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私にとっての思い出の1冊『道は開ける』~本を通して亡き父と会話する

「思い出の一冊」と呼ぶことのできる本が、どんな方にも1冊や2冊はあるものです。

私にもそのような本が何冊かありますが、中でも最も心に残っているのが、D・カーネギーの『道は開ける』です。

読書を通して旅に出る。現在の私のそんな暮らしは、この本との出会いから始まったといっても過言ではありません。

 ◇ ◇ ◇ ◇

この本と出会ったのは、大学を中退して間もない頃でした。

当時の私は「本を読む」という習慣がありませんでした。自前の図書室に12万冊を超える蔵書を抱えた中高一貫校に通っていた6年間でさえ、その図書室で借りて読んだ本の冊数は片手で足りるほどです。

ですが、そのときの私は将来の見通しに不安を抱えていたためか、何かを求めてフラッと近所の書店に立ち寄ったようです。そこで目にとまったのがこの本でした。

人生を切り開くための素晴らしい言葉であふれているこの本を、感動しながら読んだと記憶しています。

本には、人生を前に進めていく力がある。

読後そう思った私は、本を読むことの素晴らしさに目覚め、以来、様々な本を読むようになっていったのです。

 ◇ ◇ ◇ ◇

読み終えて数年後、実家の本棚を何気なく眺めていたら、茶色に変色した、だいぶくたびれた表紙の『道は開ける』を不意に発見しました。驚いて母に訪ねてみたところ、その本は、私の父が若い頃に買ったものでした。

父は、私が中学1年の時にガンで他界しました。私の記憶の中にある父は、およそ読書とは無縁で、本を開いて読んでいる姿を見たことは、ほぼありませんでした。

誰に勧められるわけでもなく手に取って読んだあの本を、父も若い頃に読んでいたとわかったとき、この本を通して、時間を超えて父と会話ができたように思て、不思議なぬくもりに包まれたことを今でもはっきりと覚えています。

そのときもの私も、迷いながら、時に人に迷惑をかけながら、なんとかその日その日を生きていたのですが、「おまえはおまえの信じた道を行け」と背中を押してもらったような気持ちになりました。

 ◇ ◇ ◇ ◇

更に十数年が経過した現在、私は結婚し2人の子供の父親となりました。私が子供たちに願うことは1つだけ。

「本が好きな子に育って欲しい。そうすれば自分の頭と足と心で、どこへだっていけるようになるはずだから。」

妻の理解と協力のおかげで、小学2年の長男も5歳の娘も、絵本、物語、図鑑、歴史漫画など、本に親しんでくれています。私にとって、とてもうれしいことです。

そうすると、将来に対する期待が膨らみますーー私の本棚に並んでいるなかのどれか一冊を、子供たちが、誰に勧められるでもなく自らの意思で手にする日が、いつかややってくるのだろうか、と。

そして、息子や娘が『道は開ける』を手にとった日が訪れた暁には、私の父との思い出を伝えたいーーと、静かに願っているのです。

そう思うと、本に詰まった思い出は、油絵のようにして、大切な人と一緒に、新たな色を重ねて、より一層味わい深い色彩にしていけるものなのかもしれませんね。


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