも承知しているはず。主力組と控え組を始動からハッキリ分けて実戦形式のトレーニングを行っているのも、(元々そういうマネジメント方針なのかもしれないが)その方がリーグ戦で戦う上でのチーム作りを早められるのではという目論見はありそうだ。同じメンバーでやり続けた方が、そのメンバー間での連係や戦術理解は高まりやすい。こうした状況を踏まえると、今季の鹿島には開幕ダッシュが求められる。少なくとも、開幕から勝点を積めずに出遅れるようだと前提が崩れるために、かなり苦しいシーズンを覚悟しなくてはならないだろう。

また、強度の高いサッカーをやる上では、強度を発揮するための運動量は欠かせないし、そこにはモチベーションは少なからず関わりを持ってくる。そう考えた時に、モチベーションを高く維持するための働きかけは重要だと思っているのだろう。良いプレーに対しては褒めるアクションがどんどん出るし、逆にそうではないプレーに対してはどんどん指摘していく。ただ、指摘していく時も誰彼構わずというわけではなく、主力として確かな地位を築いているわけではないが期待値の高い選手にはその場で名指しで言うが、そうではない若手や逆に実績十分の主力に対しては、個別に時間を掛けて話し込むシーンが多く、彼らのプライドに配慮したような働きかけがここまで見られている。

強化部のマネジメントについて

昨季の鹿島で反省点に挙げられるのが、岩政さんの強いコメントが悪目立ちしてしまったことである。発信に積極的で、しかも独特な言い回しをする岩政さんのコメントは、メディアにとっては取り上げやすいものではあったのだが、独特すぎるが故にそのコメントが想像以上の反響を生んでしまうことも少なくなく、思うように結果も出なかったことも重なって、余計にそうした部分での配慮もしなければならないというデメリットを生んでしまっていた。

強化部はこの点を、自分たちからの発信が足りなかったことが原因であり、新人監督であった岩政さんをあまりにも先頭に押し出しすぎてしまったという反省があるようだ。たしかに、昨季で見てみると強化部の意見として吉岡さんのコメントがメディアで取り上げられたのは開幕前、4月の連敗時、優勝消滅時、シーズン終了時の4回に留まっており、開幕してからは上手くいかなくなってからの火消しの意味での反省が強く、結果それで納得してもらうのはどうしても難しい部分があった。

そこで今季はまずマンパワーを増やし、各方面とコミュニケーションを取りやすい体制を整えている。昨季途中にはチームに加わっていたという山口などでGMの経験がある石原正康氏を始め、これまでCROだったOBの中田浩二氏も強化部に加え、彼を現場と強化部とのパイプ役に置いている。同じくOBの山本脩斗氏をスカウトで加えたのもその一つであり、結果的に吉岡FDのタスクを整理することで、昨季のような状況を生み出さないような取り組みがここまでなされている。

この取り組みがどう出るかが一番試されるのは、チームとして上手くいかなくなった時である。上手くいっている時はピッチにそれが現れるし、それを誰しもが感じ取りやすい。だが、そうではない時にその原因が何なのか、どうやってその状況を乗り越えていくのか、こうした部分を上手く整理して発信していかないと、不協和音は一気に募りやすくなってしまう。変化の真価が試されるのはまだ先であることを祈りたいし、試される機会がないことが一番の理想だ。

まとめ

周囲の反応を見る限り、(そりゃそうだなと思うのだが)今季の鹿島に対する期待値は決して高くない。順位予想では優勝予想に推す人はほぼおらず、トップ3入りがちらほらいるくらいで、多くの人は中位に予想している。これが正直な鹿島の現在地だろう。

ポポヴィッチは過去の経歴を見る限り、現時点では決して名将ではない。チームの戦力値から予想を大きく下回る順位で終わることはあまりない分、予想に反して大きく上回るような躍進の結果を残したこともあまりない。チームの戦力値に基づいたような結果を、良くも悪くも正直に出してくるような監督である。ここまでの感じでは。

そういう面もあって、今季の鹿島が中位予想なのだろう。昨季5位のチームから戦力が大きく変わらず、プラスになりそうなのはまだ未知数なチャヴリッチくらいとなれば、そう現時点で結論付けるのも理解できる。

鹿島としては、この予想を良い意味で裏切らなければならないシーズンとなる。そのためには今よりチーム力を高めなければならないし、チーム力を高めるために必要なのが昨季からのプラスαの存在だ。植田直通や樋口雄太、鈴木優磨といった昨季も活躍した主力が今季も活躍するのは、言ってしまえば当たり前だし、それだけでは順位は上がってこない。大事なのは、昨季はいなかったりあまり活躍できなかった選手たちがどこまでインパクトを残せるのか。彼らのインパクト分がそのままチームの上積みとなるし、逆にその上積みがなければ今季も鹿島は中途半端な成績で終わってしまうだろう

周囲の予想通りのチームで終わってしまうのか。それよりももっと下回ってしまうのか。それとも、そんな予想を裏切って一気に躍進するのか。良くも悪くも今季の鹿島は未知な部分に期待しなければいけない部分が多い。その中でまずは開幕から積み上げてきた確かなものを発揮して、勢いに乗りたい。それができれば、サプライズを起こしやすい土壌ができてくるはずだ。

開幕戦から一戦一戦全てを「かける」戦いになる。鹿島アントラーズの2024シーズンが幕を開ける。



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タケゴラ
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