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05.身近な天体「月」を知ろう:「大阪大学共創DAY@EXPOCITY 2024『キラめく科学・トキめく未来』」見聞録05

2024年06月29日、私は「大阪大学共創DAY@EXPOCITY 2024『キラめく科学・トキめく未来』」(以下同イベント)に一般客として参加した([1])。


「身近な天体「月」を知ろう」で、理学研究科 宇宙地球科学専攻は、2017年01月31日に、大阪大学大学院理学研究科の寺田健太郎教授が率いる共同研究チーム(JAXA 宇宙科学研究所、名古屋大学)が、月周回衛星「かぐや」 搭載のプラズマ観測装置を用い、太陽活動によって地球の重力圏から流出した酸素が、38万km離れた月に到達していることの直接観測に成功したことを発表した。

観測された酸素イオンのエネルギーは1-10keV(キロ電子ボルト)と高く、地球高層のオゾン層で見られる 16 O(酸素同位体)に乏しい成分が、「地球風」として月面まで運ばれ、月表土の表面数十nmの深さに貫入している可能性を観測的に示した(図05.01,[2])。

図05.01.「身近な天体「月」を知ろう」:「日本の月周回衛星「かぐや」で「満月に、地球からの風が吹いている」ことを発見したよ!」。


令和4年度(2022) 宇宙地球科学専攻 年次報告書によると、寺田研究室は、2021 年度に行った月隕石NWA032(図05.02)、NWA482(図05.03)、および、DEW12007 のミュオン分析の結果をまとめた。単純な2成分系を仮定すると、多種混合角礫岩DEW12007 の内部の主成分組成は、48.1%–52.3%の斜長岩クラストと51.9%–47.7%の玄武岩クラストの混合で説明できることを明らかにした([3]のp.81-82)。

図05.02.月隕石NWA032(Low-Ti玄武岩)。
図05.03.月隕石NWA482:月の高地の石。


2020年07月22日、大阪大学大学院理学研究科の寺田健太郎教授らは、月周回衛星「かぐや」の地形カメラ観測によって、数km〜10kmサイズの天体が相次いで月面に衝突していたことを発見したことを発表した。

アポロ月試料のインパクトガラスの放射年代、月面のクレーターのサイズ、月と地球の小惑星衝突比などを考慮すると、8億年前に100kmサイズ以上の小惑星が破砕し、少なくとも総量(40-50)×10Eg(エクサグラム)の天体が月と地球に飛来したとことが明らかになった。これは、6550万年前に恐竜を絶滅させた天体衝突の30-60倍の質量に匹敵する。

現存する小惑星族の破砕年代や軌道要素を考慮すると、C型小惑星のEulaliaファミリー(オイラリア族)の母天体の破砕が小惑星シャワーの原因であった可能性が高いと考えられる。小惑星Eulalia(オイラリア)は、「はやぶさ2」が探査した小惑星リュウグウと反射スペクトルが似ていることから、地球近傍のC型ラブルパイル天体の母天体候補として注目されている小惑星である(Sugita et al. 2019)。これらの知見を統合すると、8億年前に大規模に破砕した小惑星の一部は地球型惑星や太陽に落下し、一部は現在のEulalia族として小惑星帯(メインベルト)に残り、一部は地球近傍小惑星へと軌道進化した、というシナリオを描くことができる(図05.04,[4])。

図05.04.「日本の月周回衛星「かぐや」で「8億年前、地球と月に小惑星が衝突?」したことを発見したよ!」。


寺田健太郎 理学研究科教授の研究グループは、1976年に旧ソ連の「ルナ24号」が採取した月試料を展示した。その分析に、東京大学 大気海洋研究所のNanoSIMSが使用された(図05.05,図05.06,[5],[6],[7])。

図05.05.「旧ソ連無人探査機「ルナ」が採取した「月の砂」」。
図05.06.月の砂 10倍。


「身近な天体「月」を知ろう」で、太陽系の起源と進化、特に月と地球の共進化に関する最新研究を知ることができた([8])。

理学研究科 宇宙地球科学専攻には、非常に感謝している。



参考文献

[1] 国立大学法人 大阪大学 共創機構.“大阪大学共創DAY@EXPOCITY 2024『キラめく科学・トキめく未来』”.大阪大学 共創機構 ホームページ.NEWS&TOPICS.2024年06月07日.https://www.ccb.osaka-u.ac.jp/news/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E5%85%B1%E5%89%B5dayexpocity-2024%E3%80%8E%E3%82%AD%E3%83%A9%E3%82%81%E3%81%8F%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%83%BB%E3%83%88%E3%82%AD%E3%82%81%E3%81%8F%E6%9C%AA%E6%9D%A5/,(参照2024年07月22日).

[2] 国立大学法人 大阪大学.“「満月」に吹く「地球からの風」地球から流出し月に到達した酸素の直接観測に成功!”.Research at Osaka University:ResOU ホームページ.2017年01月31日.https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2017/20170131_1,(参照2024年07月22日).

[3] 国立大学法人 大阪大学 大学院 理学研究科 宇宙地球科学専攻.“令和4年度(2022) 宇宙地球科学専攻 年次報告書”.宇宙地球科学専攻 トップページ.専攻について.年次報告.https://www.ess.sci.osaka-u.ac.jp/pdf/about/annual-report/R4annualreport.pdf,(参照2024年07月22日).

[4] 国立大学法人 大阪大学.“8億年前、月と地球を襲った小惑星シャワー 月のクレーターから明らかになった地球の過去”.Research at Osaka University:ResOU ホームページ.自然科学系.2020年07月22日.https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2020/20200722_1,(参照2024年07月22日).

[5] 余市宇宙記念館.“ソ連のルナ計画”.余市宇宙記念館 スペース童夢 トップページ.「地球外物質」 特別展 令和6年7/20(土)~10/6(日) 開催!.ルナ計画.https://www.spacedome.jp/luna.pdf,(参照2024年07月22日).

[6] 余市宇宙記念館.“無人探査機「ルナ」で採取した「月の砂」(実物)”.余市宇宙記念館 スペース童夢 トップページ.「地球外物質」 特別展 令和6年7/20(土)~10/6(日) 開催!.月の砂.https://www.spacedome.jp/tuki-suna.pdf,(参照2024年07月22日).

[7] 株式会社 アトラス,公益社団法人 日本地球惑星科学連合.“11:00 〜 11:15 [PPS05-08] 局所U-Pb分析を用いたルナ24号レゴリス試料の年代学的考察”.日本地球惑星科学連合 2018年大会 トップページ.セッション一覧.2018年5月23日(水).セッション情報.講演情報.https://confit.atlas.jp/guide/event/jpgu2018/subject/PPS05-08/detail,(参照2024年07月22日).

[8] 国立大学法人 大阪大学 惑星科学グループ.“太陽系の起源と進化”.惑星科学グループ ホームページ.研究内容.https://planet.ess.sci.osaka-u.ac.jp/contents/research/research1.html,(参照2024年07月22日).

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