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定時先生!第6話 予想外

本編目次 

第1話 ブラックなんでしょ

 4月1日、出勤初日の午後、校長室に呼ばれた遠藤は、着任前面接の時と全く同じ位置に座った。「実は」と切り出した校長の声がささやくほど小さいことから、遠藤は瞬時に朗報ではないことを悟った。

「遠藤さんには陸上部をお願いしたんだけども、訳あってね、テニスの顧問をお願いできないかっていうお願いなんですよ。ソフトテニスね。」

 陸上部顧問のつもりでいた遠藤は面食らった。表情を引きつらせながら、考えを巡らせた。ソフトテニスの経験はない。正直なところ、顧問をするなら競技経験のある陸上部が良いに決まっている。

「競技経験が無いのですが…」
「大丈夫。経験のない部活の顧問はね、よくあることだよ。周りの先生にさ、運営方法とかは教えてもらえば大丈夫」

 学校現場で競技未経験の部活動顧問が常態化し、教師の負担が増す一因となっていることは、遠藤も知っている。#教師のバトン で盛んに投稿されていたテーマの一つでもある。
 3月の面接で陸上部と告げられたときは、内心胸をなでおろしていたのに。ソフトテニス未経験をアピールしてみたものの、1年目の自分に断る権利は無いような気がする。
 そう考え、遠藤はソフトテニス部顧問を引き受けたのだった。

 アルコールをすりこみながら北沢が言う。

「そのラケット、買ったの?」
「そう、部員に店聞いてさ。時間無かったけど、この間やっと買いに行けたよ。いててて」

アルコールはマメに辛い。

「懐も痛いな」
「まあ、しょうがないよ」

 遠藤は同期を前に気丈にふるまったが、実際は、かなり参っていた。部活動だけではない。覚悟はしていたが、教師の多忙は想像以上だった。
 規定勤務開始時刻は8時10分だが、朝練習のために6時50分には出勤する。勤務時間内は授業や学級指導で16時まで埋め尽くされている。たまにある空き時間には授業準備や事務作業に取り組み、昼食時には給食指導が必要で、実質休憩はない。服務規程上は休憩時間が一応は設定されているが、遠藤はその存在すら知らない。