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【再現性ある敗戦】明治安田生命J1 第28節 鹿島アントラーズ-アビスパ福岡 レビュー

戦前

鹿島アントラーズ

・現在3位

・前節は横浜F・マリノスに2-0で勝利、連勝中

・ルヴァンカップは名古屋グランパスに敗れる

・ルヴァンカップから中5日で迎える

・犬飼智也が負傷離脱

アビスパ福岡

・現在9位

・前節は徳島ヴォルティスに3-0で快勝、連勝中

・リーグ戦中断期間は試合がなく、2週間ぶりの公式戦

・ジョン・マリがカメルーン代表で不在

スタメン

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鹿島は前節から3人変更

・負傷した犬飼と町田浩樹に代わって、ブエノと林尚輝がセンターバックに

・左サイドバックに安西幸輝を起用

福岡は前節から1人変更

・契約上の関係で出場出来ない奈良竜樹に代わって、出場停止明けのドウグラス・グローリがセンターバックに

鹿島の3つの攻め筋

試合の立ち上がりから鹿島はボールを保持する時間が長くなる。ボールを持ちつつ攻めていく鹿島は、3つの攻め筋からゴールを狙っていた。

1つ目は荒木遼太郎を中心とした中央からの崩し。最後尾やボランチでボールを持つと、鹿島は荒木や土居聖真、和泉竜司といった2列目の選手が福岡のボランチ周辺のスペースに顔を出し、パスを引き出していく。狭いスペースでも苦にせずボールを扱える荒木の良さが最も活きる攻め方である。

2つ目は左サイドの大外で張る安西を使ったアイソレーションの形。前述した中央からの崩しを使うことで福岡守備陣が中央に固まったところで多用していた。安西を高い位置で張らせて、そこにボールを供給することで単独で切り崩せる彼のところから打開点を見出す方法であり、この形はおそらく安西を左サイドバックで使うにあたってチームとして仕込んできた形なのだろう。

3つ目はシンプルに前線の上田綺世を使う形。可能性は高くないが、最も直線的にゴールに近づくことの出来る形であり、鹿島は組み立てで詰まった時と、上田綺世がフリーで受けられそうな時はこれを狙っていた。裏抜けさせて上田のフィジカルを活かしてボールを収めてもらうこともあれば、上田に当てて落としてもらうことで、2列目のプレイヤーたちが前を向いてボールを持てる状況を作り出そうともしていた。

福岡のコンセプト

対して福岡である。ボールを鹿島にある程度持たれることを前提にした福岡のコンセプトは、とにかくボールが相手陣内にある時間を長くすること。押し込まれ続けた状態でははね返すにも限界があるし、少ないながらもチャンスを作る回数はなるべく増やしておきたい。相手がボールを持つことは許しながらも、いかに自分たちのペースの中で試合を進めていくか。そうした観点に立ったコンセプトである。

そのため、福岡はボールを持つと躊躇なく前線に蹴っ飛ばしていた。ロングボールの先にいるのはフアンマ・デルガドと山岸祐也という前線で身体を張ることを苦にしない2トップ。鹿島のセンターバックがブエノと林という不慣れなコンビを狙い撃ちにしたかったのもあるのかもしれないが、福岡は後ろでボールを持てる余裕があってもロングボールを選択することが少なくなく、2トップに当ててそのセカンドボールを拾うことで押し上げていき、鹿島ゴールに近づこうとしていた。

また、福岡はボールを運ばれると即座に撤退守備に切り替えていたが、鹿島が後ろから組み立てようとした時にはかなり積極的に前線からプレッシングを仕掛けていった。これは高い位置でボールを奪いたいという狙いよりかは、鹿島にロングボールを蹴らせて自分たちが回収したいという意味合いの方が強いように見えた。鹿島に意図していない形でボールを蹴らせれば陣形が間延びしているため、セカンドボールは拾いづらくなる。そこで福岡は陣形を整えておけば、セカンドボールをモノにして自分たちの攻撃へと持ち込める。その準備が福岡はしっかりなされており、2トップと2列目はかなりのハードワークが求められたが、全員それを見事なまでにこなしていた。

突かれた鹿島の守備のズレ

ボールを持って攻める時間こそ長かった鹿島だが、決定機に結びつけて得点の可能性を常に匂わせていたのは福岡の方だった。

17分のPK献上のシーンでも、その後のピンチでも、失点シーンでもそうだったのだが、鹿島は2トップが捕まえられない時のセンターバックのポジショニングとその周りの位置取りがとにかく曖昧だった。ブエノが山岸に、林がフアンマにつくことは決まっており、そこがしっかりハマっている時は潰すことが出来ていたのだが、流れの中でこの2人が入れ替わったり、山岸が少し落ちるようなポジショニングを取ると、捕まえる対象を失った鹿島のセンターバックは途端に脆さを見せるようになってしまっていた。

もちろん、センターバックが初めてのコンビということもあるだろうし、ブエノに関しては復帰後初出場ということもあったかもしれない。しかし、2人の連係不足や判断ミス、周りを動かす力が足りてなかったこともあるが、おそらく守備面でセンターバックが抱えるタスクがかなりキャパオーバーしてることも影響しているはずだ。明確な決まりがある訳でもなく、その場その場でそれぞれの判断を的確なものに統一させて守らなければならないというのは、試合に日常的に出ていない面々からすれば余計に難しいはずである。

鹿島の3失点は全て福岡の2トップがポジションを動かしたところで生まれている。3失点とも左サイドをシンプルに崩されたこともそうだが、2トップがポジションを動かしてズレを生み出し、鹿島のセンターバックが彼らを捕まえきれなくなったところで基準点が見つからなくなり、そこから全てが曖昧になってしまっていった。それに重ねて、ゾーンディフェンスの基本的なカバーやプレスバックも足りていなかったため、福岡は速い展開からあっさりとフリーの選手を作り出して、シュートを打たせることが出来ていた。福岡にしてみれば、こうもあっさり練習でやっていた通りに上手くいくものかと思っていたはずだ。

結局、鹿島も攻め込むシーンこそあったものの、決定機を確実にモノにして加点した福岡がスコアで差をつけ、結果的には0-3という数字に。鹿島はこの敗戦で順位を7位にまで落とし、逆に福岡はカシマスタジアムでの初勝利を記録した。

まとめ

鹿島としてみれば攻める時間も少なくなかったし、決定機を確実に仕留められたが故の敗戦ということでものすごい完敗感がある訳でもないのかもしれないが、福岡にとっては自分たちのプラン通りに試合を運んでスコアに結びつけたということで完勝と言っていい試合だろう。

先制されると途端に苦しくなる今の鹿島にとって、守備の秩序が失われつつあるのは致命的だ。先制することが出来れば自分たちのペースで試合を進められるためそうした問題にぶち当たる可能性も削れるのだが、中々先制できない時やあっさりと相手に先行を許してしまった時に、この問題は大きくのしかかってくる。守備が安定しなければ、恒常的に相手を押し込んでゴールに迫ることも難しくなってしまうだけに、なんとか改善させたいところだ。

個々の裁量に任せることが全て悪い訳ではないが、今の鹿島にはセオリー通りに守れていなかったり、結果としてそこでミスが生まれて失点しても、その原因が曖昧になってしまって突き詰めることが出来ていなくなっている。尊重されるべきは個々の判断であって、その自主性を結果論で攻めることはしにくいからだ。ここを突き詰めていかないことには、今後も同じようにやられる可能性は十分ある。次節以降の建て直しは必須だ。

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