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これ観よ!3月に読んだ本、観た映画、聴いた音楽

3月に読んだ本、観た映画、聞いた音楽です。長いです。まじで。映画はネタバレには配慮してますのでご安心あれ。どうか休みやすみご笑覧ください。


中村佳穂『NIU』


まずは音楽を語らせてください。中村佳穂さんの新作。大好きな、だいすきな!3月25日発売だったのですが、24日の夜、中村佳穂さんが夢に出てきた。どれだけ楽しみにしてたのぼく😹

フロアの真ん中にピアノを置いたライブ、中村佳穂さんはこっちを向いて「楽しみだったでしょ!」って言っていた。楽しみでした!!!!!

一曲目『KAPO✌』という曲からアルバムがはじまる。


Hi My name is Kaho!
そこにいるって合図をしてよ
It’s perfect おnew song!
お気に入りのラブを飛ばしてよ
あぁ もしもしかして 私は今最強なんじゃない?
(勘違いでもいいじゃん キラキラしてるね もっといってみちゃいな)
大きい声だしてはっきり言うよ
「今が一番好き!」
あなたらしいとか気にしてないよ
外出てみて はしゃごうze
知らず知らずに…二度寝をキメて
夕日が落ちてる やる気も落ちてる 明日に任せちゃおよ!


最高か??????中村佳穂さん、前作『AINOU』から今作までに、細田守監督作品での主演、紅白出場、資生堂のCMソングの採用(『君の瞳は100万ボルト』アルバムに入ってないのどういうこと😡😡😡)、唯一無二のハイブランドLOEWEの国際女性デーでのクリエイションをすべて任されるなど、まじで飛躍、飛躍。もう、飛躍では言い表せない時間を過ごされていました。期待値がこれ以上なく上がったうえでの今作。期待とか、役割とか、すべてブッ飛ばした!かんっぜんにひらききっている。


いや、ほんとにすごいよ。入ってくるお金も桁もふたつぐらい変わったと思うんですけれど、それでも、自分がじぶんでいられ続けることのすごさ。中村佳穂さんの「わたしはわたしである」こと、そのレベルの高さ。


中村佳穂さんの現代性は「わたしという存在以外、なにも背負っていない」という点にある。


多くのこれまでのスターたちは、リスナーのなかに「像」をつくり、その像に期待されている役割、キャラクターを演じることで憧れの対象となってきたひとが多いと思うのですが、中村佳穂さんは、なにも背負っていない!イケイケsongを高らかにうたい、けれど、聞くひとすべてをしあわせにしながら邁進していく!新しい日本のポップスターが中村佳穂さんだということがうれしい。誇らしい。

自己肯定感アゲアゲSongだけではなく、たとえば#9の『MIU』。

「ゆけない道はない」
それは嘘だと思うんだよ
願い、どう頑張っても
叶うことない何万通りものストーリー
諦めているわけないじゃない
けど吐きそうになるんだよ
他の人には届かないものがあるんだよ
どうにかよりよく、どうにか…って足掻いている



シリアスなリアルも、しっかりと見つめている。

最初の3周ぐらいまでは、アルバムのハイライトは#1『KAPO✌』からの#2『さよならクレール』にかけての流れかな~~~と感じながら聞いていたんですが、ちょっと経つと、違う曲が頭に流れはじめて、いまは #4『voice memo #2』からの #5『Hey日』、#6『Q日』の流れがお気に入り。たぶんまた変わっていく予感がある。ぼくはアルバムを何周か通して聞いた後、ハイライトを感じてそこを中心に聞いていくことが多いのですが、この作品は、感じかたに変化が起き続けてる。

ここ最近NIAが流れていること、ああ今日もしあわせ・・!ってなってる。しあわせすぎるよ。NIAが流れている!この名盤をこんなふうに楽しめるなんて!ああもしもしかして、わたしはいま、サイコーなんじゃない!?

ツアーも楽しみだ。初日と千秋楽はマストで行くことに決めた。みんな、ちょっと、ヤバいアルバムできちゃいましたよ・・!

オススメ 10/10 音楽を少しでも好きな方には


Awich『Queendom』


Awichがニューアルバム『Queendom』で、フィメールという立場にとどまらない、日本のHIPHOPシーンを担う中心に躍り出た。自身の壮絶な半生をうたう #1『Queendom』、泣きながら聞いた。


いつも真っ直ぐな目で言われたんだ
I love Awich 俺が1番のファンだ
その頃の私はまだ無名
諦めてたステージに立つ夢

忘れかけていたビジョン
マイナスから数えるミリオン
読み返す幼いリリックを
そのまま引き出しにしまうの?

人生は引き返せない二度と
チャンスは自分で掴むもの
もう一度書き直すシナリオ
ゴールに向かい進む Let me go
荊棘を抜け、立つ武道館



Awichに起きたpainではない。「覚悟」に、涙が出たんです。

HIPHOPのオールドファッションともいえるmake moneyについてのLirycや、Femaleだからこそ書ける、たとえば #7『口に出して』なども、Awichがシーンに君臨するため必要なピースであることは間違いないのですが、圧巻は、「母としての自分とラッパーとしての自分」が100%重なっていることを表す #12『Skit(Toyomi Voicemail)』#13『44 Bars』。

こいつに綺麗事は通用しないから
子育てのことでは誰も私に口出しなんてすんな
一緒に地獄も、天国も見てきた
上辺だけの話はしないいつも heart to heart

Awichをディスる奴がいたらまず
鳴響美が、許さない あいつは、Ride or die
だからもう遠慮なんてマジでしてる暇は無い
私が、引っ張っていくんだ、新しい時代

「お前なら出来るさKeep going…」
ずっと聞こえてる声
眠れずに体起こし向き合う恐れ


アルバム最後のこの曲で、Awichが日本人ラッパーがだれもいったことがない高みに上り詰めた。リアルタイムで目撃していないからなんともいえないが、日本人でAwichが背負っているものと同じ大きさのものを背負ったのはTOKONA Xぐらいなのではないだろうか。TOKONAはHIPHIPという文化自体をエンパワメントした。

誤解を恐れずに言うと、#1 と #13の、楽曲が背負っているもののデカさが他の曲と比にならない。

Kendrick Lamarがピューリッツァー賞を獲得し、表彰台を火の海にたたきこむ伝説的なパフォーマンスで、HIPHOPの枠にとどまらない存在として自身の名を歴史に残したのは、make moneyしたからではない。黒人であるアイデンティティを見つめ、向き合い、昇華させ、そして、21世紀に生きる仲間たちをエンパワメントしたからだ。Kendrickは決定的な影響を、「人種問題」というコンテクストのなかに投げ込んだ。音楽で。


Awichがいまいるのは、Kendrick Lamarが上ったような、そういう高みだと思う。Awichの存在がどれだけの女性をエンパワメントしている?Kendrickが人種問題においてそうであるように、Awichという存在が、音楽を超え、ジェンダーの歴史のなかで避けられない影響を持つと確信する。ジェンダー論に向き合うならAwichの存在を無視するのは嘘だ。中村佳穂と対極に、彼女はそういうものを「背負っている」。

おすすめ 9/10 音楽が好きなひと、ジェンダーについて考えるひと


『ケアの倫理とエンパワメント』小川公代 著


文学作品における「ケア」を論じることで新しい人間像を探求することを目指す一冊。ケアとジェンダーの話題がこんなにも密接に関係していること、目からうろこが落ちた。考えてみれば、そりゃそうだよね。


本書は、キャロル・ギリガンが初めて提唱し、それを受け継いで、政治学、社会学、倫理学、臨床医学の研究者たちが数十年にわたって擁護してきた「ケァの倫理」について文学研究者の立場から考察するという試みである。ケアの概念は、海外では少しずつ広まっており、フランスでは政治の現場でも議論されるまでになっている。そう考えると日本社会ではまだまだ浸透しているとは言えないだろう。これまで語られてきた弱者の物語を共有することが重要なプロセスなのではないだろうか。そのさまざまな "語り"を解読する鍵として「ケアの倫理」はなくてはならないものであるというのが筆者の考えである。この倫理は、これまでも人文学、とりわけ文学の領域で論じられてきた自己や主体のイメージ、あるいは自己と他者の関係性をどう捉えるかという問題に結びついている。より具体的には、「ネガティヴ・ケィパビリティ」「カイロス的時間」「多孔的な自己」といった諸概念は潜在的に「ケアの倫理」と深いところで通じている。

これらの概念を結束点としながら、本書は、海外文学、日本文学の分析を通して「ケアの倫理」をより多元的なものとして捉え返すことを試みた。そして、文学の豊かさのなかにケアの価値が見出され、あるいは見直されることを想望して書かれた。執筆過程で浮かび上がってきたのは、「ジェンダー」「セクシュアリティ」「人種の多様性」という三つのテーマである。結果として、一般的にケアが結びついてきた「ケア労働」(=物理的なケア)というイメージを越えて、内面世界を包括する「ケア」(配慮、愛情、思いやり)というより広範な意味として流通してきた歴史を再認識できた。オスカー·ワイルドも「社会主義下における人間の魂」で、物理的な他者のケアはもちろん大切だが、軽視されがちな精神的なケアは最重要事であると言っている。ワイルドをはじめとして、ヴァージニア·ウルフ、S·T.コウルリッジ、三島由紀夫、多和田葉子、平野啓一郎らが内面世界を包括する「ケア」の営為を生き生きと作品に描き出してきたことを、拙論が少しでも示せたとしたら幸いである。

 ー『ケアの倫理とエンパワメント』小川公代 著
  「おわりに」より


おすすめ 5/10 careに興味がある方 ジェンダー論に興味がある方 「文学的立場から探る」というアプローチに興味がある方


『その後の不自由 嵐のあとを生きる人たち』上岡陽江 大嶋栄子 著


友人の菊川恵、めぎゅから「ごくごく個人的に、いままででいちばんの本」と教えてもらい、読んだ。めぎゅはこんなひとです。


本書は、暴力をはじめとする理不尽な体験そのものを生き延びたその後、今度は生きつづけるためにさまざまな不自由をかかえる人たちの現実を描いている。(中略)
(著者の)ふたりには共通点がある。第一に彼女たちの体験を特別な人に起こった特別なことと見なさずに、いくつかの条件が重なってしまうときに誰にでも起こりうると考えていること。第二に「当たり前に生活が送れる」ような変化は、長い時間経過のなかでしか起こらないと知っていること。第三に、だからこそ支援する人たちにも疲れや諦めが出やすいので、援助者自身が多くのサポーターをもつことを勧め、みずからも実践していることである。

 ー『その後の不自由 嵐のあとを生きる人たち』上岡陽江 大嶋栄子 著
  「はじめに」より



壮絶な体験をサバイブし、対人援助をおこなわれる立場になったこと、ある種の諦観を持ちながら日々女性たちをエンパワメントされていること。特に「支援者が自殺により亡くなられること」が日常として起こりうる、常にその可能性が頭の片隅にある毎日を過ごされているということー。直接的には語られないおふたりの現実を想像しながら読んだ。


「リストカットした際に流れる血を見て、自分が生きているのを確認できた」と話す人を前に、「そんなことはやめなさい」という言葉の空疎な感じは否めません。ですからそれが自傷であったにせよ、やはり本人にとってどのような意味をもつのかを、援助者はじっくり聞き取っていかなくてはならないでしょう。
そのようにして、フラッシュバックの重たさや深さ、そして痛みすら手なずけてしまう哀しみの大きさ、それぞれをじっくりふるいにかけながら、 彼女たちがとりあえず着地(=間違って命を落とすよりはいくぶんマシという程度の解決)できそうな場所を一緒に探すのです。

 ー『その後の不自由 嵐のあとを生きる人たち』上岡陽江 大嶋栄子 著
  「生き延びるための10のキーワード」より


「間違って命を落とすよりはいくぶんマシという程度の解決」ー。なんて重い言葉だろう。上岡さん、大嶋さんが生きられている現実に「一般的には」とか「常識としては」とか、そんな言葉は空疎で邪魔でしかないんだろう。「自分のあたりまえ」を手放すこと。「想像すること」は、そのことからはじまることなんだというレッスンとしても読んだ。

困難ななかを生きるひとだけではなく、「一般的には」「常識としては」のように生きるわたしたちにも多く学べることがある。たとえば「相談には練習が必要ですよ」ということだったり。ほんとにそうだよな。読書メモを置いておくので興味がある方はぜひ。


おすすめ 9/10 (たとえば、異性に対してなど)依存的な自分に悩んでいる方 対人援助職に就くすべてのかた 対人援助職に興味がある方



『文学のふるさと』坂口安吾 著


皿割子さんというクリエイターと出会い、オススメしていただいて読んだ。皿割子さん、ちょっと常軌を逸しておもしろいひとでした。ぜひこの記事から。こんな読みやすい文章が書けるようになりたくて嫉妬しちゃうネ・・。


すごくやわらかくコーティングしてますが、騙されちゃだめだ。彼女はPUNKS。こんなPUNKSなひとなかなかいないレベルでのPUNKS。

そして坂口安吾、はじめて読みました。「物語は、なにを拠りどころにつくられるのか」ということについて。短いけれど真理が詰まっている。すごい文章でした。

生存の孤独とか、我々のふるさとというものは、このようにむごたらしく、救いのないものでありましょうか。私は、いかにも、そのように、むごたらしく、救いのないものだと思います。この暗黒の孤独には、どうしても救いがない。(中略)むごたらしいこと、救いがないということ、それだけが、唯一の救いなのであります。モラルがないということ自体がモラルであると同じように、救いがないということ自体が救いであります。 私は文学のふるさと、或いは人間のふるさとを、ここに見ます。文学はここから始まる――私は、そうも思います。
このふるさとの意識・自覚のないところに文学があろうとは思われない。文学のモラルも、その社会性も、このふるさとの上に生育したものでなければ、私は決して信用しない。そして、文学の批評も。私はそのように信じています。

 ー『文学のふるさと』坂口安吾 著

ひりひりしてるね。坂口安吾さん。すごい。

おすすめ 8/10 短く、ひりひりするようなテキストを読みたい方には



『NHK出版 学びのきほん 「読む」って、どんなこと?』高橋源一郎 著


だいすきな源ちゃんと「読むって、どういうこと?」と考える。小学生の国語の教科書を引用しながら考える件ももちろんだけれど、引用される文章のレベルの高さよ・・。たとえば、こんな文章。

地下水の流れる音を聞きなさい。
 ー『グレープフルーツ・ジュース』オノヨーコ より


みんな、どう読むよ?源ちゃんの「読むって、どういうこと?」を知ること、損はないです。

おすすめ 7/10 「読むって、どういうこと?」にピンとくる方



『アルテミス』アンディ・ウィーアー 著


個人的に現代SFを代表する旗手だと思っている、アンディウィーアー。前作の『火星の人』はちょっとヤバいレベルのSFで、これが2作目。徹底的に緻密な科学知識と物理で描かれる月面都市アルテミスのうえで、ユーモアと友情、愛情が描かれる。ド直球のチーム活劇。

直径500メートルのスペースに建造された5つのドームに2000人の住民が生活する月面都市、アルテミスが舞台。

若干読みにくいのは多分翻訳の問題。アンディウィーアーの書く文章、翻訳するのに難しい文体とリズムなんだろうなと思う。たとえばこんなセリフがバシバシ出てくる。


「ぼくの友達のなかで、おっぱいあるの君だけだよ」
「人間の身体から出るものでこれより美味いものを飲んだことがあるわ」


これ原文どうなってんだろう。たぶん日本語にするのに向いてなさすぎるテキストなんだよな。めちゃくちゃ気合い入れて翻訳したんだろうなと感じます。大変だったろうな・・

アンディウィーアー、ただの気合入った筋金入りの宇宙オタクで、Kindleでオタク盛りもりのインディー小説発表したらまさかメガヒット、正式にノベライズ化され作家デビューというひと。今作は「オタクが描く女主人公は憧れが詰め込まれていてキモイことがわかった」と言われまくりでワロタ。そう見えるのね。フツーにおもしろかったけれど、どうせ読むなら1作目がオススメです🙆

おすすめ 6/10 アンディウィーアー好きなひとには



『推し、燃ゆ』宇佐美りん 著


高橋源ちゃんがオススメしてて、買ってみたものはいいものの、文体に馴染めずずっと積読していた一冊。やっと読めました。

推しを愛することでしか生きていることを実感できない女の子が主人公。時代を切り取ることが純文学の条件だとしたら、『推し、燃ゆ』はめちゃくちゃ純度の高い純文学。たぶんこの本にいちばん共感できるのは、推しがいて、課金もしっかりするタイプのオタクなんだと思うんですけれど、ここまで解像度高く課金厨推し型オタクの辛さを書かれると、読む本人、辛くなっちゃうのでは・・?読みながら吐いたりしても「そりゃそうだよね・・」としか思わん。それぐらいの解像度。逆にこの本に「わかる~~」とか言ってるとしたら、それ、いちばん理解とは遠い読み方だと思います。近づくな中途半端オタク。散れ。めちゃくちゃ純度の高い物語だからそんなことも思っちゃう。感想、「時代を切り取るヤベえ小説」もしくは「辛すぎて吐いた・・」どちらかになるのでは・・?課金厨推し型オタクかつマゾのみなさんはぜひ読んでみるといいんじゃないでしょうか。

おすすめ 4/10 辛くなりたいマゾオタクのかたには 時代を切り取る表現をチェックしたいかたには



『水辺にて』梨木香歩 著


今月読んだ梨木果歩さんは3冊でした。この本があらゆる出版物のなかでいちばん好きなものかもしれない。梨木さん、カヌーをされているのですが、主にカヌーをするときを中心とした「水辺にて」書かれたエッセイたち。


ー 音が聞こえるでしょう
静寂の底で、それを刻印する通奏低音のように流れている音。水が流れる音だ。遠い沢から聞こえてくるのだろうと漠然と思っていた。
ー この下は、火砕流台地、安山岩の上を溶岩流が流れて固まった、その隙間を水が流れてゆく音です
ー この下を、水が、流れている
思わず、腐葉土に覆われた地面を見つめる。

森の音。
本当に、森は水の生まれてくるところ。ここからスタートし、そしてまたここへ帰ってくる。森の様々な匂いを集めて、風が川筋に寄っていくように、水もまた、人の想像の及ばない時間をかけて、様々な場所を留まることなく走り抜け、その履歴を背負っていつか海に向かう。川の水を迎える海は、魚は、生物たちは、その物語をどう読み解くのだろう。
その微妙に違う物語を、読み込む力が人に備わっていないにしても、そのことに思いを巡らせ、感官を開こうとすることは、今、この瞬間にも、できることなのだと信じている。そしてその開かれてあろうとする姿勢こそが、また、人の世のファシズム的な偏狭を崩してゆく、静かな戦いそのものになることも。

 ー『水辺にて』梨木果歩 著
  「川の匂い 森の音 3」より

読むのは何回目かな、もう数えられないな。人間の感受性はここまでの高みに到達しうるんだといつも思いながら読んでいます。

おすすめ 10/10 すべての日本語を読めるひとへ



『海うそ』梨木香歩 著


3.11後に書かれた、「なにかを喪うことにどう向き合うか」をテーマとした小説。静かなしずかな物語です。梨木さんはご自身がかかれたこの物語について、「海うそ前と、海うそ後で、なにもかも変わった気がする、なにかを喪うことへの、受け止める自分の臨界点というか」と話されている。


主人公自身が抱えるナラティブな喪失、舞台となる島の現代化が主人公に迫る喪失、過去に島に起きた廃仏毀釈による喪失ー。いくつもの喪失を味わいながら、そのただなかにどういられるか、喪失することとどのようにともにいられるか。あと、主人公自身の老いによる身体の喪失も同時進行で描かれています。

喪失とは即ち状態変化であり、新たな状態の始まり。それをこれほどのスケールで描き切る。これがこの長さで凝縮されて人に伝えられることばの力の凄さにひれ伏すしかない。

明確ではない島の歴史が”確かに堆積している”ことを書くというのは一体どれほど深い知識と洞察を要するのか。梨木香歩さん、描写の美しさはもちろんですが、それだけではない。物語をうけとめること、それをどのように描くかということ。梨木果歩さんを支える重要なエッセンスが含まれているなと感じます。

おすすめ 10/10 物語のちからを感じられるすべてのかたには



『やがて満ちてくる光の』梨木果歩 著


梨木果歩さんの比較的キャリアの前半のエッセイ、また、梨木さん自身が印象深く覚えていらっしゃるインタビューなどで構成される一冊。たとえばオーストラリアで起きたムスリム排斥の動きや、梨木さん自身が訪れたホテルでのこと、偶然めぐり合わせることとなった家など、比較的、ごくごく現実的なこと、ニュースでも流れるようなことから着想を得て書かれたエッセイが多く収録されており「現実のなかで、どのように感受性をもち生きていくか」のレッスンとして読めます。


でも、私は、無理に境界を突破する必要はないと思うんです。だって、それは命懸けのことですから。変わりたいとか変わりたくないとかいう話ではなくて、もうこのままでは生きていけないという絶望的な状況というか、蝶に変態する前のサナギのように、身も心も変わらざるを得ないようなところまで来たら、初めて変わるということについて真剣に取り組めばいいのではないかと思います。

 ー『やがて満ちてくる光の』梨木果歩 著
  「生まれいずる、未知の物語」より


魂にとって本当にプラクティカルなものを書きたいと思っています。現実的な事とか、身近なごちゃごちゃしたこととか、結局そういうもので人間は成り立っているんだと思うんですね。
だからいつも、自分を自分という肉体の中にそういうごちゃごちゃをきちんと収斂させて、今という時代の中で自分を織り込ませるように歩いていく事が大事だと思っています。まあ、それしかできないというか。

 ー『やがて満ちてくる光の』梨木果歩 著
  「生まれいずる、未知の物語」より


「魂にとってほんとうにプラティカルナこと」は、「現実的で、身近なごちゃごちゃしたこと」なのだとしたら、それをそのまま味わいたいし、自分自身の「現実的な、身近なごちゃごちゃしたこと」を慈しんでいたいです。

おすすめ 9/10 エッセイが好きなすべてのかたには



『たのしい川べ』ケネス・グレーアム 著


『水辺にて』、この本の一説が引用され続けるのだけれど、やっと読もうと実現できた。ちょっとすごい児童文学でしたよ・・!モグラくんがネズミくんと出会うことから物語が始まるんだけれど、もう、愛おしいったらないの。


ネズミがボートをおしだし、またかいを取りあげたとき、モグラはいいました。「きみ、知ってる?ぼく、いままで一度も、ボートにのったことなかったんだ」
「なんだって?」と、ネズミは、ロをぼかんとあけて、さけびました。「いままで一度も ーきみはいままで ーふうん、じゃ、いったい、きみは、 いままでずっとなにをしてきたの?」

「ボートって、そんなにいいものかい?」
モグラは、すこしはずかしそうに、ききました。
けれども、そんなことは、きくまでもなく、じぶんの席にもたれて、クッションだの、かいだの、かいかけだの、そのほか、とてもすてきな付属品を見わたしながら、ゆるやかにボートにゆられていれば、すぐわかることです。
「いいものかって?きみ、ボートのほかに、いいものなんて、ありはしないよ。」
ネズミは、からだをぐっと前へかがめ、かいを使いながら、まじめな顔でいいました。
「きみ、ほんとだよ。こうやって、ボートにのって、ぶらーりぶらりするくらい、たのしいことはないんだよ。まったく、これくらいたのしいことは、ほかにはなんにも、ーボートにのってぶらーりぶらり」

 ー『たのしい川べ』ケネス・グレーアム 著
  「川の岸」より


「このなかに、なにがはいってるんだね?」モグラは、それが知りたくて、からだをうずうずさせながらききました。
「コールドチキンがはいってる。」と、ネズミは、かんたんに答えました。「それから、コールドタンにコールドハムにコールドビーフにピクルスにサラダにフランスパンにサンドイッチに肉のかんづめにビールにレモネードにソーダ水」
「ああ、ちょっと待ってくれたまえ!」モグラは、ぼうっとなって、大声をあげました。「きいてるだけでも、胸がいっぱいだ!」(中略)
モグラは、すっかり夢中になって、テーブルかけをふるってひろげ、いかにもいいもののはいっていそうな包みを、一つ一つとりだしては、その中身の順にならべていくのですが、あたらしいごちそうの出てくるたびに、またしても大きな息をつきながら、「これはこれは!」というのでした。

 ー『たのしい川べ』ケネス・グレーアム 著
  「川の岸」より


挿絵もたくさん入っているんだけれど、かわいいです。

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個人的に子どもたちに読み聞かせをできることがあるなら、選びたい本No.1になった。「歓迎する」というのがどういうことか、こんなにも素敵に描かれている本に出会ったことがない。みんなの、友人たちを、疲れているひとを、森の自然を、「歓迎すること」の技術がため息がでるほどすごいんです。こんなふうにいたい。心から。

モグラくんみたいに感じながら生きていたいし、ネズミくんのように喜んでいながら生きていたい。ものすごくおおきなレッスンを受けました。

おすすめ 8/10 児童文学が好きなかたには


『CODA』


映画へいきます。シアン・ヘダー監督作品。もしかしたらいままでのベスト映画が更新されたかもしれない一本になりました。アカデミー作品賞受賞しましたね!👏

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感想はこちらに。あまりに良くて、普段は個別のコンテンツについてなにかを書くことはあまりしないのだけれど、思わず書いちゃった。ぜひ見てみてください。

おすすめ 10/10 すべての対人援助にかかわるひとへ



『THE BADMAN』


マット・リーヴス監督作品。前評判では「いままででいちばん画面が暗く、いちばんバイオレンスなバッドマン」ということで戦々恐々、映画館へ足を運んだのですが、えーっと、ちょっと誤解を恐れずにいうと「いままででいちばんちょうどいい」バッドマン体験になりました。

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暴力の描写、たとえばAが○○でぶっ飛ばされるシーンは無音にしてくれてたり「怖がらせる」という手法に逃げていなかった。ロバート・パティンソンの、自分自身のアイデンティティを探りながら、自分自身は何者なのかに悩むBADMAN像も、共感ができた。BADMANに共感するなんて!と思うひともそりゃいるだろうな。賛否は分かれそうだなと思うけれど、ぼくには良かったです。

おすすめ 7/10 DC作品、アメコミ好きなかたには



『ウエストサイドストーリー』


スティーブン・スピルバーグ監督作品。美術がすばらしい!さすがスピルバーグ👏 特に舞踏会のシーン、良かった。

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ストーリーは全体通じて唐突感がすごいのと移民系白人とプエルトリコ系の断絶はテーマ的に時代錯誤感が拭えず……🥲 期待値高くしすぎたな、という感想。けれどスピルバーグ監督、おそらくわざとオールドな、自身の解釈をできるだけおさえた、美術の面だけは更新されたウエストサイドストーリーをつくりたかったんじゃないかなと想像する。この作品を更新し、残していきたかったんじゃないかな。そういう意味では100点満点の出来。さすが良い仕事をされます。

おすすめ 5/10 トラジショナルなミュージカル映画が好きな方には



『花束みたいな恋をした』


土井裕泰監督作品、2021年公開。いっしょに飲んだスーパーハッピーGALが「バリ泣いた😿」といっており見てみた。菅田将暉くんの良さがやっと理解できた・・!ガチの「演技がうまい」人なんですね。どんな役でも、すっと、物語の邪魔をせず画面のなかにいられるんだな。大河が好きで今年の『鎌倉殿の13人』もたのしく見ているんですが、菅田将暉くん、ガチもんサイコパスでけれど愛情はまっすぐ受け取るという、難しい演技が求められる源義経を演じているんですが、めちゃくちゃハマり役だなーと思いながら見てたのですが、違ういますね。単純に演技うますぎつよつよ俳優なんだ。

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有村架純さん演じるヒロインが最初はメンドくせえヤバい女にしか見えなかったんですけれど、どんどんいい彼女になっててよかった。なおGALは「有村架純ちゃんの気持ちわかんねーと女心がわかるとはいえねーよ」だとさ。すまんな・・

「ビタースイートな恋愛映画」といわれてるらしい。なるほどな????

おすすめ 6/10 ビタースイートな恋愛映画が好きなかたには


4月もいっぱい読んで観て聴くぞ~~~~!!!

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