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【感度のズレをどう見る?】明治安田生命J1 第11節 鹿島アントラーズ-ヴィッセル神戸 レビュー

戦前

ミッドウィークのルヴァンカップでは北海道コンサドーレ札幌を3-0で下し、相馬直樹監督就任後は公式戦連勝中の鹿島アントラーズ。今節は今季初のリーグ戦連勝を目指し、中3日でのホームゲームに臨む。

鹿島が迎え撃つのは5位ヴィッセル神戸。リーグ戦は6試合負けなしと好調だがここ2試合はドロー続きで、ミッドウィークのルヴァンカップでは徳島ヴォルティスに完封負けを喫している。今節は中2日での試合だ。

スタメン

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鹿島は徳島ヴォルティス戦と同じスタメンで臨む。

神戸は前節の湘南ベルマーレ戦から1人変更。左サイドに新加入のアユブ・マシカが入っており、マシカは初スタメンとなる。また、ベンチには同じく新加入のリンコンが入った。

流れを作る上田綺世と荒木遼太郎

序盤から鹿島はロングボールを多用していく。ターゲットとなったのは上田綺世。上田は菊池流帆や小林友希とエアバトルを繰り広げ、そのセカンドボールを味方が拾うことで、結果的に鹿島は相手を押し込むことが出来ていた。

押し込むことが出来ると登場するのが荒木遼太郎。荒木は中央で顔を出し、味方からのパスを引き出しては前を向いて攻撃を展開させていく。この一連の流れでミスもせず、また味方が出しやすい位置に顔を出してくれるため、鹿島の選手たちはまず荒木を見るようになっていた。

また、今節の鹿島は守備もかなり積極的にプレスを仕掛けていった。神戸は組み立ての際、ボランチのセルジ・サンペールが最終ラインに降りて上田と荒木に対して、センターバックを加えた3枚の数的優位を保ってボールを運ぼうとする。前節の鹿島はここに積極的にプレスを掛けることはあまりなかったが、今節はサイドハーフが前に出ることで数的同数の形でプレッシングを仕掛けていった。中に通されればボランチが、サイドに通されればサイドバックが出ていく形も連動しており、鹿島は上田へのロングボール&パスワークに顔を出す荒木で押し込む→相手のターンになったら全力でプレス掛けて奪い返す→奪ったらショートカウンターで仕留める、という良い循環が序盤は出来ていた。

惜しむらくはこの流れの中で先制出来なかったことだろう。11分の荒木が土居聖真とのワンツーで抜け出して左サイドから上げたクロスは合わず、16分には常本佳吾のインターセプトから荒木が1対1の決定機を迎えるが、前川黛也に防がれてゴールならず。相馬監督も試合後コメントで触れていたように、そこで決めきることが出来ていれば今節も自分たちの秩序の中で試合運びをすることが出来たはずだ。

試合の流れで言えば、前半にあれだけ自分たちの時間だったにもかかわらず、ワンチャンスで決められてしまった。今後は決めなければいけないところで取り切ることが必要になってくる。
https://www.antlers.co.jp/games/52988/live

流れを変えたサンペールと神戸のポジションチェンジ

押し込まれている神戸は組み立てで鹿島のプレスを回避することで盛り返そうと試みる。起点となったのはサンペールのミドルパス。これまでは近くの味方にショートパスで預けていたが、サンペールはサイドに浮き球でパスを通して、鹿島のプレスを外していこうとしたのである。

サンペールの正確なパスでサイドにプレスの逃げ場を見つけた神戸は徐々にペースを掴んでいった神戸は飲水タイムで選手のポジションを入れ替える。左サイドにいたマシカを前線に入れて、井上潮音を左サイドに入れた。

前半飲水タイム後~

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このポジションチェンジの意図はおそらく守備面にある。鹿島は前半から右サイドバックの常本が高い位置を取り、スペースに駆けだしていくことで逆サイドからの展開を助けていた。ここで常本に対峙していたものの捕まえきれていなかったマシカを前線に置いてタスクを減らしてあげて、常本への対応を井上に託した形を取った訳である。

このポジションチェンジはかなり機能した。井上が入った神戸の左サイドは守備の連動性が増し、オーバーラップで持ち味を見せていた常本はその良さを消されてしまう形となった。常本はこのあと後半に途中交代を命じられるが、自分の良さを消された時にどう振る舞うのかというのは今後の課題となってきそうだ。相馬監督もこのあたりについては試合後に言及している。

Q.常本選手の交代の意図は?
A.また個人の話になってしまうが、もっとできると思っている。その期待値からすると、足りていない。もっと右サイドからいけると思う。シチュエーションとしてもそうなっていたので、そこでもうひとつ思い切りを出してほしかった。
https://www.antlers.co.jp/games/52988/live

揃わない鹿島の感度

ペースを取り戻しつつあった神戸は最初のチャンスで試合を動かした。28分、ルーズボールを拾うとマシカが寄せてきた永戸勝也をターンして剥がしてスルーパス。これに抜け出した古橋亨梧が冷静に沈めて、神戸が先制に成功した。

鹿島としては最も警戒していたはずの古橋の裏抜けから失点してしまった。問題なのはその古橋にスルーパスが渡る前の段階だ。まず土居聖真がボールロストした段階でボールには3人の鹿島の選手がチャレンジしているのだが、奪えずにマシカに繋がれてしまっている。そして、マシカにも永戸が対応しているが他の選手はそれに連動した動きはせずに、結果としてミスマッチの状態となり前を向かれてしまっている。町田浩樹は後ろで余っているが最後までプレーに関わることはなく、犬飼智也は遅れて対応にいくがその裏を使われてしまっている。

ボールを奪い返そうとチャレンジしたことは悪いことではないし、奪えなかったのも結果論になるのでそこをあげつらって責めるべきではない。考えなければいけないのは、ボールを奪いにいこうとする選手と一旦引いて守ろうとする選手という、ピッチ内で選手の思考がバラバラになっていたことである。これはこのところずっと課題にしている点であり、それぞれの自主性に任せているからこそ起こりうる問題でもある。選手の感度がピッチ上で揃っていない、揃えようとリーダーシップを執る選手もいない。ならば、ベンチからルールを作るなりして揃える必要があるように思えるのだが、まだ相馬監督もそこには手を付けられていないし、ひょっとしたらそこは問題ではないと思っているのかもしれない。

何故そう思うのかというと、この感度の良さでボールが奪えてチャンスになる可能性もあるからだ。今節の失点シーンでもどこかでボールが奪えてチャンスに繋げられていれば、個々の判断がバラバラでも評価されていたシーンになる。サイコロを振って当たりを狙う以上、そもそもそのサイコロを振ることを否定しては何も生まれなくなるし、外れたら外れたでしょうがないという考えだ。もちろん相馬監督が就任してまだ3試合目であるので結論付けるには早すぎるが、こうした考えからの振る舞いかもしれないと今後も注視していく必要があるだろう。

遠藤康が作り出す「揺らぎ」

追いかける状況となった鹿島だが、攻めあぐねる展開を強いられる。裏へのボールは菊池の強さに封じられ、どうしても中央で顔を出す荒木の存在頼みになってしまう。それでもチャンスがないわけではなかったのだが、追いつくまでには至らず。逆に神戸にカウンターから決定機を作られるシーンもあり、中々思うように反撃することが出来ずにいた。

流れを変えたのは61分に投入された遠藤康だ。相手の守備ブロックの中でボールを引き出してチャンスを作り出そうとする荒木に対して、遠藤はブロックの外でボールを引き出し、そこから長いボールで展開を変えて相手を揺さぶってチャンスを作ろうとする。荒木と遠藤、2人の揺らぎを作れる存在が出てきたことで鹿島の攻撃は迫力を増していった。

同点ゴールも遠藤のサイドチェンジから攻撃が始まっている。一度はクリアされたものの、それを再度鹿島が拾うと中央の三竿健斗からの縦パスを受けた上田が最初のトラップで裏を取り、最後は小林に当たったシュートがゴールに吸い込まれた。上田はその直前のプレーで右腕を痛めていたものの、ワンプレーで結果を残す大仕事をやってのけた。

立ちはだかる菊池流帆

同点に追いついた鹿島。ゴールを奪った上田はその直後に交代となるが、それでも勝ち越すべくオープンな展開の中で攻撃を仕掛ける。だが、そこに立ちはだかったのは菊池。裏に出されてチャンスになりそうなシーンでもことごとく鹿島攻撃陣の前に立ちはだかり続け、圧倒的な対人の強さでボールを奪い取っていく。鹿島はオープンな展開で個々のクオリティを活かすはずだったが、そのクオリティより菊池のクオリティの方が上回っていた

オープンな展開で勝ち越しを狙う鹿島に対し、個のクオリティで上回ることの出来る神戸はボール保持でペースを握りつつ、その流れで勝ち越しを狙うようになる。選手交代や時間の経過でプレスの練度の落ちた鹿島は効果的にボールを奪うことが出来ず、試合終盤は思うようにチャンスを作ることが出来なかった。ただ、神戸もチャンスはセットプレーなどに限られ、鹿島のゴールに思ったよりは迫れず。試合は結局このままタイムアップ。1-1の引き分けに終わった。

まとめ

ドローが妥当な試合だろう。鹿島はこのやり方で勝ちたいのなら、もっと個々のクオリティが必要だった。ただ、助っ人たちはおらず、荒木も終盤は運動量が落ちていたし、上田も負傷交代でいなくなってしまった。相手の菊池や古橋の質の高さを上回るには、今日のメンバーでは難しい部分もあった。

先述したように守備の感度の揃わなさだったり、終盤のオープンな展開で攻撃は個のクオリティに頼るのは、これが相馬監督のスタイルなのかもしれないし、それともまだ就任してから間もないので手を付けられていない部分なのかもしれない。もし、これが前者なら徳島戦のような先行逃げ切りをチームの勝ちパターンとして定着させることが必須である。リードしている展開なら自分たちの秩序の中で試合を進めることが出来る。それが出来ないとサイコロを振って当たりが出るか出ないかに懸ける部分が増してきてしまう。いずれにしても、当面は勝点を積んでいきながらチームのスタイルを作り上げていくことになりそうだ。

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