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GEから学ぶメーカのサービス事業化を成功させるためのモノづくりの強化

デジタルクロス様でのロボットコラムの6回目を書きました。今回のテーマは「ロボットのビジネスモデル」ということで、はやりのRaaS;Robot as a Serviceなど事例なども紹介しています。良ければ是非!

これまでロボットのビジネスモデルについてちゃんと整理したことがなかったので、個人的には結構勉強になった回でした。ただし、最も勉強というか刺激になったのは、残念ながらロボットの事例ではなく、GEの航空機エンジン事業の事例。

このGEエンジン事例はメーカーのサービスモデルへの転換ということで非常に有名なので、ご存知の方も多くいらっしゃるかと思います。一方で、その裏でモノづくり側の強み構築がかなり戦略的に行われていたことは、私自身は全く理解できてらず、その考え方は大いに参考になると思います。「モノからコトへ」ということが盛んに言われる中で、どのようにして戦っていくか、その示唆を得られる事例かと思います。今回は簡単に纏めてみたいと思います。

GE航空機向けエンジン事業のサービス化

GEは、従来のエンジンを売るというモノ売りのモデルからエンジンのデータを使ったサービスを売るというモデルに転換を実現しています。まずエンジンにセンサを付け、エンジンの回転数・出力・燃焼状態や部品状態などを常時モニタリングできるようにしています。これにより「エンジンを使った分だけ課金する」という従量課金モデルへの変更にしています。

 さらに、稼働状況や部品データを活用することで、迅速かつ未然のメンテナンス作業を提案し、アフターマーケット市場での収益化を実現しています。こうした稼働状況管理や予防メンテの仕組みは、コマツのIoT建機のプラットフォームである「コムトラックス」も同じようなものですね。

 GEがスゴイのは、次のステップにビジネスモデルを進めたです。それは、計測したデータを分析し「燃料消費が少ない最適な飛行ルート」のデータを航空会社に販売するというものです。さらに、そのビジネスモデルを成果報酬型で実現しているといういうのです。

 最短の飛行ルートと保守作業を到着前に明確に知らせることで、航空会社にとっての経営指標に直結する「定時運航率」や「燃料ロスの削減」という価値を提案し、それらを実現できれば費用を徴収するという、顧客にとって、この上ない納得感を与える仕組みです。

運航遅延は顧客満足度に影響を与えるだけでなく、米国だけでも運航遅延によるコスト負担は年間1兆円とも言われています。航空機運航コストの約40%を占める燃料関連のコストを削減できると、そのインパクトは本当に大きく、燃費を1%改善すれば、世界の民間航空業界全体は15年間に300億ドルの節約が可能とも言われています。エアアジアの事例では、GEシステムにより燃料費が2014年には約1000万ドル節約できたとのことです。

サービス化はハードに自信がないとできない

このようなモノのサービス化は、モノによっぽど自信がないとできない

ユーザー側は非常に導入しやすいのですが、メーカ側から見ると、他に良い製品やサービスが現れれば、簡単に乗り換えられてしまいます。もちろん飛行機のエンジンなんていうのは、一度使って貰うとなかなか他社には乗り換えにくいかもしれませんが、少なくとも乗り換えリスクは残りますし、成果報酬型はうまく行かなかったら一円にもなりません。

もともとの売切りモデルのときよりもキャッシュフローが確実に一時的に悪化するサービスモデルへの移行は、相当なレベルで顧客の経営に刺さっている、そして絶対に他者に負けない価値提供ができるという自信が必要です。

この自信を持てる企業のみがサービス化へ踏み切り、利益も上げることができるのかもしれません。

もちろん、今回のコロナのように、飛行機が全く飛ばなくなるという事態になると大きなダメージを受けることなると思いますが、だからといって「やはりモノ売りに戻ろう」ということにはならないでしょう。GEレベルの会社になるとポートフォリオの中でリスク分散させるでしょう。

川上まで遡り、徹底的にハードを強くする

この自信をGEはどのように獲得したのでしょうか。

GEは保守などのアフターマーケットというバリューチェーン上の川下だけでなく、川上側にしっかりと影響力を及ぼしています。

コラムの中にも書きましたが、GEは、エンジンの加工・成形を徹底的に内製化することで、燃費改善のコア技術をブラックボックス化するとともに、素材メーカーとの連携を強化することで他メーカーに対する競争優位性を実現しました。(少し前の話なので、現時点でどういう状態になっているかはわかりません)

GE は民間の航空機エンジンの開発・生産を通じて蓄積した航空機エンジン用素材に求められる品質・強度・耐久性などの性能に関するノウハウを手元に大量に持っているおり、その素材ニーズを武器に、素材メーカーとの連携を深めていくとともに、ブラックボックス化も同時に行うことで、素材メーカーへの交渉力を維持するという作戦です。実際に、エンジンの素材である炭化ケイ素連続繊維を製造する「NGSアドバンストファイバー㈱」への25%出資も行い、素材側にもかなり強く入り込んでいます。

さらに、現在では、エンジンに様々なセンサが付くようになったので、そのデータを、自社のエンジン開発にもフィードバックすることで、逐次ブラックボックスを強くしながら、エンジン性能を強化していくことができるようになっています。

このように素材というレベルまで川上側に遡り、モノ自体をしっかり競争力のあるモノに仕上げる。そして、川下から得られるデータでもモノの性能を上げていくという両面からモノづくりの力を強化していっているのではないかと思います。

サービスモデルこそ、モノづくりを大切に

モノからコトへ、CAPEXからOPEXへ、XXXX as a Serviceなどサービス化に流れていくこと自体は、基本的には顧客価値視点での流れになるので、歓迎すべきことだと思います。

GEの事例は、GE Capitalの活用やサービス化しやすい事業、顧客の選択、技術的にもIoTサービスプラットフォームPredixの整備などなど、もちろんモノづくり以外のところもでも様々な戦略が複合的に絡んでいるものと思われます。そして、航空機向けエンジン事業自体が、ダウンタイムが顧客収益に与えるインパクトが大きい、顧客が大口で数が絞られているなどの事業特性があるからこそ成立したということもできるかもしれません。

ただし、その中の大きな1つのポイントとして、川下だけでなく、川上からもしっかりと差別化できるモノづくりの仕組みを作りきったという点があるのは、間違いないです。

GEのメルケルCEOも退任されてますので、そんなに単純な話ではないよ!ということなのかもしれませんが、メーカ自身がサービスモデルに挑む場合は何を行うべきなのか?個人的にもずっと考えていたことでもありました。モノづくりをしっかりやりましょう!というある意味当たり前のお話かもしれませんが、サービスに力点が置かれがちな今だからこそ、大きな示唆を貰ったような思います。

参考文献:
みずほ銀行「GE ジェットエンジン事業にみるイノベーション戦略

では、また来週~

安藤健@takecando

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