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教#038|作品を制作する若者は、まだshareされてない未来において認められるであろう価値観に基づいて作品を作る~ブルーピリオドを読んで⑨~(たかやんnote)

 画塾で八虎と一緒に絵を描いていたセカイくんは、
「受験絵画を押しつけられたくない。予備校(画塾)は、いい絵を教えるところじゃない。受かる絵を教えるところなんだよ」と、半ば捨てセリフを吐いて、画塾をリタイアします。セカイくんの友人の橋田くんは
「どこ大っぽい絵やなとかは思うことあるなぁ。でも、それでええんちゃう。所詮、受験やん。普通大学やって傾向と対策くらいあるやん」と、捌(さば)けたことを言います。

 中学入試には、「傾向と対策」は当然あります。夏休み明けから半年間は、個別校対策の猛特訓です。個別校対策クラスに入れるかどうかが、合否を決める鍵だと言っても、過言ではありません。大学入試だって、個別校対策は、当然あります。3ヶ月だけの猛勉強で、MARCH合格をした受験生を、それなりの数、見て来ましたが、例外なく全員、個別校の個別学科対策をしていました。具体的には、過去の10年間の過去問をperfectにすると云うことです。

 国語の記述式、小論文、あと、まあめったに出ませんが、古文の鑑賞系の問題となると、多少、ファジーなとこはありますが、あとは客観的に点数化することが可能です。つまり、落ちる生徒は、どこができなくて落ちたのかを、客観的に把握、理解することができます。絵画や彫刻と云ったアート系の場合、客観的な判断が、できるっちゃ、できるとは思いますが、いろいろと難しい問題もそこにはあります。

 私は、長年、高校生のバンドの面倒を見て来て、バンドの大会も、数多く、経験しました。とある学校の軽音部の先生が「○○○には、うらみつらみしかない」と、言ってました。「あっ、解るわぁ」って感じです。私は、○○○には、別にうらみつらみはありません。大会ですから、主催者の好みのバンドを選ぶのは当然だと、割り切っています。バンドの大会だって「傾向と対策」はあります。「傾向と対策」をきちんとやって来たバンドが、入賞すると云う傾向は、当然、あります。

 とある大会で、とんでもなく上手いバンドが、2つありました。上手いを、分析的に言うと、まず、リズムのタテがしっかり合っていること。次に、ボーカルが歌えていること。そして、各楽器のスキルが高く、楽器全体のバランスが取れていること。まあ、そのあたりが、採点の判断基準です。判断基準を全部クリアーして、間違いなく上手いんですが「だから何?」と言いたくなることは、しょっちゅうあります。その大会の審査員も、断然上手いバンドの2つを名指しして「君たち、上手い。高校生離れしてる。でも、だから何って思ってしまう」と言ってました。私も、ハゲ同(激しく同意)してしまいました。

 まず、高校生離れしていることが、いいことかどうか疑問です。高校生は、やはり高校生らしいのが一番です。が、そうすると、どうすれば、高校生らしくなるのかと云う傾向と対策を練ることになります。高校生バンドが、高校生らしくなるために、傾向と対策を施す、何か本末転倒と云うか、ヘンです。が、まあ超こまっしゃくれた、超上手い高校生バンドが、高校生らしくふるまっても、高校生らしさは感じません。子供らしさをせいいっぱい拵えようとしている子役に、子供らしさを感じないのと同じかもしれません。

 バンドの大会なのに、マナーがやたら厳しかったりもします。ピアスしてたらダメ。茶髪はNG。モニターに足をかけた時点で失格。そんなの音楽と何の関係もねぇーだろうと思ってしまいます。が、まあこれも、その大会の「傾向と対策」を施して臨めばいいんだと、割り切ればいいのかもしれません。

 演奏が下手なのに、こいつら凄いと、思えるバンドがあります。somethingがあるんです。宝石の原石と言ってもいいかもしれません。技術的に下手でも、somethingがあれば、それを取る。これはこれで、正しい選択だと思います。ただ、something、宝石の原石を客観的に判断することはできません。主観的な独断です。

 結局、審査員の主観で選ぶことになります。それ以外に、選びようがないとも思います。が、審査員はリアルタイムの今の価値観で判断します。が、作品を制作する若者は、まだshareされてない未来において認められるであろう価値観に基づいて作品を作って来ます。が、今、shareされてない価値観の作品は、あっさりボツになります。ゴッホやゴーギャンが、生前に認められなかったのは、当然です。彼らは、その当時は、まだ絵画界では、shareされてない価値観によって、作品を作っていたんです。すぐれたアートが、制作された時に評価されないのは当然です。判断をする基準が、鑑賞する側にないんです。

 絵の上手さは、客観的に判断できます。正確にモノを写し取ることができれば、それはやっぱり上手いと言えます。つまりデッサン力があると言うことです。デッサン力は、訓練・練習によって伸ばすことができます。現役より浪人の方が、明らかに有利です。色彩のバランス感覚は、ある程度、天性のものだと思いますが、色彩の円環などを学んで、効果的な色の使い方を、学習によって、ある程度、身につけることもできます。絵の具や油の使い方にも習熟して、多くの模写をすれば、スタンダードな王道的な色使いもできるようになります。そうすると、やっぱり浪人の方が有利です。

 が、5浪している学生は、大学入学時点で、24歳です。大学では、24歳~27歳の期間、教えることになります。現役で合格してくれたら、19歳~22歳の4年間、鍛えられます。どっちが望ましいかと言うと、それはやっぱり19歳~22歳の方です。板前だって、本当は、中卒で修業に入るのがbestです。鉄は熱い内に打て、若ければ、若いだけ、才能は伸びて行きます。だから現役の宝石の原石を探すために、絵の上手さだけではなく、その生徒の目・個性・世界を重視して、判断していると言えるのかもしれません。東京大学の理科Ⅲ類でしたら、どういう風に勉強すれば合格できるのか、きちんと筋道を立てて、傾向を把握し、対策を立てることができます。東京芸大の油絵科の入試は、そういう筋道が模索できず、合格する生徒は合格するし、しない生徒は、たとえ10浪しても合格できない世界だろうと想像できます。

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