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第4章 毒と人間 4-4 毒と暮らす 3.毒生物料理:「特別展「毒」」見聞録 その31

2023年04月27日、私は大阪市立自然史博物館を訪れ、一般客として、「特別展「毒」」(以下同展)に参加した([1])。

同展「第4章 毒と人間 4-4 毒と暮らす 3.毒生物料理」([2]のp.150-153)では、毒動物料理と毒植物料理が紹介・言及された。

日本では、有毒動物料理は有毒魚の料理が多くなる。

フグは多くの種でテトロドトキシンを皮と精巣に含むが、筋肉には含まない。それ故、主に筋肉が食用となる。料理は、ふぐ刺し、ふぐちり鍋、ふぐ雑炊、ふぐ唐揚げ、および、ふぐ白子焼きなどがある。当然、ふぐ調理師の免許や資格は必須である(図31.01,[3],[4],[5],[6])。

図31.01.フグ刺身(てっさ)。

ウナギ目魚類(ウナギ、マアナゴ、ウツボなど)は血液に魚類血清毒を含む。この毒の成分はタンパク質で、その分子構造は明らかにされていない。ウナギ毒とマアナゴ毒はいずれも、60℃、5分の加熱で完全に毒性を失う。

ウナギの血液が目や口、傷口に入ると局所的な炎症が引き起こされる。目に入ると激しい灼熱感を覚えるとともに、結膜炎、流涙、まぶたの腫れが引き起こされる。目に異物が入った感じは数日残る。口に入ると灼熱感や粘膜の発赤、流涎が、傷口に入ると炎症、化膿、浮腫などが引き起こされる。こうした症例はウナギ調理人の間では有名で、ウナギ血清毒は食品衛生よりむしろ公衆衛生の点で問題である([7])。

それ故、ウナギは蒲焼きか白焼きとして食べられる(図31.02,[8])。

図31.02.鰻蒲焼き食品サンプル(重箱入り)。

国際自然保護連合(IUCN)はニホンウナギを「絶滅危惧種」に指定したことで、人工種苗によるその大量生産技術の確立が強く望まれるようになった。

そして、2017年11月06日、株式会社 新日本科学は内陸部での閉鎖式循環システムを用いるニホンウナギの人工種苗生産に成功したことを発表した([9])。

熱帯・亜熱帯地域の主食として世界の食を支えるキャッサバの生産量(2018年)は、全世界で2億7800万トンあり、地域別に見ると、生産量全体の61%はアフリカ、次いで29%はアジア、10%は中南米が占めている。

キャッサバは青酸配糖体(リナマリン)の含有量の違いにより、苦味種(0.02~0.04%)と甘味種(0.007%)に分けられる。

苦味種は生で食べると危険だが、甘味種は現地では生で食べる人もいる。アフリカでは、苦味種が多く栽培される傾向がある。品種によっては、特に外皮に高レベルの青酸配糖体が含まれているため、その対策として収穫後、キャッサバの塊根の表皮をむき調理するか、あるいはすりおろして水に浸して発酵させ揮発性シアン化合物を除去する方法、さらには天日干しで乾燥させる方法を用いる。いずれにしても、食用とするためには毒抜き処理が必要なことや、表皮や芯を除去した芋はその場で加工しなければ腐ってしまうなど、制約が大きい作物でもある。キャッサバ塊根は炭水化物が主成分であり、その加工品は高エネルギーな食材である。一方で、キャッサバは塊根だけでなく、葉も重要な食材として利用されている。

甘味種は食用として栽培される。一方、苦味種は加工されてチップ、ペレット、澱粉やアルコールを製造する目的で、食品用途・工業用途で使用される。因みに澱粉が精製される段階で、青酸は除去される。

タピオカはキャッサバ塊根からとった澱粉だが、苦味種の方がより多くの澱粉を含むので、生産効率の点からもタピオカ製造には主に苦味種が多く生産されている。キャッサバの毒は水溶性のため、何度も水にさらして洗い流され、この過程で青酸化合物も流出してしまうので食用タピオカ澱粉には毒性が残存することはないとされる(図31.03,[10],[11],[12],[13])。

図31.03.向かって左から、キャッサバの地下部、タピオカ デンプン、タピオカ ドリンク、および、キャッサバ粉。

コンニャクの塊茎(コンニャク芋)はエグミの成分として、シュウ酸やシュウ酸カルシウムを含む。しかし、こんにゃくを固める働きをする灰汁(あく)を加えることで、シュウ酸やシュウ酸カルシウムが除去される。最近では灰汁(あく)の代わりに、消石灰(水酸化カルシウム)や炭酸ナトリウムが使用されている。

なお、こんにゃくは、日本人に不足している食物繊維とカルシウムの補給に最適なので、積極的に食べるようお勧めする(図31.04,[14],[15])。

図31.04.向かって左から、コンニャク製品とコンニャクの塊茎。

シャグマアミガサタケはギロミトリンを含むが、体内で加水分解されるとモノメチルヒドラジンになる。これらの物質は非常に毒性が高く、発がん性も高い一方、水に溶けやすく、揮発しやすい。

それ故、シャグマアミガサタケは茹でて毒抜きをすれば食べられる。実際、フィンランドでは食べられている(図31.05,[16],[17])。

図31.05.シャグマアミガサタケ。

日本でもシャグマアミガサタケを食べた人がいるが、日本にはそれよりもおいしいキノコが多く存在するので、シャグマアミガサタケを食べることは止めておく方がよい([18])。

「第4章 毒と人間 4-4 毒と暮らす 3.毒生物料理」の執筆から、人類の食に対する渇望を痛感した。いくらなんでも、フグやシャグマアミガサタケを食べようなどと…。


参考文献

[1] 独立行政法人 国立科学博物館,株式会社 読売新聞社,株式会社 フジテレビジョン.“特別展「毒」 ホームページ”.https://www.dokuten.jp/,(参照2023年08月21日).

[2] 特別展「毒」公式図録,180 p.

[3] 独立行政法人 国立科学博物館 魚類研究室.“フグ毒”.UODAS トップページ.魚さまざま.https://www.kahaku.go.jp/research/db/zoology/uodas/fish_in_focus/toxin/index.html,(参照2023年08月26日).

[4] 株式会社 春帆楼.“ふぐの種類”.春帆楼 ホームページ.ふぐについて.https://www.shunpanro.com/fugu/variety.html,(参照2023年08月26日).

[5] 株式会社 春帆楼.“ふぐ料理の種類”.春帆楼 ホームページ.ふぐについて.https://www.shunpanro.com/fugu/kind.html,(参照2023年08月26日).

[6] 株式会社 春帆楼.“ふぐ調理師と免許”.春帆楼 ホームページ.ふぐについて.https://www.shunpanro.com/fugu/license.html,(参照2023年08月26日).

[7] 厚生労働省.“自然毒のリスクプロファイル:魚類:血清毒”.厚生労働省 ホームページ.政策について.分野別の政策一覧.健康・医療.食品.食中毒.自然毒のリスクプロファイル.https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_det_06.html,(参照2023年08月27日).

[8] 有限会社 うなぎの井口.“うなぎの白焼と蒲焼の違い”.うなぎの井口 ホームページ.うなぎをもっと楽しむコラム.2021年08月27日.https://www.una-iguchi.jp/blog/column/%E3%81%86%E3%81%AA%E3%81%8E%E3%81%AE%E7%99%BD%E7%84%BC%E3%81%A8%E8%92%B2%E7%84%BC%E3%81%AE%E9%81%95%E3%81%84/,(参照2023年08月27日).

[9] 株式会社 新日本科学.“詳細:日本語”.新日本科学 トップページ.事業ニュース.ニホンウナギの人工種苗生産に成功 内陸部での閉鎖式循環システムを世界で初めて独自に開発.2017年11月06日.https://www.snbl.co.jp/cms/wp-content/uploads/2019/06/release20171106_jp.pdf,(参照2023年08月27日).

[10] 独立行政法人 農畜産業振興機構.“内外におけるキャッサバ生産とその諸問題”.農畜産業振興機構 ホームページ.でん粉.調査報告.2020年12月10日.https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_002337.html,(参照2023年08月27日).

[11] 国立大学法人 熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース.“キャッサバ”.熊本大学 薬学部 薬草園 植物データベース ホームページ.薬用植物.https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/006592.php,(参照2023年08月27日).

[12] ジー・エス・エル・ジャパン株式会社.“中学生編”.ジー・エス・エル・ジャパン ホームページ.わかるタピオカシリーズ.https://gsljapan.com/materials/160445522571901.pdf,(参照2023年08月27日).

[13] 株式会社 宇治駿河屋.“コーンスターチ 馬鈴薯澱粉 甘藷澱粉 葛澱粉 かたくリ澱粉 蕨粉(わらびこ) タピオカ”.宇治駿河屋 ホームページ.和菓子の教室.https://www.surugaya.co.jp/school/kisogaku/denpun.html,(参照2023年08月27日).

[14] 一般財団法人 日本こんにゃく協会.“こんにゃくの作り方”.日本こんにゃく協会 ホームページ.こんにゃく豆知識.https://www.konnyaku.or.jp/know/make/,(参照2023年08月27日).

[15] 一般財団法人 日本こんにゃく協会.“こんにゃくの健康効果”.日本こんにゃく協会 ホームページ.https://www.konnyaku.or.jp/health/,(参照2023年08月27日).

[16] 学校法人 早稲田大学 早稲田大学理工学術院 山口潤一郎研究室.“私ときのこと化学と ~珍しいきのこの食レポ~”.早稲田大学理工学術院 山口潤一郎研究室 ホームページ.Blog.2017年09月29日.http://www.jyamaguchi-lab.com/blog/dokukinoko2017,(参照2023年08月27日).

[17] シドラジャパン株式会社.“フィンランドの食べ物・この国だけで食べられる美味しい猛毒のキノコ!!”.Kiitos Shop トップページ.フィンランド文化生活.フィンランドの食べ物レシピ.2022年08月08日.https://kiitos.shop/blog/archive/delicious-poisonous-mushrooms-that-can-only-be-eaten-in-finland.html,(参照2023年08月27日).

[18] 埼玉きのこ研究会.“シャグマアミガサタケ試食記 横山元(浦和市)”.埼玉きのこ研究会 ホームページ.会報「いっぽん」のバックナンバー.第13号(1999年01月15日発行).http://www.ippon.sakura.ne.jp/kaihou_ippon/ippon_kiji/no13_09.htm,(参照2023年08月27日).

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