定時先生!第42話 彼女
本編目次
第1話 ブラックなんでしょ
画面を埋め尽くす数字が、下から上へと流れていく。静寂に包まれた図書館に響いてしまいそうなほど、胸の鼓動が暴れている。心中で唱え続ける数字に近づくにつれ、スクロールは遅くなり、そして、ついに止まった。
アパート近所の図書館のWEB閲覧用パソコン画面と、知らぬ間に握りしめ、しわだらけになっていた受験票とを、何度も凝視し見比べる。
ー間違いないー
腹の底からこみ上げる狂喜の叫びを必死に堪えるものの、重力を失ったかのように持ち上がる口角を抑えることができない。中島は被っていたキャップのツバを目深に被り直し、顔を覆った。
『平成20年度教員採用選考合格者受験番号一覧』
しばらくその場から動くことができなかった中島を、ブルーライトは照らし続けた。
アパートの部屋の前に立ち、深呼吸を繰り返す。結果を悟られぬよう表情を押し殺し、ドアノブに手をかけた。
「ただいま」
「おかえりー」
中島が正座する彼女を見たのは、実家に連れていったとき以来だった。緊張し、平静を保とうとしているのだろう。しかし、結果が気になって仕方がない気配がありありと見え、中島は思わず吹き出しそうになり、素早く俯いた。
「…どうだった…の?」
中島の顔を覗き込んでくる。勿体ぶって驚かせたかったが、喜色を隠しきることができない。照れを含みながら、つぶやくように言う。
「…受かってた」
「えっ!!!」
口元を抑え絶句している。瞬く間に涙を溜めていく大きな瞳。美咲は図書館での俺と全く同じ感情を抱いている。そうわかった瞬間、中島が必死に抑えていた感情のタガは外れた。
「受かってた!」
「やったー!!!!!」
美咲は、両手を広げた中島の胸に飛び込んだ。二人は声にならない歓声を上げ、しばし喜びを分かち合った。そして中島にゆっくりと、感謝が湧き上がってきた。
ーこの人がいなければ俺は合格できなかっただろうー
腕の中の美咲の頭に頬を寄せ、中島はそう確信していた。