事件のカチューシャ
さて…ずっと書けなかったことを書きます。
自分が事件の当事者であることが分かったのです。
まず結論から書いておきますが『怪ほどき屋』は、初稿が出た段階ですでに改変が加えられておりましたが、執拗に直した結果自分たちの文章として出版されました。
ですから自信を持って「読んでください」と言いますし、遠慮なく楽しんで下さい。
改変された初稿は、ボクたちに届くと同時に帯文をお願いする予定だった津原泰水にも渡りました。
ボクたちは初稿直しをしながら、自分たちの送った原稿と違う部分があることに気づきました。
津原泰水から失礼ながら…と鉛筆で添削の入った初稿が届きました。
荒削りな部分はあるけど面白かったと言ってもらえました。
嬉しかった。
だから世に出したいと願い実行したのです。
鉛筆の入っている部分の中には、自分たちのミスもありました。
でも明らかにココはこう書いていないという箇所があり、そこにもきちんと津原泰水の直しが入っていました。
彼は文章の違和感にすぐ気づいたのでしょう。
誰かは分からないが書き換えられているようだと正直に告げました。
データも有ります。
ボクらは正直困惑しました。
そのときなぜ上長に相談しなかったのか…
そう問われたら、ボクらにも会社の上長を信用出来ないだけの過去があったとしか申し上げようがありません。
みなみは、納得がいかない部分を初稿、二校、著者校、念校とひたすら何度も何度も文章を直していました。
執拗に直した結果、著者校以上に手を加えられたということはありませんでした。だから最後の最後に、だまし討ちをくらったわけではありません。
もう一度書きますが、『怪ほどき屋』は、ボクらの文章として責任を持って世に出ている本です。
『怪ほどき屋』は、最初は『ゴーストハスラー』という仮題でした。
しかし、あまり良いタイトルではないということも分かっていました。
担当者が「○○屋」にしたいと言いました。
事件を解決することを「ほどく」という言い方にしたらどうでしょう?
だったら担当者が「怪」という文字も入れたいと言いました。
その結果、まだ本文中になかった事件を解決する言葉を「ほどく」と表現しましょうということになり、『怪ほどき屋』は結実しました。
そのことはとても嬉しかったし、いい思い出です。
ずっとそういう打ち合わせが行われていればよかった。
しかし担当者は暴走しました。
事が判明した以上、当事者の一人として担当者にシラを切られトボケられたことは、怒ってもいますしガッカリもしています。
ボクは過去に、編集者と作家は共犯者であるという言い方はやめて、伴走者と呼ぶようにしようと書きました。
この担当もそうなんだろうと見誤っていました。
残念ながら馬車の御者になりたがる人だったようです。
結局のところボクたちを全面的には信用してくれてなかったのです。
ボクらは長年出版業界を渡ってきましたが、分野を替えるたびに私たちは初心者ですという気持ちを持って取り組んできました。
初心忘るるべからずという言葉を、すこし間違って実践してしまっていたようです。
25年間艱難辛苦はあったけど、まだこんなことがあるのです。
でも二度とこんなことはゴメンですし、あってはなりません。
遅きに失した感はあります。
だから忘れません。
カチューシャのように頭につけたまま。
帯文を寄せてくれた小説の師匠とマンガの師匠にも、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
とはいえ、こんな目に遭っても、どこからでもボクらが必要だと言われれば原稿を書きますし、要らないと言われれば他所で書きます。
それがボクらの流儀です。
くどいようですが、最後にもう一度書きます。
『怪ほどき屋』は、ボクとみなみ二人で一人の南澤径という作家が、すべて納得して自分たちの文章で書かれたものです。
保証します。
なので存分にお楽しみ下さい。
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