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定時先生!第35話 何のための生徒指導

本編目次

第1話 ブラックなんでしょ

 遠藤から見ても、西田は生徒から人気がある。生徒を惹きつける人柄。今の数分間の生徒達とのやりとり。そして生徒を良い行動に繋げる関わり方。どれも初任者の参考になる好例だ。
 手回りを片付け終えた遠藤が教室を去ると、いつもは授業開始直前でも騒がしい廊下に生徒の姿がない。隣のクラスもチャイム着席が苦手なはずだが。遠藤が何気なく隣の教室を覗くと、生徒たちは着席を終え、課題に黙々と取り組んでいた。まるで教室に誰もいないかのような静寂だ。遠藤はこのクラスの国語を受け持っているが、チャイム着席指導に毎回苦戦している。
 教卓前で腕を組み立つ教師を見て、遠藤は納得した。社会科を担当する生徒指導主事の市川だ。彼の姿を見るだけで、生徒たちは速やかに着席し始めるのだ。
 その時廊下に響いた授業開始を告げるチャイムを聞きながら、遠藤は、校内初任者研修で講師として雄弁に語る市川を思い出した。

ー何のための生徒指導だと思う?学校は全ての子どもにとって安心できる場所でなければならない。いじめが無く安心して生活でき、安心して授業に参加できる権利。これを守るために生徒指導がある。生徒指導と聞くと、戒めるような響きがあるが、そうじゃない。無論、事が起きれば指導するのは当然だが、本質は、被害生徒も加害生徒も出さないことによって、子どもを守る点にある。集団生活である以上校則は必須で、そこに緩みが生じれば次第に荒れとなり、いじめなど問題行動に直結するんだ。例えばウチでも禁止にしてるくるぶしソックス。昔、市内のある中学でも禁止にしてたんだが、じわじわ生徒が着用し始めて、学校側としても校則を緩めて許可したことがある。すると、たちまち生徒は制服を着崩しだして、生活指導が困難になっていった。つまり、荒れたんだ。結局落ち着くまでに7年かかった。身だしなみだけじゃない。不要物の範囲、給食の流れ、授業の受け方、休み時間の過ごし方、チャイム着席。学校の生活のあらゆる部分にルールはあるが、慣れてくれば子どもはすぐ緩む。そこが荒れに変わるかどうかは、初任の君たちも含めた大人が一丸で、いかに共通理解のもと指導ができるかだ。そうやって生徒の安心を守る。それが生徒指導であり、教師の仕事なんだー



「市川先生のチャイム着席指導がビシッとできてるのは、普段から生徒の緩みを見逃さずに声をかけ続けている結果ですよね。見習わないといけないと思ってますけど、僕はあれほど徹底できなくて…。西田先生の声かけならできるかなと思って真似しましたけど、生徒が思うように動いてくれないことも多いです。中島先生は、チャイム着席指導どうしてますか」

 二人きりの図書室で、遠藤が中島に問うた。

「二人とも指導力あるからね。さすがだね。俺のチャイム着席指導は…というより、俺の場合、指導しなくて済むように、授業開始と同時に小テストしてるよ」