難病に挑む:令和元年度 医薬基盤・健康・栄養研究所 一般公開から学んだこと その02

2019年11月09日、私は医薬基盤・健康・栄養研究所(以下同研究所)を訪れ、一般客として令和元年度 医薬基盤・健康・栄養研究所 一般公開(以下同一般公開)に参加した(1,2)。

同一般公開で、私は「9.難病の薬づくりをサポートするデータベースとバイオバンク」で指定難病の研究の概要を知ることができた。

「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法,2014年05月23日成立,2015年01月01日施行,3,4)によると、難病を以下の通りに定義される。
1.発病の機構が明らかでない
2.治療方法が確立していない
3.希少な疾患である
4.長期の療養を必要とする
また、指定難病は更に以下の通りに定義される。
1~4の他に
5.患者数が本邦において一定の人数(人口の約0.1%程度)に達しない
6.客観的な診断基準(またはそれに準ずるもの)が成立している
即ち、指定難病は、難病の中でも患者数が一定数を超えず、しかも客観的な診断基準が揃っている(更に重症度分類で一定程度以上である)ものであり(図01,5)、医療費助成対象疾病とも言われる。

01.難病について

図01.難病について知ろう。

2020年01月現在、指定難病は333種類存在する(6)が、その中の主要疾患を以下に示す。
IgG4関連疾患
悪性関節リウマチ(「一般的な」関節リウマチとは異なる)
強直性脊椎炎
巨細胞性動脈炎
結節性多発動脈炎
原発性抗リン脂質抗体症候群
顕微鏡的多発血管炎
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症
混合性結合組織病
再発性多発軟骨炎
シェーグレン症候群
若年性特発性関節炎
成人スチル病
全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)
全身性強皮症
高安動脈炎
多発血管炎性肉芽腫症
バージャー病(7)
ベーチェット病(8)
上記の疾患の膠原病(9,10)とも言われる。
多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)/視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)(11)
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)(12)

同研究所難病資源研究室は難病研究資源バンク(バイオバンク)を運営し、かつ、難病創薬情報の研究(難病・希少疾患創薬データベース)に携わっている。なお、難病の多くは発症機序が明らかでなく、診断基準が不確定でもある(図02,13)。

03.難病創薬

図02.難病創薬(おくすりづくり)のための資源とは。

難病研究資源バンクは2012年度より、収集研究者・医療機関と協力して、難病患者由来試料や彼らに関する情報を幅広く収集し、難病研究資源として研究者に公正に分譲することで、難病研究の推進を図っている(14)。
難病・希少疾患創薬データベース(Database of Drug Development for Rare Diseases:DDrare)は現在、厚生労働省の指定難病の創薬情報として、臨床試験における開発薬物と、それらの標的遺伝子・パスウェイ情報を提供している(15)。

一方、「22.患者さんの少ない病気を治す薬とは?~クイズに挑戦しよう~」で、同研究所開発振興部(以下同部)が希少疾病用医薬品等開発振興事業を介して、公的な支援制度(1993年に開始)の一環として、厚生労働大臣指定を受けた品目の開発費用を支援し、かつ、製造販売承認を目指した指導・助言を適切に行うことで、安全で有効な希少疾病用医薬品、希少疾病用医療機器、および、希少疾病用再生医療等製品が一日も早く医療現場に提供に努めていることを知った。なお、希少疾病用医薬品(オーファン・ドラッグ)や希少疾病用医療機器は医療上の必要性が高いにもかかわらず、患者数が少ないことから研究開発の投資回収が難しく、研究開発が進みにくいので、こうした支援制度を必要とする(16)。

01.希少疾病用医薬品

図03.向かって左から、希少疾病用医薬品(オーファン・ドラッグ)とは?、および、希少疾病用医薬品等開発振興事業 ~事業の概要~。

希少疾病用医薬品等開発振興事業の成果の実例が、デムサー®カプセル 250 mg(小野薬品工業株式会社,17)、ジェイス(株式会社 ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J・TEC),18)、および、EXCOR® Pediatric小児用体外設置式補助人工心臓システム(株式会社 カルディオ,19)

05.実績・成果

図04.向かって左から、希少疾病用医薬品等開発振興事業 ~実績・成果~、および、医薬基盤・健康・栄養研究所で開発支援を行った希少疾病用医療機器 小児用補助人工心臓が承認されました。

また、同研究所が2014年度から希少疾病用再生医療品等開発支援事業を介して、希少疾病や難病等のアンメットメディカルニーズを満たすために、再生医療等製品を迅速かつ確実に開発できるよう、実用化段階(臨床現場への移行が可能な段階)のテーマに対して、開発に係る資金の提供を行っていることも知った。なお、現在支援されている開発テーマは「軟骨と粘膜上皮の複合再建を実現する再生気管軟骨の医師主導治験の実施」と「単核球(Mononuclear cell:MNC)-無血清生体外培養増幅法(Quality and Quantity Culture:QQ)細胞を用いたバージャー病に対する再生医療等製品の研究開発」であり、過去に支援されたテーマは「復帰変異モザイク(Revertant mosaicism)を応用した先天性難治性皮膚疾患に対する自家培養表皮シート療法」(2018年度承認取得)と「血友病性関節症に対する自己間葉系細胞移植治療の開発」(2014年度~2016年度)である(図05,20)。

06.支援事業

図05.向かって左から、再生医療等製品に対する開発振興部の支援、および、希少疾病用再生医療品等開発支援事業(H26年度から開始)。

「9.難病の薬づくりをサポートするデータベースとバイオバンク」と「22.患者さんの少ない病気を治す薬とは?~クイズに挑戦しよう~」、ならびに、参考文献(初学者向けの書籍が多く取り上げられているが、いずれも読む価値がある)から、私は難病とその治療法に関することを改めて知った。これもまた非常に有意義であった。
私はこうした記事を執筆することで、難病患者やその家族、ならびに、こうした疾患と戦っている医療従事者を支え続ける。

参考文献
1 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所.“令和元年度 医薬基盤・健康・栄養研究所一般公開の開催について【11月9日(土)】”.医薬基盤・健康・栄養研究所 ホームページ.医薬基盤研究所(NIBIO)のお知らせ.2019年07月01日.https://www.nibiohn.go.jp/information/nibio/2019/07/005997.html,(参照2019年12月03日).
2 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所.“(当日の企画を掲載しました)令和元年度 医薬基盤・健康・栄養研究所一般公開の開催について【11月9日(土)】”.医薬基盤・健康・栄養研究所 ホームページ.医薬基盤研究所(NIBIO)のお知らせ.2019年11月05日.https://www.nibiohn.go.jp/information/nibio/2019/11/006087.html,(参照2019年12月03日).
3 総務省行政管理局.“難病の患者に対する医療等に関する法律”.電子政府の総合窓口(e-Gov) ホームページ.法令.e-Gov法令検索.五十音索引.な.https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=426AC0000000050,(参照2019年12月05日).
4 難病法制研究会 監修.逐条解説 難病の患者に対する医療等に関する法律.第1刷,中央法規出版株式会社,2015年08月30日,406 p.
5 公益財団法人 難病医学研究財団.“「2015年から始まった新たな難病対策」”.難病情報センター ホームページ.国の難病対策.http://www.nanbyou.or.jp/entry/4141,(参照2019年12月04日).

6 公益財団法人 難病医学研究財団.“病気の解説・診断基準・臨床調査個人票の一覧 告示番号順索引(301~)”.難病情報センター ホームページ.病気の解説.http://www.nanbyou.or.jp/entry/5478#301,(参照2019年12月05日).

7 岩井武尚 著.手足の血管が詰まる・タバコで悪化する バージャー病(ビュルガー病).初版,株式会社 保健同人社,2011年07月20日,128 p,(難病と「いっしょに生きる」ための検査・治療・暮らし方ガイド).
8 石ヶ坪 良明 著.眼・口・皮膚・外陰部の炎症をくり返す ベーチェット病:病気のことから最新治療までこの一冊でしっかりわかる.初版,株式会社 保健同人社,2011年12月25日,128 p,(難病と「いっしょに生きる」ための検査・治療・暮らし方ガイド).
9 公益財団法人 難病医学研究財団.“FAQ 代表的な質問と回答例”.難病情報センター ホームページ.http://www.nanbyou.or.jp/entry/1383,(参照2019年12月06日).
10 三森明夫 監修.膠原病.第1刷,株式会社 主婦の友社,2018年04月10日,192 p,(よくわかる最新医学).
11 岩本一秀 著.よくわかる多発性硬化症の基本としくみ.第1版第1刷,株式会社 エクスナレッジ,2010年07月30日,160 p,(いちばんわかりやすい難病の本).
12 高橋謙治 著.難病ALS(筋萎縮性側索硬化症):在宅介護7年間の彼方.第1版,株式会社 星雲社 発売,創栄出版株式会社 発行,2010年11月07日,109 p.
13 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所.“難病資源研究室”.医薬基盤・健康・栄養研究所 ホームページ.研究と活動.https://www.nibiohn.go.jp/activities/disease-resources.html,(参照2019年12月06日).

14 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所.“事業概要”.医薬基盤・健康・栄養研究所 ホームページ.研究と活動.難病資源研究室.難病研究資源バンク トップページ.https://raredis.nibiohn.go.jp/summary.html,(参照2019年12月06日).
15 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所.“DDrare(Database of Drug Development for Rare Diseases;難病・希少疾患創薬データベース) トップページ”.医薬基盤・健康・栄養研究所 ホームページ.研究と活動.難病資源研究室.https://ddrare.nibiohn.go.jp/,(参照2019年12月06日).
16 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所.“希少疾病用医薬品等開発振興事業”.医薬基盤・健康・栄養研究所 ホームページ.研究と活動.開発振興部.https://www.nibiohn.go.jp/nibio/part/promote/orphan_support/index.html,(参照2019年12月08日).

17 小野薬品工業株式会社.“デムサーカプセル メチロシン”.ono medical navi トップページ.内分泌(糖尿病以外).https://www.ononavi1717.jp/area/endocrine/demser/#top,(参照2019年12月08日).
18 株式会社 J・TEC.“自家培養表皮ジェイス”.J・TEC ホームページ.医療関係者向け情報.http://www.jpte.co.jp/Professional/JACE/index.html,(参照2019年12月08日).
19 株式会社 カルディオ.“EXCOR® Pediatric小児用体外設置式補助人工心臓システム”.カルディオ ホームページ.プロダクト.http://www.cardio.co.jp/product/excor.html,(参照2019年12月08日).
20 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所.“希少疾病用再生医療品等開発支援事業”.医薬基盤・健康・栄養研究所 ホームページ.研究と活動.開発振興部.https://www.nibiohn.go.jp/nibio/part/promote/regenerate/index.html,(参照2019年12月08日).


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