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社会人1年目、営業だった僕はよくルノアールでサボっていた

社会人1年目。

僕はめちゃめちゃサボリ魔でした。

大学時代「ポパイ」とか「ブルータス」とか雑誌の編集者になりたくて、出版社をいろいろ受けたものの軒並み落ちまくり(というかそもそもマガハは新卒採用やってなかった)、最後に引っかかった実務書の出版社に営業として入ることになりました。

編集者として活躍するはずだった。オシャレなカルチャー誌の編集者として楽しく過ごすはずだった――。

それなのに地味な実務書の出版社。しかも営業職。あこがれの出版業界ではあるけれど、なんとなく灰色のスタートでした。

仕事は書店営業。

書店営業というのは、担当エリアの本屋さんを回って自社の商品を置いてもらえるよう注文を取ってくる仕事です。

最初はそれでも、それなりに楽しんでやっていました。書店さんにあいさつに行くのはわりと楽しかったんです。毎日好きな本屋さんを訪ね歩くことができるなんて、なかなかいい仕事かもなーと思っていました。

ただ半年もすると、その言ってみれば「ルート営業」に慣れてきてだんだん飽きてきました。

僕はたいてい朝10時頃に「いってきまーす」と言って会社を出ると、近くのルノアールに直行しモーニングセットAを頼んでいました。

ご存知だと思いますが、ルノアールのモーニングセットは非常にお得です。コーヒー代にプラス何十円か払うだけで厚焼きのトーストとゆで卵と謎のコンソメスープが付きます。

これがうまいんですね。

空きっ腹にパンと卵とスープとコーヒーを流し込むのはしあわせなひとときでした。

帰社してから日報を書くのがだるいので、よくルノアールで書いていました。まだ訪問していない書店の名前を書き、会っていない担当者の名前を書き、未来日記のように先に日報を仕上げていました。

昔の書店営業というのはわりと牧歌的で、あまりがむしゃらに注文を取って来なくてもいいような空気感がありました。とりあえず書店さんと仲良くして、店長とたまに飲みに行ったりして、年に数回行われる出版社フェアの注文を取って来ればいい、といった感じでした。

ルノアールで日報を書き、昼頃に書店さんを数件回って、またドトールでダベる。ドトールの2階にも同じようなサボり営業マンがたくさんいました。

そうやってイヤイヤながら続けていた営業でしたが、今振り返ってみるといろんなことを学んだように思います。

まずは「本屋さんのどの棚に置かれるか」というのが本が売れていくうえですごく大事だということ。置き場所を考えずに本を作ってしまうと、奥の誰も行かないような棚に置かれてしまったりします。

本屋さんのなかでいちばん売れる場所、いわば特等席はまず「新刊台・話題書」の棚です。それから「ビジネス書」の棚。ビジネス書はいつの時代も売れるジャンルなので、本屋さんのなかでも人通りの多い位置に棚があったりします。

心理学だったり考古学だったり専門的なものをつくると本屋さんの奥のほうに行ってしまいます。なので、そういうジャンルのものを作るときでもビジネス書の棚に置かれるように本を設計するというのがけっこう大事なんだなということを学びました。(なぜか「ビジネスパーソンのための」というタイトルが付いた本が多いですが、それはこういう理由だったりします。)

また、編集者の情熱は書店さんにはあんまり関係ないということも学びました。書店には毎日たくさんの本が入ってきます。どれだけ編集者が想いをこめて作ったとしても、それは何百分の1にすぎない。もちろん熱を汲み取ってくれる店員さんもいます。ただ多くの書店員さんは日々の業務に忙しいですし、注文のときも「売れるか・売れないか」をドライにジャッジします。

これは商売をするうえであたりまえのことでしょう。

どれだけ思いがあったり、熱がこもっていたとしても、売れなければ商売にならない。というかほとんどの本には思いがこもっているわけです。そこから、ちゃんと「売れるもの」にしていく。そこが大切なんだ、ということを学びました。

そんな感じで営業をやりながらも学ぶことは多かったのですが、やっぱり「編集をやってみたい」という思いは日に日に増していきました。

僕はどうしても編集がしたかったので、営業をやりながら少しでも「編集っぽい仕事」をやろうと思いました。

そこで作ったのが「ビジネス書通信」です。

「ビジネス書通信」というのは、自社の本の宣伝のみならず、ビジネス書全般の紹介をしたり、一部の書店だけで売れている本を紹介したり、地域のトピックを紹介するA41枚の新聞のようなもの。

それを何部かコピーしていろんな書店さんに配っていました。おもしろがってくれる書店員さんも何人かいました。

そうやって営業の仕事をやりながら3年が経ち、4年目に編集部への異動がかなわないとわかったとき、僕は転職することにしたのです。

たまたま編集職を募集していた出版社に履歴書を送りました。その面接でアピールしたのがさっきの「ビジネス書通信」でした。

「営業をやりながらも、どうしても編集の仕事がしたいと思って、自らこんな新聞を作って配っていました」と伝えると、社長たちがおもしろがってくれて、すぐに入社が決まりました。

そこで晴れて編集者のキャリアがスタートするわけです。

こうして考えてみると、イヤイヤやっていた書店営業の仕事でしたが、売れる本を作るうえで大切なことをいろいろと学んでいました。さらに「ビジネス書通信」という編集のまねごとをしたことが転職のときの「武器」にもなりました。

スティーブジョブズは「コネクティングドット」という言葉を遺しています。「いまは『点』に過ぎなくても、あとから振り返るとすべての点は『線』でつながるんだよ」というメッセージです。

僕の場合もまさにそうでした。

そのときは、あまり乗り気じゃなかったり、その場しのぎでしたことであっても、それが後々ちゃんと生きてきて今につながっている気がします。「ビジネス書通信」も編集の仕事がしたい一心で作っていただけですが、転職の面接が盛り上がる一要素になりました。

別に偉そうなことを言うわけではありませんが、いま希望の部署にいない人も今やっていることは絶対に無駄にならないと思います。「クリエイティブ部門に行きたいけれどセールスをやっています」みたいな人でも、きっとそこで得たことは将来かならず役に立つはずです。

変に投げやりにならず(ま、僕はサボってはいましたが……)その場でできることをやってみる。すると未来につながっていく。

今はこんな状況ですし、なかなか新しい出会いも作りにくいです。リアルで人に会うことは難しい。ただSNSなどインターネットの道具は使えます。

だから、今できることをいろいろやっておく。

僕の場合はこうしてnoteを書いたりしていますが、今できることをやっておくと、将来にきっとつながるはず。そう信じています。

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