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01.どうなる!?未来の学校!!2024:「大阪大学共創DAY@EXPOCITY 2024『キラめく科学・トキめく未来』」見聞録01

2024年06月29日、私は「大阪大学共創DAY@EXPOCITY 2024『キラめく科学・トキめく未来』」(以下同イベント)に一般客として参加した([1])。

「どうなる!?未来の学校!!2024」で、社会技術共創研究センター(ELSIセンター)は「未来の学校」をテーマとして、教育データを利活用する EdTech(Educational Technology,エドテック,[2])の具体的な事例(海外事例も含む)を紹介しつつ、来場者と共に未来の学校を考えた。

米国等のEdTech先進国においては、事後的に(ex-Post)に解決しなければならない教育データ利活用EdTechの倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues:ELSI)が既に顕在化している(図01.01,[3],[4])。

図01.01.「どうなる!?未来の学校!!2024」。

実際、スウェーデンは保育園へタブレットを導入するなど国を挙げて教育の超デジタル化を推進してきた。そのアプローチが基礎学力の低下を招いているのではないかと政治家や専門家は問題視してきた。それを受けて、従来の学習方法である紙の書籍と文字の手書きを取り戻すという方針となった。

2022年10月に発足した中道右派連立政権で教育大臣に就任したロッタ・エドホルム(以下敬称略)は、テクノロジーを全面的に受け入れる方針に厳しい批判の声を上げており、2023年03月には「スウェーデンの生徒にはもっと多くの教科書が必要であり、学習には形ある教科書が重要なのだ」と訴えていた。

エドホルムは08月、デジタル デバイスを幼児教育に導入することを義務付けた教育庁の決定を撤回するとの政府による申し入れを公表した。さらにAP通信に対し、この政策に加え、6歳以下の子供を対象とするデジタル学習を完全に撤廃する意向を伝えた。

スウェーデンの生徒による読解力は欧州のなかで平均を上回っているものの、小学4年生を対象とした国際的な読解力を調査するPIRLS(国際読書力調査)の結果から、スウェーデンの子供たちの能力が2016年から2021年にかけて低下していることが浮き彫りになった。2021年のスウェーデンの4年生の平均スコアは544ポイントであり、2016年の555ポイントよりも低下している。それでもなお、総合得点において同国は台湾と並んで7位を占める。

新型コロナウイルス感染症拡大や、母国語のスウェーデン語を話さない移民の生徒数の増加など、何らかの原因が学習に影響した可能性はある。それでもやはり、生徒が授業中に画面からの情報を多用することで、主要教科に遅れが生じることもあると教育専門家は指摘する。

教育におけるデジタル化戦略について08月に発表された政策のなかで、スウェーデンのカロリンスカ研究所は「デジタルツールを使うことで、生徒の学習能力が高まるどころかむしろ低下することを示す科学的な証拠がある」との見解を示した。

カロリンスカ研究所は「正確性が精査されていないような自由に利用できるデジタルリソースを主な情報源とするよりも、紙の教科書や教師の専門的知識を通して見聞を広めることに再び重点を置くべきだ」と意見を述べている。

小学4年生の読解力低下への対策として、スウェーデン政府は2023年、学校向けの書籍購入費用として6億8500万クローネ(約6470万ドル)相当の予算を公表した。さらに、早急に学校に教科書を再配布するための予算として、年間5億クローネが2024年から2025年にかけて投じられる予定である。

とはいえ、すべての専門家が、初心に戻ることを推進するスウェーデンの政策が生徒にとって最善の方法であると確信しているわけではない。オーストラリアのメルボルンにあるモナシュ大学教育学部に所属するニール・セルウィン教授は「テクノロジーの影響を批判することは保守的な政治家がやりがちな行動であり、従来の価値観へのコミットメントを表明したり示唆したりする上での巧妙なやり方である」と言い表す。

セルウィンは「テクノロジーによって学習が向上したという証拠はないというスウェーデン政府の言い分は確かに一理あるでしょう。しかしそれは単に、テクノロジーがうまく機能するものは何であるかという明確な裏付けがないためでしょう。教育を支える実に入り組んだ枠組みのなかで、テクノロジーはその一端を担っているに過ぎないのです」と述べている([5])。


米国では、教育データ管理のクラウドサービス構築に乗り出した⾮営利団体InBloom がデータ保護について明確に同意取得や説明・通知を行わなかったに、保護者やプライバシー擁護団体からの社会的批判を受けて2014年に活動終了した([6])。


韓国では2025年03月に始まる1学期から、初等学校(日本の小学校に相当)3~4年・中学1年・高校1年の数学・英語・情報・国語(特殊教育向け)科目でAI(人工知能)教科書を導入する。AI教科書は「小中高校生500万人のための500万冊の教科書」を目標として、AIチューターが生徒のレベルを分析して繰り返し学習できるようサポートする教科書である。2028年にかけて段階的に拡大させていく。現在学校で使われているデジタル教科書は紙の教科書をPDFにして動画や音声、クイズなどを追加したもの。2025年からはAIが教師と生徒の間に入り、教師を補助する役割を担う。([7])。

 

日本においても、EdTechはまだまだ黎明期の域を出ないが、市場規模は確実に拡大している。野村総合研究所(NRI)は、2016年度におけるEdTech市場規模を約1,700億円と推計しており、2023年には約3,000億円に達すると予測している。

日本でEdTechが注目されるきっかけとなったのは、文部科学省が2020年までにすべての小・中学校で1人1台のタブレット端末の導入を目指すという指針を発表したことにある。さらに、2018年01月には経済産業省が「『未来の教室』とEdTech研究会」を立ち上げるなど、国を挙げてEdTechが推進されている。こうした動きは公教育の現場に留まらず、企業研修、リカレント教育、個人の学びも含めたムーブメントになりつつある([8])。

 

EdTechで解決できる課題には、オンライン学習、アダプティブ・ラーニング、仮想現実(VR)・拡張現実(AR)を使った疑似体験学習、および、効率的かつ個別最適な学習管理が含まれる([9])。


EdTechに関して改めて調べてみると、国によって事情が異なることを改めて思い知らされた。私はEdTech推進派であるが、紙の書籍や文字の手書きは重要であることを十分承知している([10],[11])。


それ故、紙の書籍と文字の手書きによる従来の教育とEdTechを子供に対して同時に行うことが必要であると私は考える。特に小学校低学年においては、後者よりも前者に重点を置く方がよいと私は考える。



参考文献

[1] 国立大学法人 大阪大学 共創機構.“大阪大学共創DAY@EXPOCITY 2024『キラめく科学・トキめく未来』”.大阪大学 共創機構 ホームページ.NEWS&TOPICS.2024年06月07日.https://www.ccb.osaka-u.ac.jp/news/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E5%85%B1%E5%89%B5dayexpocity-2024%E3%80%8E%E3%82%AD%E3%83%A9%E3%82%81%E3%81%8F%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%83%BB%E3%83%88%E3%82%AD%E3%82%81%E3%81%8F%E6%9C%AA%E6%9D%A5/,(参照2024年06月29日).

[2] エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社.“EdTech(エドテック)とは?”.docomo business Watch ホームページ.IT用語集.https://www.ntt.com/bizon/glossary/j-a/edtech.html,(参照2024年06月29日).

[3] 国立大学法人 大阪大学 社会技術共創研究センター.“「大阪大学共創DAY@EXPOCITY 2024」内 企画 「どうなる!?未来の学校!!2024」(6/29)”.大阪大学 社会技術共創研究センター ホームページ.人材育成・社会貢献.2024年06月10日.https://elsi.osaka-u.ac.jp/contributions/2917,(参照2024年06月29日).

[4] 国立大学法人 大阪大学 社会技術共創研究センター.“教育データ利活用EdTech(エドテック)のELSI対応方策の確立とRRI実践”.大阪大学 社会技術共創研究センター ホームページ.研究.共創研究プロジェクト.https://elsi.osaka-u.ac.jp/research/1827,(参照2024年06月29日).

[5] Skyrocket株式会社.“紙の本と手書きに回帰するスウェーデンの学校 学力低下を懸念”.NewSphere ホームページ.Society.2023年10月04日.https://newsphere.jp/national/20231004-1/,(参照2024年06月29日).

[6] 国立大学法人 大阪大学 学術情報庫OUKA.“教育データEdTechのELSI(倫理的・法的・社会的課題)を考えるための国内外ケース集”.大阪大学 学術情報庫OUKA ホームページ.教育データEdTechのELSI(倫理的・法的・社会的課題)を考えるための国内外ケース集.2023年09月13日.https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/92524/ELSI_NOTE_31.pdf,(参照2024年06月29日).

[7] 株式会社 日経BP.“韓国が2025年にAI教科書を導入、大手企業はEdtechビジネスの拡大とインド進出”.日経クロステック トップページ.エレクトロニクス機器/技術.韓国ハイテク最新動向.2024年05月31日.https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00109/,(参照2024年06月30日).

[8] 株式会社 デジタル・ナレッジ.“EdTechとは”.eラーニングのデジタル・ナレッジ ホームページ.eラーニングの基礎知識.eラーニングとは.https://www.digital-knowledge.co.jp/edtech/,(参照2024年06月30日).

[9] デジタルハリウッド株式会社 デジタルハリウッド大学.“EdTech(エドテック)とは?教育現場での導入メリットについて”.デジタルハリウッド大学 ホームページ.デジタルハリウッドダイガクNOW.#いま知りたい.2022年10月12日.https://www.dhw.ac.jp/now/list/howtobe/edtech/,(参照2024年06月30日).

[10] 日本印刷出版株式会社.“【完全版】デジタル時代における紙の魅力とは!?紙の本を読むべき7つの理由”.日本印刷出版株式会社 トップページ.ブログ.2023年06月03日.https://jpp.co.jp/book-blog/,(参照2024年06月30日).

[11] 国立大学法人 京都大学.“漢字の手書き習得が高度な言語能力の発達に影響を与えることを発見 -読み書き習得の生涯軌道に関するフレームワークの提唱-”.京都大学 ホームページ.最新の研究成果を知る.2021年01月27日.https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-01-27,(参照2024年06月30日).

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