2021年、世界はもっと「コンテンツ化」していく
ぼくは、2018年に出版社を辞めました。
そのあと「言葉」を軸にした小さな会社、WORDSをつくりました。
独立当初は、主に本の編集やライティングの仕事をしていました。しかしあるとき経営者のnoteを編集するという仕事をいただき、思いのほか多くの人に読んでいただきました。
それをきっかけとして「広告」や「広報」に近いお仕事も増えていきました。これは独立のときには想定していなかったことでした。
言葉を軸にいろいろと仕事をしていくうちに、出版業界でなくても編集者(および編集視点でライティングができる人材)が必要とされていることに気づきました。
それはどういうことなんだろう? 何が起きているんだろう? と、しばらく考えてきたのですが、出た答えが「世界がコンテンツ化しているから」というものでした。
「コンテンツ」という言葉を出すと、出版やメディアの世界の話だと思われがちです。しかし最近は、あらゆる場面で「コンテンツ」もしくは「コンテンツ的なもの」が求められているようになっています。
編集者は、まさに「ただの情報」を「コンテンツ」にして世に出していく仕事。世界がコンテンツ化していくなかで、その編集者が求められるのは必然なのではないか、ということに思い至ったのです。
そもそも「コンテンツ」ってなんだ?
ここ数年「コンテンツ」という言葉をよく耳にするようになりました。コンテンツ……。なにか、わかるようなわからないような言葉です。
はたして「コンテンツ」とは何なのでしょうか?
定義はいろいろあると思いますが、ぼくなりに定義するなら「何かしら心が動くもの」です。
映画、音楽、マンガ、小説……これらは言うまでもなく、喜怒哀楽などの「感情が動くもの」なので「コンテンツ」です。
一方で、数字の並んでいる「ただのデータ」であっても「そうなのか!」と心が動くようなものであればコンテンツになりうる、とぼくは考えます。(逆に言うと「小説」を書いたとしても、その文章によって誰の心も動かないのであれば「コンテンツ」にはなりえないということです。)
コンテンツになりうるかどうかは「感情が生まれるかどうか」が分岐点。この記事では、感情を動かすものを「コンテンツ」と定義して(粗いですが)、話を進めていきたいと思います。
「情報化社会」から「コンテンツ化社会」へ
「世界はもっとコンテンツ化していく」というのは、従来の意味の「コンテンツ」つまり「映画や漫画などのコンテンツが増えていく」ということを言いたいわけではありません。
もちろん従来のコンテンツも増えていくのでしょうが、ぼくが言いたいのは「世界自体がコンテンツ化していく」ということです。世界のあらゆるものごとが感情を動かすコンテンツになっていく。
では、なぜ世界が「コンテンツ化」していくのでしょうか?
ひとつは「情報過多」だからです。これまでは情報自体に価値があったため、情報を流すだけで見てもらうことができました。
しかし言うまでもなく今は「情報」であふれかえっています。誰もがその気になれば情報を発信できるようになったおかげで、世界には玉石混交の情報が飛び交うようになりました。
そんな状況下で「伝えよう」とするのであれば、情報を「コンテンツ化」しなければいけません。感情を動かすように加工しなければ、見向きもされなくなった。見向きもされないものは「ない」のと同じことになってしまうからです。
情報を「食材」にたとえてみると、わかりやすいかもしれません。
みんなが空腹であれば、ただの「食材」でも需要がありました。生のニンジンやタマネギでも食べてもらえたでしょう。
ただ、すでに世の中に「食材」はありふれています。そういう世界ではおいしい料理、つまり「コンテンツ」にしなければ食べてもらえません。
ニンジンやタマネギではなく「おいしいカレーライス」を提供しないとお客さんは振り向いてくれないのです。
「見るか見ないか」が指先で判断される
しかも2020年は、あらゆるものごとが「オンライン」になっていきました。
生活の真ん中にインターネットがあり、それなしでは仕事も生活も成り立たなくなった。そんな人は多いと思います。
あらゆるものごとがデバイスを通してやりとりされるようになると、ますます「コンテンツ化」は避けられなくなります。「見るか見ないか」「見続けてもらえるか」がユーザーの指先ひとつで決定されるからです。
ECサイトも、採用ページも、役所のサイトも、ただ情報を置いておくだけでは多くの人に届かなくなってきました。よりわかりやすく、よりおもしろくしなければ、見られないのです。
「UI(ユーザーインターフェース)」「UX(ユーザーエクスペリエンス)」という言葉をよく聞くようになりました。
この言葉を使うときは、見た目・デザインについて使われることが多いと思います。「この位置にボタンがあったほうがいい」「サイトの階層は少なくしたほうがいい」みたいなことです。(専門ではないので、違ってたらすみません。)
ぼくは今後、言葉に関してもより「UI/UX」の必要性が高まっていくと思うのです。「コンテンツ化」というのは、いわば「言葉のUIUX戦略」です。
言葉による「UI/UX戦略」は急速に求められるようになると予想します。
オンラインで「知られる」ことの重要性
ビジネスにおいても人生においても、まず「知られる」ということは重要です。あたりまえですが。
どんなにいいレストランがあっても、どんなにいい洋服屋さんがあっても、どんなに素敵な会社があっても、そもそも知られていなければ話が始まりません。
これまでは「知られたい」と思ったら、大通り沿いにお店を構えたり、駅ビルにテナントとして入ったりすれば、効果がありました。さらに看板を掲げたり、情報誌に掲載されたりすることで知名度は上がっていきました。
しかし、リアルに人が出歩くことは激減しました。
そういう世界で「知られる」ためには、ネット上に情報を流す必要がある。そして何度も繰り返しますが、ネット上はすでに情報が飽和状態なのです。よって、できるかぎり「コンテンツ」にする必要があるというわけです。
たとえば企業が「いい社員を採用したい」と考えたとき。これまでのように求人サイトで「風通しのいい社風です」などとやっていても埋もれてしまいます。ここで「コンテンツ化」が必要なのです。
会社の歴史、商品の魅力、社長の哲学や半生を「コンテンツとして」発信するわけです。
いまトヨタ自動車が「トヨタイムズ」というサイトを立ち上げ、会社の取り組みや方向性、未来について社長自身が語っていますが、あれは「コンテンツ化」の好例だと思います。
ECサイトの商品紹介ページも「情報の羅列」であることが少なくありません。サイズがどうこう、スペックがどうこうという情報はもちろん重要ですが、今後はそれだけではなく「商品の裏側のストーリー」や「開発者の思い」なども伝えていく必要が出てくるでしょう。
「コンテンツ化」ってなにをするの?
「コンテンツ化、コンテンツ化って言ってるけど、具体的に何をするの?」と思われてそうなので、かんたんに例を出します。
たとえばこんな文章があるとします。社内報でよく見かけそうな文章です。(興味ないと思うので、ちゃんと読まなくていいです。)
この「つまらない」文章を「コンテンツ化」すると、こうなります。
どうでしょうか? それでも「つまんないな」という厳しい人もいるでしょうが(汗)、やったことは以下の3つです。
①読む動機をつくる:下の文章には読む側に動機が生まれます。「ダメ営業マンがどうやってトップになったんだろう?」「どういう営業方法なんだろう?」と興味がわく人もいると思います。
②冒頭で惹きつける:上の文章は「営業部の田中一郎さんは……」で始まります。これによって惹きつけられるのは、田中さん本人と田中さんを知る人くらいでしょう。下の文章だと「営業は自分の話をしてはいけない」という意外性のある一文から始まります。しかも、話題も一般的なので、多くの人に届くようになるはずです。
③読後感をよくする:下の文章は田中さんの「いい言葉」でラストが飾られています。「エモい発言」を最後に持ってくることで読後感もよくなります。
下の文章のように社内報であっても「コンテンツ化」することで、いろんな効果が生まれます。
まず、トップ営業マンのノウハウを共有できるということ。それによって、会社全体のレベルが上がること。結果的に田中一郎さんを知ってもらえること。さらには営業部に行きたい人が増えるかもしれません。
一方、上の記事に期待できる効果は何でしょうか? 「0」です。そもそも読まれないからです。
「コンテンツ化」でより遠くに届くようになる
コンテンツ化のメリットはいろいろありますが、いちばんは「より多くの人に届けられるようになる」ということです。
ちょっとこんな図を書いてみました。
「暗黙知」というのは、組織や個人のなかにあるモヤモヤした思いや考えです。それを「言語化」、つまり言葉にすることができれば、まわりの10人くらいに届きます。
それを「情報化」、つまり言葉を「使えるように」整理することで、100人くらいに届くようになります。
それをさらに「コンテンツ化」つまり、「感情」を揺さぶるようなものに加工することで、知らない1000人以上に届くようになる。そんな図です。
採用の例で考えると、経営者が「こんな人が欲しいなあ……」とぼんやり思っているだけでは、「暗黙知」のままなので誰にも届きません。
そこで「こんな人が欲しい」と言葉にします。すると、まわりの10人くらいに届きます。「ああ、社長はそういう人が欲しいんですね……」と思ってもらえる。
それをきちんと「情報整理」してサイトに載せます。すると関係者やすでにその会社に興味のある人など100人が見てくれます。
さらに「こんな人が欲しい」にとどまらず「これまでの会社の歴史」「起業したときの思い」「会社が実現させたい未来」などのコンテンツを出します。すると、それまでその会社を知らなかった1000人以上が見に来てくれるようになります。
ひとつ事例を出します。
上の記事は、カクテルメイクというベンチャー企業の松尾さんという社長さんが書かれたnoteです。
このnoteでは松尾さんのこれまでの人生が語られ、最後に「こんな会社をつくりたい」「こんな世界をつくりたい」というビジョンが語られます。
読者はインパクトあるタイトルで「なんだろう?」と思い、コンテンツとして読み進めていくだけで、松尾さんおよびカクテルメイクという会社を深く知ることになります。
このnoteを出すことで、結果的に採用の数や質も上がったといいます。これはコンテンツ化の効果だと思います。
コンテンツ化のプロである「編集者」の必要
冒頭でも触れましたが、世界が「コンテンツ化」していくなかで急速に需要が高まっているのが「編集者」という仕事です。
編集者という職業は、一般的には本やウェブコンテンツをつくるのが仕事でしょう。読者に伝えるためにマーケティングを行ない、わかりやすくおもしろく加工し、商品としてパッケージ化する仕事。「読者が読みたいもの」と「書き手が伝えたいこと」を同時に満たし、コンテンツとして成立させる。それが編集者の仕事です。
ただこれからは、企業活動にも「編集」が必要になっていくというのがぼくの仮説です。
「人びとが求めていること」と「企業が伝えたいこと」を同時に満たすことで「コンテンツ化」して、世界の温度を上げていく。その役割が求められていると思います。
今年始めた「顧問編集者」は、顧問税理士のように経営者の隣に「顧問」としてサポートする「編集者」です。
詳しくは前回のnoteに書きましたが、経営者が発信する情報を「コンテンツ化」することで多くの人に届けるのが主な仕事になります。
コンテンツ化することで、採用やブランドにも寄与して、さらには思考の整理、企業価値・事業価値の再発見などにもつながればいいなーと思っています。
ぼくの会社・WORDSが掲げているビジョンは「ことばでつたえる」です。
言葉を使ってコンテンツを生み出し、多くの人に伝えていく。コンテンツ化によってコミュニケーションの目詰まりを解消する。
特効薬ではなく漢方薬。対処療法ではなく根本治療。表面を照らすのではなく体の芯からじわじわ温める――。
その活動は派手ではないかもしれないし、即効性も乏しいかもしれません。でも、これこそが本質だと思っていますし、ひいては企業やサービスの向上、そしてお客さんの利益にもつながるはずだと信じています。
2021年もゆっくりと、しかし、着実に歩みを進めていきたいと思っています。
株式会社WORDS
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